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『ある春の日のシェアハウスにて 』
ヒース・R・ウォーカーka0145)&シェリル・マイヤーズka0509)&ヒヨス・アマミヤka1403

 ――これは本来の世界とは異なる、何処か別の世界線。
 これは戦いのない、穏やかで安定した、そんな世界の物語。
 
 
 
 どこかの大都会の、だけど少し裏路地に入ったところ。
 そこに建っている、ツタの絡みついた、レトロな雰囲気の煉瓦造りの古い家。そこには、奇妙な組み合わせの男女三人が住んでいた。成人男性一人と、小柄な少女ふたり。その組み合わせはたしかに奇妙かも知れないが、周囲は温かい眼差しで応援している。
 それもそのはず、ここは小さなシェアハウス。
 家主、と言うか管理人は二十代半ばの英国出身、ヒース・R・ウォーカーと言う名の赤毛の若い男性だ。ややけだるげな言動は見受けられるが、基本的には真面目な質の青年である。長い髪をリボンで結んでいるその姿は、一見優しそうではある。だがその奥にはなかなかに鋭い眼光が潜んでいて、一筋縄ではいかない性格なのもわかるだろう。
 そしてその家をヒースとともにシェアして、何のかんのと一緒に暮らしているのはまだいとけなさの残る少女二人だ。
 ひとりは、預けられた親類の家から家出をして気が付けば住み着いていたという、黒髪が特徴的な十五歳の少女、ヒヨス・アマミヤ。
 そしてもうひとりはというと、事故で両親を亡くし孤児院に預けられていたものの、そこから抜け出していつの間にやら住み着いていた同じく十五歳の少女シェリル・マイヤーズ。
 ただ、どちらも十五歳という年齢にしてはずいぶんと小柄で、シェリルなどはもっと年下に見られることがままあるくらいなものだから、いとけないと表現をしてもさして問題はないだろう。
 それにしても、成人男性の家に幼さの残る少女二人――というとそこはかとなく犯罪っぽいにおいがしないわけでもないが、それぞれがそれぞれの事情を抱えたひとりぼっち三人が集ったという結果のシェアハウスだ。なんだかんだで身を寄せ合って暮らしているうちに、親密になっていった。無論、家族的な存在として、であるが、
 初めは過去の経験もあってぶっきらぼうな態度を取ることの多かったシェリルも、ヒヨスの天真爛漫さやぶつぶつ言いながらも見守ってくれているヒース、そんな二人がいてくれるからこそ少しずつではあるが心を開いてくれているのだろう。
 ――ああ、あと一匹。以前ヒースが拾ってきた賢い黒猫の『ナナクロ』も同居している。アニマルセラピーというわけではないだろうが、やはりシェアハウスに集まるだけの理由を持つ子どもたちがすんなりとなじんでくれたのも、ナナクロの影響が大きいだろう。
 
 
「……それにしても、ずいぶん暖かくなってきたなぁ」
 シェアハウスの居間にあるソファに腰掛け、しばらく本を読んでいたヒースは外にちらりとけだるげな視線を送り、わずかに口元に笑みを浮かべる。眼鏡を外して外を見れば、淡いピンク色をした花弁がふわりふわりと舞っているのがわかる。
 そういえばヒースが今着ているものも、真冬のそれよりもずいぶんと軽装になっているのは目に見えて確実だった。ハイネックのカットソーに薄手のニットカーディガン。このくらいの服装でも、もう風邪を引くことはないだろう。窓を開けるとまだ少し肌寒い風が吹くが、家の中でのんびりとしているぶんにはこれでまったく支障がない。
 大人三人が座っても十分なスペースのある大きなソファには、今、ヒースとナナクロだけがいるかたちになっている。ナナクロはソファで丸くなり、時々退屈そうにあくびをしているが、まあこれは猫だから仕方あるまい。
 それにしても、とヒースはまた思う。
 シェアハウスという形式での奇妙な三人ぐらしがはじまってからそれなりの時間が経ったけれど、それぞれの関係ははじめに比べればだいぶ軟化してきてきたのではないだろうか……と、ヒース自身は思っている。無表情、と言うかほぼ常に真顔でいるシェリルの考えていることもなんとなく判るようになってきていたし、何より少女二人の仲は良好きわまりない。
 初めこそヒースは少女二人をどう扱ってよいものやらと考えあぐねたりもしていたものだが、今はずいぶんと扱いに慣れてきた思う。真面目ゆえに苦労性の部分もあるヒースではあるが、それでも自分を頼ってくる少女達を守らねば――なんていう庇護欲に駆られることもままある。それに、料理、洗濯、掃除など、やることは山のようにあるが、それぞれが得意とするものを分担していることもあって、三人での生活は少なくとも周囲が思うよりはずっと気兼ねなく、そして快適であるのだった。
 時々、子どもたちがなにやら仕込んでくることはあるが、それもまた一興というものだ。だいたい被害者はヒースだが、子どものやることすべてに目くじらを立てても大人げないばかり。それに、ヒースだってかつては子どもだった。やんちゃをしたい気持ちは、判らないわけではない。
 だから、まあいいか、とつい思ってしまうのかも知れない。
 
 さて一方その頃少女達は、と言うと。
「春! 春ですよっ、春ッ! ぽかぽかです! ね、シェリルさん!」
 ヒヨスはそう言ってぴょんぴょんと跳びはねていた。シェリルも、小さくこっくりと頷いてみせる。
「春は……あったかくて、気持ちがいい……」
 シェリルの言葉に、ヒヨスも満足そう笑顔を浮かべた。
「なのです! だからヒースさんにも、この気持ちいい春を満喫してもらわないと!」
 ヒヨスはなにか面白いことを思い付いた、と言わんばかりの笑みを浮かべ、シェリルに目で訴えかける。シェリルも親友の考えがおおよそ読めたのだろう、こくっと頷いて賛同した。
「それじゃあ――」
 ヒヨスは大きなビニール袋をなにやら取り出して、楽しそうに笑いながら、【作業】をはじめた。
 

「……にしても、子どもたちは今日は妙に静かだな」
 ヒースはそんなことをぼんやりと思いながら、また本に視線を落とす。いや、いま読んでいるのは、厳密に言うと本ではない。
 人間観察を得意としている彼のもうひとつの職業は私立探偵。といっても、小説にあるような犯罪をスマートに解決するようなものではなく、素行の悪い家族の身辺調査などを中心としたものだ。そもそも三人と一匹で暮らしているわけだから、どうしても食費や光熱費がかかってしまうわけで、それを稼ぐ手段としてヒースは自分の特技を活かしているというわけである。
 シェアハウスの管理人であり、そして私立探偵という立場である為、ヒースはなにかと書類などとにらめっこをすることが多かった。いま読んでいるのも結局はそう言う類の書面である。
 まあ、なにかと騒がしい少女達が近くでさわいで仕事がはかどらないよりはずいぶん助かっているわけだが、それにしても、壁に掛かっている時計を確認すればおやつどきだ。あのふたりは揃っておやつの時間には家に戻っているものなのだが……今日は静かだ、と思ったのもきっとそのせいもあるのだろう。
 
 
 と――
 突然、ヒースの頭にばさばさばさーっと、なにかが降り注いだ。
 視界が、ピンク色一色に包まれる。
 呆然として何度か瞬きしてみると、その降り注いだ「なにか」は、薄紅色をした桜の花弁だった。
「……ね、ヒース……春が……きた、よ……?」
 まだまだぶっきらぼうな話し方だが、シェリルがそう言ってみせる。その横に立っているヒヨスはというと、満面の笑顔を浮かべている。もともとふだんから笑顔であることの多いヒヨスだが、とくに居間はひどく嬉しくて楽しくて仕方がない、と言った風に見えた。
「春ですよっ、花見ですよっ!」
 彼女の手に握られているのは、大きなビニール袋。さっきかき集めてきた桜の花弁が入っていた代物だ。
 ああこの小娘どもの仕業だな、とヒースは瞬時に理解した。
 と言うか理解できない方が、多分おかしい。
「……またやらかしてくれたねぇ……お前らぁ」
 ヒースの声は、少し苛立ち混じりだ。それもそのはず、読みかけの書類も見事に桜まみれになってしまったのだから。仕事に集中していたせいで普段ならすぐに気づけるはずのこの手の悪戯に引っかかってしまったのも、ヒースとしては苛立ちの募る原因だった。
「まったく、このいたずら娘どもときたら。今日はいったいどんな理由でやったのかなぁ?」
 ヒースは言いながら、少女達をじろりと睨み付ける。
 そうなれば少女達は蛇に見つめられた蛙のごとく、縮こまって脇に正座をするのである。このあたりは、やはりヒースの教育の賜物と言っていいだろう。
「え、っと……理由……おもしr、じゃなくて……喜ぶかな、と思って……」
 シェリルはそこまで言うと、ちらっと横に座るヒヨスに目をやる。
「ねえ?」
 するとヒヨスも力強く頷いて見せた。
「ねーっ! ですです! お花、きれいでしょっ!」
「……確かに花はきれいだけどねぇ。ここをあとで掃除するのが誰か、判ってるかい?」
 ヒースはため息をつきながら、そう言ってみせる。ヒヨスとシェリルは目をぱちくりさせながら、はぁ、と力のない返事をした。
 まあ、共有部分の掃除は全員でやるのだから、少女達もそれである程度の反省にもなるだろう。
「……まぁ、終わったことはもういいやぁ。それよりもおやつどきだし、お茶を淹れようかと思うけれど、お前らも飲むかい?」
 口調は相変わらずなけだるげさを見せているが、少女達のどっきりにまんざら悪い気はしなかったのだろう。出会ったばかりの性格などを考えれば、こういう無邪気さが増えたのはきっといいことなのだろうから――。
 そして案の定というか、おやつという単語を聞いた少女達は目を輝かせてこくこくと頷いた。
「おやつも……出る?」
 シェリルがそう尋ねてみれば、
「お茶、あたしも飲みたいですっ! こんどは桜のケーキなんかも食べてみたいですねっ!」
 そんな無邪気な我儘を言うヒヨスもいるわけで。
「桜のケーキはまた今度。今日はクッキーがあるから、それを食べるといい……ああ、そうだぁ」
 ヒースはティーカップの準備をしながら、ふと思い付いたかのように桜の花弁をいくつかつまむと、それを紅茶を注いだティーカップにいくつか浮かべて見せた。
「桜のかおりがするかどうかは、わかんないけどぉ。気分が少し、それっぽくなるだろぉ?」
 ヒースの小粋なはからいに、ほんの少しだけ、シェリルの顔が和らぐ。
「……紅茶に、花びら……サクラの、紅茶……。うん……素敵」
「ですです! ヒースさん、あったまいい!」
 三人は紅茶を飲みながら、そんなことを言いあう。
 
 平和な時間が、ゆったりと流れるシェアハウス。
 夢のように、幸せな一時であった。
 
 
 
 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0145 / ヒース・R・ウォーカー / 男性 / 23歳 / シェアハウス管理人】
【ka0509 / シェリル・マイヤーズ / 女性 / 14歳 / シェアハウスの居候】
【ka1403 / ヒヨス・アマミヤ / 女性 / 15歳 / シェアハウスの居候】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注ありがとうございました。
桜の季節は少々(?)すぎてしまいましたが、お話をお届け致します。
設定は諸々膨らませていただきましたが、おかしくなかったでしょうか?
発注文のほうも読んでいるだけでほっこりするような内容で、楽しく書かせていただきました。
お時間かかって申し訳御座いません。
では皆様の、素敵な毎日をお祈り致します。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年06月27日

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