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『美しき罠? 』
ファルス・ティレイラ3733

 仕事を終えた深夜、ファルス・ティレイラ(3733)は家に到着すると、ポストに黒い封筒に金色の模様がある手紙が届いているのを見て、思わず顔をしかめた。
「……ヤダ、【あっち】の依頼だわ」
 重いため息を吐きながらも、家の中に入る。
 そしてイスに座り、封筒を開けて中の手紙を読んで見た。

 ――とある魔族の少女が最近、美しい魔道具を盗み続けているようだ。
 魔法がかけられている道具の中には芸術品とも言える作品があり、魔族はそれらを好んで盗んでいく。
 しかし中には危険な物もある為に、ファルスにはその魔族の捕獲と魔道具の回収を依頼したい――との事。

「魔道具の中に込められている魔力に惹き付けられて、おかしくなっちゃうモノがいることは聞いていたけれど……。今回の場合は絶対に、その魔族の趣味よね」
 手紙を机に置いて、ファルスは困り顔で頬杖をつく。
 普段は配達屋として働いているファルスだが、移動能力をかわれて時々【あっち】の依頼がくる。
「表には出せない裏の【あっち】の依頼は、関わるとろくな眼に合わないのよね。だからと言って簡単に断れる相手じゃないのが、頭痛のもとよ」
 封筒の裏には知り合いの魔法使いの女性のサインがあり、ファルスにとって頭が上がらない存在なのだ。
「でもまあ今回は私以外にも依頼を頼んでいるようだし、とりあえず様子を見に行ってみようかな? もしかしたらもう終わっているかもしれないし」
 封筒には魔族の隠れ家らしき場所の地図も入っており、ファルスは嫌々ながらも行ってみる。
「隠れ家って……アレ?」
 地図と隠れ家を何度も見比べてみるが、合っていることに間違いはない。
 しかし隠れ家は小さな古い一軒家で、とてもじゃないが盗んだ魔道具を隠して置く場所がなさそうに見える。
「でも相手は魔族だしね。目隠しの魔術を使っていても、おかしくはないわ」
 ファルスは慎重に気配を消しながら、隠れ家に近付く。だが壊れた玄関の扉から中を窺ってもガラン……としているだけで、特に変わったところは無いように見える。
「どこかに隠し部屋でもあるのかな?」
 ファルスは警戒しながらも、隠れ家の中に足を踏み入れた。
 すると突如、黒い魔法陣が床全面に浮かび上がり、ファルスは飲み込まれてしまう。
「しまった……!」
 気付いた時には、別の場所に移動させられていた。
 地下室のようなその場所は肌寒くも広くて、シャンデリアやランプの光が眩しい程に輝いている。
 この場所には数多くの魔道具が飾られており、魔族の本当の隠れ家であることが分かった。
「……魔力に反応して発動する瞬間移動魔術、とはね。なかなか高度な魔術を使うじゃないの」
「ようこそ、我が家へ」
 そこへ奥から、一人の魔法使い風の美しい少女が現れる。
「あなたが泥棒魔族ね! 盗んだ物は返してもらうわよ!」
 ファルスは少女を睨み付けると、龍の角と翼、尻尾を生やして向かって行く。
「アラ、素敵な姿♪ 早速この魔道具を使ってみましょう」
 少女はファルスへ向かって、手のひらサイズの白い珠を投げる。
 球はファルスの足元で床にぶつかったかと思うと、まるで獲物を捕獲する網のように広がって縮んでいく。
「この魔道具はね、捕らえた獲物を金属の像にする魔法がかけられているの♪ あなたはどんな美しい像になるのかしら?」
 夢見心地で近付いて来た少女の腰に、ファルスは伸ばした龍の尻尾を巻き付けて引き寄せた。
「このままでは私達二人とも像になるわよ! さあ、解除しなさい!」
「アラまあ、勇ましいこと。でも残念ながら、解除の方法は知らないのよ。……けれど、それも良いわね。わたしとあなたが一体化した像は、どれだけ素晴らしいのかしら……! 自分の眼で見られないことは残念だけど、コレも一つの芸術よね♪」
 そう言って少女は、笑顔で自らファルスに抱き着く。
「ちょっ……、待って! 私はイヤよぉ!」
 ファルスは自分の体に絡み付く少女と網から逃れようと、ジタバタと暴れる。ところが網には無力化効果があるようで、しかも少女の姿をしていても魔族なだけはあり拘束する力が強く、どんなに暴れても像化は止まらない。
「あっ……ああっ……!」
「その絶望に満ちた表情、本当に美しくて最高に素敵よ♪」
 
 ――そして数分後、絶望の表情を浮かべるファルスと、彼女の顔を愛おしそうに両手で包み込む魔族の少女の像が完成した。

【終わり】

PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2016年07月15日

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