▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『花嫁先取りの日 』
ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001)&米々沢 鈴花aa0019)&木陰 黎夜aa0061)&桜寺りりあaa0092)&稲穂aa0213hero001)&シキaa0890hero001)&泉興京 桜子aa0936)&豊浜 捺美aa1098

●やってきたそこは──
「は〜い、注目〜」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)が、その建物の前でパンと手を叩いた。
 広いとまではいかないが、ガーデンがあるこの建物の外観はまるでレストランであるかのようにお洒落だ。
 レストランではないこの場所は──
「ぶらいだる、がーでん?」
「そうよ、結婚式場」
 桜寺りりあ(aa0092)が反芻すると、ベルベットは事も無げに返した。
「ここで、ドレスが着られるんです……?」
「そうよぉ、予約戦争勝ち抜いたんだからっ」
 ベルベットはその苦労に見合ったとばかりに胸を張った。

 6月は、ジューンブライドである。
 この月の花嫁は幸せになれるということで、式を挙げるカップルは少なくない。
 ベルベットは、式を挙げずともドレスは着てみたいし、着ているのが見たく、ドレスの試着を始めとする人気のブライダルフェアの激戦に身を投じた。
 この激戦に勝利した為、ベルベットは都合がつく可愛い子へ声を掛けたのである。

「馴染みがある場所ではないわね。仕事場でない限り馴染みがあるってのも問題なのでしょうけど」
「本番はまだでも、こういうフェアは楽しそうなの。大歓迎なの!」
 赤に小花を散らした小袖を着用する稲穂(aa0213hero001)へ豊浜 捺美(aa1098)が笑う。
「結婚の予定がなくても今日は着られるもの、楽しんでほしいわね」
「サイズ……あるのでしょうか?」
 ベルベットを見上げる米々沢 鈴花(aa0019)は、まだ10歳の子供にしか見えない少女だ。
 結婚出来る年齢かというとそうではない為、レースやフリルのドレスに心躍るもそこが心配だったりする。
「世界蝕効果って奴なのかしらね? 英雄は外見年齢が幼くとも中身が立派に成人しているってことでこの式場で扱っているドレスのブランドは英雄を考慮して鈴花ちゃん位の子でも着られるドレスがあるそうなのよ。あたしでも着られるものがあるそうだし」
「うむ、じつにけっこう」
 シキ(aa0890hero001)がベルベットの言葉を聞いて鷹揚に頷く。
「わたしがあのこをよめにもらうにしても、あのこにあうドレスがないのはゆゆしきことだからね」
 あのこ、とは、自分の能力者のことである。
 シキは嫁にやりたくない為、自分が嫁に貰うことで、嫁にやらない策を打ち出したので、今回誘いに応じた訳だ。
 ただし、シキの能力者は年頃の男の子である。
「シキ、おのこにドレスをきせるのはどうかと思うぞ」
「ちび、わかっていないね」
 泉興京 桜子(aa0936)がすかさずツッコミすると、シキは桜子にふっと笑う。
「おとことかおんなとかはささいなことだよ」
「この件に関しては些細なことじゃねー気がする」
 木陰 黎夜(aa0061)がぽそりと呟く
 シキが彼に似合うドレスを見立てに来ても、本人の意向がある訳ではない。男性恐怖症の黎夜でも、抵抗されるだろうなと言うのは想像に難くない。
「にあえばいいのだよ」
「似合う……それは大事だな」
 黎夜は自身の英雄ならば何が似合うだろうとふと思う。
 綺麗なデザインのものだろうが、その佇まいを考えるなら、装飾はシンプルなものの方がいい気が──黎夜も詳しくはないので、具体的に想像出来ないが、そう思う。
「もうそろそろ予約の時間よ、行きましょっ」
 時刻を確認したベルベットが皆を促し、建物の中へ足を踏み入れる。
「中もお洒落ねぇ」
「じつによろしい」
 稲穂が自分は場違いなのではと含ませつつ周囲を見回すが、シキはどんな時もシキであるからこちらは動じていない。
「記念撮影も出来るなんて……楽しみ、です」
「着るだけじゃないんですね」
「いたれりつくせりというやつだな」
 りりあと鈴花が手続きに向かったベルベットを見送り、顔を見合わせあうと、桜子がベルベットに感謝せねばと腕を組む。
 ベルベットの趣味、そして実益がある実に良い企画だ。
「折角着るなら、写真撮影は欲しかったからますます楽しみなの」
「人気ってのも判るな。うちに似合うかは別にして、帰ったら見せられるのはいいな」
「よいお土産になるのなの!」
 捺美と黎夜はこの場にいない自分達の英雄にもドレス姿を披露出来ると言葉を交わした。
 やがて、手続きを終えたベルベットが係員と共に戻ってきて、全員ブライダルフェア特設会場へと案内されていく。

 まずは、試着してみるドレスを選ぼうか。

●思い思いに選んで
 係員に案内されたフロアには沢山のドレスが飾られていた。
「きれいなドレスがいっぱいあるじゃないか!」
 色気を忘れぬシキがその顔を輝かせる。
 あれ、自分の能力者の為のドレスを見立てに来たのではなかったか。
 そのような疑問を抱いている場合ではない。
 実際、色とりどりに加え、世界蝕以後の英雄というもののニーズを考慮されて世界蝕以前では考えられなかったサイズのドレスもある。
「これだけあると迷っちゃうわねぇ。あたしは綺麗なドレスも可愛いドレスも着こなしてみせるけど……」
「こちらで係員がジャンル検索しますよ」
 見回すベルベットに気づいた係員が指し示すと、カウンターには何人かの係員が座っているのが見える。
「これなら、着てみたいドレスがどこにあるかも判り易いわね。至れり尽くせりだわ〜」
「花嫁はその日誰よりも幸せに笑ってほしいですからね」
 上機嫌といったベルベットに係員が微笑む。
 ベルベットは如何にも英雄といった外見をしているが、陽気なオカマであるのだが、流石に何人ものカップルの出会いを見てきている係員達はそれらに対する驚きを見せない。
「皆、まずはカウンターへ行きましょ!」
「あ……はいっ!」
 純白のドレスを見上げていた鈴花が歩き出すベルベットに追いつくように小さく走る。
 綺麗なドレスが着られるならとついてきて、実際にレースやフリルがふんだんに使われたドレスを見ると、やはり心躍るように魅入ってしまっていたのだ。
「あ、走ると転ぶわよ」
 稲穂が鈴花に気づくと、その手を差し伸べる。
「一緒に行きましょ。私も普段ドレスを着ないから、そわそわしているのよ」
「一緒に、行きます……」
 鈴花は年がそこまで変わらないのに、大人のお姉さんみたいな稲穂にはにかんだ。
 彼女達がカウンターに到着した時には、既にりりあ、捺美、桜子、シキが係員とドレス探しに入っていた。
「かわいいわたしにいちばんいいドレスをたのむよ。あぁ、でも、どんなドレスでもわたしがきたら、すばらしいドレスになってしまうね」
 シキ、絶好調だ。
「それなら、こちらはどうかしら?」
 ベテランといった感のある係員が検索して出したのは──
「まっしろいどれすだね。さいたはなにつばさがまっているようだ」
「実はね──」
 画像を見たシキが感想を漏らすと、係員がシキに何やら耳打ち。
 すると、見る間にシキの顔が輝いた。
「それならば、わたしはそれにしよう。わたしにふさわしいドレスをじゅんびしているとはこころにくい」
「シキさん、もう決まったの、です?」
 隣にいたりりあがシキのドレス選びも参入したかったと残念そうな声を上げる。
「可愛いドレスが……たくさん、で……迷っていた間に……」
「りりあはなやんでいるのかね?」
 シキがドレス着用の手続きを行って貰っている間にりりあの席に加わって、ドレス選びを手伝うようだ。
「確かに、悩んじゃうなの。綺麗なドレスもいいけど、可愛いドレスもいいの。沢山あって、本当に迷っちゃうのなの」
「迷うのは、解る気がする……」
 カウンターで係員が見せてくれる画像を見て悩む捺美の後ろにいるのは、黎夜だ。
 周囲見回しただけで多くのドレスがあるのだ、フロアも狭くないことを考えれば、かなりのものになるだろう。
(白以外のドレスも結構あるんだな……)
 白を身に纏うことに抵抗ある黎夜は誘いを受けようかどうか躊躇ったが、カラードレスもあると聞いて、そっちを試着出来ればと思ってやってきたのだ。
「白も沢山あるけれど、本番に白は取って置いて、カラードレスの試着する人も多いんですよ」
「そういう考え方もあるのなの……」
 係員の助け舟に捺美が小さく呟き、それからビシッと画面を指し示した。
「可愛いカラードレスにするのなの!」
「それなら、うちもカラードレスにする」
 黎夜が捺美も一緒なら便乗し易いと軽く手を挙げた。
 りりあも決まったらしく、シキが急かしてドレスを見に行くのを見送り、2人もカラードレスの豊富な種類を前に悩み出す。
「お互い、選んでみてはどう?」
 その言葉に黎夜と捺美は顔を見合わせ──
「楽しそうなの!」
「うちは、豊浜がいいって言うなら……」
 こうして、彼女達は自分が抱く相手のイメージでドレスを選び出していく。

「皆結構悩んでるのね……」
「こんなにあるんだもの、当然じゃない?」
 シキとりりあが席を立った為に腰を下ろしている稲穂はドレスに馴染みがない分皆が悩む以上に悩んでいるようだ。
 ベルベットに席を寄せられた稲穂は、「着方すら怪しいかもしれないのよ」と苦笑を浮かべる。
「ドレスは選んだの?」
「当然よぉ。あたしはあたしで、素敵なのを選び済み。今はお助けって所よ」
 どんなドレスを選んだかをベルベットはお楽しみの一言で終わらせ、係員と共に稲穂のドレス選びをサポートする。
「あたしが思うに、赤は確実に外した方がいいと思うのよ。普段着ない色の方がいいわ」
「えっ」
 赤系でドレスを考えていた稲穂はベルベットの意見に思わず声を上げた。
「それなら──」
 係員が検索し始め、ベルベットにドレスの画像を見せる。
「そうね、これがいいわよ。うん」
「よく似合うと思うんですよ」
 稲穂、本日は世話を焼かれる立場として、係員とベルベットの盛り上がりを見守ることとなった。

 稲穂のドレス選びが盛り上がっている頃、りりあとシキは既に試着室へ消えていた。
 続くようにして、桜子は鈴花と共に試着室へ到着、ドレスを着る準備をしている。
「あとからだったと思うたが……」
「着たいのが、すぐに見つかったんです」
 桜子がそう言うと、鈴花がはにかんだ。
 カウンターに行くまでに見つけたそのドレスは、一目惚れに近いものだった。
 サイズも自分に合うものがあるとあれば、まだ結婚など遠い未来の話で、その時にはこのドレスのサイズが逆に合わないとなると、俄然このドレスを着るのは今しかないという思いになったとか。
「そういうのもあるか。わしはベルベットがさわぐので、どういうものかとおもったが、よくわからなかったので、まかせようと思ったら、ベルベットがああだこうだときめてきたわ」
 毎日の身だしなみもベルベットに任せる位の家族であると解る言葉だ。
 ちょっと興味が湧いてついてきた程度であったそうだが、ベルベットにくっついてきた鈴花は初対面だが面倒を見るつもりらしく、「しんぱいなどむよう。なにかあったらわしが何とかする」と桜子は力強い。
「ありがとうございます……。鈴花も、どうなるか楽しみ……」
 鈴花が桜子と言葉を交わして試着室へ消えて少しした後に黎夜と捺美がやってきて、更にその後ベルベットと稲穂がやってきた。

 ドレス、それに合うように仕立てられ──お披露目の時間がやってくる。

●変化遂げる花嫁候補達
「皆可愛いわぁ……」
 全員集った所で、ベルベットが皆を見つめて感嘆の溜息。
「いつか来る日にまた見られるとしても、今日はあたしが独占……」
 ベルベットが喜ぶ度に重ねられたチュールが虹色に揺れる。
 虹色、は、詩的な表現ではなく、ベルベットが選んだのは本番では人気があり過ぎて予約が困難とも言われるレインボードレスだからだ。
「似合う、かしら?」
「似合うのなの!」
 少しそわそわした様子の稲穂へ捺美が笑う。
「普段と印象が違うのなの!」
 捺美の言う通り、稲穂はベルベットの介入もあって赤いドレスではない。
 選ばれたドレスの色は、緑だ。
 これは係員が稲穂の髪の毛の色より緑を合わせた方が花を思わせることが出来て、総合的なコーディネートが出来るのではと提案したからで、赤を外した方がいいと思ったベルベットはそれに乗った。
 ハートカットされたビスチェスタイルのトップ、そこから重ねあわされるチュールの主な色は淡い翠であるが、裾には深緑のアンティーク調の編み込みがされており、それが重なり合うことでグラデーションを作ると同時に、それら木々のような印象を受け──稲穂の髪色の合わせると彼女そのものが花であるかのようだ。
「そう、かしら。でも、ちょっと落ち着かないわ」
 鏡で見た時、別人みたいで、でもちょっとそれが嬉しかったけど。
 それは言わず、稲穂は首を彩る華やかなネックレスや結い上げられた髪に咲き誇る薔薇の造花に触れてみる。
「あたしがコーディネートしたんだもの、最高よぉ」
「最高ですなの!」
「2人も最高よ」
 稲穂が2人へ笑みを向けた。
「でも、虹色のドレスなんて発想、私には思いつかないわね」
 稲穂がじっと見るベルベットのドレスは大変華やかだ。
 白のビスチェのトップには虹を思わせるように薔薇の造花が咲き誇り、虹色になるよう7色のアシメトリーのチュール重ね合わせられ、更にそれらが優しく見えるよう白のチュールが1番上に重ねられており、ベルベットが可愛いも綺麗も着こなして見せるという自分の魅力がひとつだけではないという主張そのものであるかのよう。
「ドレスなんてそんなものよ、だって、同じ色でも全く違うでしょ?」
「うむ。わしのドレスとはちがう」
 ベルベットが自分を指し示していると思った桜子が話に加わってきた。
 桜子のドレスは白と桜色を主体としたもの──色の系統としては、白系統のりりあと赤系統の捺美と少しずつ被るが、その印象は全員別のものである。
「きものみたいなドレスもあるのだな」
「最近、は……ご家族の着物、で、こうしたドレスにするというのもある、そうです」
 桜子に話を振られたりりあはそう微笑する。
 りりあは種類の多さに悩んだタイプで、シキが相談に加わった後、自分が着てみたいものを全て挙げてはどうかという話になり、我侭かもと思いながら全て挙げた所、係員よりそうした着物を使用したドレスはどうかと提案されたのだ。
 家族の着物を使用するというので、やはり実物を見なければという人の為に新しい着物の仕様であるが、サンプルとして用意がされているとのことで、りりあはそれを選んでいる。
「わたしがえらんだのだ、まちがいなどあるはずもない」
 シキがどやっと決めると、りりあが「本当に」とくすくす笑う。
「しかし、着物に見えねーな……」
 黎夜がりりあのドレスをそう言うのは無理もなかった。
 オフショルダーの桜が艶やかに咲き誇る白のドレスは裾に向かうにつれて桜色へ変わっていき、着物の布地を生かしつつプリンセスラインを描く可愛らしいものだ。ウエストバックは帯と帯飾りで花を思わせる形をした飾り付けがされ、この着物が振袖、花嫁の成人式の着物使用を想定しているものだというのが判る。ドレス部分と着物使用部分の区別が難しく、触ってみないことには判らないレベルだ。
「持ち寄る着物によって、デザインも少し変えるそうです、けど……」
 家族が送り出す色がとても出ている気がする、とりりあ。
 髪にはウエストバックと同じように帯と帯飾り使用の増加が彩られており、色合いや柄にもよるが、そこに息づく歴史を感じ取れるドレスだろう。
「わしはきもののドレスではないが、そういうのもいいな」
「ところで、そこのちびはなにをはじらっているのだね?」
 シキが鈴花へ視線を移す。
 鈴花は一目惚れのドレスを選んだものの、普段の自分と色々違っているので、何だか照れてしまってベルベットの影に隠れていたのだ。
「照れてしまう、というか……」
「ちび、ここははじらうばではないので、でなさい」
 シキにそう言われてしまうと、鈴花は出ざるを得ない。
 ベルベットの虹色から出るように白いドレスが姿を現した。
「可愛い、ですよ」
「それ、手の刺繍……?」
 りりあが微笑むと、黎夜はドレスの色ではなく、ドレスに施された刺繍に着目してそう言った。
 鈴花のドレスの上半身部分、オフショルダーのトップスには細やかに小花の刺繍が施されている。黎夜の目にはその刺繍が機械でのものではないように見えたのだ。
「あ、はい。なので、実際はまた変わる、というものらしい、です」
 ひとつとして同じものがないという意味合いなのだろう。
 違う白のレースとフリルでグラデーションとなっている裾もチュールのベールも軽やかな印象を受けるが、色合いの違いやそこに施されている刺繍や編み込みも見事なもので、それ故に、髪を彩り、また、ブーケにも使用されているブルースターの色彩が唯一に映える。
「結婚式だと白の印象がやっぱり強いわよね。カラードレスも沢山あるけど。……本当に沢山あってビックリしたけど」
「それは、うちも」
 稲穂の言葉に黎夜もこっくり頷いた。
 自身にとって思うことがある白を着用するのに抵抗感あるのでカラードレス……でも、白は定番だろうからワンポイント程度なら許容しようと思っていたが、その必要がない位種類が豊富であったのだ。
(うちより似合うんだろうけど……)
 黎夜は自身の英雄を思い返す。
 女の子の格好は恥ずかしいが、周囲を見回せば、やっぱり憧れる気持ちもあって……そう思うけど、照れたり、比較対象を思い浮かべたりしてしまうのだ。
「黎夜ちゃん、似合うのなの」
 選んでくれた捺美がそう笑ってくれるのが黎夜には嬉しい。
 彼女が選んでくれたドレスは、黎夜の名を思わせるかのような色合いだ。
 銀のティアラとアメリカンスリーブのトップスにはビーズが煌き、それが夜空の星を思わせる。そこから朝へ向かっていくのだろう。重ね合わせるチュールとフリルの色合いが変わっていく。サイドからフロントにかけてスリットが入り、青が流れるように入るのは正に朝の介入を示しているのだろう。最終的に夜と朝が交じり合うかのような薄い紫となるこのドレスには白の介入が全くなかった。
「豊浜も、似合ってて良かった」
「黎夜ちゃんが選んでくれたからなの」
 捺美のドレスは、ハートカットされたビスチェの色合いは深いローズレッド。しかし、ここには白とピンクの小さな薔薇が可愛らしく咲き誇る。ウエストラインにもより小さな薔薇が散らばり、その先はピンクチュールとレースが色違いに重なっており、そのラインは薔薇の花弁が開いていくかのようだ。選んだ黎夜は知らなかったが、デザイナーは実際にそれを想定したものらしい。ローズレッドの薔薇飾りから流れるベールも白とローズレッドの2種類のアシメトリーと可愛さと綺麗さが同居したものになっていた。
「ホント違う印象よね」
 ベルベットが見た先の桜子のドレスは白も使用されているというのもあるだろうが、その印象は全く異なる。
 白にピンクの薔薇のブーケがプリントされたドレスはビスチェのトップからプリンセスラインを描いて裾まで到達している。ウレストサイドからスリットが入り、ここから薄いピンクのチュールが重なり合い、単純なドレスにはしていない。色合いが淡くなりがちなこのドレスにメリハリをつけるようにビスチェの中央部分とスリット開始部分に深い赤の薔薇が咲き誇っていた。
「英雄を想定して作られたとは言え、凄いわね」
「あたしのサイズも桜子のサイズもあるから相当だと思うわよ」
 稲穂が感心すると、ベルベットがそう笑う。
「白以外もここまで豊富だとは想像してなかった……」
「色の方向性が同じでも印象も違うのなの。着物ドレスはビックリなの!」
「あると思ってなかった、です、けど……みなさんとても可愛くて綺麗で素敵なの……」
 黎夜が自身のドレスを改めて見ると、捺美がりりあへ笑みを向ける。
 はにかむりりあが改めて見回すと、やっぱり皆華やかで。
「そういえば、シキさん、は……?」
「きょうはやけにしずかであったな」
 鈴花がさっきから声がしないと首を巡らせると、桜子も不思議そうな顔をする。
 と、その時だ。
「ふっふっふ。しんうちというものはさいごなのだよ」
 記念撮影用に設けられたステージの上に立っていたシキが笑い出す。
「わたしにふさわしいドレスをきたのだ、かわいいわたしをまちわびていたのなら、しかたないね」
 シキのドレスは純白のドレスだ。
 まるで軽やかな羽根が集っているかのようにレースが細かく重ねあわされ、それがロングトレーンとなっている為、まるで翼そのものであるかのようだ。トップスこそ刺繍が施されてはいるがシンプルなものであるもののこの裾だけで十分魅せるものである。
 が、シキが「けしたまえ」と鷹揚に言うと、フロアの照明が落ちた。
「あ!」
「これがわたしにふさわしいドレスだよ」
 シキのドレスは照明が落ちたフロアに浮かび上がるように淡く青く輝いていた。
「そう来たのね」
 皆の感嘆の声が上がる中、ベルベットの声が響く。
 シキが選んだのは、所謂闇に輝くドレスだ。
 光ファイバーを使用した布で裾部分が作られており、それが雰囲気を壊さないように光を発している。
 最近人気を集めているとのことで、やはりそれがどういうものかを知って貰う為に用意されていたそうだ。
「さぁ、ちゃんと、しゃしんもとってくれたまえよ」
 シキのこの一言で、そろそろ記念撮影しようという話になり、フロアの照明は一旦戻った。
 係員に撮影して貰う為、ステージへ移動しよう。
 互いに似合っている感想を言いながら、皆、シキがいるステージへ歩いていった。

●華やかな姿を閉じ込めて
 ステージではまず、1枚ずつの写真の他、全員集合の記念写真が撮られることとなった。
 これは全てプロのカメラマンによるもので、後は自分達で記念撮影ということになるらしい。
「随分豪勢なんです、ね」
「可愛い子の可愛いドレス姿の為の手間は惜しまないわよ?」
 りりあが説明を聞いて感心すると、ベルベットがそう言って笑う。
 ブーケも今回はサンプルということで手にしていいということになっているが、恐らくこれもベルベットの配慮だろうとりりあはブーケに目を落とした。
 手にしているのは、淡いピンクのシャクヤクがメインのシャワーブーケ。濃いピンクのミニバラと葉物で引き立てられているブーケは自分のドレスに合致したものだ。
 単純に申し込んだだけでは、今日この日、このブーケは手に出来なかったのではないだろうか。桜は季節的に無理であり、芍薬は今の季節のものであっても、だからと言ってそんな簡単なものではない。
「なにをしているのだね、りりあ。かわいいわたしをとらなくてはいけないよ」
 どやっとするシキはドレスのお披露目以後、オレンジのガーベラのみというクラッチブーケを手にしている。
 曰く、「わたしがたいようらしいからね、えらばねばなるまい」ということだそうで、何か意味があるもののようだ。
(後で、見せないと)
 りりあはシキが誰よりも見せたいであろう能力者を思い浮かべ、小さく笑う。
 そうして、1枚1枚記念の瞬間が収められていく。
(白がなくても成立すると思わなかった)
 黎夜は単独の写真を撮影して貰った後、三日月を描くブーケを見る。
 青から紫のグラデーションとなるようバラが配置されており、ドレスと揃いになっている。白を全く使用していないからこそ栄えるブーケだろう。
「豊浜のは滝っぽいブーケだな」
「可愛いけど綺麗でもあるのですなの」
 黎夜の前に撮影して貰った捺美が上機嫌に自分のブーケを見せる。
 濃淡違うピンクを幾つも使い、それをカスミソウと葉物で引き立たせたブーケはレースのリボンも軽やかで捺美が上機嫌になるのも解る気がした。
「ブーケも色々あるのねぇ。生け花とも違うし。鈴花さんのブーケ、ハートの形してるし」
「稲穂さんのブーケも、素敵です、よ?」
「ありがとう。普段手にしないから、どきどきするわね」
 稲穂が言う通り、鈴花のブルースターのブーケはハートの形だ。
 ブーケにも色々な形があったり、花の組み合わせ、葉物、真珠に羽、リボンといった装飾で表情を変えると係員から聞いたが、ハートの形という発想が稲穂になかった為、新鮮らしく、鈴花のブーケを魅入っている。
 その稲穂のブーケはティアドロップと呼ばれるらしい形らしいが、稲穂にはよく判らない。ただ、白い薔薇と初めて見る薄い緑の薔薇がとても綺麗で、ドレスに良く合っているので、鈴花の言葉は素直に嬉しかった。
「でも、ブーケ以外も随分贅沢しちゃってるわよね」
 髪型含めたメイクもアクセサリーの類もしっかり揃っていて、ブーケにも言えるが、単純にドレスを着るだけではなかった。本日の花嫁と紹介されても不思議はない位だ。
「わしもそれはおもった。こんなにごうかでいいのか?」
 桜子が色合い異なる赤薔薇と純白の羽根で構成されたブーケからベルベットに目を移す。
 ドレスの試着と記念撮影、それだけでなく、トータルでコーディネイトされており、無料でこれはないのでは。
 ベルベットの配慮があるにしてもそれが無料の範囲で出来るかは別問題である。
「そういえば、最初は予約だけだったの。そうしたら、メールで随分聞かれたのよね」
 ベルベットもそれは不思議らしく、レインボードレスだからこそなのか白薔薇と白百合をメインとしたオーバルブーケに目を落とす。
 ただのフェアにしては少々豪勢なのでは。
 言われてみればの感はあるが、ベルベットも不思議になってきた。
「エージェントの皆様ですか?」
 そこへ声を掛けられ、皆が振り返ると、品の良い老夫婦がいた。
「部下よりエージェントの方がフェアに当選されたと聞き、恙無い手配を指示していましたが……」
 それで、彼らがこの式場で最低でも支配人の地位にあると察することが出来る。
 けれど、何故その指示をしたか解らない。
「あの、どうして?」
「実は……私達の生まれ故郷が生駒山近くなんです。故郷を離れて久しいとは言え、故郷があのようなことになっていたのを、皆様は命がけで取り戻してくれました」
「それと、私達の息子家族は、皆様に命を救っていただいてます。天空塔で皆様がいなければ私達は息子家族を失ってました」
 それで彼らは報告を受けた時、日々戦うエージェントが少しでも楽しいひと時を過ごせればと指示を出したそうだ。
 彼らは明言しないが、恐らく破格の待遇を指示しているに違いない。
 それでも──彼らにとっては、自分達が頑張ってきたことで救われた感謝はこの程度ではないと思っているような気がする。
 ありがとうと言ってくれる人がいる。
 皆、自分達がしてきたことを実感し、それでもそうして感謝してくれたことに感謝を告げ、全員揃った写真を撮り、フェアは終わりを告げた。

●いつか白銀の花嫁に
 フェアも終わり、皆で送り出されながら会場を後にした。
「じつにゆいいぎなじかんだったね」
「えらぶといってなかったか?」
「ちび、ぶすいだね。かわいいわたしがかわいくきれたのだ、それでいいじゃないか」
「ドレス、光っていて凄かった、です」
 シキと桜子の会話に鈴花も加わり、ドレスやブーケについてあれやこれやと話しながら前を歩く。
 その後方を歩く黎夜はりりあと互いの驚きを共有しあっていた。
「うち、ドレスって白いのばっかりだと思ってたから、今日は驚きの連続だった……」
「あたしも、着物がああいうドレスになる、のは……知らなかった、です」
 ちょっとした彩り具合ならと思っていたが、白が全く使われないドレスも多かった。
 破格の対応だっただろうから種類も増えていたとは思うが、そうでなくとも白のないドレスは多く、黎夜は安堵と同時に驚いたのだ。
 りりあも白に桜のようなピンクの彩りがあり、和の要素もある可愛いもの、それでいて余り他で見ないもの……という希望と合致するものがあること自体が驚きだった。駄目元のように言ったら、事も無げにありますよと言われた時の驚きと言ったら!
「虹色もあった位だしな……」
 奥が深い世界だった、と黎夜。
「それはそうとこのままで帰るの勿体なくない?」
 その虹色なドレスを着ていたベルベットが皆を見回す。
 すると、稲穂が軽く手を挙げた。
「今捺美さんと話していたんだけど、お茶して帰るのはどうかしら」
「この近くに美味しいカフェがあるみたいですなの!」
「あらっ、いいわね! そこで今日のこと色々お喋りしたいわ!」
 捺美がスマホで見つけたそのカフェの情報を見せると、ベルベットが手を合わせた。

 時間にはまだ余裕がある。
 この余韻をもう少し楽しみたい。

 断る理由もなく、未来の花嫁候補達は全員賛成。
 カフェでは、楽しい笑い声を響かせるだろう。

 白銀の花嫁になる日。
 まだ見ぬ未来は、希望に満ちている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)/男/26/白銀の華蘭狐】
【泉興京 桜子(aa0936)/女/7/白銀の桜剣姫】
【米々沢 鈴花(aa0019)/女/10/白銀の透花姫】
【木陰 黎夜(aa0061)/?/13/白銀の明祈者】
【桜寺りりあ(aa0092)/女/17/白銀の桜舞姫】
【稲穂(aa0213hero001)/女/14/白銀の春晴姫】
【シキ(aa0890hero001)/?/7/白銀の融響子】
【豊浜 捺美(aa1098)/女/15/白銀の明愛姫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
大変楽しく書かせていただきました。
白銀のパーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年07月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.