『言葉に針を仕込んで 』

白亜　竜止（aa3929）

「出会い頭にもたれかかるなんて体調が悪いのでしょうか？早く帰って三和さんに介抱して頂いたらいかがでしょう？」

「明はそういう事には向いていないのにゃー。竜止お願いできるかにゃ？家まではにゃーが案内するわん」

「……人気者だね」

　どうしてこうなったんだ？俺はただ少し買い物に来ただけだった筈。周囲の目を気にしながら白亜　竜止（aa3929）は小さく息を吐く。
　理由らしい理由を考えてみるが、どんなに考えても見つからない。結局これがこの３人の普通なんだろうという結論で納得することにした
。恋坂　哀（aa3750）とle lis Blanc（aa3929hero001）が出会うと多かれ少なかれこういう流れになる。そこに三和明（aa3750hero001）が加わって余計にややこしくなるまでが通例になっている。
　それぞれ優秀だと思うのだが、どうしていつもこうなるのかが白亜にはどうしても理解できない。それから先程から左右からle lisと恋坂に引っ張られている腕が少し痛い。

「……このまま放っても置けないが、急にお邪魔するのも悪いだろ。少し哀の体調が良くなるまでそこの喫茶店に入らないか？」

　そう白亜が言うと

「丁度私も思っていたところだよ。やっぱり私とリュウは考えも似ているのかな？」

　le lisが白亜の左腕を引っ張りながら歩き始める。

「あそこ、ダーリンの好きなドリンクが売ってるところだワン。今度ダーリンと一緒に行こうと思ってところにゃー。流石ダーリンだにゃー」

「本当……ひくくらい情報早いね……」

　恋坂が右腕に胸を押し当て上目遣いで微笑みながら歩き始める。体調が悪いとはとても思えない。
　その後ろを歩きながら三和が冷ややかな視線とともにトドメを入れてくる。何を言っても逃げ道がないようにも思えてきた白亜は苦笑いしか出ない。

「そうか……みんなが気になってる店で良かった」

　＊＊＊

「次の方、ご注文を……」

　女性店員の声がそこで止まった。イケメンと呼ばれる部類の男性のそばに女性が３人。どう考えても和気藹々と言った雰囲気ではない。それもそれぞれタイプの違う美人揃い。ちょっとした修羅場と考えるのが自然だろう。

「これと、これと。それからオススメはなんですか？」

「あ、こちらが期間限定商品になりますのでもしよろしければ」

「じゃあそれも」

「かしこまりました。お席までお持ちします」

　白亜のどこかミステリアスな雰囲気と優しい微笑みに店員も少しだけ顔が赤くなってしまう。
　それを見ながら三和が一言

「女好き？……」

「そんなわけないだろ」

　そんなことを言いながら４人用の席へ移動する。これで少し落ち着けるだろうと思った白亜は恋する乙女のパワーを甘く見ていたのかもしれない。

「正面の席が空いてるのになんで２人はこっちにいるんだ」

「そっち、窮屈そう……」

「そうだワン。こっちはダーリンとにゃーで座るから正面にいくにゃ。その方がタツトがよく見えるにゃよ？」

「そうおっしゃるなら、ご自分が行かれたらどうでしょう？」

　優雅にドリンクを飲みながら三和が涼しげにしている。４人席というのだから2対2で座るのが一般的の筈なのだが、白亜の両隣にはle lisと恋坂が座り、３対１という何とも歪な編成だ。
　ドリンクを飲もうにも肘が当たり何とも飲みにくい。

「はい、ダーリン。これダーリンが好きって前に言ってたやつにゃー。美味しかったから飲んでほしいにゃー」

　目の前で味を確認するように、飲んだアピールをしてから恋坂が自分のドリンクを白亜の
口元に近づける。

「美味しいなら哀が飲めばいいだろ？哀が美味しくのんでくれればそれで俺はいいよ」

「ダーリン優しいわワン。やっぱりにゃーのこと愛してるにゃね」

　目がハートマークになりながら恋坂はストローを咥え直す。

「リュウ、少し寒いからそのドリンク少しくれないかな？」

　なんとかなったと安堵の溜息をつく暇もないままle lisの言葉が飛んでくる。確かに白亜の手元にしかホットドリンクはないが窓際の席はそんなに寒いと思えない。
　白亜に言葉を発する隙も与えず、恋坂がストローを口に当てたままクスリと笑う。鬼の首でも取った様に勝ち誇った笑みだ。

「窓際の席で寒いなんて冷え症かにゃ？」

「冷え症だなんてまさか。ぜい肉があまりないので冷えやすいだけですよ」

　白亜を挟んで２人の間で火花が見え始めた。毎回飽きもせずによくやるものだ。と辟易しながら正面の三和を見やると視線がかち合う。次の瞬間、顔を背けられる。

「こっち……見ないでいいよ……」

「こっちだけ盛り上がってるから三和が退屈してないかと心配してやったんだよ」

「……気にしなくていいから」

　完璧とも言える猫かぶりで顔が引きつるのは回避したが青筋までは防げなかった。

「ちょっと席外すな」

　そう言って席を立つと、寂しそうにどこに行くのかと問う声が左右から聞こえる。

「言わせるなよ」

　そう言い捨てて、トイレまでやってきた白亜はポケットからタブレットケースを取り出し中にあった白い錠剤を全てを出すと口の中で噛み砕く。言葉の針で突かれすぎた胃が落ち着きを取り戻す。
　あのやりとりが日常的になってきてから飲んでいる胃薬だ。ケースに入りきらない程あった筈のそれは急速に減り、今ので最後だった。
　また買ってこないとなと思いながら、鏡で見る自分の顔は心なしか血色が悪い気がする。自分の胃が弱いのか、あそこにいる女性陣の胃が鋼鉄かなにかなのか、どちらかに決まっている。眉間とこめかみをさすり、皺と怒りマークを消しながら心から白亜は思った。だか思ったからと言って何かが変わるわけでもない。

「これは必要な労力だ」

　声に出してだいぶ前から帰りたくなっている自分に言い聞かせる。
　面倒すぎて考えるだけでは我慢で出来なくなってきていたが口に出せばもう少しだけ我慢できる。
　言葉は白亜の周囲にいる女性達と同じだ。使い方次第で毒にも薬にもなる。

　＊＊＊

「……座らないの？」

　三和の声に自分の手を見る。恋坂の獣の耳がすぐそばにあった。席に座るタイミングを計っている間に無意識にモフモフしていたようだ。

「そんなに触りたいなら２人きりになればいくらでも触らせてあげるワン」

　頬を染め照れたような恋坂と対照的にle lisに怒りマークが見える。

「……リュウ、もっとモフモフしてる子を探しにペットショップへ行けばいいよ」

「そうじゃない。……ゴミが付いてたからとってやっただけだ」

「そうなんだ……」

　全てを見ていた三和の言葉には、１ミクロンも心がこもっていない。これぞ棒読みと言った感じだ。
　低い声と共に、さっき消したばかりの怒りマークが浮かびそうになるが、乾いた笑いで誤魔化す。

「あ、あはは。ゴミが付いていたらとってあげるのは当たり前だろ」

「流石ダーリン。優しいワン」

「当たり前だろ。哀もゴミなんてつけてるなよ」

　そんな白亜の顔をじっとle lisが見ている。

「ルリ、どうした？」

「顔色が良くないような気がするけど、気のせいかな？」

　恋坂も白亜をじっと見つめてくる。美和は知っているのか、興味がないのかドリンクを飲んでいた。

「にゃーもそんな気が……！！」

　恋坂の言葉は息と一緒に飲まれた。le lisが白亜の額を自分の額にくっつけたのだ。

「熱はないみたいだけど、風邪の引き始めかもしれないし帰らない？」

「寒がってる人が計ってもわからないワン。にゃーが測りなおすのにゃー」

　恋坂が白亜の首を持って自分の方に強引に近づける。額ではなく唇が近づいている辺り魂胆を隠す気もない様だ。

「俺も少し冷えたかもしれないな。ルリがさっき寒いって言ってただろ。空調の真下だから余計に寒いのかもしれない」

「ずっと言えなかったけどにゃーも寒いにゃー。そうだワン。ダーリンもにゃーにくっつけばいいわん。そうすればすぐにあったかくなるのにゃー」

　唇の間に手を挟み込んで笑顔を貼り付けたまま白亜が言うと、恋坂が調子を合わせよりくっついてくる。le lisも負けじとばかりに肌を寄せちょっとしたおしくらまんじゅう状態だ。

「……楽しそうだね」

　この状況を楽しいと思える奴がいたら連れてこい。と思いはするが決して口には出さない。この程度のことでかぶった猫が脱げる白亜ではないのだ。

「……ワタシ帰ろうか……お邪魔みたい」

　そういう声も顔も全くそう言っていない。ただ、三和の場合顔や声に感情が出るタイプではないし、素直な気持ちが言葉に出る。本当にそう思っているんだろう。

「１人で帰るのは危ないだろ。明も女の子だし後で送ってやるよ」

「にゃーが帰る時明も一緒に帰ろうワン。そしたら送ってもらえるにゃーよ。明にも優しいなんてダーリンは本当に素敵だにゃー」

「うん……本当に優しいね」

　そう頷いた三和の口角がはくあには少しだけ上がっている様に見えた。しかし次の瞬間にはいつもの無表情だ。
　気のせいかと思いながらもまた痛み出した胃にそっと手を当て、帰るまで持ってくれと祈りにも似た応援をするしかない。
　窓の外の日はまだ高く、白亜の１日はまだまだ終わらない。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【　aa3929　／　白亜　竜止　／　男性　／　１８歳　／　策士は色を操る　】

【　aa3929hero001　／　le lis blanc　／　女性　／　１８歳（外見）　／　聖女は竜を欲す　】

【　aa3750　／　恋坂　哀　／　女性　／　１７歳　／　恋獣は竜を愛す　】

【　aa3929hero001　／　三和 明　／　女性　／　１７歳（外見）　／　百合は鋭言を唱う　】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　白亜　竜止様、le lis blanc様、恋坂　哀様、三和　明様初めまして。今回はご縁を頂きありがとうございます。

　女性は強いですね。全員の相手をしている白亜様の胃が心配ですが、きっと看病も皆さんが仲良く（？）してくださることと思います。

　もし、お気に召さない箇所がありましたらお気軽に申請していただければと思います。
　今回は素敵なご縁をありがとうございました。またお会いできる時を楽しみにしております。

■イベントシチュエーションノベル■

龍川　那月

リンクブレイブ

2016年06月20日