▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『「わぁ、嬉しい! まるで貸し切りみたいなんだよっ」 』
狐中・小鳥ka5484

 浴場に入ると、そこには誰もいなかった。
 依頼の汗を流そうと湯屋に来たのだけど、運が良かったみたい!

「〜〜♪」

 鼻歌まじりに桶にお湯を取り、身体を流す。板流しに座って、石鹸を泡立てた。

「こういうお風呂がいっぱいある地域の人たちが羨ましいなぁ。王国には少ないんだもん……」

 身体を洗うのもそこそこに、私は湯船に足をつける。温度は熱いくらいだ。踏み段に腰掛けて、思いっきり伸びをする。

「いいお湯だぁ……んふふー」

 出来るだけ長く入っていたいので、すぐに肩まで浸かったりはしない。のぼせちゃったら勿体ないもんね!
 いい感じに汗が出てきて、私は自分の身体を見下ろしてみた。
 先輩のお姉さんたちに比べると貧相だけど……ううん、まだまだ、これから成長するんだもん!

「……こことか、もうちょっとおっきくなったらいいのにな」

 誰もいないので、私は自分の身体にぺたぺた触ってみる。実は、胸の大きさは悩みの種なのだ。
 ぱしゃん、と全身を沈めると、得も言われぬ心地よさが日頃の疲れを癒してくれる。

「はぁー、気持ちよかったんだよ……ずっと入っていたいけど、そろそろ上がらなくちゃ」

 たっぷり温まり終え、私は湯船から立ち上がった。ざぁ、とおびただしい水滴が幼い肌を滑り、もくもくと立ち上る湯気が視界いっぱいに広がる。
 脱衣所の引き戸を開けると――その景色に、私はなんとなく違和感を感じた。

「あれ? 入った時と、なんか違うような……って、服が!? 泥棒!?」

 見れば、脱いだ服が無い! 旗袍はもちろん、下着まで全部だ。
 慌てて見回すと、見慣れた服を手に脱衣所を出ていこうとする人影が見えて。

「まって! わたしの服、返すんだよー!」

 そう叫んだが、服泥棒にはもちろん逆効果。
 相手が全速力で逃げ出すので、私も咄嗟に駆け出した。

「あーっ! 誰か、その人を止めてくださ――きゃっ!」

 脱衣所を飛び出すと、廊下で若いお兄さんとぶつかってしまった。店員さんのようでタオルをたくさん運んでいて、その一枚を踏んづけた私はすてーんと大の字に転んでしまう。向こうは私を見て目をまんまるにしたが、私は慌てていて。

「あうう、ごめんなさい……あっそうだ、服泥棒! 服泥棒が出たんだよ!」

 急いで立ち上がると、私は店員さんが唖然としているうちにお客さんがいっぱいいる広間を駆け抜けて表へ出た。突然の事にみんな振り返るけれど、今は形振り構っていられない!

「どこに行ったのー?! もうー!」

 通りに飛び出し、首を左右に。
 なんだか身体がぽかぽかしていて、夕風は肌に涼やかだ。

「あっ、いた! まてー、わたしの服を返すんだよーー!!」

 逃げる人影を追って、私は通りを走り出す。
 しかしいくらも行かないうちに、道は繁華街へ出てしまって。

「く、意外と足が早いし……人が多くて追いかけずらいよ。ここに紛れられたら、もう見つけられないかなぁ……」

 私は悔しくて、火照る頬を伝う汗をぬぐって、しばらく混雑を掻き分けるように探して回った。

「すみませーん、すみませーん……ううん。やっぱり、逃げ切られちゃったみたいなんだよ……」

 周囲は私を遠巻きにして、ざわざわとざわめいている。きっと、割り込まれたり大声を出したり、迷惑だったんだろう。
 その視線が私の身体の一部ばかりを見ているのに首を傾げつつも、ぺこりと頭を下げる。

「?? ……あの、お騒がせしてごめんなさいでした。はぅ、結局、服取り戻せなかった……」

 ――って、服? あ、私の今の格好って……
 下を見た私は、漸く自分の格好に気付いた。
 湯を上がりの身体はほんのりと上気していて、まだ湯気があがっている。

「あ、あわわ……」

 ただでさえ赤らんだ身体を、さらなる羞恥の熱が駆け上がって――

「……きゃ、きゃぁぁーー!?」

 私は真っ赤に頬を染め、土煙でも出そうな速さで住処まで走り帰ったとさ。
 ……むぅー、全部、泥棒のせいなんだよ!(照)

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

・狐中・小鳥(ka5484)
  円舞小町の異名を持つ少女ハンター。12歳くらいかな……?

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
清水です、またお目に掛かれて光栄です。
ことりちゃんはお召し物はいつも東洋系なのですね、以後は心に留めます。他にも設定が増え、人物像を想像しやすくなりました。お気遣いに感謝します。
願わくは、少しでも期待に近い仕上がりである事を。
この度は清水澄良にご縁を賜り、誠にありがとうございました。
WTシングルノベル この商品を注文する
清水澄良 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年06月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.