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『湯煙シュガー 』
クラーク・エアハルト(ga4961)

 日本のどことも知れぬ、温泉街。
 軒を並べながらも、我こそはと各々らしさを主張をしまくっている日帰り入浴の温泉施設。遊歩道を挟んだ両脇に並ぶそれらは、先が霞むのではないかというほど続いている。
 人はさして多くない――いや、歩いている人が少ないと言った方が正しいか。
 夕暮れ時で、食事と温泉を求めてぶらつく人がだいぶ収まるべきところに収まった、という感じなのだ。道に人は多くなくてもそこは、確かな活気に満ち溢れていた。
 そこを明るいブラウンのショートヘアが活発さを醸し出している女性と、銀髪でハーフかクォーターの様子を感じさせる、やや幼い顔立ちの青年が肩を並べ、歩いていた。
 ただ青年の方はその女性の横で腕を少し大げさに振り、ときおり、手と手を触れあわせている。
 最初はその行動が何を意味するのかわからなかったようだが、気がついたのか、彼女は青年の手がぶつかるタイミングに合わせ、指と指を絡めて手を握った。
 青年は少し目を丸くして彼女の顔をのぞき込むと、ニコリと微笑む。そして絡まった指をちょっとだけ強めに握ると、顔を上げて左右を見回した。
「温泉街ってなんというか、独特の雰囲気というモノがありますね、凪さん」
 凪と呼ばれた女性もニコリと微笑み、「そうですね」と頷いてくれた。
「賑わっているのに、そうは見えない。けれども確かに賑わっているのが、よくわかりますよね。特にこの時間帯だと明かりと、明かりに浮かぶ影が無人でないことを教えてくれますから」
「なるほどですよー。それにしても……」
 青年の目が施設の看板を順に追っていくと、顎に手を当て、何回も頷きながら短い溜息をつく。
「色々な温泉があって、楽しそうですね。
 ん〜、良さげな温泉は何処かな? あ、食べ物とかも売ってますね――よければ何か食べますか?」
「クラークさんの方が馴染みないでしょうから、クラークさんが気になったものでいいですよ」
「凪さんの食べたいものでいいですよー?」
 クラークと呼ばれた青年がそう言うと、凪は少しの間、自分の唇で指を柔らかく挟み、目を閉じたが、すぐにパッと目を開いた。
「クラークさんが食べたいと思ったものを、食べたいです」
 ペロッと舌を出す凪。
 そう返されてしまうと、はにかむしかない。ただ、空腹感がそれほどないせいか、食べたいものと言ってもクラークはこれがいいあれがいいという気は、あまりしない。
 それでも何かないかと辺りを見回し、あるものに目を留めた。
「では、晩ご飯のこともありますし、あれだけでいいです」
 クラークが目を留めたもの。それは――
「焼きまんじゅう、ですか」
 極端に珍しいものではない事に、凪は目をぱちくりとさせたが、それは日本で育った記憶のある自分の感覚でしかないと思い直す。
 ただそれでも、クラークだってまんじゅうくらい知っていても、おかしくはない。それに、凪ですらも珍しいものだってある。
 その中からわざわざまんじゅうを選ぶあたりに、凪はいまひとつ理解というか、納得できないでいた。
「ここでしか食べられそうにないご当地品というのもありますけど、それでもいいんですか?」
「ええ、いいんですよ。日本のお店で似たようなのはたくさん見ますが、凪さんがそれを見るたびに、今日を思い出してもらえたらなと思いましてねー」
 笑うクラークへ納得したと示すように凪も笑い、指を絡めたまま店先に立つ。
 それほど多くない種類を前に、凪が順に指さして「どれにしますか」とクラークに問いかけるが、どんな答えが返ってくるのか予想がついているのか、ガラスケースに指を置いたままである。
「凪さんが選んでくれて、かまいませんよ」
「言うと思いました。これとこれ、ください」
 見透かされたクラークは子供のような屈託のない笑みを浮かべ、焼きまんじゅうの刺さった串を受け取ると、それを凪に渡す。
 もちろん、凪の両手がふさがってしまった。
「えっと……?」
「食べさせてもらえませんか、凪さん」
 何をしてもらいたいか、クラークがハッキリと口に出した。
「今日はなんだか甘えてきますね」
「いえ、ね? たまには思いっきり甘えてみようかなと。
 なんというか……うん。少し疲れたんですかね?」
 何に疲れたとか、そんなことまでは愚痴らない。ただそれだけを言って、目を閉じると凪の髪に顔を埋める。
 ふんわりと漂う甘い香りに混じって、潮の匂いがする。それが実に凪らしいと顔を埋めながら、クラークは小さく笑った。
 凪の少し冷たい右手がクラークの頬に触れ、背中に回した左手で泣きじゃくる子供をあやすように、優しく叩く。
 あまり多くはない人目は気にせず、しばらくの間そうしていた2人だが、やがて、クラークの薄く開いた目にはある物が入った。
「あ、ここにしましょうか? 混浴の温泉があるみたいですし」
 その提案に凪が振り返ると、クラークは頭を下にずらして、首の裏に唇をはわせた。首筋を手で押さえぱっと離れると、凪は上目遣いながらも小さく頬を膨らませてクラークを睨みつけている。
 滅多に見られない反応に、クラークも滅多には見せないような丸い目で凪をみつめ、そして子供のような笑みを向けるのだった。


「やっぱり、凪さんってスタイル良いですよね?」
 広くはあるが、それでもやや小さめの露天風呂。その湯船から風呂の縁に腕を乗せたクラークは、タオルで前を隠し、出入り口から姿を現した凪をそう褒め称えた。
 凪は「そうですか?」というのだが、全身、無駄なく引き締まった身体に、大きいと呼べる程度には小ぶりではない形のいい膨らみがタオルを押し上げて、その存在を主張している。
 腰回りも見事な曲線を描き、きゅっと引き締まったお尻には、水着による日焼けの跡が僅かながらついていて、それが妙に煽情的に見える。
 桶に湯を溜めて肩にかける凪を見ながら、クラークは「それにしても」と、湯気を追って天を仰ぐ。
「こうやって、ゆっくりつかるのも良いものですねー」
 湯の中で手足を伸ばし、そして肩に湯をかけていると、湯の表面に大きな波紋が生まれ、それが湯に浸かっていないクラークの肌をぴりぴりとさせる。
 背中にかかる、体重。
 自分の固い背に、固さはあれど柔らかな背中を感じ、目を閉じた。
 ――いつまでそうしていたのか。凪の心音を背中に感じていたクラークだが、汗が湯船に落ちた気配で目を開いた。
 くらりとする頭を振って、湯船の中に置かれた手の平の上に、自分の手の平を重ねた。
「こうしていると、何もかもどうでも良くなるといいますか……」
「どうでもよくなってしまいたい、そう思えることがあるんですね」
 凪の言葉にはっとして振り返るクラーク。
 目の前には凪の顔。のぼせたのか、のぼせているのか、その目が潤んでいるように見えたクラークは、頭の奥がしびれるような錯覚に襲われ、かぶりを振った。
「クラークさん……?」
 名を呼ばれ、クラークのしびれはさらに加速する。もはや難しいことなど考えられない。ただ目の前にある、柔らかそうな唇を奪いたい、そしてもっともっと凪を知りたい。
 それこそ、隅から隅まで。
「凪さん……」
 名を呼んだ自分の声がまるで自分の声ではないように、聞こえる。
 ただ、身体はすでに自分の中の何かに、すでに支配されていた。そしてそれは凪も同じなのか、身じろぎもせず、黙ってクラークをみつめ返していた。
 そして2人は知らず知らずのうちに、どちらからともなく唇をさしだし、お互いの唇を、舌を味わうようにお互い絡め合い、むさぼりあうのであった。
 流れ出るお湯の音が、2人の声をかき消してくれることを祈るのみである――




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga4961 / クラーク・エアハルト / 男 / 31 / おい妻帯者 】
【gz0497 / 生嶋 凪        / 女 / 24 / 別の運命もあった 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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毎度お世話になっております、楠原です。だいぶ長い付き合いとなっていますから、色々と割愛させていただきまして、今回もご発注ありがとうございました。人間らしい凪が書けるのは本編では機会が少なく、色々と妄想させていただき、感謝のかぎりです。
またなにかありましたらば、ご発注、お願いします
■イベントシチュエーションノベル■ -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2016年06月20日

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