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『Irene 』
斉凛ja6571


 この世界が例え、幻想でも。







 唯ひとつの理想(あなた)を求めて、赫き瞳の少女は“エイレネ”に笑顔を捧げる。




 此処は、
 狂った静謐なる“戦場”。



 クラシックな音色とは程遠い、粗野な不協和音が一帯を支配していた。
 しかし、二人の時間は童話の語りのように緩やかに。
 ――浮世離れに。

「凛君。お茶のおかわり」
「はい、かしこまりました。ご主人様」

 ふんわり。
 メレンゲな白が翻る。

 苺とバニラの香りに、薔薇が一輪――斉凛(ja6571)が優雅に微笑んだ。

 彼女の繊細な指先が、滑らかにティーポットの取っ手へ。
 ティーカップは、ぬくもりを感じさせるアイボリー色の素地。モダンな要素を織り交ぜたベビーブルーの蓮が描かれている。その洗練された青は、セッティングされたテーブルクロスへ爽やかな薫風を吹き込んでいた。

 コポコポコポコポ……。

 波打つ水面色を溶かしたようなオレンジ色の湯気が立ち昇り、瑞々しい果実の香りが二人の鼻腔を擽る。

「このティーカップ――芍薬の花のように飲み口が広がったピオニーシェイプは、紅茶の三要素とされる、味、香り、水色、それらを堪能していただくのに最適なのですわ。さあ、どうぞ」

 凛がソーサーを楚々と摘まむ。
 湯気が彼の前でひと揺れして、くるり、踊った。

 ラズベリーやチェリーがふわりと香る、艶やかな桜――藤宮 流架(jz0111)が、椅子に斜めがけで脚を組み、テーブルに肘をついた右手で頬杖をしている。流架は左手の本に落としていた目線を横に滑らせると、ソーサーに添う凛の指先を見たところで、睫毛をふっと上げた。

「ありがとう。今日の焼き菓子はなんだい?」
「はい、本日はフランス菓子をご用意させていただきました」
「君の手製?」
「勿論ですわ。ご主人様のお口へ入られるものですから、素材から厳選いたしておりますの」
「ふふ。流石、俺のメイド。説明をお願いしても?」
「かしこまりました。では、こちらの焼き菓子から――」

 広大な学園の敷地内。
 青色の絵の具を零したような晴天の下、“さして当たり障りのない”一角でティーパーティー。

「柔らかくしっとりとした生地の中に、たっぷりとさくらんぼを散りばめたクラフティですわ。卵とクリームの濃厚さ、共になめらかな味わいをお楽しみいただける伝統的なお菓子ですの」

 勿忘草色に縁取られたケーキスタンドの横へ、凛はシルバートレイをさり気なく縦に添えた。
 目的の知らぬ流れ弾が、金属製の“盾”に弾かれる。
 肌に障りのある銃撃の気配は未だに継続していた。
 だが、二人の耳は、目は、心は――周囲の野卑た争いになど、関心すら示すはずもなく。戦争ごっこがしたいのなら勝手に痕跡を残せばいい。摘まれる決死を只々、愚かに堪能すればいい。お好きにどうぞ?

 ――唯、

「マドレーヌはプレーンの他に、ピンクのストロベリー、グリーンの抹茶、ブラウンのココアをご用意させていただきました」

 主との時間(せかい)を邪魔するのなら、相手が学び舎を共にする者とて容赦はしない。

「そしてこちら。フランス語で王様のお菓子と云われている、ガレット・デ・ロワですわ。サクサクのパイ生地の中にアーモンドクリームが入っております。こちらのお菓子、チョコレートが入ったものもご用意致しました」

 凛のスカートが絶対領域ラインで舞踏し、左の太股が露わになる。
 足輪が煌とし。

 ガゥンッ!

 ――華麗に。
 視線は愛しき主人に囚われたまま、緋色の愛銃で反攻。

「如何なさいますか? ご主人様の為に、どのお茶菓子も腕に縒りをかけましたの。お好きなだけ、お好きなものをお選び下さいませ」
「ふふ、迷わせてくれるね。では、こうしようか――」

 ひゅぅん、

 空気が鳴いて、意識を底にした昏い瞳の男性生徒が二人――急激な風圧に弾かれてきた。
 半瞬、遅れてもう一人。

 様式美な領域へ招待をした憶えはないので、とりあえず。

「君が選んでおくれ。但し、ひとつだけ」
「わたくしが……ですか?」
「ん。俺の為に頑張ってくれたんだろう? なら、迷えるよね?」
「――ご、ご主人様の為に迷えと、そう仰るのですわね……!!」

 ご 褒 美 キ マ シ タ by 凛

 の、その前に。
 忘れてはならない飛来物=男子生徒を“エスコート”――尚、物理。

 凛と流架、瞬き一つの気息であった。

「お茶、次は違う味を楽しみたいな」
「かしこまりました。わたくしが選ばせていただくお茶菓子に合う最高の一杯をお約束致しますわ」
「ああ。最後の一口まで満足させておくれね?」

 彼が艶然と微笑む。
 彼女の頬が薔薇色に染まる。

 ――、
 シュガーポットの砂糖が嫉妬をしたかのように、甘い渦に呑まれていた。

 さらさら……、
 茶葉を入れる奏でに重なり、凛はフリスビーの如くシルバートレイを扱い投擲物を弾いた。
 こぽこぽり、
 ポットへお湯を注ぐ奏でに重なり、流架の背面に忍んだ暴徒が一瞬で回旋して土に塗れた。
 シュゥシュゥ……、
 蒸らす奏でに重なり、二人の得物が、くるくるり――踊る。

 瞬間の鼓動を共有する。

 が、
 些か、不躾な波紋が此方へ集中しているような。

「――おやおや、君達の対立に俺と凛君を巻き込まないでおくれよ」
「全くですわ。わたくし、戦いは嫌いですの。心に誇りある信念が存在し、揺らがない平和を望んだ故の決意なのでしたら……その争いも美しいのかもしれませんわ。ですが、貴方がたの戦いは勝手の押し付け合いなのではなくて? ハッキリ申し上げますと――醜い、ですわ」

 気丈な“女神”が言い放つ。
 しん、と静まり返った空間に、呑気な流架の指先だけが本のページを捲っていた。

 誰かの一呼吸を置いて、

 からん、
 ポットの中を銀製のスプーンで軽くひと混ぜした奏でと重なり、――ぷっつん。







 それは、咆哮であったのか。
 それとも、只の罵倒であったのか。

 浅い溜息が二つ零れて、

「……仕様がない子達だ。本物の“戦い”を教えてあげよう」
「ご主人様のお背中はわたくしがお守り致しますわ。ご存分に、ご教示して差し上げて下さいませ」




 今日も“平和”だ。

 仰いだこの世に、記憶の灯を燈して。
 唯、一途に、
 愛故に、
 時に、愚かに焦がれようとも、未来が平和であることは願いの限りに。そう繋いでくれたのは、両親が自分を「アイリーン」と、そう呼んだから。“平和”の名を与えてくれたから。

 そして、

 薔薇の如き想いを花咲かせる人と、出逢えたから――。



「ご主人様、お待たせ致しましたですの。極上の紅茶と、わたくしの“ひとつ”をお召し上がり下さいませ」
「ああ、ありがとう。堪能させてもらおうか」

 仕切り直し、というよりも。
 まるで、何事も無かったかのように振る舞う二人。地へ伏せた位置の暴徒の一人が、今にも途切れそうな意識を必死に留めながら彼らに一言――問う。

「お……お前ら……此処で、何やって……」

 絞り出したその声音にきょとんと睫毛を扇がせた二人は、互いに顔を見合わせて微笑み、
 ――戯けた。







「「お茶会ですが、何か?」」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6571 / 斉凛 / 女 / 15 / Queen tea】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / Joker Cake】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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平素よりお世話になっております。
愁水です。

此度のご依頼は、優雅なティーパーティー。スパイスに、バイオレンスな笑いと平和への祈りを加えて……というご要望でしたが、如何でしたでしょうか?
密になりすぎず、淡となりすぎず、二人の気配や音を感じて頂けましたら幸いです。

ご依頼とご縁、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2016年06月27日

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