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『 Ten Years After……? ――side.H 』
星杜 焔ja5378
 
 ――これは、ほんのちょっとだけ前のお話。
 ――そして、ほんのちょっとだけ未来のお話。
 
 
 雪成藤花と星杜焔は、現在お付き合い真っ最中である。
 といっても、他の人が思うような、艶めいた関係ではない。あえて言葉を使うならば、共依存――それに近いだろうか。
 初々しい、だけれどお互いにお互いを必要としあう、そんな関係。
 
「そういえばもう、来年にはわたしも高校生なんですよね」
 藤花は感慨深げに言う。
 高校生、十六歳。その言葉の含む意味に気づいて、焔もわずかに照れくさそうに、小さく頷き返した。
「そうだね〜、早いねえ〜……」
 親しくなってから、一年弱。
 だけれど、初めて出会ってから――もう十年以上。
 月日が経つのも早いもので、いまの二人はいわゆる許嫁である。
 それもこれも、たくさんの偶然と必然が生んだわけだが――世の中というのは思っているよりも狭いものだと二人は思っている。
 おやすみなさいの軽いキスのあと、二人はそれぞれの部屋に戻っていった。


(……来年は、結婚できるといいなぁ)
 焔はそう思いながら、自分のベッドに横になる。
 ふわふわ夢見心地に思うのは、許嫁の少女のウェディングドレスを纏った姿だろうか。
 柔らかい笑みを浮かべる彼女に、きっとドレスは似合う。
(でもその前に、あした、お正月のおせちを一緒に食べるところから、かな……)
 そう思いながら、焔はいつしかとろとろと眠りについていた。
 
 
 ――じりりり、じりりり。
 けたたましい音を立てた目覚まし時計に、焔は目をこすりながら手を伸ばす。
 そして顔を上げて――気づいた。
 見慣れない天井。……見慣れない、家。
(……?)
 不思議に思いながらカレンダーを見てみると、そこには「一月一日」の文字がある。
 ただし――その年号は、間違いなく十年後のものだったのである。
「あ、焔さん。明けましておめでとうございます」
 寝起きの焔をそう笑顔で迎えたのは、藤花だった。しかし彼女の瞳の奥にも、似たような困惑の色がある。
「……これ、夢でしょうか?」
 藤花はそっと問いかける。焔はいつもの笑顔で返した。
「夢でも夢じゃなくても、多分大丈夫、だよ〜」
 言われて、藤花も微笑み返す。
 そう。きっと大丈夫だと思えたから。
 それに――心は十年前のそれだけれど、十年の積み重ねが知識として認識されている。動くのに、まったく問題はなかった。
 
 
 
 ところで。
 藤花はというと、顔立ちなどは殆ど変化がないが、醸し出す雰囲気が十年前よりも確かに大人びていた。『可愛い』という印象の強い藤花が『綺麗』になっているのだから、やはり年月の経過というものはすごい。
 ちなみに焔のほうは、見た目も印象も余り変わらない。ただ、笑顔がずいぶんと自然なものになっている。
 見た目は多分アウルの影響なのだろうな、とお互いにその程度は認識していた。
 そして十年という歳月が、お互いの心の変化となり、雰囲気を変えたのだと言うことも。
「……おせち、最後の仕上げをしないといけませんね」
「そうだね〜」
 そんなことを言いあう焔と藤花の左手薬指には、揃いの指輪。ああ、結婚しているのだなあと少しばかりこそばゆい気持ちでそんなことを考えながら、二人はキッチンに立つ。
 十年後の自分たちがつくったおせち料理は、一口つまむと確かに『今』の自分たちのそれよりもうんとおいしい。焔の料理は学生時代からセミプロ級ではあったが、更においしいと言うことはまだまだ伸びしろがあるということなのだろう。焔も、そして藤花も、うれしそうにうなずき合う。
 ――と。
「ねえねえぱぱー、ごはんまだぁ?」
「ままー?」
 そんな舌っ足らずな可愛らしい声がして、二人ははっとそちらを向く。そこには、銀髪に緑の目をした五〜六歳の女の子と、栗毛に蒼い瞳をした二歳くらいの男の子が、なにかを期待しているかのように目を輝かせて立っていた。
 女の子にも、男の子にも、ふたりの面影がある。
 言われずとも理解できた。この子達は――二人の子どもなのだと。……もっとも、焔は齢十七にしていまだキャベツ畑で子どもを授かると信じているのだが。それでも、『子ども』の存在に、思わず照れくさくなってしまう。
「はいはい、ちょっとまってね」
 子どもの世話をするのはもともと二人とも好きだ。
 孤児院で育ってきた焔はもちろんだし、藤花は何しろ母性本能が働くのである。
「もう少ししたらお雑煮もできあがるからね〜」
 焔のお手製雑煮は家族一同大好きな料理だ。
 家族、というのは焔と藤花、その実子達、それに――自分たちの経営している児童養護施設で生活をともにしている子どもたちだ。
 焔と藤花は、十年前からずっと夢見ていた。
 幼い頃の焔のように天魔の影響で家族を失った子どもたちを保護する為の施設を、自分たちが大人になったら開くことを。そしてその脇には小料理屋を開いて、夜は大人達にそれを振る舞うという、ささやかな、だけれどしっかりとした夢を。
 それが実現しているのだなと、しみじみ思うとなんだか嬉しくてつい笑みがこみ上げてくる。
「どうかしたの〜?」
 焔がそう問いかけてみると、
「いえ、なんだか幸せなので」
 そう、藤花が応えた。
 
 
(でも、俺のような子たちと一緒に暮らせている未来……か)
 焔は料理を運んでいくと、改めてそれを感じて、笑みをこぼす。
 だって、机の周りには自分たちの子どもを含めて、五〜六人ほどの、年齢も雰囲気もまちまちな子どもたちが座っているのだから。みなお行儀良く座っているあたり、しっかりした子どもたちだなあとこれまたしみじみと思う。
「はい、では明けましておめでとうございます」
 藤花がそう言って笑うと、子どもたちもおめでとうございます、と礼儀正しく返事をしてくれた。
「今年もよろしくね〜」
 焔の言葉で、さっそくご飯タイムだ。丁寧に作られたおせち料理と、子どもたちの地元の味を少しでも再現できればとすまし汁と白味噌、ふたつの種類を用意したお雑煮。子どもたちはそれらを見て、わぁっと嬉しそうな声を上げた。やはり食事の時は、笑顔が一番いい。
 ……と。焔はエプロンのポケットの中になにやら入っていることに気づいた。ちら、と見てみると人数分のポチ袋である。
「いいこにしているからね、少しだけどお年玉〜」
 焔がそう言うと、子どもたちはわあっと歓声を上げた。やはりお年玉というものはだれがもらっても嬉しいものだからだ。
 
 
 
 そして、夜。
 日中は子どもたちと近くの神社に初詣に行き、ついでにショッピングモールでちょっとした買い物をしたりして、なかなか充実した時間を過ごしたけれど。
 今はもう、子どもたちも夢の中。
 焔と藤花は、ふたりでのんびりとソファに座っていた。この時間だけは、「パパとママ」から「焔と藤花」に戻ることができる。
「改めて、今年もよろしくお願いしますね、焔さん」
 藤花はそう言いながら、そっと日本酒の瓶を傾け、焔のもつ杯に注ぐ。肉体は確かに二十代だが、精神は十代――二人にとっては、『初めてのお酒』だ。藤花も自分の杯にそれを注いで、一口含む。
「……おいしいですね」
「そうだね〜、甘口って書いてあるのを持ってきたから〜……でもこんな味がするんだね〜」
 きっと酒に慣れていないことを考えての選択だろう。そんな心配りもありがたい。
 酒精を取り込んだ身体はふわふわと、だんだん温かくなってくる。
「この未来が、本当に来るといいですね」
「そうだね〜……俺達、がんばらないとね」
 慣れない酒のせいか、お互いわずかに頬を染めている。そして、焔は優しく藤花に口づけた。学生のころに毎日交わすような触れるだけのものではなく、きっと十年の月日のうちに身体が覚えたのであろう、少しだけ大胆なキス。藤花も一瞬驚きはしたものの受け入れて、そして笑いあう。
 感謝と誓いを込めた口づけは、ひどく心地よかった。
 
 
 
 
 ――ぱっと目が覚めると、いつもの部屋。いつもの自分。
 あれは夢だったのかな……?
 思わずそう考えずにはいられない。だけど、いまは――一緒に話したかった。
 不思議な夢の話と、これからの未来の夢を。
 積もる話は、きっと沢山あるから。
 
 
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0292 / 雪成 藤花 / 女性 / 15歳 / アストラルヴァンガード】
【ja5378 / 星杜 焔 / 男性 / 17歳 / ディバインナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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代筆というかたちですが、執筆させていただきました。
10年後の自分になる夢、なんだかとても不思議な、でも素敵なことと思います。
どうか、これからも幸せでありますよう、お祈り致します。
では、今回はありがとうございました。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年06月16日

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