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『Each role 』
ka5673)&帳 金哉ka5666)&センダンka5722

 今日はなんだか変だ――それをはっきりと理解したのは、いつものようにセンダンの家へ向かおうと、家を出た直後の事だった。
 昨夜の帰路と違って、ぽかぽか陽気。
 日差しを受けた肌は火照り、実に暖かい――どころか、熱く感じる。そのくせ、背筋は常にぞくぞくと悪寒が走り続けている。ふらりふらりと足下もおぼつかず、ぼんやりとした世界はぐるぐると回っていた。
(ああ、これはやられましたね……)
 自分の身に何が起きているか、わかっていた。原因もだいたい察しがつく。
 それでもだ。
 閏の足はセンダンの家に向かっているのであった。


「おはよう……ございます、セン」
「おせえよ、殺すぞ」
「すみません……洗濯を後にして、今、ご飯の支度をしますから……」
 いつものように不機嫌そうな面をしたセンダンは来てもらっておいてその言いぐさだが、それでも閏は文句一つ言わず、割烹着を着ると、ふわふわした足取りで台所へ向かう。
 コンコンと、聞いていてもわかるくらい、あまりよくない咳がでているのだが、そんなことを気にかけるセンダンでもなく、どっかと居間に座り込み、やがてゴロリと横になる。
「……おせぇ」
 いつもよりテンポの悪い包丁の音、次の動作に移るまでの間――それらのことを指しているわけでもなく、ただ自分勝手な不満を口にした時、台所からけたたましい音が響いた。
 さすがのセンダンでもその音はおかしいと思ったのか、「……おい」と呼びかけるも、応答がない。
 それでもまだ、しばらく立ち上がらず、時間をおいてからもう一度、「おい」と呼ぶ――やはり、応答がない。
「返事しろよ、殺すぞ」
 文句を垂れ流しながらも立ち上がり、静かな台所へと向かう。
 戸を開けてまず、誰もいないことに眉根を寄せていぶかしんだセンダンだが、台の陰、手が床にあるのを見つけ、回り込んだ。
 そこで見たのは、床に横たわり、肩を上下させている閏の姿。
「……おい、なにしてんだ」
 呼びかけても返事がない。
 代わりに返ってくるのはゴホゴホと、少し辛そうな咳だけである。
 ここまでくるとさすがのセンダンでもおかしいと気づき、どうしたらいいのかとしばらくその場を小さく往復していたが、やがて閏を両腕で抱きかかえ居間に引き返すと、自分が横になっていたところへ閏を寝かせた。
 そして、腕を組んでしまう。
 抱きかかえた時、かなり閏が熱くなっており、体調不良なのがセンダンであっても気がつけた。
 だが――
「なにすりゃいいんだよ」
 寝かせたが、これだけ熱ければ布団をかぶせても熱いだけなのではとか、身体を冷やすために水風呂でも用意すべきなのかなどと、あまりにも危険なことばかりを考え、所在なさげにうろうろとしていたセンダン。
 だがそこに、救世主の声が聞こえた。
「いるかの、センダン。閏」
「金哉、とっとと来い! 殺すぞ!」
 何をすればいいのかわからない苛立ちから、せっかく来てくれた救世主へそんな言いぐさしかできないセンダンだが、そういう性格の奴だと熟知している金哉は「なんじゃいなんじゃい」と、全く気にした風もなく居間に顔をのぞかせた。
 そして閏を見るなり、顔を強ばらせた。
「どうしてそのような状態で寝かせておる! すぐに布団を用意せんか!」
「身体があっちぃんだよ、布団なんかかけちまったら、下がるわけねえだろ。殺すぞ。
 このまま水風呂にぶっ込んじまったほうが、いいんだろ」
 そうするのがいいと言わんばかりに腕組みをほどき、閏を運ぼうとするセンダンへ金哉はかけより、その腕をつかんで馬鹿でも見るように眉根を寄せて、センダンを見上げた。
「よいかセンダン、病人とは寝かせておくものじゃ。大人しく……大人しくせよと言うておる!!」
 腕をふりほどこうとするセンダンへ向けて、語尾をさらに強めて念をおすと、ようやく腕の力も抜けていく。
 ただ、思わず荒らげてしまった金哉の声で、これまでずっと閉じられていた閏の目が開かれ、のろのろと上半身を起こして弱々しい笑みを浮かべた。
「いらっし、ゴホ……しゃい、金哉く、ん。今、お茶出しますね――布団は、その後でも……ゴホゴホ……いいで、しょうか」
「閏! お前も寝ておれ。治るものも治らんじゃろ!!」
「いいから、寝とけ」
 センダンが閏の額をわしづかみにしたかと思うと足を引っかけ、力任せに床へ叩きつけるように寝かせると、反射的に金哉の手はセンダンの後頭部を叩いていた。
「病人でなくとも、もっと優しくあつかわんか、この馬鹿者!」
「ぐだぐだうるせぇ、寝かしつけりゃいいんだろ! 殺すぞ!」
「ゴホ……セン、金哉く、ん……喧嘩は、や――ゴホ……」
「いいから寝てろ!」
「いいから寝ておれ!」
 2人そろって閏に怒鳴りつけ、起きあがろうとする閏を再び叩きつけるように寝かしつけるセンダンと、それを予期して閏の後頭部に手を添え、勢いを殺す金哉。
 床へ寝かしつけられた閏が大人しくなったのを確認してから手を離すと、金哉はセンダンにその眼差しを向けた。
「それで、どうしてこのようになっておるのじゃ」
「知るかよ。昨日、帰ったかと思ったら、外の花がどうとかでまた戻って来やがってよ。
 しばらく雨降ってる外でなんかやって、それから帰ってったんだよ」
「ほう……昨日と言えば日中こそ天気よかったはずじゃが、夜は冷たい雨が降っておったの。雨具はなにか持っておったのか?」
「んなわきゃねぇだろ」
 その説明で、金哉は深々と頷いた。
 閏が昨日、外においてある鉢植えを雨の中、雨具も使わずに移動していたのを。しかもその後、遠慮してセンダンから雨具を借りることもなく、帰路についた事を。
 思わずも何も、当然のように深く長い溜息が金哉の口から漏れ、じろりと閏を睨みつける。
「まったくもって、大馬鹿者じゃの……仕方あるまい、閏がよくなるまで面倒をみるとするかの。
 センダンに任せておったら、治るもんも治らんどころか、殺しかねんしのう」
「うるせぇ、殺すぞ」
「閏まで殺してしまうことになるが、かまわんのかえ?」
「ゴホッ……2人と……ゴホ……も、やめ……」
「うるせぇ、てめぇは黙って寝てろ」
 金哉の返しに呻いたセンダンは何か言おうとした閏につっけんどんに言い放ち、そしてそのまま壁の方を向いて座り込むと、ごろりと横になる。センダンの腹が鳴った。
 苛立ちがあらわになっていて、全く頼りにならないセンダンに肩をすくめ、また起きあがろうとする閏を押さえ込む。
「寝ておれと言うておるだろ」
「センの……ゴホ……ご飯、ゴホ……支度、ゴホ、ゴホ……しなきゃ……ゴホッ」
「するから、ヌシは大人しく寝ておれ。さっきより咳がひどくなってきておるぞ」
 両肩を押さえ込まれ、しばらく起きあがろうともがいていた閏も、やがて力なく大人しくなったので金哉は手を放して立ち上がる。
「まず布団を敷いてやるから、そこで大人しくするんじゃぞ」
「それゴホッ、なら、布団くらいゴホッゴホ……用、ゴホ……意します、ゴホ……よ、ゴホゴホゴホッ――」
「おーとーなーしーく、しておれ!」
 上半身を起こした閏の額をつかんで床に膝を着き、2つに折った座布団の枕へ叩きつけるように寝かしつける。まるで違う性格に育った金哉だが、なんだかんだとセンダンに似通った部分も見え隠れする。
 枕に押しつけるあたり、センダンよりだいぶましと呼べはするが。
 額から手を離し閏の割烹着をはがして、自らの煌びやかな羽織を脱いで着ると、ようやく、かなり渋々という顔ではあるが、大人しく横になるのだった。
 横になると目のすぐ上に手の甲を当て、深く息を吐き出して静かにするその様子は、体調の悪さをハッキリ示していた。
(やはり相当無理をしているようじゃな。やれやれ……)
 優しくお人好しで強情な閏を横目で見てから、横柄ですぐ不機嫌になりふて寝を決め込んでいるセンダンに目を移す。
 その背中で苛立ち具合のわかるし、なぜ苛立っているのかもわかる金哉だが、それでも声をかけた。
「センダン」
「……ああん?」
「ヌシにひとつ、働いてもらいたいのじゃが」
「俺が何かできるかよ。殺すぞ」
 それだ。
 それこそが、センダンの苛立つ理由――何をしたらいいのかわからず、何もできないのが腹ただしいのだ。これが他の者であるなら、そこまで苛立つこともないだろう。
 閏だからこそ、そこまで苛立っているのだと、金哉は知っている。
「できるぞ? むしろヌシにしかできんことじゃな」
 金哉がなぜ気づかぬと言うような目を向けるが、そこまでされてもセンダンは「ああ?」と肩眉と口角をつり上げるだけである。
 肩を大きくすくめると、金哉は背を向けそして、言った。
「ただ傍にいる――それだけじゃ」
「それが何の意味あるってんだ。殺すぞ」
「いいから、傍にいてやってくれ」
 少し歯がゆくあったが、金哉は小さく笑い、布団を取りに行く。
 残されたセンダンはやはり意味が分からないという顔をしているが、それでも立ち上がると、閏の傍にどっかと腰を下ろすのであった。

 ほんのりとした塩味。米がほどよく形を残した、白雪がごとく純白の地に、その姿を見るだけでも味を連想させる赤い実がぽつんと降り立っている。
 そんな見事な出来映えの粥を、金哉は布団で寝ている閏の膝の上に置くと、起きあがろうとする閏を手伝った。
 そして膝の上の粥を見て、それからセンダン、金哉の順に顔を見る。
「セ……ゴホッ……ンや、金哉く、ゴホ、んの、ぶんは……」
「いいから、先に食うておれ。こやつは粥で満足なんぞするわけもないから、あとでたらふく塩飯でも食わせておくわ」
 申し訳なさそうな顔をする閏だが、こればかりはセンダンも文句は言わず、さっさと食えと言わんばかりに顎で指し示す。
「じゃ、ゴホ……あ、いただきゴホ、ます」
 手を合わせた閏がお辞儀一つ、それから匙ですくって粥を一口。
 米のわずかながらの食感が口に広がり、それがするりするりと喉を通っていく。米の旨みにほのかな塩分、そして酸っぱい赤い実が織りなす、単純にして複雑な味に、匙は止まらない。
 ほんの僅かな時間のあと、布団で上半身を起こしている閏が、空の土鍋を前に両手をあわせる。
「ごちそう、さま……ゴホ……でした」
「お粗末様じゃな――少しは先ほどよりかましになったかの」
 汗のかいた氷嚢をもってきた金哉が、それに手ぬぐいを巻いて枕の上に置くと、閏の顔をのぞき込む。
 ほんの僅かな看病ではあるが、ちゃんと暖かくして腹も満たし、のどにも潤いを与えたおかげか、顔色も咳も、明らかにさきほどよりましになっていた。
 ひ弱に見えるが、もともと風邪を引くほどひ弱でもないのだから、ちゃんとさえすれば当然の結果なのである。
「ええ、金哉のおかげ、ゴホ……ですよ。それじゃ片づけると――」
「まだ寝てろってんだよ、馬鹿野郎。殺すぞ」
 手に立ち上がろうとした閏の額を、またもセンダンがわしづかみにして、氷嚢の乗った枕へとおしつける。ひっくり返りそうになった土鍋は、こうなるだろうと予測していた金哉がしっかりと受け止めていた。
 氷嚢に押しつけられた閏はまるっきり抵抗をしなかったが、かわりに、額をつかんでいるセンダンの手にそっと手を重ねて、笑みをこぼす。
「冷たくて、気持ちいいです……知っていますか、セン。手が冷たい人は心は暖かくて、やさしいのだそうですよ」
「……殺すぞ」
 短く、それだけを告げるセンダン。手をふりほどこうとはしないし、閏の額に手を置いたままそっぽを向いて、しばらくの間そうしていたのであった。
 空の土鍋を手にした金哉はその様子を見ながら、薄いが、確かな笑みを口元に浮かべて台所へと消えていく。
 静かな空気が居間に流れる――かと思いきや、ぐうぐうと、センダンの腹の音がやまない。
 くすりと笑う閏。意識が深い海の底に沈んでいく感覚を覚え、もはや冷たくはないが、センダンの手の温もりを額に感じながら目を閉じて、こう、誓った。
(元気になったら、とびきりおいしいご飯を作りますからね。セン、金哉くん……)
 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5673 / 閏     / 男 / 34 / いてくれるからこそ】
【ka5666 / 帳 金哉 / 男 / 21 / 2人のことはなんでも知っている】
【ka5722 / センダン  / 男 / 34 / 役に立つ役立たず】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずはまたのご依頼、ありがとうございます。今回は風邪と看病のストーリーにアドリブOKとのことでしたので、このように仕上げてみました。今回こそはきっと、セリフに違和感がないと思いますが、もしもありましたらお気軽に修正依頼をお願いします。それではまたのご依頼、お待ちしております
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年06月23日

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