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『2人に女神が微笑んで 』
天谷悠里ja0115)&シルヴィア・エインズワースja4157

 6月に結婚した花嫁は幸せになれると言われる。
 それは雨の多いその時期の晴れ間に式を挙げられた夫婦は幸運の女神が微笑んでいるからだと言う人もいるが、ホワイトデーと同じく、少なかった6月の挙式を増やすための業界の戦略が定着したものだと夢のないことを言う人もいる。
 確かに式場の都合から生まれた慣習かもしれない。
 それでも、幸せになれると信じていた方が幸せになれることも事実であるし、夕立の多いこの時期の月夜に式を挙げた彼女達が女神に愛されていることだけは確信を持って言えることだ。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃい」

 月夜の晩にだけ現れる菓子店は、今日も月光の下で2人を出迎えた。

 ***

「貴女変わったんじゃない?」

 いつもの様にドレスアップを手伝いながら黒い少女が天谷 悠里(ja0115)に話しかける。

「そうですか?」

「ええ、鏡を見て。最初に来た時貴女はこんな風だったかしら?」

 そこに写っているのは紅い大輪の薔薇を思わせるドレス姿の悠里。淡い水色をパーソナルカラーとしている彼女には珍しい色だ。
 大きく開いた胸元から見える肌やドレスに合わせた紅い口紅が艶めいて黒い瞳や髪と相まって、彼女を妖艶な美女にしている。
 つい先日まで大学部の部活から勧誘を受けていた童顔の可愛らしい女性はどこにもいない。

「ドレスのせいですよ。でも、いつもありがとうございます」

 軽く頭をさげる悠里に黒い少女は小さく息を吐いた。

「そう?それじゃあ、身も心もそのドレスに任せて仕舞えばいいわ。さて、そろそろね。行きましょう」

 ***

「少しお変わりになりましたか?」

「え?」

 別室。白い少女もまたシルヴィア・エインズワース(ja4157)にそう声をかけていた。

「いえ。失礼いたしました」

 白い少女は静かにシルヴィアにメイクを施していく。

「化粧と言うのは白粉や紅で顔などを装い、着飾ること。とおっしゃる方がいらっしゃいます。今宵はこの装いに心身ともに身を委ねられることをお勧め致します」

 アクセサリーを付け全身鏡の前に立ったシルヴィアに少女は恭しくそう言うと一礼すると彼女を逢瀬の場へと案内した。

 ***

 庭園の薔薇は今日も月光に照らされ幻想的に咲き誇っていた。
 こういう光景を見たことがある。そんな風にシルヴィアはここに来るたび思っていた。どこでかはわかっていなかったがやっと今夜その答えに至った。

「童話の挿絵だわ」

 そう呟いた瞬間、ヒールの音がした。見なくてもわかる。シルヴィアは少しはにかんだ様な微笑みでそちらを見る。この対面の瞬間だけはいつまでたっても、慣れない。

「何の話?」

 黒い少女を伴って悠里が現れた。そのドレスは青白い月明かりで赤とも紫とも言えない不思議な色に染まっていた。
 昔読んだその童話でもこうだった。白いドレスの女性が待っていたのは彼女だけを愛してくれる恋人。
「夢の様過ぎて童話か何かに入り込んだ様だわ、と思ったの」
 そう言いながらも2人はかつてここで覚えた愛の形を思い出していた。
 このバラの香りに負けないほどの甘い香り、柔らかい唇、心地よい愛の言葉……強く思い出せば思い出しただけ身体の芯が熱くなる。熱く艶っぽい息が零れてしまう程に。

「ドレスに全てを委ねればいいのよ。ここにいるのは何者でもない。彼女を愛するだけの貴女だもの」

「ここには愛し合う恋人達がいるだけです。普段着からドレスへ心もお召し替えなさればよろしいかと」

 ガゼボの天井にあるランタンに火を灯し去り際に少女達がそれぞれの耳元で囁く。その艶めいた言葉は魔法の様に2人の脳を痺れさせ、現実を忘れさせる。

「シルヴィア……」

 先に口を開いたのは悠里だった。その口元には妖艶な笑みが浮かんでいる。その表情はシルヴィアを昂ぶらせるには十分すぎた。

「悠里……」

 壊れ物にでも触れる様におずおずと手を伸ばす彼女に悠里の笑みが深くなる。腰を抱いて抱き寄せると唇と唇が触れそうな程近づいて尋ねる。

「どうしたの?」

 答えなどわかっている。それでも言わせたかった。浅くなった息が、彼女の昂りを伝えてくれる。心地いいその感覚に悠里からも甘い吐息が漏れる。
 我慢しかねた様にシルヴィアが唇を重ねようとするが、そっと人差し指を挟み込み、意地悪をする。

「シルヴィア、言いなさい?」

「悠里……」

「お姉様」

 悠里のいつもと違う声色がシルヴィアを犯していく。

「お姉様……キス……して」

 懇願する様に瞳を潤ませながら紡ぐ言葉は震えた。お姉様と呼ばれることはあっても呼んだことはない。しかし今はそれさえもスパイスにしかならないのだ。
 よくできました。音もなくそう唇を動かすとゆっくりと口付ける。腰を抱いたままのせいか恋人の身体から力が抜けるのがよくわかった。
 唇を重ねたまま、そっと座らせそのまま身体を横たえさせる。

「?!、ゆっ……んっ」

 押し倒された様な形になったシルヴィアが驚きの声を上げようとするが、直ぐに塞がれ舌を絡めとられる。

「いや?」

 鼓膜を震わせる薄く笑った様な声と吹きかけられる吐息にシルヴィアは身体を震わせる。頭の芯がぼうっとして、もっとして欲しい。もうそれしか考えられなかった。
 首を横に振ると首筋にから胸元へ唇が這わされる。そしてそのままきつく吸われ、白い肌に紅い小さな華が咲いた。
 その小さな跡は悠里の赤に犯された証拠にも所有印の様にも見えた。

「んっ……あっ……」

 シルヴィアから上がる甘美な声に悠里の昂りを隠せない。
 高鳴る心音を感じさせる様に大きく開いた己の胸元に彼女の手を置き、背中を抱く。
互いの胸で挟まれた手が所在なさげに動く度漏れる悠里の甘い声と、それに呼応するようにピクリと動くシルヴィアの指が互いを煽り、肌を桃色に染める。
 紅いドレスと白いドレスが肌の上で絵の具の様に混ざり合い新しい色を生み出している様だ。

「お……願い。もっと……もっと愛して……もっと奪って……お姉様」

 溶けるように熱い身体の芯。ふわふわと痺れる脳、もっと相手を感じたい願望に身を委ねたシルヴィアは、初夜のように悠里の背をかき抱き唇を重ねた。

「ええ」

 ねぶられる耳はその水音に、柔らかい感触に、熱い吐息に溺れる。

「んっ……んんっ」

「声、聞かせなさい」

「あっ……は、はい……」

 肩口に唇を当て声を殺すが、悠里にはもう逆らえない。
 ランタンのロウソクに照らされ2人のまぐあいが影となってゆらゆらと揺らめくが、直ぐに夜の帳がそれをせき止め隠してしまう。
 甘い声も芳しい香りも月が薔薇が全て隠し、誰にも分からない。
 その安心感が、2人の愛を加速させ深めていく。

 6月の花嫁は幸せになれるはただの迷信かもしれない。しかし、それが事実なら、花嫁が2人であればそれは尚更の事。
 それに加えて、月光の下で契りを交わした2人には月の女神であると同時に貞潔の神であるアルテミスが微笑んでいるのだろう。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 白と赤を混ぜ合わせて 】

【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 赤を注がれ白を注いで】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お久しぶりです。
 いつもご依頼ありがとうございます。今回の物語を書くにあたり、初めてお会いした時から書かせて頂いた物語を読み返しましたが、今でもお2人の幸せそうな姿を描かせて頂けることを素直に喜んでおりました。

 相手に注がれる愛、相手に注ぐ愛の両方を知っているお2人がこれからも互いに愛し合える未来をお祈りしております。

 またお会いできることを心からお待ちしております。今回もご縁を頂きありがとうございました。
白銀のパーティノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年07月04日

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