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『普通の学生としての日常 』
雨堤 悠aa3239)&十影夕aa0890

 大学のキャンパスを歩く学生の服は既に夏服一色に代わり、中間試験が終わり暫く経った頃。
 雨堤 悠(aa3239)は学年でいうと大学1年生、同級生達はバイトだの旅行先等のパンフレットを机の上に広げ楽しげに談笑をしていた。
 だが、悠は普通の大学生だがH.O.P.Eのエージェントという二足の草鞋を履く立場だ。
 羨ましい、と思う事はある。一般人より丈夫なだけで、心はまだ18歳の青年だからだ。
『と、いうワケだから一緒に勉強会しよ?』
 と、悠はオンラインゲームのチャットを打ち込む。
 もちろん、オープンではなく個人チャットだ。
『良いですよ』
 と、十影夕(aa0890)のキャラから返答が来た。
『場所は、勉強しやすそうな喫茶店で良い?』
『了解。待ち合わせ場所と時間はどうする?』
 と、2人はチャットで勉強会の場所と日時を決め、その日はそれだけでオンラインゲームからログアウトした。

(あー……何か、早く着いたな)
 悠は予定の時刻より30分も早く着いた。
(とりあえず、メールで早く着いた事と中で待っている事を送っておこうか)
 ポケットからスマートフォンを取り出し、悠は慣れた手つきで文章を打ち込む。
「雨、降らないと良いけどな……」
 鉛色の空を見上げながら悠は喫茶店に足を踏み込んだ。
「いらっしゃいませー。何にしましょうか?」
 店内に入るとカウンターで店員が笑顔で出迎えた。
「うーん、そうだなじゃぁ――……でお願いします」
 行き慣れてない人にとっては不思議な呪文を唱えた悠は、2人分のコーヒーが乗ったトレイを持ち勉強するには最適なテーブルの椅子に座った。
 ふと、店の出入り口に視線を向けると夕が丁度入ってきた。
「十影君、こっち」
 と、悠は夕に向かって手を振る。
 幸いな事に喫茶店内に客は少なかった。
 悠に気付いた夕は駆け寄り、反対側の椅子に腰を下ろした。
「今日はよろしくお願いします」
 夕は背筋を伸ばし軽く会釈をした。
「そんなに固くなるなよ」
 と、明るく言うと悠は微笑んだ。
 鞄から筆記用具にノートを取り出し、広いテーブルの上に広げた。
「ハルさん、夏休み、どっか行く?」
 と、夕の問いに悠の顔から笑顔が消え大きくため息を吐いた。
「どうかな、あんまり旅行とかはいかないかも」
 くるくるとペンを指で回しながら悠は答える。
「どうして?」
「遠出は好きじゃないし、自分の英雄は連れていくにしても置いていくにしても不安だからな」
 夕の教科書を片手に悠は話す。
「ふーん。あ、ここはどうしたらいいの?」
「ここ、たしか……えーっと、あ、あった。この公式使うといいよ」
 夕が分からない部分を、悠は数学の教科書をパラパラと捲り公式が載っているページを見せながら解説をする。
「俺は試験が終わったら夏休みだけど、俺は旅行とかは行かないと思う」
 ノートにペンを滑らせながら夕は言う。
「お、徹夜でパーティー用のダンジョンをマラソンとか?」
「それも、良いかな? とは思う。せっかく休みだから遅くまでゲームしたいけど、やっぱり寝そうかも」
 と、パソコンの前で寝てしまう自分を想像した夕はコーヒーを口にする。
「なら、今度それやろうな」
「良いけど、寝落ちしても起こらないでよ?」
「了解」
 店内に流れるジャズ、コーヒーの香ばしい匂いや甘いフルーツの様な匂いが程良く混じり合い落ち着く。
「俺、英雄のチビと夏の風物詩の花火して、かき氷食べに行く。予定」
「良いな……こっちの英雄は、なんだろうな…ただの穀潰しって感じ?」
 悠は甘いコーヒーを口にする、甘いハズなのに何故か苦く感じた。
「そうは見えないよ? そういえば、ハルさんの英雄、なにしてる人?」
「何もしてないな……あぁ、そういえば最近ペットが欲しいって騒いでるよ、ほら、あの、動物がたくさん出てくる映画見に行ったから」
 頬杖で喫茶店の外で行き交人々を眺めながら悠はぶっきらぼうに答える。
「あぁ、あれだね。何か、ハルさんの英雄って影響受けやすいんだね。俺のチビはフツーのチビだよ。俺が5歳の頃からあのまま」
 カリカリ、と夕がノートにペンを走らせる音と店内のBGMが2人の間に流れる。

「よし、少し休憩しないか?」
 悠はテーブルの上にペンを置き提案を口にする。
「そうだね。ちょっと甘いものが欲しいって思ってたところだよ」
 夕は両腕を上げ背伸びをした。
「じゃ、俺が頼んでくるよ」
「あ、いいよ。俺が……」
 立ち上がる悠を見て夕は慌てて立ち上がった。
「良いって、そこで少し待っててくれよ」
 夕はカウンターに向かう悠の背中を見送った後、ため息を吐きながら椅子に深く座った。
 ふと、喫茶店の外を見ると大きなガラスにぽつぽつと水滴が付く。
(雨が降ってきたね……あ、傘持ってきてないからチビが心配していそうだよね?)
 と、思いながら夕は雨足が強くなる様子を眺めた。
「はい、十影君」
「あ、ありがとう」
 悠は夕にケーキが乗った皿を渡す。
「あー、雨が降ってきたな」
 悠は大きなマドに視線を向けた。
 風も出てきたのか、大きなマドに雨粒が当たる音が響く。
「勉強会が終わる頃には止んでるよ」
 と、言って悠はケーキを口に頬張った。
「そうだと、良いよね」
 夕もケーキを口にした。

 他愛の無い話をしながら2人はノートを文字で埋めて行く。
「ハルさん、この部分なんだけど……」
「そこは、えーっと、教科書、教科書」
 たった1年、されど1年、365日違うだけで大学生の悠は、ところどころうる覚えで教科書を開いては思いだす。
「うん、その部分は合っているよ」
 数時間、勉強会をしている悠は夕が頼りにしている姿、そして他愛のない話で笑い合っている内に胸の内にあった『不安』が消えた。
 友達じゃなく知り合い? や、嫌われているかもしれない等と思い込んでた。
 だから、悠は仲良くなろうとした。
 それはただの思い込み、出会い方がどんな風であれゆっくりと歩み寄ればいずれは親友となる。
「はー、ハルさんのお陰で分からない公式とか分かって助かったよ」
 夕は筆記用具を筆箱に入れながら微笑む。
「それは良かった」
 コーヒーに口を付けながら悠は頷いた。
「風は止んだけど、雨はいまだに降ってるね……」
 鞄にノートを入れ、夕は喫茶店のマド越しに鉛色の空を見上げた。
「あぁ。俺、折りたたみ傘持っているから駅まで送るよ」
「でも、それではハルさんが濡れます」
 小さな折りたたみ傘を見て夕は不安そうに悠を見る。
「ずぶ濡れになるよりはマシだ」
「それも……そうだね」
 悠は傘を広げ差すと隣に夕は入る。

 駅に着き、駅構内に入ると悠は傘に付いた雨水を落としながら畳む。
「ハルさん、駅まで送ってくれてありがとうございます」
「良いよ。雨に濡れて風邪でも引いたら十影君の英雄に心配させたくないからな」
 お辞儀をする夕を見て悠は笑顔で答えた。
「あ、そうだね。それじゃ、ハルさん。またゲーム内で会おうね」
「あぁ、またゲーム内で」
 お互いに手を振り、夕は人ごみの中へと消えて行った。
 架空の世界で会えるのは楽しい。けれど、こうして現実の世界で会うのも悪くはない、と悠は思いながら煩い英雄が待つ家へと足を向けた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【雨堤 悠(aa3239) / 男 / 18 / 能力者】

【十影夕(aa0890) / 男 / 17 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、紅玉です。
この度、白銀パーティーノベルをこの様な未熟者を選んでいただきありがとうございます。
同じH.O.P.Eのエージェントであれ、出会い方は様々であり、その絆をどう思うかも人の数だけある。
ぎくしゃくしながらも、勉強会をする2人の姿は書いてて楽しかったです。
私なりに心情を盛り込んだのですが、如何だったでしょうか?
もし何か不備がありましたら、遠慮なくリテイクして下さっても構いません。

この度は、発注ありがとうございました。
白銀のパーティノベル -
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2016年06月13日

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