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『【部屋の主、あるいは寝床の主という名の主導権を巡る争い。】 』
aa0027hero001)&ILaa1609hero001


●――もしくは、普遍的日常風景
 通電の有無を確認し、試験信号を送受信させ、そのレベルを照合する。
「んー、異常はねェ、と……」
 得られた数値が想定内であり、正常であることをチェックすると面倒そうにIL(aa1609hero001)は髪を掻いた。
「チェックするのは、これで全部か?」
「ああ、助かったよ」
 通信機器のメンテナンスを依頼した所員は胸ポケットのペンを取り、確認の書類にサインをして、原始的なクリップ付きボードを彼に返す。
 最新鋭の設備を備えた場所でも、こういった承認はオーソドックスな方が逆に手間がかからない。
「どーも」
 サインを確かめたILは短く挨拶をし、雑然とした研究室を後にした。
「……たく、機材に八つ当たりするなっての。俺の仕事が増えるだろうが……」
 背後の扉が完全に閉まってから、小さくぼやく。
 不測の不調は大抵ソレか、のん気に飲み物の類をぶちまけるケースの二つ。
 始末が悪いのは、どっちも本当の原因が隠蔽されがちなことだ。
 そうなると不調の状態から原因に見当をつけ、場合によっては処置に必要な機材を取りに往復しなければならないこともあり。
「もー、疲れた……」
 今日のタスクが残っていないことを確認し、ごりごりと彼は凝り固まった首と肩を回す。
 作業が終われば所属部署まで戻る必要もなく、さっさと自室のベッドに倒れ込みたい気分……だが、既に部屋へ戻ることすら面倒くさかった。
 とはいえ、さすがに廊下で眠りこける訳にもいかず、結局のろのろと歩き始める。
 人気のない無味乾燥な廊下を進んで、間もなく。
「……んー?」
 ふと目に入ったブロックごとの区画表示を、眼鏡越しにまじまじと見直した。
 ここから、自分の部屋より近い部屋があったことを思い出す。
 もしかすると部屋の主は不在かもしれないが、居るも居ないも彼には関係ない。
 そしてILはおもむろに、広い廊下から枝分かれする通路へ足を向けた。


   ○


 べったんべったんと、重く平べったい足音が通路に響く。
 もう何日、真っ当にベッドで寝ていないのか、数えるのもとっくに飽きていた。
 それでも長く拘束されていた研究からやっと解放され、所属部署から近いことに安堵しながら備え付けの自室へ帰り着いた。
 疲れ切った表情で扉の横にあるセキュリティ・パネルを覗き込み、ボタンを数回押す。
 本人認証が済むと、ロックの外れたドアが微かなモーター音と共にスライドした。
 誘導灯の微かな光が照らす暗い室内を、慣れた足取りで横切る。
 そのまま扉が開けっ放しのベッドルームに足を踏み入れ、大きく溜め息をつきながら、ぼすんとベッドの縁へ腰を下ろし。

 ……尻の下に、違和感があった。

「あ〜ぁ?」
 間延びした声で(一応)驚きながら、腰を浮かせる。
 違和感のあたりへ手をやると、明らかにシーツの下には『何か』があり。
 おもむろに室内灯のスイッチを入れた鯆(aa0027hero001)はがっくり肩を落とし、さっき以上の溜め息を床に吐いた。
「……またか」
 違和感を覚えた瞬間から、予想はしていた。
 というか、コンマ幾らかの差異でほぼ100%、こんなこったろうと思っていた。
 薄汚れたシーツは無数のシワが寄り、人の型に盛り上がっている。
 くしゃくしゃのシーツを頭側からべろりとめくれば、まるで「温めていました」と言わんばかりの表情でILが熟睡していた。
「アル〜?」
 呼んでみるも、反応はナシ。
「イルカさんのお帰りだってのに」
 頬を突っついたり、引っ張ったりしても起きる気配は皆無で。
「なぁに部屋の主よりでっけぇ顔で寝てやがるんだぁ〜?」
 ごすっ、とベッドの真ん中で横たわる闖入者(ちんにゅうしゃ)を遠慮なく蹴っ飛ばした。
「……アー、先輩……?」
 やっと重い瞼が開き、緑の瞳はまだ眠そうに鯆を見上げる。
「おかえり……」
「じゃねぇだろぉ。なに寝てんだ、あぁ〜?」
「しょうがねェっしょ。俺の部屋より、こっちのが近かったんだから」
「近いも何も、鍵かかってんだろぉが」
「ああ、開けたんです……あれは」
 しれっと。
 厳重なセキュリティーロックがかかっていたはずのドアを突破した相手が、自白した。
 呆れるのを通り越し、がっくりと脱力した鯆はベッドに腰掛け直すとサイドテーブルの煙草を咥え、火を点ける。

 部署は違うが、鯆もILも同じ研究所で働く身だ。
 ――正しくは鯆が拾ってきたのだが、それは置いて。
 どんな手を使ったのかはともかく、ここのセキュリティを簡単に解除するILの腕は彼も信頼していた。
 もちろん腕だけでなく、まぁいろいろと……良くわからない奴だが嫌いではないし、どちらかといえば憎からず思っている。
 ……が。

「まさか、ここまで入り浸るとはなぁ」
 紫煙混ざりのぼやきを、鯆が吐く。
 当のILはといえば、あくび混ざりで返事をした。
「……戻るの、面倒臭いンすよ」

 どういう理屈だと、鯆から突っ込まれそうだが。
 実際、遠い自室に戻るより、鯆の部屋に侵入する方がILにとっては容易だった。
 なにせ、こっそり彼専用の裏コードを設定してあるからだ。
 畑違いの鯆はソレに気付いていないのか……それとも面倒なのか、追及されたことはない。
 もしかすると、兵器開発にかかわる部署の責任者だというくらいだから、それくらいお見通しで許容されているのかもしれないが……。
 改めて煙草をふかす鯆の横顔に、(このおっさんに限って、それはねェな)とか思い直したりもする。
 そうして横顔を眺めるうち、普段よりずっと疲労の色が濃く滲んでいることに気が付いた。
 確かにここしばらく部屋へ帰ってこなかったし、向こうの仕事がひと段落したのかもしれない。
 ……だとすると。

「そろそろ、どきますよ……鯆サンに怒られたし」
「あ?」
 のそりと身を起こすILに、怪訝な表情を鯆が返した。
「なんでぇ、急に。厭味ったらしい」
「嫌味もなにも、もともとは寝に帰ったンすよね」
「そりゃあ、そうだけどよぉ」
「だったら邪魔っしょ、ベッド。俺は部屋に戻って寝直し……ふがっ!?」
 ばふっ、と。
 めくったシーツを頭から被せられ、そのままごりごりとマットレスに抑えつけられた。
「い、鯆、サン……?」
「さみぃから、どかなくていい」
「けど、休むんなら……」
「俺がさみぃって言ってんだろーがっ」
 ふがふが抗議する間に鯆は履いていた独特のスリッパを脱ぎ飛ばし、ヨレた白衣のまま半ば強引にベッドへ潜り込んだ。
「ちょ……あんた煙草、灰ッ!」
 頓着しない行動にILが慌てて飛び起き、鯆の口から煙草を取り上げ、サイドテーブルの灰皿へ押し付ける。
 その間に、ちゃっかり部屋の主はベッドの半分を取り返していた。
 さっきまで寝ていた場所の半分を陣取られたILは嘆息し、呆れつつも体勢をずらして暖かい場所を大人しく明け渡す。
 幸い、いい年をした男二人が寝転がって不都合のない程度に鯆の部屋のベッドは広かった。
「しょうがねェな……」
 ILとしてはゆっくり休んでほしいところだが、どかなくていいと言う本人の意思を尊重して再び横になる。
 ……決して、部屋に戻るのが面倒だから便乗した訳じゃあねェからな。
 言葉には出さず、そんな理由を胸の内でつけながら。


   ○


 やがて淡い眠気が再び訪れ、まどろんでいると。
 ぐぃぃ。
「……あ゛ー……」
 押し付けられた体温に、小さくILがうめく。
 聞こえてくるのは、低い寝息。
 そして、染みついた煙草の匂い。
 薄く目を開き、自動的に光量が落ちた室内灯を頼りに窺えば。
 すっかりゆるみ切った、鯆の寝顔が間近にあった。
「……相変わらず、寝付きはいいよなァ」
 薄明かりの寝顔に呟くと、にへ。と鯆が笑った……ような気がした。
 更にはぎゅっとILの白衣を握り、くっついてくる。
「だー、俺は湯たんぽかよ……」
 人の温もりは、意外と眠気を誘うものだが。
 ごす。もぞもぞ。
 気を取られている間に空いた方の腕が頭に乗っけられ、挙句の果てに足を絡め取られる。
「俺は、抱き枕じゃあ、ねぇってーのに」
 がっつり『捕縛』され、動くに動けなくなったILは、にへりと笑う鯆の口の端を引っ張った。
「鯆サン、あんた寝相悪すぎるんですけど……おーい?」
 耳元で訴えても、起きる気配は皆無。
 ただただ、その寝顔は幸せそうだった。
「鯆、サン? あんたって、人は……」
 寝入った相手を振り払うこと自体は、何も難しいことはない。
 だが一度振り解いてしまえば、もう二度と彼を掴んでくれないような予感がした。
 ――そしてそれは、胸の奥に秘めた感情を、酷くざわつかせる行為で。
 馬鹿らしい、単なる気のせいだと言ってしまえば、それだけのことなのだが。
「……あー、もー、好きにしてくれ……」
 胸の底からつく深く悩ましい吐息を誤魔化すように、観念した感でうそぶく。

 その、一言で。

 すっかり熟睡しているはずの鯆の笑みが、何となく一層嬉しげなものに変わったように。
 ILには、思えた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / クラス】

【aa0027hero001/鯆/男/47歳/ドレッドノート】
【aa1609hero001/IL/男/33歳/バトルメディック】
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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2016年07月19日

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