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『●グラズヘイム・シュバリエ・ジョーネ 』
サクラ・エルフリードka2598

 規則正しく鉄を打つ音の聞こえる鋳造所を訪れると、門扉をくぐるや銀髪は灼ける熱気を孕んで私の頬を撫でた。グラズヘイム王国騎士団御用達の工房では、今日も職人達が武具を鍛え上げている。

「いつもお世話になっています。依頼していた品物は出来ていますでしょうか?」

 馴染みの師範代を見つけて声を掛けると、彼は無愛想に店の奥へ顎をしゃくった。会釈して歩き出す私を、若い甲冑師が走って追いかけてくる。

「お久しぶりです、姐さん。色々と試作品が上がっていますよ」
「そうですか、ご苦労様です。では、早速試してみるとしましょう」
「ええ、その恰好では暑いでしょう。どうぞお入りください」

 金敷の並びを抜け、事務所へ入る。鉄扉を閉じれば、火炉が齎す熱風はいくらか和らいだ。甲冑師は裸になめし革のチュニックだけを着ていたが、それでも褐色の肌は汗ばんでいる。ふいごでは間に合わないのだろう、たたら踏みが何処かで声を揃えるのが聞こえた。

「それもうちの鋳造ですよね。随分カスタムが入っていますが」
「はい、素晴らしい鎧です。より可動性を高める試みとして、軽量化の限りを尽くしました」

 このとき、私は頭の先からつま先まで、全身を覆うプレートアーマーを着用していた。細部に流麗で細かな意匠が施され、逸品と謳うに不足は無い。甲冑師は大きく被服部の抉れ露出した肌に、若者らしい気色ばんだ視線をちらちらと投げていたが、私はそれに気付くほど大人びてはいない。

「しかし、あのビキニアーマーも愛用していまして。やはり、非常に動きやすいです」
「……ええ、ええ、お任せ下さい。こんな感じで如何でしょう」

 彼が棚から出したのは、合板を取り付けた仮縫いの品物。幾つか作って貰ったと聞いた、着て試してみるのが良いだろう。

「でも……何だか薄すぎませんか? これでは……」
「まあ、まあ。そちらのカーテンの方でどうぞ。男所帯なもので、綺麗なとこがなくてすみません」

 甲冑師に促されるまま、私はおざなりな試着室へ進んだ。
 途中でクルミの木の大きな作業机の横を通ると、電話やら書類やらと格闘するドワーフの事務屋たちが振り返った。
 カーテンを閉じたは良いが、諸々と男性の為のあつらえなので、小柄な私の脚は随分と布切れの隙間から見えていた事だろう。

「で、でも、仕方ないですよね……」

 応とも、良いものを仕上げる為に試着までさせて貰っているのだ。私は鎧の留め金に指を掛けた。

「……これで良いんでしょうか?」
「……おお、なるほど」

 恥ずかしがっているのを悟られぬよう、おずおずとカーテンを開くと、金属の擦れる音に生唾を呑んでいた甲冑師は息を吐いた。
 見た目では、既成のビキニアーマーに装飾とも取れるような細工と、それらを固定する為の皮革を継ぎ足したようだ。

「あの、先端が重くて……動くたびにその、色んな意味で危険そうなのですが……」
「そうでしょうか? 魔術礼装を踏襲してあるので、魔法にも強いですよ」
「ん、せっかくですしもう少し使いやすくなればいいのですけども……それに、あまりちゃらちゃらしているのは……」
「では、こことここを取って――」

 甲冑師は私の脇下に屈み込むと、ニッパーで仮縫い紐をぷつぷつと切った。彼は鼻息も荒く、肌を擽る吐息がくすぐったい。私が堪えているうちに、足元にはとさ、とさ、と切りっぱなしの皮革が落ちる。
 それから、ふと動きを止めたかと思うと、彼はちょっと考えてから紐をもう一本切ってしまった。

「……はい、これでどうでしょうか?」
「ず、ずいぶん……動きやすくはなりました」
「是非、少し激しく動いて、ちょっと試してみてください」
「そうですね」

 甲冑師が言うので、私はぐるぐると腕を回してみた。
 後ろ手を組んで伸びてみたり、そのまま体を捻ってみたり、その場で腿上げをしてみたり。……う、ううん?

「な、なんだかどんどん緩く……?」

 気になった肩の方をぐいっと持ち上げてみると、あまりにも軽い感触と共に肩紐がブツリ。

「――きゃ!?」
「おおっ! ……じゃない、大丈夫ですか?」

 重い鉄板の仕込まれたアーマーは、重力に従いすごい速さで落下、胸は隠す間も無くポロリ。
 私はサッと顔を赤らめ、両手で胸部を覆い隠した。甲冑師は感嘆の声をあげつつも、態とらしく心配した様子で。

「み、見ないでくださいね……!?」
「分かっていますよ〜。じゃあ、直しますから、少し後ろ向いてて下さい」

 私は肩まで赤らめて、彼に背中を向けた。
 い、いつの間にか休憩の鍛冶師さんや事務の人たちまでみんなこっちを見ているし……。

「うう、中々まともな物が出来ないですね……」

 最初の踊り子みたいな仕上がりと良い、ポロリと良い、ハプニング続きで私は参っていました。

「姐さん、できましたよ!」
「ほ、本当ですか……」

 背中を弄っていた甲冑師に言われ、振り返って鏡で見てみると、出来たものは最初よりずっと防御面積が小さくなっていて。

「これはこれで恥ずかしいですけど……今までの中では一番マシですか……」
「何を仰います。被服部を極限まで減らしたお蔭で動きやすくなっていますし、その分、皮革を厚くすることで変わらない防御力が実現されています! それに――」

 甲冑師は腰を手に胸を反らせ、自信満々に言い放つ。

「何より、とってもお似合いです!」

 ……その自信は一体どこから出てくるのか。

「しょうがないので、これで我慢します……」
「かしこまりました! 近日中に納品いたしますので、お任せ下さい!」

 ……後日、完成品が手元に届きました。
 確かに防御性能などは名門工房の名に恥じぬ品物でしたが、かなり恥ずかしい鎧になってしまったものです……。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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・サクラ・エルフリード(ka2598)
  とっても真面目な若き女聖導士。でも修行に打ち込みすぎたせいか、色々残念な子。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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清水と申します。指名の誉れに預かっておきながら、お待たせした非礼、深くお詫び申し上げます。
アイテム改造申請通過記念との事で、彼女にとって忘れられない()出来事になると良いなと思いながら筆を走らせていました。
この度は清水澄良にご縁を賜り、誠にありがとうございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
清水澄良 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年07月19日

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