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『●またねと約束できるひと 』
唐沢 九繰aa1379
 少し蒸し暑くなって来た七月のある晩。
 忙しい一日を終えた唐沢 九繰(aa1379)はブリキロボ風クッションを抱えて、自室のベッドの上にぽんと座った。そして、クッションを抱えたままスマートフォンを取り出す。
『こんばんは!』
 流れるような指の動きでテキストチャットに文字を打ち込むと、歯車モチーフの飾りを付けた九繰の黒猫のアイコンの隣にメッセージが現れる。
『こんにちは!』
 すぐに、ポニーテールの少女────ミュシャ・ラインハルト(az0004)の写真アイコンの隣にメッセージが出る。少し照れたような顔写真は「最近のテキストチャットの使い方がわからない」と言った彼女のために、以前、九繰が撮影して設定した写真だ。
「ああ、ミュシャちゃんの所はまだ昼間なんですね。でも、夜中じゃなくて良かったです」
 世界中を飛び回るエージェント同士、中々時間も合わず、事前に打ち合わせないとリアルタイムで会話が出来ないことも多い。
『今日は珍しくオフなんです。九繰さんはもうおやすみの時間ですか?』
『はい、でも、まだ寝ませんよ! 久しぶりにお話ししたいなと思って』
『あたしも、お話ししたいなって思っていたので嬉しいです。今日は学校ですか?』
『はいー……。実は、ロボ研の予算のお話しでちょっと』
 思わず、くたっと倒れた歯車ネコのスタンプを送ると、ミュシャから『Are you okay?』と可愛くないウサギらしき謎の生物のスタンプが返って来て、九繰は思わず吹き出してしまった。
『ミュシャちゃん……このスタンプは』
『可愛いですか?:)』
『味があると思います!』
 それから、九繰の学校の話がしばらく続いた。この友人は九繰の日常や学生生活をいつも楽しそうに聞く。
 小規模なロボットコンテストの募集があって、つい夜遅くまで作業したこと。その日の授業中に筆入れを開けたら、なぜかアルミニウム合金の切れ端とネジやボルトナットがばらばらと出てきたこと。間違えて持ち込んだソーラーバッテリーがいつの間にか教師のスマートフォンの充電に使われていたこと。英雄の少女と一緒に新しい顔文字について話し合ってみたこと。
『そういえば、この間、依頼で小さくなってテーブルの上を冒険して来たんです!』
『テーブルの上ですか?』
『ええ、AGWのアイテムを探す依頼でしたが、身体が人形のように小さくなった状態でテーブルの上を冒険しました! 野菜とか虫とかデザートがあって、大変でしたが楽しかったですよ』
『面白そう!』
『はい! あのアイテムは、うまく使えば工業製品のダウンサイジングに貢献する画期的な機械だと思ったのですが、そうはうまく行かないようで残念です。元のサイズは大きいとはいえ、うまく利用すれば、技術面や資金面でのコストパフォーマンスの高い軽量化を────』
 専門分野かつ、今、悩んでいた話題だったので思わず一気に入力してしまった九繰。
 一瞬、間が空いた。
 元々ミュシャは入力は早くないが、たっぷり時間をかけてから表示された返信メッセージは。
『はい、そうなんですね。凄いです』
 たぶん、考えたが、わかってないのだろう。
『すみません! 専門的な話をしてしまって』
『いいえ、楽しいです。その、的確なお返事はできませんが……』
『そういえば、緑の兵士人形型のロボットもたくさん出て来ました。あまり時間が無かったのでざっとしか中身を確認できなかったのですが』
『中身』
『虫退治用のロボットだそうですが、ずいぶん面白い造りでした! 実はあれを参考にして、何か作ろうかと思っているんです!』
『それは凄いです! ちゃんと依頼の内容が九繰さんの夢の手助けになっているんですね』

 ────夢。

 九繰の夢は、いつか自分の手で自律思考型のロボットを一から組み上げることだ。そのために広く技術を学び、それに関連する依頼も積極的に受けている。
『九繰さんはちゃんと夢に近づいているんですね』
 表示されたメッセージに、遠いものを見るような羨望を感じて、九繰は『ミュシャちゃんの夢は……』と打ちかけた手を止めた。そのまま、deleteキーを押す。
『チャットもいいですけど、直接お話しもしたいですね! できれば、依頼ではなくて』
 代わりに打ち込んだ九繰のメッセージに嬉しそうな────やはり可愛くないウサギのスタンプが表示される。
『I'd love to!』
『博物館とか資料館────ではなくてですね』
 この間、見学に行ったはずのギアナ支部で毒蛙を追いかけた挙句、クタクタになるまで片付けをさせられたことを思い出す。
『夏ですし、涼しい────』
 吹雪の冬島での雪中行軍が脳裏を過る。
 ────最近、大変な思いばかりしている気もします……!
 そもそも、エージェントの仕事は大変なことばかりである。
 …………それでも、ミュシャや友人たちの出会いなど、得るものがあるから続けていける。夢のための知識やお金もエージェントを続ける理由ではあるし、なにより、誓約により自らの魂を一体化させたパートナーの存在は大きい。


『涼しい、と言えば、海やプールも素敵ですね』
 表示されたミュシャのメッセージに九繰の手が止まる。
 ────あれ……。
 九繰はミュシャの背中に彼女が隠している傷があることを知っているし、依頼で一度、見てしまったこともある。
『そうですね!』
 とりあえず、そうメッセージを打ち込んでから、九繰は次のメッセージを考える。けれど、九繰が打ち込む前に、ミュシャからのメッセージが表示された。
『夏島で、不本意ながら水着姿になったんですが、今は可愛いラッシュガードがたくさんあるんですね。ずっと水着は着てなかったので、今年は────従魔が居ない水辺にも行ってみたいなと』
 以前、九繰とミュシャで海に行ったことはあるが、あれは海上戦で真珠のような蛸の化け物がいた。
『あ、そうだ!』
 ふと、思い立ち、九繰は提案した。
『では、まずショッピングに行きませんか? 息抜きに!』
『Sure thing!』
 嬉しそうな表情を浮かべる例のウサギのスタンプも、見慣れると段々可愛く見えてきた気がした。



 九繰との会話は、テキストチャットですら、彼女の快活で素直な元気さをわけて貰えるような気がする。久しぶりの九繰とのリアルタイムのメッセージのやり取りに、ミュシャは自然と笑みを浮かべていた。
『涼しい、と言えば、海やプールも素敵ですね』
 何気なくそう打ってから、いつも入力の早い九繰の返信が止まった気がした。
 ────あ……。
 すぐに『そうですね!』といつもの元気の良いメッセージが表示されるまで、ほんの数秒。
 自室の窓際のソファーに座っていたミュシャは慌てて次のメッセージを送る。
 ────優しいですね、九繰さんは。
 ミュシャが出会ったエージェントたちは、それぞれ何かを抱えていたけれど、皆、強いままで優しさも持っていた。
 ────九繰のように。
 いつも明るく快活な友人に会える日が楽しみだと、ミュシャは歯車ネコのアイコンを見つめてそう思った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1379 / 唐沢 九繰 / 女 / 18歳 / 生命適正】
【NPC/az0004/ミュシャ・ラインハルト/女/19歳/防御適正】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも真っ直ぐで元気な九繰さんの日常をたくさん描けて幸せでした!
 この後、一緒に買い物へ行ったのでしょう。

 ちなみに、買い物中におかしな従魔などが出て来て結局クタクタになるまで働くのが、お約束という名のエージェントの宿命ですが……はたして。
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2016年07月14日

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