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『「この水着屋さんが、通報のあったお店かぁ……」 』
狐中・小鳥ka5484

 ソサエティに匿名の情報が入ったのはつい先ほどの事。
 私は早速偵察のため、違法活動が行われているという水着店を訪れていた。
 そこは繁華街から一本裏通りに入った立地で、人通りはそれなりにあるけれど、看板も出していない如何にもな店構えだった。ショーウインドーから中を伺いながら、私は身構える。

「場所的に、前にお店を潰した組織にも関係してそうなんだよ……お客さんの振りをして、ハンターだってばれないようにしないとだねっ」

 意を決して、私はお店の扉を開けた。
 色気の無いドアベルが鳴ると、カウンターからでっぷり太った男性の店員が現れる。彼は私を見ると、脂ぎった顔でにたーっと笑った。

「いらっしゃいませ! お待ちしてましたよ」
「え? お待ち……?」
「いえ、いえ、此方の話です! さあ、こっちへどうぞ」

 店員はシャツと半ズボン姿で、歩くたびにお腹がぶるんぶるんと揺れていた。私はだらしないその姿にすっかり警戒を忘れて、お店の奥へ踏み入ってゆく。
 店員はンンーウ、と考えてから、布切れの乱雑に掛けられたラックからハンガーを一つ取り上げた。

「お嬢さん細いから、こんなの似合うんじゃないかな?」
「え、ええっ? 何ですか、それ?」
「嫌ですね、水着ですよ、ミズギ。ほら、こうやって着るんです〜」
「わっ、わっ」

 ぐりぐり、店員が汗だくの手で私の胸元にハンガーを押し付ける。自分の身体を見ると、布切れだと思っていたものは、ものすごく際どい水着で。これを着ている自分を想像しただけで、私の顔はさっと赤らむ。

「ええっ、こんなの……」
「ぜったいぴったりですよぉ〜」
「そんなぁ……いくら私が小さいからって、これはひどいんだよ」

 だって、こんなの水着っていうか……三角形の部分とか、5センチくらいしか無いし?!

「しかもTバックなんだよ……」
「ぜひ! ぜひ! 試着してみてくださいよ〜。お客さん、水着買いに着たんでしょ?」
「え、ええと……」

 あうう、こんな変な水着ばかりの店だったなんて――。じりじり私が後ずさると、店員はずいずい詰め寄ってきて。絵に描いたようなニッコリ顔が怖く見えてきた。
 ……い、一応試着とかしてみないと怪しいよね? 不振な素振りを見せるわけにはいかないし……

「そ、そうですね……着てみま、す……」
「ですよねぇ。はい、じゃああちらで着替えてね!」
「あれ……? なんだかこの試着室、カーテンが短くないですか?」
「そんなことないですよ、気にしない〜」

 試着室に水着と一緒に押し込められ、私は仕方なく服を脱ぎ始めた。
 ……や、やっぱりこの試着室、カーテンが短いっ! 屈んだら外に見えちゃいそうで、隠れてる気がしないよぉ!

「お客様〜如何ですか? 開けますよ!」
「あっ、あっ、待っ……きゃあ!」

 恥ずかしがってもたもたしていると、ビキニパンツを上げきる前にカーテンがシャッと開いた。
 いまっ……み、み、見られてないよね?! というか、急いで引き上げたせいで、絶対ちょっとハミ出してる……
 少しでも動いたら胸もズレてしまいそうで、私は気が気じゃない。店員さんの顔も見れず、もじもじと内腿を擦る。

「ああ〜良いですね、やっぱり似合いますよ〜」
「あ、ありがとうございます――で、でもこれはっ!? あの、別なの! 何か他のを見繕ってもらえませんかっ??」
「ええ〜っ、じゃあ〜〜……これとか!」

 突き出された水着はきわどい鋭角のハイレグで、生地なんて踊り子さんのショールみたいにスケスケだった。こんなのを着たら、隠す部分もぜんぜん隠せないに違いない。私は驚愕の余り声も出なかった。こ、こんなの着る人がいるの……?
 さらに、店員は絶句する私ににたにたしながら別なハンガーを取り上げる。

「これも、あとで着ましょうね!」
「ひ、ひえっ……」
「さあさあ、着た着た!」

 ぐい、と押し付けられた手の中は、極薄レオタードとただの細い紐。
 ううん……この紐、一応輪っかになってるから、辛うじて被服の体はなしているんだろう。

「お客様〜、着替えは終わりましたか? 開けますよ?」
「あっ、ちょ、ちょっと待って欲しいんだよ!」

 でも、着なくちゃ怪しまれるっ! 私は超ミニビキニを脱いで、極薄レオタードに足を通した。

「あう、これ……い、色が透けちゃうっ」

 羞恥に紅潮した肌の色は、シフォンよりも申し訳程度に分厚い布の上から見てもまるわかりで。

「どれが良いですか〜? ククククク」
「え、えっと、その……これは、サイズが合わなかったみたいです!」
「そうですかぁ、残念です〜。じゃあ、もう一個の方を着て見せて下さいねぇ」
「はいっ、じゃあ、もう脱ぎますね!」

 こんなの、とても見せられない……! 私は難癖を付けて何とか極薄水着のお披露目を回避し、いけない事をしてるみたいに慌てて水着を脱いだ。裸の方がまだマシで、私は胸を撫で下ろす。けれど、

「……え? も、もう一個の方って……」
「いいですか〜? 開けますよ〜?」
「あっ、わっ、待っ――」

 シャアアーッ。勢いつけて開くカーテン――もう、着るしかない! 私は咄嗟に、紐みたいな水着を被っていた。

「おほぉぉ〜〜、いいですねぇ〜とってもセクシーですよぉ」
「う、うううう〜〜っ……も、もう良いですよね……? 着替えますぅ」
「そうですか〜? あたしゃもっと見ていたいですけどねぇ」

 水着を着たと言っても、こんな細い紐だけじゃ何も隠せていない。
 私は店員さんの舐めるような視線に真っ赤になりながら、おずおずとカーテンを引こうとした……その瞬間、

「えっ?! あっ――」

 バコン! と音がして、私は突然強い浮遊感に包まれた。直後、落下する感覚。
 凄まじい速さで目線が床へ近づく中、素早く店員を見遣れば、その手にはからくりの操作板らしきもの。

「わ、なっ――?! きゃああっ」

 試着室は落とし穴になっていたのだ。
 足元が開き、落ちた先は地下室の硬い床。

「痛っ――ううっ、やっぱり、あなたたち! 偵察は、最初からバレてたんだねっ!?」

 私の周囲を、以前潰した店の従業員同様、スーツやサングラスで固めた怪しい構成員が取り囲む。
 じり、と距離を詰めてくる相手にも慌てず、私は地下室を見渡した。薄暗い室内で、非常口の案内が光る。

「囲むのは良いけど……出口がバレバレなんだよ!」

 私がだっと走り出すと、男たちは次々に飛び掛かってきた。
 ぎゅっと軸足を踏み、風を切る回し蹴りで一人目を撃退。その勢いのまま、水の流れるように二人目、三人目を蹴り倒してゆく。

「……今なんだよっ」

 私は開いた路を走り、ビルの階段を駆け上がった。一階で待ち構えていた構成員も足技で制圧し、素早く裏通りから脱出する。
 表通りへ出ると、息を切らす私に大勢の人が視線を投げた。興奮している私は、未だその本当の理由に気が付かない。

「何とか、逃げ切れたみたいなんだよ……
 あ、ふぅ……今日も、酷い目に遭ったなぁ。もう疲れちゃったんだよ」

 ギルドに報告するのは明日にしよう。
 今日はこのまま帰宅する事に決めて、私は安堵の息を吐いた。歩き出すと、突然、コリっと擦れるような感覚が。

「……? 何だか、身体がムズムズするんだよ……?」

 自分の姿を見た私は驚愕した。
 着ていたのは、ただの細い紐のままだったのだ。

「ふ、あっ?! あ、服……お店に置いて……!!」

 私は見る間に茹で上がり、頬から湯気さえ出そうになる。
 周りの人込みは私を避けるように一歩引いて、それでもジッと私の身体を見ながら通り過ぎてゆく――

「いっ……、やぁーっ!! 見ないでなんだよーーっ!」

 私は両腕を抱いて前のめりになりながら、弾かれたように猛ダッシュで帰路に就いた。
 もう許せないっ、あの組織、絶対に一網打尽にしてやるんだから!

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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・狐中・小鳥(ka5484)
  最近怪しい組織に目を付けられてしまった少女ハンター。嗚呼、不憫。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます。
長い時間お待たせしてしまい、申し訳ございません。ちなみに、清水は超ミニビキニ派です。←
なにかございましたらリテイク等お申し付け下さい。
この度は清水澄良にご縁を賜り、誠にありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2016年07月11日

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