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『酒と子供と鈍い魔女 』
ヴィルマ・レーヴェシュタインka2549)&ヨルムガンドka5168

 ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は、オールドファッションを傾けるヴィルマ・ネーベル(ka2549)を見た。
「なに素直について来てんだよ」
 普段の口調とは異なる荒い口調──ヴィルマはヨルムガンドが現時点でかなり酔っていると思ったが、口には出さず、グラスを傾ける。
 ヴィルマが何となくヨルムガンドに酒を勧めたのが、今夜の始まりである。
 酔ったヨルムガンドはヴィルマを引き摺るようにして連れ歩き、今はこのバーにいた。
「酔わせたのは我じゃしのぅ」
「……別に逃げても良かったんだぜ?」
「『逃げる』?」
 ヨルムガンドの言葉にヴィルマは眉を動かした。
 一般的に見れば、ヴィルマはヨルムガンドに無理やり連れて来られた、になるのだが。
「はて……。別にそなたなど怖くは無いのじゃ」
 ヨルムガンドに呆れたような、けれど、それすらも楽しんでいるような。
 ヴィルマの心は霧の向こうにあるかのようで、自称でも霧の魔女らしく見せない。いや、ヨルムガンドには見えない。
 それに、とヴィルマが言葉を続ける。
「そんな状態のそなたを放っておけぬのじゃよ」
 それは、ごくごくシンプルな理由。
 ヨルムガンドはシェイクされて出された、紫が美しいカクテル注がれるタンブラーを手に目を鋭くさせる。
「そこまで言うなら最後まで付き合え。酔い潰れるまで帰さねぇからな」
「そうさせてもらうのじゃ」
 睨みを利かせて凄ませても、ヴィルマは呆れの成分があっても楽しそうで。
 ヨルムガンドはイライラとした気分でタンブラーに口をつけた。
 スミレの香りが鼻腔を擽るが、彼はスミレに気づかない。

 ヨルムガンドの手にするカクテルが次から次へと変わっていく。
(少なくとも、後を考えてはいないじゃろうな)
 ヴィルマは次々と勧められつつも自分のペースを崩さず注意深くヨルムガンドを観察していた。
 今ヴィルマが呑んでいるのは、『気をつけて』と注意を促す意味を持つカクテルであるが、自分のことではなく、ヨルムガンドを注意する必要があるようだ。
 酒は強いが、酔わない訳ではない。
 酔って共倒れになったら困るからではなく、酔って見せてしまうであろうその姿を見せたいと思わない。
 故に、ヴィルマは酒量をセーブしている。
 が、ヨルムガンドが気づかない訳ではない。
「調整してんだろ〜ヴィルマ」
 彼が今飲み干したのは、本質の意味を持つカクテルだ。
 この状態では、いつぞや自分に言ってきたカクテル言葉のことは忘れているだろうが、ヨルムガンドがそれを呑むと言うのも運命のユニークセンスは皮肉なものである。
 ヴィルマは頭の中でそう思いながらも、表情にはそれを出さない。飄々とした、面白そうな笑みを浮かべ、こう返すのみだ。
「我は少々酔いが回っているのじゃよ」
「嘘ついてんじゃねぇぞ〜」
 当然だが、かなり酔っているヨルムガンドはそれが本当のことであると信じなかった。
 ストレートに事実ではないことを指摘され、ヴィルマは嘘であるとは明言しなかったが、指摘に軽く肩を竦める。
「まだいけるだろヴィルマぁ〜」
 酔いの進行がかなり進んでいるのか、絡むその言葉はおどおどとしておらず、荒っぽい。
 (ヨルムガンドの意識として)ついてきて、放っておけぬと言って、けれど、弁えて呑んでいる。が、ヨルムガンドは酔い潰れる最後まで付き合わせるつもりなのだから、気に入る訳がない。
(言い分が、子供じみておるのじゃ)
 ヴィルマがそう思いながら呑んでいると──
「ちっこいくせに調子乗ってんじゃねぇぞ」
 ヨルムガンドの言葉にヴィルマの眉がぴくりと動く。
 相手は、今酔っている。しかも酒癖は悪い。我侭な子供のような状態になっている。そう思っていた心がこの瞬間、霧の中に身を隠した。
「ちっこい……じゃと……!?」
 世の中、言っていいことと悪いことというものは存在する……という表現がよく合う表情の変化だ。
 ヴィルマが手を伸ばし、ヨルムガンドの頭をぐいと押さえる。
「何しやがる……!」
「そなたの身長が大きすぎるのじゃ。ちっとは縮むのじゃ!」
 ぐいぐい。
 押した所で縮まるものでもないが、押さずにはいられない。
 ヴィルマの手に力が篭る。
 すると、ヨルムガンドが席を立ち上がり、ヴィルマの手から逃れるとその高身長から見下ろしてきた。
「縮まねぇよ、ヴィルマが大きくなれば済むだろ」
「そなたが縮んだ方が首の健康にいいのじゃ。そなたが縮まれば、我だけの話にならないのじゃよ」
 もっと押すとばかりに手を伸ばそうとするが、ヨルムガンドは不機嫌そうな顔でまた席に座り、バーテンダーへ「エルクスオウン」とオーダーを告げる。
 やり取りをはらはらと見ていたバーテンダーであったが、これ以上の騒ぎには発展しないと見たらしく、準備を始めた。
 ヨルムガンドが黙ったので、ヴィルマもゆっくり呑んでいたグラスを空けて、「次はモスコミュールを頼むのじゃ」とオーダーを告げ、自分が怒っていないことを示す。
 けれど、ヨルムガンドは何も言わず、目の前に置かれたエルクスオウンをじっと見ている。
 やがて、ヴィルマの前に銅製のマグカップが置かれ、ヴィルマはそれを手に取ると口をつけた。
 口の中にライムの清涼感が広がっていく──ここは、『本物』志向であるようだ。
「俺はお前しかまともに話せる相手居ないんだぞ」
 口にした瞬間、ヨルムガンドがイライラとした声で呟いた。
 ヴィルマが顔を向けると、ヨルムガンドはこっちをじっと見ている。
 他人に見られると精神の安定を欠くヨルムガンドの視線は、他人から逸らされている……が、最近、自分に対してはそうではないように感じる。何故そうなのかヴィルマにはよく判らないが、気の所為かもしれないし、聞くようなことでもないので聞いてなかった。
「ヴィルマ、俺は──」
 ヴィルマが真意を測りかねていると思ったのだろう、ヨルムガンドはエルクスオウンを呑む。
「寂しいからもっと構えって言ってんだよ!」

「は?」
 何故怒っているのか。
 それは酔っているからだろうが、言葉の内容自体は──酔ったからのものではないだろう。
 ヴィルマはそれが解るだけにヴィルマが言ったことが不思議でならない。
「我に構えとはまた……奇特な奴じゃのぅ、ヨルガ」
 自分のような者にそのようなことを言うとは。
 好く者などいないこの我に──
(おぬしは、我などであっても寂しくなくなると言うのじゃな……)
 ヴィルマはヨルムガンドに手を伸ばし、頭を撫でる。
 さっきのように背を縮ませるような強さではなく、子供へ感謝を伝えるように優しく。
「解ればいいんだよ。解れば」
 ヨルムガンドはヴィルマの手を振り払うでもなく、それを受け入れる。構えと言う言葉を聞き入れてくれた満足が表情にはあるような気がする。
(子供みたいな純粋さは、素面の時と変わらぬのじゃな)
 ヴィルマは先程の言葉の嬉しさを表すように、笑顔を浮かべた。
 これからでも構わない、もう少し、楽しく呑もうか。

 やがて、ヨルムガンドの酒量に限界が訪れる。

「ヨルガ、帰るのじゃ」
「やだ」
 支払いを済ませたヴィルマがカウンターに突っ伏すヨルムガンドへ肩を貸そうとすると、ヨルムガンドは駄々をこねて拒否した。
 完全に図体のでかい子供になってしまったヨルムガンドは動こうとしない。
「どうせ家に戻っても誰も居ないし帰りたくない。一緒がいい」
 とんでもない我侭言い出した。
 酔っているからこその言葉だが、ヨルムガンドが拒否する理由に嘘がないことは解る。
(本当に奇特じゃ)
 だが、奇特だから、今ここにいるのだろう。
 仕方ない、とヴィルマは吐息を零すように苦笑した。
「はいはい仰せのままに、なのじゃ」
 否定しては帰宅出来ないまま。
 ヴィルマはヨルムガンドに言って聞かせ、肩を貸して歩き出す。
 背丈の差がかなりある為、半分以上引き摺るような形だが、ヨルムガンドの家へ何とか連れて行く。
 ベッドに座らせ、水を飲ませると、落ち着いたのかヨルムガンドは舟を漕ぎ出した。
「そろそろ寝るのじゃ」
 ヴィルマがヨルムガンドをベッドへ横たわらせる。
 そろそろ自分の役目も終わり──そう思ったら、ヨルムガンドに腕を掴まれた。
「独りにすんな」
「はいはい」
 一緒と言ったといわんばかりのヨルムガンドにヴィルマはそう応じて、ベッドサイドにある椅子に腰掛けた。
 眠りに就くのはもう間も無くと言った様子だが、ヨルムガンドはヴィルマが立ち去ることに警戒しているように見える。
(まるで子供じゃの)
 眠るまでは立ち去るつもりなどないのに。
 やがて、ヨルムガンドが眠りに落ちていく。
「おやすみじゃ、ヨルガ」
 ヴィルマはヨルムガンドを起こさないよう自身の腕を掴む手を離し、ベッドにそっと置く。
 サイドテーブルに書置きを残そうとして、自分が帰れば誰もいないこの部屋に気づいた。
 ヴィルマはしばし考えた後、その文字を走らせる。

「我も奇特なのじゃ」
 大きすぎる子供の我侭に振り回されるとは。
 家の外、霧の魔女を自称する女が夜明けと大きな子供の起床を待っている。

 その霧は──今はただ、彼女の世界を包んでいた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ヴィルマ・ネーベル(ka2549)/女/20/An insensitive heart】
【ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)/男/21/Drop of Wishes】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
発注文とご提示いただいたリプレイを参照に執筆させていただきました。
現在友人関係であるお2人が、男女の関係へなるかどうかは別として、より良い方向へ向かう一助になれば幸いです。
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ファナティックブラッド
2016年06月21日

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