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『導かれしカオス達 』
邦衛 八宏aa0046)&努々 キミカaa0002)&木陰 黎夜aa0061)&紫 征四郎aa0076)&ファウ・トイフェルaa0739)&十影夕aa0890)&鬼嶋 轟aa1358)&燕 三郎太aa2480)&雨堤 悠aa3239

●始まりの章
 カレイドスコープファンタジア。人間・エルフ・ドワーフといった多種多様な種族を取り揃えた、剣と魔法を使って世界を救ったり救わなかったりする大人気王道ファンタジー要素満載オンラインRPGである。紫 征四郎(aa0076)はこのキャラクリの自由度の異様な高さがウリのMMOをつい先日やり始め、ぼっち、もとい新人休日ソロプレイながらそれなりに楽しんでいたのだが、ここに来てとある重大な問題に激突した。
「じゅ、ジューンブライドイベント……」
 いわゆる季節物限定イベント。クリアすればここでしか手に入らないアイテムがもれなく手に入るという、コレクター心をくすぐってやまないおいし過ぎるイベントである。特に征四郎はおとん、もとい英雄の方針でお小遣いが少ないため、課金出来ず無料アイテムでなんとか今までしのぎを削ってきたのだが、無料で、しかもハイクオリティーなアイテムをゲット出来るこのチャンス、何がなんでもモノにしたい。しかし征四郎は前述の通り巨大な壁に激突していた。ぼっちプレイじゃイベントに参加する権利も得られない!
「あの……どうか……なさいました?」
 征四郎がHOPEのベンチで一人撃沈していると、やけにぼそぼそと聞き取りにくい男の声が聞こえてきた。邦衛 八宏(aa0046)、葬儀屋の跡取り息子にして征四郎の友人の一人。そういえば八宏はゲーマーだったはず……八宏の景気の悪い顔にハッと思い出した征四郎はかくかくしかじか説明し、八宏は聞き取り辛い事この上ないぼそぼそボイスで答えを返す。
「そのゲームなら……僕もやってます……」
「本当ですか!?」
「でも……僕一人じゃ人数が……もっと人を集めませんと……」
 八宏の語った現実に二人は揃って沈黙した。片や新人ソロプレイ。片やコミュ障ソロプレイ。ぼっちとぼっちが結託しても二人ぼっちしか爆誕しない。
 だが、彼らはHOPEの名をその背に負いしエージェント。希望を捨てたりなどはしない。例えそれがMMOのアイテムゲットであろうとも。
「こうなったらリンカー仲間に声を掛けるのですよ! 大人気のゲームですし、きっと他にもやってる方がいらっしゃるはず!」
 征四郎は瞳に闘志を燃やし小さな拳を握り締めた。こうして新人ぼっちとコミュ障ぼっちによるジュンブラアイテムゲット作戦は始まった。

●挨拶の章
『皆様、本日はお集まり下さり誠にありがとうございました』
 そんな堅苦し過ぎる挨拶文を頭上左斜めに掲げながら、≪§Alice§≫とネームの刻まれたエルフ女は深々と頭を下げた。首から上は萌え系待ったなしのツインテロリだが、首から下はフルアーマー壁役待ったなしのガッチガチの鎧である。萌えと萌え殺しのダブルスを決めるエルフ女のすぐ隣で、頭に猫のぬいぐるみを乗せた小柄なエルフ女がぴょんぴょんその場にジャンプする。
『皆が協力してくれたら、きっと上手くいきますね! そういえばあの【孤高の騎士】がクニエだったとは、知らなかったのですよ』
 ≪SEI≫とネームの刻まれた小柄なエルフ女は吹き出し上に呟いた。どうやら可愛げという概念を鎧に押し潰しているツインテロリは八宏だったようである。オシャレ全振り猫ぬいぐるみの背後、もとい征四郎の言葉に、八宏操る萌え殺しはその場にぴょんぴょんジャンプした。孤高の騎士、喋らない。
『ボクはファウだよ。はじめて10日しかたってないけど、がんばる。よろしく』
 ≪Fau≫と刻まれたアマゾネスゴリラ、もといドワーフ女ファイターの吹き出しに画面の向こうの木陰 黎夜(aa0061)はほぼ表情を変えずに驚いた。黎夜の頭の中にあるファウ・トイフェル(aa0739)は三白眼が特徴的な、若干人見知りの気があるがお母さん大好き相棒も大好きな6歳の小柄な少年である。そして黎夜と征四郎のリアル公園友達でもある。間違ってもアマゾンでターザンしていそうなメスゴリラなどではない。しかし言われてみれば髪と目の色はファウと同じ……黎夜は萌え殺し(背後は八宏)とアマゾネスゴリラ(背後はファウ)に内心色々折り混ぜつつ、≪Rei≫と書かれた長髪魔女っ子の吹き出しに台詞をカタカタ打ち込んだ。
『黎夜だ。無課金だけど暇な時に弓使いの英雄と一緒に遊んだり、ソロしたり、色々なPTにスポット参加したりして3ヶ月はやってるから、役に立てるよう頑張る』
『はじめまして。今日はお手伝い頑張るからよろしくね』
『ゲームは小学生の頃にテ○リス系を遊んだきりだが、よろしく頼む』
『このゲームはそれなりに経験あるので、お役に立てると思います。よろしくお願い致します』
「……」
 画面を眺めながら雨堤 悠(aa3239)はなんとも言えない表情をした。ネトゲ友達である十影夕(aa0890)からの誘いでクエストを既にクリアしてしまったメインキャラ、ではなく姫プレイ用のサブキャラである女ヒーラーを投入させてもらったのだが、セルフ萌え殺しの壁ツインテに、おしゃれ全フリ猫乗せ少女、アマゾネスゴリラ、長髪魔女っ子、ラスボスに行けそうなガチ装備の男ダークエルフ、おっさん喋りの姫カット赤毛ロリとお嬢様喋りの金髪パラディンイケメンマッチョ……
 個性もレベルも装備もゲーム歴も何もかもがバラッバラ。始まる前からすでに混沌の匂いしかしない。しかし自由度の高いゲームの宿命、加えて寄せ集めの凸凹パーティー、こういう事が往々にして起こるのがオンラインゲームというものである。
『ハルさん、よろ』
 そんな中≪yu≫と表示された男性アバターが悠のアバターに話し掛けた。この濃いメンツの中にある意味もっとも馴染まない、ほぼPC登録デフォルトの凡庸な外見をしている。個性が全くない所が、逆に淡泊な夕の個性をありありと表現している。
 悠はふうと息を吐いた。とりあえず今日の目標はジュンブライベントのアイテムゲット。それ以外は知人の知人とかが概ねなので猫を被る必要もないし、そもそもネットにリアルを持ち込む性分でもない。気楽にゲームをクリアしてアイテムゲットすればいい。
 そう思い、悠は≪Haruka.≫と表示されたヒーラーの頭上に簡素なメッセージを打ち込んだ。
『よろしく』

●戦いの章
『お願いします、結婚式場に迫りくる非リアモンスターを退治して下さい』
 画面上に表示されたNPCの吹き出しに、鬼嶋 轟(aa1358)は画面の前で少しばかり考え込んだ。この非リアモンスターとは非リアなモンスターという意味か。それとも非リア過ぎてモンスターと化したどう足掻いても非リアなのか。どっちでもいいしどっちにしろ悲しい事この上ないが。花嫁姿のNPCに言われている辺りで物悲しさがましましだ。
『そんで、どうすんだ』
『ボク、およめさんのかっこうで、てきのゆうどうやろうかな。キケンなこととかやるから、まかせて』
 轟、もとい≪Gou≫の吹き出しに対し、≪Fau≫と掲げたアマゾネスゴリラ、もといファイタージョブのドワーフ女がその場にぴょんぴょんジャンプした。口調やモーションの選択がショタ……もとい幼い少年風だが、見た目は武器はそれなり、防具は初期装備のアマゾネスゴリラである。だが対する轟の方も本体は185cm81kgの顔に刀傷を負う強面の36歳なのに、アバターは≪Gou≫というネームを掲げる姫カット赤毛ロリ。突っ込む権利はあまりない。一応轟の名誉のために断りを入れさせて頂くが、姫カット赤毛ロリは轟の趣味でもなければ転生願望などでもなく、姫カット赤毛ロリが共鳴状態の姿に近く戦い慣れしているからという、36歳のおっさんには物悲しい理由である。
『ふむ、どう思いますか、§Alice§』
 征四郎操る≪SEI≫にふられ、八宏は画面の前で無表情のまま少し焦った。征四郎としてはゲームが上手いと尊敬している八宏の意見を仰いだだけだが、ゲーム自体はβ版からの古参でも、始めてこの方ソロ専オンリーの八宏のコミュ能力は初期値から1ミリもレベルアップしていない。一応征四郎、ファウ、轟、黎夜、夕、燕 三郎太(aa2480)とは面識があるのだが、それだけでスムーズにコミュニケーションが取れるのならば会話がSNS頼りなどという苦労から立派に卒業証書を受け取っている。
 しかし、意見を求められてだんまりという訳にもいかない。八宏は長年のゲーマー歴で培われた打ち込み職人芸であっという間に吹き出しだけは埋めていく。
『Fau様にお任せでよろしいかと思います。戦闘には全力を尽くしますので』
『うん、ボクがんばるよ』
 少年感100%でアマゾネスゴリラが拳を上げた。その後大まかな段取りを決めた後相談タイムが終了し、イベント共通のムービーが画面上に映し出された。教会の扉が開き、純白のウエディングドレスをまとったアマゾネスゴリラが画面フル活用で映し出される。白やピンクの花びらが舞う中アマゾネスゴリラがしずしずとバージンロードを進んでゆき、アマゾネスゴリラが新郎NPCの隣にしずしずと立ち並ぶ。神父NPCが『それでは誓いのキスを』と聖書片手に宣言し、新郎NPCの唇がアマゾネスゴリラのぽってりとした唇にゆっくり近付き、そして……
『その結婚式ィ、この非リアモヒカン様がぶっ壊してやるぜぇぇぇエヒャッハァ―ッ!』
 直前、ニワトリのトサカのごときモヒカンを頭に掲げたモンスターが、似たような姿のザコモンスターを引き連れ教会の扉をドガンと開けた。自分で非リアを名乗らなければならないとはゲームとは言え悲し過ぎる事この上ない。モヒカンはバイクを駆りながらバージンロードを爆進し、純白のベールをまとった花嫁に近付いた……所でモヒカンの下の荒くれ顔を驚愕に引き攣らせる。
『お、お前花嫁じゃねえな!』
『そうだよ! ボクはFau、ざんねんだったね!』
 アマゾネスゴリラはショタ感満載の吹き出しを表示しつつぶいぶいとピースサインした。繰り返すがこのアマゾネスゴリラ、背後は自称魔女の母親を本当に魔女だと信じ、「お母さんの料理はとてもおいしいから、きっと魔法がかかってる」と疑いなく言い放つ6歳のあどけなき少年である。と、ここでムービーが終わり、「BATTLE START」のカットインと共に戦闘画面に突入した。≪Mikan≫という、やたら可愛い名前の表示された金髪パラディンイケメンマッチョが、やたらゴツいメイスを取り出し隅で呪文の詠唱を始める。
『光魔法で防御・回復も出来ますので、遠慮なくお声掛け下さいね。頑張りましょう、えいえいおー!』
 これまた違和感MAXだな。それなんてバトメディ、もとい≪Mikan≫の吹き出しを見た何人かは心の中で呟いた。一方、≪Mikan≫の背後、努々 キミカ(aa0002)は画面の前で上機嫌にフンフンしていた。幼い頃から病弱で、内気で一途な小動物型の文系眼鏡っ娘であるキミカは、その境遇故かはたまた元々の性質か、英雄叙事詩に憧れ心の中でヒーローとして戦う空想に心密かに浸ってきた、悪い言い方をすれば隠れ中二病である。依頼などで顔をあわせる友人である征四郎の要請を受け参入させた重装備ゴリッゴリの金髪パラディンイケメンマッチョは、そんな虚弱体質であるキミカの願望を体現した分身でもある訳だが……しかしチャットがキミカの素なのでお嬢様喋りの金髪パラディンイケメンマッチョここに推参状態だ。
『読書の合間に嗜む程度ですが、このネトゲ自体はそれなりに経験あるので、分からない事があったら聞いて下さいね。ふふん』
『yes』
 中堅程度の実力者という事もあり先輩風を吹かす≪Mikan≫に対し、≪yu≫はあまりに簡素な単語だけで返事をした。しかもゲーム機でやっているのでタイムラグまで発生している。しかし鈍感がデフォルトな夕はそれに関して特に思う事もなく、
(クリア報酬なんだろ……)
とか
(大勢でやるの初めてだ)
などと思いながらみんなの穴を埋めるようにその辺にいるザコモヒカンを淡々と殴っていた。なおクリア報酬を調べもせずに参加した事は内緒である。
『やっぱり、みんながいると心強いのです! ……≪Haruka.≫? ≪Haruka.≫?』
 弱装備ながら持ち前の負けず嫌いと運動神経でザコモヒカンに弓を突き立てていた≪SEI≫、こと征四郎は、≪Haruka.≫と書かれた女ヒーラーが全く動いていない事に気が付いた。レベルは≪SEI≫より高く装備も明らかに立派だが、状態異常でもないのにその場に直立しザコモヒカンに四方を囲まれみるみるHPが減っていく。
『ど、どうしました≪Haruka.≫!?』
『悪い悪い、英雄と喧嘩してた。セルフ回復するから大丈夫』
 そう言って≪Haruka.≫は何事もなかったように自身に回復魔法を掛けた、と今度は≪Gou≫が頭上に『> <』を出しながらドカドカと壁に突撃した。どうやら操作が真逆になる混乱状態になったらしく、何もない壁の方に一人でゴリゴリ突進している。
「操作が分からなくて壁に突進してた事は折角内緒にしてたのに!」
『do名田かkiiふkまほkkiffiてむwwwwごsばnnnnn』
 轟が画面の向こうでひっそりと秘密を暴露したその時、≪§Alice§≫の吹き出しに何の伏線もなく怪文書が出現した。【孤高の騎士】の突然の怪文吹き出しに慌てて征四郎がキーを叩く。
『ぴゃああああ! どうしましたクニエ!?』
『大丈夫。多分打ち間違えただけだよ。内容は恐らく「どなたか回復魔法かアイテムをGou様にお願いします」、じゃないかと思う』
 焦って思わず背後の名前を打ち込んでしまった征四郎に、≪Tubame≫と掲げた男ダークエルフが一瞬にしてメッセを返した。某有名RPGの赤い魔法使いや詩人のような雰囲気のガチ装備カンストダークエルフは、攻撃・防御アップ魔法を初心者に掛けつつ手品かとツッコミたくなるような速度で吹き出しを更新していく。
『きっとはじめてのぱーてぃに緊張して誤爆誤字乱舞をしちゃったんじゃないのかな。β版からやってるけど、はじめてのぱーてぃだから仕方ないよね。そういう所が可愛いけど。ふふふ』
 何か微妙に怖い発言で何人かに怖気を与えつつ、≪Tubame≫の背後、三郎太は画面の前でご満悦した。この男、普段は至って紳士的で温厚な眼鏡の似合う色男だが、八宏が絡むとHENTAIになる親衛隊(ストーカー)である。なおこのゲームを始めた理由も八宏を追いかける為であり、現在はレベルカンスト済み、装備ガチ仕様、パソコン二台使用で色違い自分のアバターを操る廃人と化している。
 八宏は一先ず落ち着いた。とりあえず≪Tubame≫のおかげで意図は伝わってくれたようだし、今なすべき事はクエストクリアとアイテムゲット。「コミニュケーション」という強敵を倒すのは後でいい。多分。八宏はとりあえず大丈夫だという事を伝えるためにその場にぴょんぴょんジャンプした。孤高の騎士、喋らない。
『フザケやがってこのクソ共が! 縄引っ掛けてバイクでズッてテメェらの血でバージンロードを作ってやるずぇぇええ!』
 突然、非リアモヒカンのセリフが画面上にinしてきた。どうやらザコをあらかた倒すとボス戦に突入する仕様だったようである。しかし何処かで見た事のあるようなモヒカンもとい非リアだな。ほぼ全員がそう思った。
『ボスを倒せばアイテムゲットです。皆さん頑張って倒しましょう』
『座右の銘は全滅する前に殺る。まかせて』
 ≪SEI≫の鼓舞に対し何か怖い事をさらっと吹き出しに打ち込みながら、黎夜操る≪Rei≫はその場で呪文の詠唱を始めた。リアルではたどたどしくぶっきらぼうな話し方の黎夜だが、今はゲームのチャットという事で文字がすらすら出てくる出てくる。
『させねえぞテメエ!』
と、非リアモヒカンがバイクに乗りながら斧とブーメランを足して二で割ったような武器を右手に取り出した。そして≪Rei≫目掛けて放とうとした、所で萌えない壁役、もとい≪§Alice§≫が己が使命を全うするようにモヒカンの前に立ちはだかった。モヒカンの手元から得物が消えた隙を縫い、アマゾネスゴリラと姫カット赤毛ロリがモヒカンフルボッコに走り出す。
『なぐれなぐれー』
『(∩´∀`)∩』
『ブッ……殺すぞこのクソ共が!』
 非リアモヒカンの手元に武器が戻ったのに合わせ、殴ったり蹴ったりを楽しんでいた≪Fau≫と≪Gou≫は退避した。脳筋攻撃特化アマゾネスゴリラと近接格闘職赤毛ロリが離れたのに合わせ、≪Rei≫が非リアモヒカンを中心に火柱を打ち立てる。
『こ、の、ゴミクズ共がァァアアッ!』
 非リアモヒカンが全身から赤い光(not火柱)を出現させ、≪Fau≫、≪Gou≫、≪Rei≫に対して大振りにブーメランを放つ全体攻撃を仕掛けてきた。ダメージを喰らい後退した≪Fau≫に、さらにバイクの追い打ちが迫る。
 しかし、その攻撃は≪Mikan≫の掲げるやたらゴツい光の盾に阻まれた。アマゾネスゴリラをマッチョな背中に守りながら、金髪イケメンはふふんとばかりに得意げなエモーションを出す。
『大丈夫かい、子猫ちゃん……なんて一回やってみたかったんですよね、ふふふ』
 と、得意満面なイケメンマッチョの顔面で、非リアモヒカンの放り投げた爆弾が爆発した。油断大敵というヤツである。三郎太がコミュ障な孤高の騎士に代わり高速でチャットを埋めていく。
『ブーメランの単体攻撃と全体攻撃、バイクの直進攻撃、爆弾で全部のようだね。HPが低い人は特に注意して、余裕ある人は周りの仲間を気遣ってあげて、でいいかな、§Alice§ちゃん』
 ≪Tubame≫からの突然の振りに≪§Alice§≫はぴょんぴょんジャンプした。孤高の騎士、以下省略。
『今ダメージ受けた人回復するよ。死なないよう気を付けろよ』
『よろ』
『SEIはバンバン弓を射って剣でザシザシ斬るのですよ。アイテム絶対ゲットです!』
 ≪Haruka.≫、≪yu≫、≪SEI≫の吹き出しを眼鏡越しに眺めながら、八宏は密かにわずかに口元を緩めていた。正直「コミニュケーション」を倒す算段は未だに全くついていないが、こうして皆と一緒にゲームをプレイする事は、楽しい。今話し掛けられてもわたわたと誤爆誤字乱舞を発動する気しかしないが、とりあえず今は自分の役目をきちんと果たすだけである。
 そして≪§Alice§≫は一撃で仕留める気しかしない超巨大な大槌を細い両腕に携え、鎧をガッチャガッチャ言わせながら非リアモヒカンへと走っていった。

●終わりの章
『その子、かわいいね。モデルとかいるの?』
 突然≪Fau≫に話し掛けられ、画面の前の八宏は完全にフリーズした。非リアモンスターの討伐に無事成功し、今は式場の修復イベントに入っている。瓦礫を壊したり、ゴミを外に持ち出したり、散らばっている爆弾を集めて撤去作業を行ったり。八宏も例外なく萌えないツインテロリで修復作業を行っていたが、何度も言うように八宏の交流スキルは相手が知り合いでも初期値である。
『Fさmoつかr様でsst。こんnkhあssyあgenきゃラdddう』
『Fau様お疲れ様でした、と言いたいようだよ。ちなみに元ネタはソシャゲの推しキャラだったと思うけど……』
 安心安定の怪文書乱舞に、ストーカー、もとい親衛隊の三郎太がすかさず助け船を出してきた。イエス代わりにジャンプをする孤高の騎士に、ファウがふんふんと頷きながら書き込みをする。
『そうなんだー。ネットゲームなれてないから、セイシロウが言ってくれなかったらだれがだれだか分からなかったよ。そばにいるとおちつくから、なかよくなりたいな』
 ファウは純粋な少年感100%でそう言った。なお「落ち着く」理由は八宏から線香の匂いが漂ってくるからである。八宏はアマゾネスゴリラの吹き出しを眺めながら少し顔面に力を籠め、慎重にゆっくりとキーボードに指を滑らせた。何度も確認した後『よろしくお願いします』とようやく述べ、その場をぐるぐる走り回った。孤高の騎士、頑張った。
『Fauも§Alice§も、本人とアバターが全然違うからびっくりした』
 そこに片付けをあらかた終えた≪Rei≫こと黎夜も加わってきた。≪Fau≫はアマゾネスゴリラで首をこてんと傾げた後、その理由をかたかた書き込む。
『アバターはかならずPLとぎゃくのせいべつにするんだよ、って言われたんだけど……』
 それ、多分騙されている、とは誰も言い出せなかった。ファウは元々主にお外で遊ぶ子だし、加えてイタズラ大好きな相棒の事が大好きだ。騙されるのも仕方ない。と、黎夜は≪SEI≫の装備が変わっている事に気付き、指差しモーションを選択した後吹き出しにコメントを入れる。
『それ、イベントアイテムか?』
『そうなのです! さっそく着替えてみたのですよ! 可愛いのです! 大満足なのです! 皆にも配られていると思うので皆で着てみるのです!』 
 征四郎は吹き出しで宣いながら≪SEI≫をその場でくるくる回した。ピンクと赤の花飾りの乗った純白のレースのベールに、可愛さと動きやすさを重視したらしき膝丈ドレス、ブーツも純白、柄を花で彩った剣はケーキ入刀のナイフを模したと思われる。キラキラと光のモーションを飛ばしてくる≪SEI≫の姿に、黎夜とファウもアイテム画面を開き装備を全て変更した。姉のように慕う黎夜と小さい者同盟であるファウとのお揃い姿アバターに、≪SEI≫は喜びを表すためその場にぴょんぴょんジャンプする。
『ReiもFauも、とっても可愛いのですよ! §Alice§! §Alice§もお願いします!』
 征四郎からの要望に八宏は画面前で戸惑った。協力は申し出たがそれは征四郎がアイテムゲットするためであり、とりあえず自分が装備する事は全くもって考えていない。というかいつの間にかタキシード姿になってキラキラを飛ばしてくる≪Tubame≫こと三郎太が怖い。
 しかし、この空気から逃げられるはずもなく、八宏は§Alice§の装備をウエディング仕様に換装した。こうして萌えない萌えキャラは真の萌えキャラに進化した。

『Mikanもyuも、カッコいいのです! Haruka.とGouも素敵なのです!』
『君もとっても綺麗だよ……なーんて! ふふ! ありがとうございます!』
 ≪SEI≫からの褒め言葉に≪Mikan≫ことキミカはイケメンRPをした後安定の素で返し、≪yu≫こと夕はコントローラーを握りながら少しだけ考えた。征四郎は英雄ぐるみで付き合っている友人だし、時間が取れれば遊ぶ程度の低速PLながらゲームもよく一緒にしている。負けず嫌いだなあと密かに感心している相手でもあるし、返事をしない理由はない、のだが。
(なんて返せばいいんだろう……)
 ここまで「ok」「yes」「よろ」「まって」の単語かエモートだけでコミュニケーションを取ってきたが、どれも違うような気がする。無表情でしばし考え、結局『ども』と単語で返した。そして知り合いである悠と轟のアバターへと視線を向ける。
(みんな女の子アバター使うんだな……意外な一面?)
 悠と轟のアバター、≪Haruka.≫と≪Gou≫も例外なくウエディング姿となっていた。≪Mikan≫も≪yu≫も純白のタキシードが支給されたが、どうやら男性アバターにはタキシード、女性アバターにはウエディングドレスが支給されるようである。夕にとって悠はクールでかっこいい大学生、轟は渋い大人なので、アバターは密かに意外である。ついでに小隊で少し面識があり、ゲーマーらしいことは知っていた八宏のツインテロリも意外である。英雄の友達であり、おとなしいので気にかけていた黎夜がゲームでは意外にアクティブなのも意外である。なお征四郎以外は初対面(?)と思われるキミカは顔を直接合わせる必要のない同好の士、という事でこれを機会にコミュニケーションに走っていた。
 轟は複雑な心境で己のアバターを眺めていた。断り切れない雰囲気でウエディングドレスに換装したが、共鳴の姿を参考にした手前非常に複雑な気分である。まさかリアルでこんな格好をする事にはならないだろうな。不穏な考えが頭を過ぎり、いや、しない、と速攻で首を横に振る。幼少期に憧れていたのはヒーローだ。決して魔法少女に変身するいい年こいたおっさんではない。轟は不穏な考えを振り払い、今はそんなに仲良くないがこれから仲良くしていきたいという想いを持ってウエディングドレス姿のアバターを仲間の元へと走らせた。轟が実際にウエディングドレスを着る機会があるか否かは、今後の冒険次第である。

 悠は画面をじっと見た。夕からの誘いにより今回のクエストに参加させてもらったが、まだ名前は明かしていない。名前を明かしたとしても今後現実に会う事があるかも分からない。今ここにいる「仲間」達は云わばその程度の関係でしかない。
 だが、もしエージェントになっていなければ共にゲームをする事などなかったかもしれないし、今後会う可能性だってゼロに等しかったはず。そう思えば突然現れた暴君、もとい横暴なおっさん、もとい英雄と契約した恩恵と言えなくもないかもしれない。
「だからって、あのおっさんに感謝とかしないけどね、全然、まったく。間違っても」

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【邦衛 八宏(aa0046)/男/28】【§Alice§/エルフ女/槌使い/フルアーマー壁役ツインテロリ】
【努々 キミカ(aa0002)/女/14】【Mikan/人間男/パラディン/金髪イケメンマッチョ】
【木陰 黎夜(aa0061)/?/13】【Rei/人間女/杖使い魔術師/長髪魔女っ子】
【紫 征四郎(aa0076)/女/7】【SEI/エルフ女/軽戦士/頭に猫のぬいぐるみを乗せた剣使い】
【ファウ・トイフェル(aa0739)/男/6】【Fau/ドワーフ女/ファイター/アマゾネスゴリラ】
【十影夕(aa0890)/男/17】【yu/男/アタッカー/ほぼPC登録デフォルト】
【鬼嶋 轟(aa1358)/男/36】【Gou/ドワーフ女/近接格闘職/姫カット赤毛ロリ】
【燕 三郎太(aa2480)/男/29】【Tubame/ダークエルフ男/魔術師/色違い自分】
【雨堤 悠(aa3239)/男/18】 【Haruka./人間女/ヒーラー/姫プレイ用サブ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 こんにちは、雪虫です。この度はご指名頂き誠にありがとうございました。
 今回は登場人物一覧に皆様のアバターデータも記載させて頂きました。雪虫の独断と偏見が少々混じっております事をお詫びさせて頂きます。
 口調やイメージなどが違う箇所がございましたら、お手数ですがリテイク申請をよろしくお願い致します。
 皆様の今後のご活躍を心よりお祈り致しております。
白銀のパーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年07月15日

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