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『ピッツァとかけてナポリと解くココロ 』
骸 麟aa1166)&宍影aa1166hero001
「ピッツァはピッツァにしてピザにあらず……おにぎらずはおにぎらずにしておにぎりにあらず」
 どでかいカエルの背にあぐらをかき、風魔忍群の一翼たる骸一党の中位抄位である骸 麟はしみじみつぶやいた。
 イタリアで生まれたピッツァはアメリカに渡り、ピザというアメリカを代表する食べ物のひとつになった。
 それは本家たるイタリアにおいても同じだ。ナポリで生まれたピッツァがローマで独自に発展し、共存共栄の道を歩んでいる。おにぎらずとおにぎりは……まあ、判断の基準によるだろうから触らないことにする。
 ともあれ麟はカエルにまたがり、大海原を渡航中なのであった。
「麟殿、なにゆえナポリでピッツァなのでござる?」
 麟の契約英雄である宍影が、カエルのパワフルな後足がめちゃくちゃに跳ね上げる海水を分身してよけながら訊いた。
 イタリアンなスーツを着崩し、ノーネクタイのシャツの胸元を開けて胸板をチラ見せする彼は見たままの“ちょい悪オヤジ”。これでイタリアへ行くというのだから、ある意味里帰りと言えなくもなさげだが……ちょっと難しいかもしれない。
 なにせ彼は「ござる」言葉の忍者だし、もう少しつっこんで言うなら、骸一党の守護先達のひとりを称する英雄なんだから。
「隙こそ腿の上手(うわて)だぜ」
 悟りの境地みたいな顔で麟が返す。
 腿の上の隙ってなんだ? 好きこそ物の上手なれと言いたかったんだろうが、ツッコミ不在の場において、その言葉は勝手に深読みされ、加速する。
「チラリズム――というわけでござるか。深い。あまりに深すぎる説破でござる」
 押し詰めた息を吹く宍影を満足気に見やりながら、麟は固く編んでいた三つ編みを潮風にほどいてみたりした。
「ああ。オレは隙だらけだった。チラリどころか丸見えだった……」
 吹き寄せる偏西風が麟の髪をバッサバサ煽り、カエルの跳ばす塩水が麟のジャージをびっしゃびしゃ濡らす。
 自分の非を素直に認めるいいオンナを演出したかったくノ一だが、残念ながら海から這い出してきた舟幽霊にしか見えなかった。
「ローマでナポリを語るなんて、伊賀で風魔を語るようなもんだ」
 5月。セラエノがらみの事件解決を依頼された舟幽霊(麟)はローマへ飛んだ。そして出逢ってしまったのだ“Pizza”という代物に。ぶっちゃけ大好きになっちゃったのだあのおいしい円盤が。
「オレは忍。忍とは道。道を究めるには真を知らなきゃいけない。だからオレは行く」
 底の抜けた柄杓ならぬ手製の綿棒を握りしめ、舟幽霊が大きな声を出した。
「ピッツァの真髄は、その源流たるナポリでしか見極められんのだ!」
 オヤジが「り、麟殿ぉおおお!」と感涙し。
 カエルがびっくりして海水を飲んで「ゲロぼほぉ」とむせちゃったりして。
 ふたりの忍者は思いっきり投げ出されて母なる海に還りかけたりなんだり。
 大騒ぎの末になんとかイタリア上陸。出頭した税関でカエル持ち込みの税率をめぐって揉めつつも、どうにかナポリ入りを果たしたんであった。

「ナポリでござるなぁ」
「石畳。ワインのにおい。気のよさげなおっさん。まるでローマにいるみたいだな」
 ざわり。麟の無邪気な感想に、ナポリっ子がざわめいた。
 ――このナポリが、ローマっぽいだって?
 ――ちがいのわからん小娘が!
 ――カルチョ・ストーリコ(古式サッカー)で自分がなに言っちまったか思い知らせてやんよ!?
 ――ストーリコはフィレンツェの名物だろ物知らず。
 ――なんだとゴラ? 俺のゲンコツ・ストーリコがそんなに見てぇかよ!?
 突如始まる殴り合いと、それに巻き込まれていく人々。戦火は瞬く間に広がり、陽気な昼下がりは血みどろな最前線へと姿を変えた。
「おお、喧嘩でござるよ。ナポリのあいさつは拳で、というわけでござろうかな」
「そういや“馬2頭分の力”のアニメ映画でももりもり殴り合ってたな。ナポリっ子は血が熱いぜ」
 麟と宍影はほんのり笑顔を見交わして、喧噪をすり抜けて行くのだった。
「で、麟殿。これよりどうするおつもりでござる?」
「おう。HOPE東京海上支部で30代から50代の旅行好き女子のみなさんに聞き込みしてな。ナポリピッツァの有名店を聞いてきた」
「50で女子はあまりにその、あまりにもなのでは……?」
 宍影が眉をひそめる。40歳の彼は世に言う初老。歳下はともかく、歳上の女性を「女子」というのはさすがに――
「女子が女子と称すれば、これすなわち女子」
 喉元にあてがわれた苦無の輝きに、宍影は続く言葉を飲み下してうなずくしかなかった。
 かくして未来の女子自称権を確保した麟は説明を再開する。
「有名店でお願いして修行させてもらって、オレはピッツァの奥義を得る!」
 ガバガバすぎる計画だが、麟とて忍。きっと考え抜いた方策が……
「店主様! あたしにピッツァの奥義をご伝授ください!」
 ……なかった。
 ナポリにその名を馳せるピッツェリア(ピッツァ専門店)へ乗り込み、店主にまっすぐ要求を叩きつけるのみ。その低頭に、忍法はカケラも存在しなかった。
 そして店主は、ジャージの裾をチラリチラリと上げてみせる東洋の小娘を渋い顔でにらみつけ。
「私の技を伝授するわけにはいかない。だって日本人、すぐ魔改造するし」
 ガツンとまっとうなお断りを突きつけて。
「なんだよ日本のナポリタンってさ。ナポリのパスタにケチャップなんか使わないから。パスタひと晩、水に浸けとかないから」
「え? ナポリ風だからナポリタンじゃないのか?」
 不思議そうに小首を傾げる麟へ、店主が怒面を突きつけた。
「あんなんナポリじゃありえないから! てかイタリアじゃゆるされないから!」
「ぐ、ぐうの音も出ねーでござるな」
「オレはまたまちがってたのか……昨日の蚊をかわすとはこのことだぜ……」
 日本大使館で一時保護中の大ガエルが、時空を超えて「けろぉ!」とツッコんだ。それを言うなら井の中の蛙ですがね! まあ、思い上がりを自戒する言葉ではあるので、完全に的外れというわけじゃないのが救いではあったが、ともかく。
 日本人は取り込んだ海外の文化をすぐ日本風にアレンジしてしまう。しかも、物によってはそれが本式なのだと思い込んでしまう。最近はテレビ番組などでそうしたかんちがいが知らされたりもしているのだが……。
「いや、私だって家に柴犬いるし、日本キライじゃないけどさぁ」
 がっくり突っ伏した忍どもがちょっと哀れすぎたのか、店主の態度が少しゆるんだ。
 ここだ! 忍が付け入る隙は!
 宍影が腰と頭を低くしたまま店主へすり寄り、
「なんとなんと、柴犬が。で、なんて名前をつけたんです?」
「日本の偉大な文化食SUSHIに敬意を表してね、この名前をつけさせてもらったよ……カリフォルニアロール」
 麟と宍影、左右から怒りの連撃。
「や、やめ――髪を1本ずつむしるのは――おでこ広がっちゃ――やるならひと思いに――ひと思いにぃぃぃ!」
 そんなこんなで麟は無事、弟子入りをゆるされた。

「ナポリピッツァの生地はもちもちが命! ローマのパリパリは邪道だし!」
 ナポリピッツァの生地は小麦粉、水、酵母、塩、この4つで作られる。これをミキサーで練ることは認められているが、こだわりの店ではやはり、手ごねが基本だ。
「小麦を水で繋ぎ、塩で引き締め、酵母という命を吹き込み、育てる――師匠、この生地には地球で生きとし生けるものが繰り返してきた営みがあります!」
「わかってるじゃない日本人! ピッツァは地球。ピッツァは宇宙。真理はこの白い塊の中にあるわけよ!」
 うふふうふふ! 厨房の内で微笑みを交わす麟と店主。
 それを後ろからながめていた宍影は思うんである。
 もっとこう、忍術とか? 入れてくんないと。日本に帰ってから骸一党の資金稼ぎに使えねーでござる。
 いや、そんなことより。イタリアのオネエ臭いおっさんと楽しそうな麟殿がゆるせんでござるよ。
 忍たるもの、九字印だけをよすがに艱難辛苦へ立ち向かうべきじゃござらぬか?
「あー、麟殿」
「なんだ宍影? オレは宇宙に輝く白い地球を創造すんのにいそがし」
「喝っ!!」
 ビリビリ。麟の三つ編みが波動を食らって跳ね、店主の豊かとは言い難い髪が頭皮から旅立った。
「私の髪がっ! ――神よ我が身の髪への思いを加味して噛みしめ神の守(かみ)を髪に」
 イタリア語だからまるで韻を踏めていないはずの祈りをラップ調で弾き出す店主。
「だから、なんだよ?」
 ややこしいことになりそうなので見なかったことにしつつ、麟が唇を尖らせた。
「麟殿は刃の心を忘れてござる! 刃の心で忍でござるよ?」
「むぅ。確かに今、オレの心はもちもちだ」
「忍たるもの、もちもちに向かいてなお心は刃であらねばならんでござる!」
 忍道は禅道に通ず。だからこそ麟も謎かけやら諺やらにこだわりを持っているわけだが。
「それは……難だな。心の刃でピッツァはこねられない」
「柔軟心(にゅうなんしん)が足りておらぬでござるな……ならばそれがしから麟殿に公案を差し上げる!」
 くわっ。宍影が目を見開き、そもさん!
「隻手――否! 無手! 無手ピッツァ!! 無手にてピッツァをこしらえませい!」
 隻手音声――すなわち片手で拍手をし、その音を聞けという禅の超有名な公案の、リスペクトすぎるインスパイアだった。加えて。
「足もダメでござるよ」
「な、なんだってー!?」
「ピッツァ1枚手足を使わず作れんとあらば忍法料理人にあらずでござる」
「宍影ちょっと待て! ヒント! なんかヒント!」
「それではそれがし、ケロぴょんの様子を見てくるでござる。麟殿の説破、期待してござるよ〜」
 4つの素材が入ったボウルを抱えて追いかけてきた麟を隠行で捲いて置き去り、宍影はほくそえむ。
 いやがらせ、完・了。
 それがしっていうかけがえのないおっさんがありながら、今日会ったばかりのイタリアンおっさんといちゃいちゃ楽しげな麟殿が悪いんでござる!

「ちっ、どこ行ったんだよ宍影」
 辺りに鋭い目線を飛ばす麟だが、宍影の気配は捕まえられない。こんなことなら含み針で痺れさせておくんだった。
 と。
「ストーリコぉぉぉお!!」
 なにやらぶっといゲンコツが飛んできた。
「何事っ!?」
 咄嗟にボウルを差し上げ、ゲンコツを受け止める麟。水と塩と酵母を吸い込んだ小麦粉がふかっと舞い上がり、拳の主であるおっさんを文字どおり煙に巻く。
「おわっ」
 思わず目を閉じたおっさんの鼻柱に縦拳を打ちつけて昏倒させ、麟はボウルを抱えたまま、あらためて辺りを見た。
「なんだこりゃ」
 おっさんたちが殴り合っていた。
 ストーリコストーリコ言いながら、目についた相手へゲンコツを叩きつけている。
「まさか……まだ続いてたのか」
 続いていたんである。麟がナポリの街へ踏み入ったときに起こったあの喧嘩騒ぎが。
「ほんと、ナポリっ子は血が熱いな」
 まあ、言ってしまえば麟が原因なわけだが、自覚はないので真相も明かされやしない。
「ストーリコっ!!」
 突っ込んできたおっさんに対し、麟は宙に据えたボウルを回り込むように左回転、横蹴りで吹っ飛ばし、さらに別のおっさんの顎を下からまっすぐ蹴り上げる。
「臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前」
 臨む兵、闘う者、皆陳列べて前に在り。密教に伝わる九字を切り、麟が腰を据えた。
 おっさんの右フックを小麦粉で受け、そのふかふかで威力を殺しておいて、急所蹴り。さらに別のおっさんの左ストレートを下にもぐってかわしつつ、その鳩尾を肘で貫き、その肘を支点に体を回して別のおっさんに後ろ回し蹴り。その間に、3人めのおっさんが組んだ両手を叩きつけてくるのを小麦粉でガードして、その脚に長い三つ編みをからめてこかし、打ち下ろしの右拳で眠らせる。
 捌きは流水、攻め手は奔流。骸流の真髄が、彼女の体術にはあった。
「……オレは某忍術学園史上最高の忍者のたまごって呼ばれたオンナだぜ」
「忍たま○太郎でござるか!」
 路地の奥から飛びだしてきたツッコミ。
「なんだ宍影、そんなとこにいたのかよ」
 場にもうもうと立ちこめる小麦粉のただ中、冷たい表情をした麟が口の端を吊り上げた。
 戦闘モードに入った彼女の頭に、ためらいも後先も残されてはいなかった。
「まずいでござる! 麟殿の心、すでに空なり! 見境なくなってるでござるぅ!」
 店を出た後すぐにこの騒ぎに巻き込まれ、難を逃れるために隠行で潜んでいた宍影であった。が、その判断は、今ここに至って完全に裏目と出た。
 麟のライヴスが風と化し、小麦粉を吹き流す。宍影のいる路地の奥へと。
「○、子、騒、兵、衛」
「いや九字切ってるっぽくしてござるけどそれ忍たま○太郎を生んだ御方の」
 宍影のツッコミは小麦粉を含んだ風にさらわれ、路地の外まで届かない。
 ボウルを抱えていない右手で、麟がジャージのポケットからなにかを抜き出した。
「火種っ!?」
 麟の唇がすぼまり、火縄の先に灯した小さな火へ息を吹きかける。
 果たして。
「酷いでござるよ麟どのおおおおおおおおおお」
 ズドゥム!! 小麦粉が満ち満ちた路地に粉塵爆発が巻き起こり。
 おっさんが折り重なって倒れ伏すナポリの街を、酵母入りの小麦粉が焼けるいいにおいが吹き抜けたんであった。
「お、生地、いい感じで焼けてる」

 おっさんたちの拳でこねあげられた生地を火遁で焼き上げた丸っこい塊を前に、麟がどやぁと顎を反らした。
「宍影! これがオレの無手ピッツァ、“ナポリっ漢(こ)の戯れ仕込みくノ一風〜宍影の悲鳴を添えて〜”だぜ!」
 確かにそれは、麟の手を一切使わず完成させた1枚だ。
 宍影は日焼けもしていないのに真っ黒に焼けた手を伸ばし、塊をぱくり。
「……店主、マルゲリータを1枚頼むよ。なんの工夫もない、ごくごく普通のを」
「なんだよ宍影! オレの説破が気に入らないってのかよ!」
 ぷりぷり憤る麟に、宍影は疲れた目を向けてぽつり。
「ピッツァはナポリに限るでござるよ」
 ピッツァはナポリの路地で火遁の炎に焼かれたものじゃなく、名店の釜で普通に焼いてもらった1枚に限る。
 宍影がナポリで得た、ただひとつの絶対真理だった。

 ――ちなみにこの後、某足利地方となぜか目黒の某所で“くノ一の火遁仕込みピッツァ・ナポリ風〜忘れられたカエルの悲しみを添えて〜”が売り出され、一部マニア(おっさん)の間で異様な人気を呼んだりすることになるのだが……それはまた別のお話である。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【骸 麟(aa1166) / 女性 / 19歳 / 骸闇史暴露術師匠】
【宍影(aa1166hero001) / 男性 / 40歳 / 骸闇史暴露術弟子】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご指名いただき、ありがとうございます。
 ノベル指定を少々はみ出してしまいましたが、こちらが私の説破(詭弁ですが……)となります。麟さんと宍影さんはプレイングでかならずネタどころを作ってくださるので、その雰囲気を崩さないようまとめさせていただいたつもりでおります。

 それではまたなにかありましたら、よろしくお願いいたします。
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2016年07月15日

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