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『Surprise BIRTHDAY! 』
十影夕aa0890)&桜寺りりあaa0092)&シキaa0890hero001

 それは誰にでも訪れる大切な日。
 あなたが、わたしが、ぼくが生まれた。たった神様から贈られた宝物。それが誕生日――

   ***

「ユウのおたんじょうびはしたからね。わたしのおたんじょうびをするよ!」
 清々しい朝。唐突にシキ(aa0890hero001)から言われた言葉に、十影夕 (aa0890)は面食らったように口に入れたばかりのトーストを呑み込んだ。
「かまずにのむのはぎょーぎわるいぞ?」
「っ、ごめん……」
 元はと言えば誰のせいだ。そんな言葉を呑み込み、今度はしっかり噛んでトーストを嚥下する。
(そう言えば、言われるまで考えたこともなかったかも……)
 児童養護施設にいる時からシキと一緒だが彼、いや彼女、いや……奴の誕生日は知らない。
 そもそも児童施設にいるころは必要時しか会うことが出来なかったのでノーカンと言えばノーカンなのだが、それでも誕生日を”考える”ことがなかったのは盲点だった。
「……で、いつやるの?」
「きょうにきまっている!」
「はあ?!」
 いくらなんでも急すぎる。
 誕生日と言えばご馳走がつきものだ。それにプレゼントも! だがしかし、シキの唐突な思い付きから発生した誕生日故に、事前の準備もしていない。
「せめて明日にしない? いろいろと準備もできるし……俺、これから学校だし」
「そこはユウが、がんばればだいじょうぶだ。それにじゅんびはできている!」
「は?」
 準備は出来ている。その言葉に周囲を見回すが特にそれらしいものは見当たらない。
 強いて上げるなら高校一年の春から住み始めたワンルームマンションの隅っこにシキの陣地があるくらいか。
「でもあれはいつもだし……いったい、何を準備したの?」
「ふっふっふー! それはかえってきてからのおたのしみ、なのだ!」
 とりあえず学校は行かせてもらえるらしい。
 夕は小さくため息を吐くと、少し冷めて苦くなったコーヒーに口を付けた。

   ***

 夕の記憶にある誕生日はたくさんの人と笑顔。豪華とは言い切れないけれど、人数に見合うだけのご馳走と主役へのお祝いが書かれたケーキが用意される。
 歌を歌いながら「おめでとう」を言って、その人の好きなものをプレゼントして、その人が生まれたことを祝福する。
「生まれたことを祝福、か」
 シキと出会って十数年。今まで一度も祝ったことのない。シキと出会えたことには感謝しているし、奴がいなければそれこそ本当の孤独になっていたかもしれない。
 児童養護施設にいることから仲が良く、まるで兄弟のように今でも思っているシキ。そんな奴に今まで生まれたことを感謝すらしなかったとは、
「……さすがに酷いね」
 そう零して自嘲気味に笑う。
 もし奴の思い付きがなければ、今後も祝うことはなかっただろう。
「せっかくだし、ご馳走以外にも何かやりたいところだけど……ん?」
 ご馳走づくりの材料を買い終えた夕は、夕暮れの商店街を歩いていた。
(あの後姿は……)
 よもやこんなところで会うとは想像もしていなかった。
「りりあ?」
「ひゃぅ?!」
 突然声を掛けたのがいけなかっただろうか。
 何かの包みを持った桜寺りりあ (aa0092)が、驚いたように振り返る。そして声の主が夕であることを確認すると、彼女の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「夕さんでしたのね……驚いてごめんなさいなの」
「いや、俺の方こそいきなり声をかけてごめん……買い物かな?」
「え? あ、はい。夕さんもお買い物、ですのよね?」
 買い物ですのよね? あまりに確信めいた響きの声に一瞬疑問符が浮かぶが、そう言えば買い物袋を持っていた。
「うん。少し買い過ぎた気もする」
 誕生日とは言えご馳走の量は2人では食べきれないほどになるだろう。そうなると色々もったいなのだが、明日の朝ごはんにでもすれば問題ないか。
「シキさん、喜んでくれると思うの」
「だと良いんだけど……」
 準備の時間を考えると少し億劫だが、料理は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るだろう。
「それじゃ、また。遅くなると面倒だから」
 袋を掲げて見せる夕にりりあが笑う。
 その表情に僅かに口角を上げると、シキが待つマンションに向かって歩き始めた。その背に「また後ほど」と返したりりあの声を聞き逃して――。

   ***

「おおおおおおお!!!」
 感極まってテーブルに身を乗り出すシキ。その目に映るのはシキの好物の数々だ。
「あげだしどうふ、ぶりだいこん、まめごはん! っ、こっちはゆばのあんかけだな!! すごい、すごいぞユウ!!」
 バンバン背中を叩くシキに前のめりになった夕が振り返る。
「喜んでもらえたなら何より……って、よだれ拭いて! 汚いから!」
 だらしがない。そう呟きながらフキンで奴の口元を拭う。この際「ぬのがくさい!」と言う言葉は聞き流すとして、我ながらよくできたと褒めてやりたい。
 並べられた料理はほぼ自己流。何度か作ってるうちに覚えたものもあればアレンジを加えて自己流に仕上げたものもある。
「ほら、立って食べる気なの? 座って――」

――ピンポーン♪

「あ?」
 こんな時間に来客?
 首を捻る夕に対し、シキの表情が明るくなる。それを見て少し嫌な予感が過るがまだ確定ではない。
「……座って待ってて」
 そう言うと、夕は玄関に向かって扉を開けた。その瞬間、彼の表情が驚きに変化する。
「え、りりあ?」
「こんばんわ、なの」
 そう照れ笑うりりあは、夕方に見かけたときに持っていたのと同じ包みをもっている。
 まさか! そんな思いで振り返ると、さも当然と言わんばかりに手を上げるシキの姿が飛び込んできた。
「よくきたのだ!」
「お前っ」
「わたしのおたんじょうびだよ。ゆうじんくらいまねくよ!」
 ふんぞり反って言うことか! 思わず拳を握った夕だが、見えたりりあの表情にハッとした。
「ごめんなさいなの……シキさんにお招きいただいて、良いのかな、とも思ったのですけど……」
「あ、いや。大丈夫。たくさん作ったから……」
 俯き加減に囁く彼女が今にも泣きそうで戸惑う。そもそも材料を多く買ってしまったのは事実だし、明日の朝にまで残る可能性を考慮していたのも事実だ。
 つまり彼女1人が増えたところで何の問題もない。
(それに、想定外ではあるけど……うん)
 照れくささはあるが嫌な気持ちはない。
 夕は扉を大きく開くと、中にりりあを招いた。その姿にホッと息を吐いて、ようやく彼女が笑った。
「シキさん、お招き感謝なの……ですよ」
「やあ、よくきてくれたね。さ、すわりたまえ」
 得意げに笑って自分の隣の椅子を引くシキ。そんな奴に少し笑ったりりあは、素直に隣に腰を下ろした。
「それではわたしのおたんじょうびをはじめよう!」
 こうしてまばらな拍手と共に始まった誕生日会だが、ケーキはなんとりりあが用意してくれた。
「おめでとう、ございます。お祝いにはケーキなの」
 彼女が箱から出したケーキには「おたんじょうびおめでとう」のメッセージが書かれている。
「これはすばらしい。まさかこれは」
「ええ。あたしの英雄が作ってくれたの」
「あの英雄が……」
 思い返して首を振る。
 人のことは言えないと思いながらも、想像しづらい状況に一瞬の困惑を覚える。それでも冷静を装いながらケーキにロウソクを立てて火を灯した。
「願いごとを心の中で言って吹き消すと良いらしい――って、人の話を聞けよ!」
「ふぅー」
「ふふ。願いごと言わずに消しちゃいましたね」
 まったく。そう息を吐く夕の前で、シキが満足そうにケーキを見ている。もうこれだけで誕生日を祝って良かったと思えるが、折角用意したのだ。渡さないわけにはいかない。
「ほら。十何年分には足りないけど……」
「なに!? ユウがわたしにおくりものだと」
 慌てて包みを開くシキの目がキラキラと輝きだす。
 中に入っていたのは昆虫図鑑と植物図鑑だ。知人がくれた図書券で買ったが、選んだのは夕だ。
 それに黙っていればきっとわからない。
「お前、好きだろ」
 俺は虫キライだけど……。そう密かに零して夢中で図鑑を捲るシキを見る。
(喜んでるみたいだな……)
 良かった。そう安堵する傍で、今度はりりあがシキにプレゼントを差し出している。
 彼女はプレゼントしたのはおしゃれなな肩掛けポシェットだ。これにはシキも歓喜の様子に頬を紅潮させていろいろな角度から見ている。
 もうすでに夕のプレゼントが翳んでいるが、まあ、仕方がない。
「すばらしいよ…! こんないろけのあるもの、ユウにはえらべまい」
「余計なお世話だって」
 そう答えつつも口元が緩んでしまうのは、シキが心から喜んでいるのがわかるからだろうか。
 もし2人だけで祝っていたら、シキはここまで喜ばなかったかもしれない。これもシキの思い付きと、その思い付きに乗ってくれたりりあのお陰だろう。
「りりあは誕生日、いつ?」
 不意な問いかけに、りりあの目が瞬かれる。
 勿論、自分の誕生日を忘れたわけではない。そうではなく、ただシキのように友達と誕生日を過ごした記憶がないことを思い出したのだ。
「あたしのお誕生日は9月19日なの」
「9月か。ならその時にはりりあの誕生日を祝おう」
「え」
 思わぬ提案にさらに目が瞬かれる。
「俺は施設で育ったから、毎月誕生会があったんだ」
 だから聞いてみた。そう、少しはにかむように笑う夕にりりあの頬が僅かに染まる。
 そんな2人を見ていたシキがポシェットを肩から掛けて身を乗り出した。
「わたしもおいわいするぞ。りりあはわたしのゆうじんだからなユウのりょうりでもてなそう」
「シキも手伝うんだよ」
「あじみくらいはしよう!」
 なんでだよ! そう突っ込んだ瞬間、りりあから楽し気な笑い声がこぼれた。
 次々とあがる楽しい話題に笑い声。これが夕の知っている誕生会だ。
 この誕生会の意義や祝われる嬉しさをシキが正しく理解しているかはわからない。それでも嬉しそうに笑って、食べて、喜ぶ姿を見ることができただけで夕は幸せだと思う。
 子供のころから変わらず変えられない、唯一の宝物がシキだ。
 神と言う存在があるのなら、今なら素直にありがとうを言えるだろう。
「……俺のところに来てくれて、ありがと」
 りりあと楽しそうに話すシキの横顔を見ながら囁く。その声が奴に届いているかは定かではない。
 ただこの幸せな誕生会がいつまでも思い出に残るように願おう。そう、いつまでも――

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa0890 / 十影夕 / 男 / 17 / アイアンパンク / 命中適性 】
【 aa0092 / 桜寺りりあ / 女 / 17 / 人間 / 生命適性 】
【 aa0890hero001 / シキ / ? / 7 / ジャックポット 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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2016年06月09日

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