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『袖振り合うも他生の縁 』
セドリック・L・ファルツka4167)&辰川 桜子ka1027)&ルキハ・ラスティネイルka2633)&五黄ka4688)&ka4768)&鳶群六路ka4822)&ちとせka4855)&ムウka5077


「お初にお目にかかる。セドリック・L・ファルツだ、お手柔らかに宜しくお願いするよ」
 セドリック・L・ファルツ(ka4167)は甘さと上品さを滲ませたテノールボイスでそう告げると、洗練された佇まいで紳士らしく頭を下げた。艶のある黒髪は丁寧に後ろに撫でつけられ、白い手袋にも高級そうなスーツにも汚れ一つ見られはしない。日の当たるテラスに座り優雅に紅茶でも嗜んでいる方がお似合いだ、少なくとも歪虚との戦いの最前線基地に赴くような人種には見られない。しかしハンターというものが、では粗野な荒くれ者ばかりの集団かと問われれば決してそんな事はない。辰川 桜子(ka1027)は……こちらも武器を握っているよりも、我が子のためにフライパンでパンケーキでも焼いている方が似合いそうな闘狩人は、今回任務を共にする仲間達へと明るく声を投げ掛ける。
「皆さん初めましてかしら? 辰川桜子よ。みんな、よろしくお願いするわね」
「五黄だ。ま、適当によろしくな」
「隻、と申します。何卒宜しくお願い致します。自分は遠隔武器が主流ですので、必要な事があればお声掛け下さい」
 五黄(ka4688)が金の右眼を煌めかせながら気さくな様子で片手を上げ、その後ろから隻(ka4768)が、弓を細腕に携えながら淡々と口を開いた。虎が人の姿を取ったような金髪金眼の青年と、不思議な色合いの青い瞳を持つ中性的な容姿の少女、その二色に加えセドリックと桜子がそれぞれ別種の緑の視線を寄越した事に、鳶群六路(ka4822)とちとせ(ka4855)はそれぞれ慌てた様子を見せる。
「役に立てるかわかりませんが、よろしくお願いします……あの……不慣れで、ご迷惑おかけするかもしれないんですけど……」
「初めまして、じゃの……ちとせ、という……これも、何かの縁……よろしく、のぅ」
「いやん、二人ともそんなにビクビクしなくても取って食べたりしないわよぅー。あらごめんなさい、あたしは魔術師のルキハ・ラスティネイルよぅ〜、よろしくなのネー!」
 オドオドする黒縁眼鏡の少年とおずおずする白い少女の後ろから、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)が持ち前の社交性(と強引さ)でポーズを取りつつ右の拳を天井へと突き上げた。なお口調こそ一聴すると女性のようだが、細身ながら身の丈は180cmもあり、顔立ちも引き締めさえすればそれと分かる程に男性的だ。鷹の羽根をふんだんに取り入れた意匠が特徴的な青年、ムウ(ka5077)は何処か不機嫌そうな表情でそれぞれの挨拶をここまで黙して聞いていたが、計13の瞳が自分を見ている事に気付きぶっきらぼうに名を告げる。
「ムウだ。足を引っ張らぬよう全力で臨むつもりだ。よろしく頼む」
「それでは挨拶も済んだ事だし、さっそく情報収集に取り掛かろうか。それと現地への移動手段は(とてもお金のかかる移動手段)を手配しようと思うのだが、いかがかな?」
 さらりと述べられたセドリックの提案に、その場にいた主に二名が一瞬にして目を見開いた。六路がキョロキョロと落ち着きなく周囲に視線を彷徨わせた後、大きな黒縁眼鏡の下からおずおずと口を開く。
「あの……セドリックさん……すいません、その方法って、すごく……お金掛かりますよね……?」
「資金の事は気にしないでくれたまえ。僭越ながら私が用意させて頂こう。安価でも遅く乗り心地の悪い荷馬車よりも、早くて乗り心地もいい(とてもお金のかかる移動手段)の方が心身共に負担も少なく、戦闘も効率的に出来ると思うのだが、いかがだろうか」
「なるほど、そういうものか」
 セドリックの悪気はなさそうだがズレ感100%の提案に、ムウは不機嫌そうな表情のまま納得したように頷いた。どうやらこのムウという青年、目つきの悪さと無愛想さが相まって表情こそ不機嫌に見えるが、性格の方は実直らしい。あまりよろしくない言い方をすれば少々オツムが心配であるが。
 そしてセドリックという紳士の方は、外見と言動そのままにいい所の出のようである。ニコニコと皆を眺めている所を見るに決して悪気などはなく、むしろ真面目で穏やかそうな印象をさえ強く受けるが、何処かズレている。多分悪気はないのだろうが。
 桜子は仲間達の顔にちらりとエメラルド色の瞳を走らせた。「資金の事は気にするな」と言っているのだから本当に気にする必要はなさそうだが、感情的な意味では実に気になる所である。それは29歳という若さながら、重傷を負った軍人の夫の代わりに家計を支える一児の母という立場から見ても実に妥当な感情だったが、しかし桜子には魔導バイクという個人用移動手段がある。年若いハンターもいる。他のメンバーがどう思っているか分からないのに意見を述べるのは憚られる。
 六路もまた大きな黒縁眼鏡の下から仲間達の顔をちらりと眺めた。目立つ事を恐れ、潔癖なまでに真面目に振舞おうとし、あまり融通が利かない性格である六路は出来れば普通の荷馬車の方がいいのだが、その性格と初対面の人達という事が相まってこちらも意見が述べられない。セドリックは二人の胸の内を知ってか知らずか、ニコニコと悪気なく愛想よくテノールボイスを重ね掛ける。
「いかがだろうか」
 

 結局、桜子は一人で哨戒も兼ねて魔導バイクを路面に走らせ、他のメンバーは(とてもお金のかかる移動手段)で現地へ赴く事となった。ほとんどは何と思う様子もなく普通に座席に腰掛けているが、六路は気まずそうな様子でずっと下を向いている。
「六路君、具合でも悪いのかな?」
「あ! いえ、大丈夫です! ちょっとこういう(とてもお金のかかる移動手段)には慣れていないので……はは……」
「セドリックの使用人が淹れてくれたお茶、温かくて美味しい、のぅ……」
 セドリックの問いに笑って誤魔化そうとする六路の隣で、ちとせがティーカップから顔を上げつつほうと小さく息を吐いた。自分の義娘よりさらに幼い同行者に、セドリックは二コリと人好きのする笑みを浮かべる。
「それでは、戦いが終わったらまた用意させて頂こう。気に入ってもらえたと言われれば彼らもきっと喜ぶだろう」
「そう言えばちとせちゃんはぁ、どうして今回の依頼に参加したのぉ?」
 紅茶について会話するちとせとセドリックの斜め右から、ルキハが唇に指を添えながら首を斜めに傾げてみせた。オフィスに来たばかりの頃より幾らかマシにはなったとはいえ、人見知りの気の抜けないちとせはびくりと肩を揺らしたが、ここに来た目的も相まっておずおずとだが言葉を紡ぐ。
「兄に……助けてもらうばかりでなく……護れるようになりたくて……。ずっと一緒に居られるように……ちとせも強くなりたいのじゃ……」
「あらぁ、お兄ちゃんのためなのねぇ。応援するわ。一緒に頑張りましょうネー」
 ルキハは明るく述べながらちとせに投げキッスをお見舞いした。見た目は黙っていれば男性的な、しかし飄々と女性言葉を操るルキハにちとせは拳を握り締めながら一生懸命声を絞る。
「ルキハは……この前初めて出来た友人達に似ているのじゃ……明るい雰囲気とか……仲良くしてくれると、嬉しい……のじゃ」
「あたしもよー。よろしくネーちとせちゃん」
「大丈夫か、隻」
 ちとせ達の様子をなんとはなしに見ていた隻は、名を呼ばれ向かいに座る五黄へと瞳を向けた。従兄弟であり、敬愛する兄貴分でもある五黄の金色の瞳を見つめ、無愛想に見られがちな表情を少し和らげる。
「ええ、兄様がいてくれますし……けれど兄様、どうか無理はされませんよう。兄様は少々奔放がすぎるので、心配です。僕の身にもなってください」
「ははは、そうかそうか。まあよろしく頼む。おまえの援護が受けられりゃ一番やりやすいからな。得意の弓で助けてくれれば敵の懐に飛び込みやすくなる」
 豪快に、臆面もなく言い放つ五黄に隻はわずかに苦笑を見せた。実は初めての仕事という事で若干緊張していたのだが、五黄が共に立ってくれるというのは心強いものがある。とは言っても、戦闘中は常に無茶をする五黄の事が心配なのも本心なのだが。
「はあ……龍か……出来れば出てこないでくれないかな……出来ることなら覚醒したくないんだよなあ……」
 一方、六路はセドリック達から窓の外へと視線を移し物憂げな様子で息を吐いた。もちろんここまで来て敵に遭遇せずに帰る、なんて事は万に一つも起こり得ないとは思うのだが、六路には「出来ることなら覚醒したくない」のっぴきならない事情があった。
「そろそろ目的地よ。皆、ここからは降りて移動しましょう。歪虚はもちろん、落石なんかもあるそうだから気を付けて」
 桜子が魔導バイクを止めながら仲間達へと声を掛け、ハンター達は雪原に降り立ち各々得物を携えた。語る口を閉ざしてしまえば漂うのは静寂と、ねっとりとまとわりつくような妙に湿った独特の気配。重く淀んでいる中に、時折肌を刺すようなピリピリとした痛みを感じる……誰かが喉をゴクリと鳴らした、その時地を震わせる轟音がハンター達の耳と足下を同時に大きく揺らしてきた。超聴覚で索敵を行っていた五黄が一早くに顔を上げ、岩壁から覗く巨大な歪虚に眼帯のない右眼を細める。
「来たぜ……ダークドラゴンだな!」
「ギギャァァアアアッ!」
「セドリックちゃんの”とある情報筋”通りなのネー」
「情報通りなら他にリザードマンが2体、リザードマン戦士が1体いるはずだが……おや、あれがそうみたいだね」
「ギシャァァァアッ!」
 ルキハとセドリックの声に応えでもするかのように、直立したトカゲのような歪虚がその姿を現した。仲間達が臨戦態勢を取っていく中、六路は歯を食い縛りいやいやながら覚悟を決める。
「し、仕方ない……俺もかくせ……うっ」
「やーっと俺の出番か。この根暗ダサメガネのダサ伊達眼鏡、マジダセェわ。キレイなお姉さんたち、ヨロシク〜♪」
 突然、六路が眼鏡を外し、桜子と隻へ明るい碧色の瞳からパチンとウインクを飛ばしてきた。感情の起伏が小さい隻の反応はほぼなかったが、桜子は六路の変貌に普通に驚きを見せてくれる。
「えっと、六路くん……よね?」
「そうで〜す。さっきのダサメガネは超不本意な仮の姿で、こっちの金髪碧目イケメンの俺こそが六路で主人格で本性なんで。っつーワケで、踊るぜこのトカゲ共が!」
 言うや六路は日本刀「白狼」をその手に携え、狼の遠吠えに似た刃音を奏でながらリザードマンに踊り掛かった。舞刀士の名のごとく舞うように戦う六路の姿に笑みを見せ、桜子はフラメアを細い両腕で斜に構える。
「とりあえず、私達も遅れる訳にはいかないわね。さぁ行くわよ! 大きなトカゲさん!」
 そして桜子は雪原を蹴り、六路が斬り込んだ後に続きリザードマンの胴を横に薙いだ。初対面とは思えない息のあった連携に六路が上機嫌に口をすぼめる。
「ヒュウ、やるじゃん、お姉さん」
「それはどうもありがとう。元軍人の胆力、見せてあげるわ!」
「竜相手だろうが何だろうが、ビビってちゃ何も出来ん。臆さず立ち向かうのみだ。行くぜ隻」
「はい、兄様」
 五黄の声に応じ隻が和弓「木魂」の狙いを定め、もう一体のリザードマンへと大弓の矢を撃ち放った。五黄が牽制のためにファミリアアタックで強化したイヌワシをリザードマン戦士へ差し向け、ルキハが美酒を飲み干した後のように唇にぺろりと舌を這わせる。
「存在を歪まされようと、畏怖の念が自然と沸き起こってくるようなもの……それが龍ってやつよね。とはいえ、勿論勝つつもりだけど♪ トカゲちゃんは任せてぇ〜ファイアーボールでこんがりステーキにしちゃう☆ ウェルダン? レア? どちらがお好み?」
 ルキハはころころと笑いながら、マイヤワンドからファイアーボールをリザードマン戦士へ解き放った。五黄のイヌワシが素早く宙へと舞い上がり、リザードマン戦士に着弾した火球が赤い華となって近くのリザードマンの身体も呑み込む。
「やるな」
「イイ男やイイ女の前でカッコ悪いトコ見せられないもの♪ 五黄ちゃんも隻ちゃんもカッコ良くて素敵よぉ」
「故郷が一国単独での防衛戦をやってたからな。街の防衛戦を兼ねた今回みたいな戦闘は慣れている。とにかく守ること、この一点に集中さえ出来てれば大体問題ねぇ」
「あら、頼もしい」
「無茶はなさらずに、兄様」
「ふむ、私は皆の支援をさせて頂こうか。プロテクション」
 セドリックは仲間の姿に上品に笑みを浮かべながら、防御を高める光を差し向けムウの全身を包み込んだ。覚醒し、鷹の翼の幻影を負ったムウはアックス「トレイター」を振りかぶり、反逆者を意味する紋章の斧でダークドラゴンに斬り掛かる。
「悪いが、屠らせてもらうぞ」
「強くなるのじゃ……ちとせも……ずっと一緒にいられるように……」
 好戦的で、獰猛な笑みを浮かべながら黒色の斧を振るうムウを視界に映しつつ、ちとせはスタッフ「ドライアド」を小柄な体躯の前に構えた。身の丈に程近い木製の杖を支えながら、祈るように言葉を紡ぐ。
「お羊さま、力を貸して……ムウ、離れるのじゃ、ウィンドスラッシュ!」
 長くなった白い髪を冷たく湿る風になびかせ、ちとせは鋭い風の刃で黒龍の身体を切り裂いた。ダークドラゴンは体液を吹き出しながら耳をつんざく咆哮を上げ、退いたムウを叩き潰さんと漆黒の翼を上げる。
「させません」
 それに気付いた隻が、「木魂」を絞り植物の精霊の力を宿す矢で龍の翼を射ち抜いた。リザードマンの動きが鈍くなった所で桜子がトドメに槍で斬り上げ、六路が身を翻してムウ達の援護へと走る。
「隣に立つならキレイなお姉さんがいいんだけどな〜。ま、いいや。足引っ張んなよ鷹野郎」
 傍若無人とも取れる覚醒六路の物言いに、ムウは高揚しているがやはりぶっきらぼうな口調のまま「ああ」と短く声を返した。ルキハが再びファイアーボールで龍戦士を炎で巻き、五黄がスピア「ミスティルテイン」に霊魔撃をまとわせリザードマン戦士を穿ち抜く。
「隻、平気か」
「はい、兄様」
「トカゲちゃんのステーキ一丁おあがりね♪ この調子でもう一匹もステーキにしてあげましょう」
 ルキハの軽口に虎耳と虎の尾を生やした五黄が愉快気に目を細め、黒い猫耳と尾を生やした隻は次の獲物へ弓を構えた。隻の矢がリザードマンの脚を縫い、ルキハが火球で動きを止め、桜子のフラメアと五黄の「ミスティルテイン」、二つの槍が左右から歪虚を物言わぬ肉塊に変える。
 セドリックは一度落石の危険がないか周囲に視線を走らせた。ハンター達と龍種の戦闘に雪原はわずかに揺れ続けている。まだ猶予のある事を確認した後、巻き角を生やし、ふわふわとゆるくウェーブを描いた髪を揺らす小柄な少女に言葉を掛ける。
「大丈夫かい、ちとせさん」
「大丈夫じゃ」
 セドリックの言葉に、ちとせは背を向けたまま端的にそう返した。どこか儚げだった雰囲気から、覚醒した今は神聖な雰囲気を小さな体にまとわせている。セドリックはわずかに笑みを浮かべ、仲間を援護するべくロッドの宝石部分から法術を解き放った。ダークドラゴンは忌々し気に目を細め、地を震わせんばかりの咆哮でエージェント達の脚を止めた。口腔で負のマテリアルを練り、火炎と成した息吹を吐きつけようとした、その時、ちとせが桃色混じりの銀の瞳でダークドラゴンをしかと見据える。
「スリープクラウド!」
 空間に青白い雲状のガスが広がり、ダークドラゴンの身体を一瞬にして包み込んだ。ちとせの得意スキルにダメージを負った黒龍は意識を飛ばして後ろに傾ぎ、そこに地を蹴ったムウが上から「トレイター」を、六路が下から「白狼」を、ダークドラゴンの首目掛けて挟み込むように一閃させた。黒い肉を線が横切り、次の瞬間には炎で宙を焦がしながら、泣き別れになった歪虚の首と胴が音を立てて地を打った。同時に雪が上空高く舞い上がり、高温に溶けて雨へと転じハンター達へと降り注ぐ。と、セドリックが顔を上げ、変わらぬ上品な口調で仲間達へ異常を告げる。
「どうやら、落石が来るようだ」
「みんな、落石が来るわよ! 足下に気を付けて急いで退避!」
 セドリックの穏やかな警告を引き継ぎ、桜子が軍隊と主婦で鍛えた自慢の喉を震わせた。一同は足を動かし、時に武器で落石を防ぎながら、歪虚達の残骸を背に安全地帯へ駆けていった。


「もう嫌だ……普通の覚醒したい……」
 六路は岩の上に腰を下ろし両手で顔を覆っていた。現在は覚醒も解け、眼は青に、髪は茶色に、装備は「マジダセェ」と称された伊達眼鏡に戻っている。と、先程の「自分」が傍若無人な態度を取った事を思い出し、半ば青ざめながらムウの元へと走っていく。
「あ、あの、ムウさん! すいません、さっきは『俺』が失礼な事……を……」
 六路はそこで顔を上げ、中途半端な姿勢のまま目の前の光景に固まった。ムウは、鷹の意匠が特徴的な、身の丈2mはある不機嫌そうな青年は、両腕を翼のごとく広げ片足だけで立っていた。
「あの……ムウさん……す、すいません、えっと……」
 何を狙っているのか全く分からない奇妙なポーズに思考が停止した六路の前に、これまた思わぬ方向から何かがスッと差し出された。視線を向けると今にも消え失せそうな程儚い雰囲気の白い少女が、手作りと思しき焼き菓子を六路に向けて立っている。
「えっと……ちとせさん……?」
「……これ……」
「俺に、くれるんですか……?」
 六路の問いに、ちとせは表情を変えぬまま小さくこくりと頷いた。六路が焼き菓子を受け取ると、ちとせは目を伏せた後おずおずと言葉を紡ぐ。
「それ……ちとせが作ったのじゃ……もし……良かったら食べてくれると……嬉しいのじゃ……」
「え……あ、ありがとうございます……」
「六路も、何処か友人達に似ているから、仲良くしてくれたら嬉しい、のじゃ……ムウも、食べて欲しいのじゃ……ちとせが作った野菜の焼き菓子じゃ……」
「ありがとう」
 いつの間にか謎のポーズを終えていたムウは、ぶっきらぼうに礼を述べつつ焼き菓子を一つ受け取った。六路は他のメンバーに焼き菓子を配りに行ったちとせの背中を見送った後、さっそく焼き菓子を口に入れるムウの巨躯へと視線を上げる。
「あ、ムウさん、さっきはすいませんでした……あ、あれは覚醒後の俺で……」
「別に、気にしていない」
「そ、それならいいんですが……ところで、さっきは一体何を……」
 六路の問いに、ムウは40cm程下にある六路の頭に視線を落とした。目付きの悪さと不機嫌そうな表情に肩を揺らす六路をよそに、ムウは普段から染み付いているぶっきらぼうな口調で述べる。
「鷹と心を通わせるための儀式だ」
「鷹……」
「鷹」
 そしてムウは再び翼のごとく両腕を広げ、片足だけでその場に立ち精神を集中させた。六路はどうすればいいかも分からず、ムウの儀式のポーズを眼鏡越しに眺めていた。
 
 ちとせはセドリック、桜子、ルキハ、隻と手製の焼き菓子を渡していき、最後に五黄へ……向かう途中でその足を一度止めた。臆病な子羊のように近付いてくるちとせの姿に五黄は金の瞳を細める。
「ん? どうした」
「そ、その……」
 ちとせは他のメンバーにするよりさらにおずおずと口を開いた。セドリックは紅茶の事で、桜子と六路とルキハは友人達を思い出すから、ムウと隻は自分と同じ様に動物の精霊と心を通わせる者だからか、または落ち着いた雰囲気からか、何となく安心するためなんとか頑張って話が出来たが、虎の精霊と契約している五黄は少し気遅れを感じてしまう。それでも、やはり近付きたいという想いは拭えずそぉっと近くへ歩み寄る。
「焼き菓子……ちとせが作ったのじゃ……その……もし、良かったら……」
 五黄は差し出された焼き菓子に真顔のまま視線を落とした。そして手を伸ばして受け取ると、口の中に放り込みニッと口の端を歪めてみせる。
「おお、こりゃうめえ。ありがとうな羊の嬢ちゃん」
 五黄の豪快で気さくな態度に、ちとせは嬉し気に微笑みを浮かべた。そこにルキハが見計らったように勢いよく右手を挙げる。
「皆お疲れさまぁ〜! 良かったら慰労会兼ねて飲みに行かない? また御縁が繋がる事を願って」
「おお、いいな。せっかくの依頼とせっかくの縁だ、ここで切るのも勿体ねえ」
 投げキッスをお見舞いしたルキハの声に、五黄は裾を掃いながらその場にすくと立ち上がった。隻はどうしたものかと決めあぐね、伺うように五黄へと声を掛ける。
「兄様……」
「いいじゃねえか隻。これを機会に仲良くやるもの悪い事じゃねえだろう」
「そうよ〜隻ちゃん。交友を深めるもよし、気になる人ができてもよしって事で行きましょう♪」
「あ、あの、俺は未成年で……」
「もちろんおいしいジュースの出る所をご案内させて頂くわよ〜」
「ふむ、では(とてもお金のかかるお店)はいかがだろうか」
「む、なんだそれは」
「セドリックさん、出来れば普通の所でお願いします……」
「ちとせも行って大丈夫……かのう?」
「もちろんよ、ちとせちゃん」
「それじゃあみんなで行きましょう〜!」
 ルキハの声に、一同はそれぞれの想いを胸に再び足を踏み出した。その出会いが何かの縁だったのか、それともただの偶然だったのか、いずれにしろ彼らの邂逅は起こり、そして当たり前に終わりを告げた。この縁が途切れるのか、はたまた今後も続いていくのか、
 それは彼らの選択次第である。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【セドリック・L・ファルツ(ka4167)/男/40/聖導士(クルセイダー)】
【辰川 桜子(ka1027)/女/29/闘狩人(エンフォーサー)】
【ルキハ・ラスティネイル(ka2633)/男/25/魔術師(マギステル)】
【五黄(ka4688)/男/30/霊闘士(ベルセルク)】
【隻(ka4768)/女/18/霊闘士(ベルセルク)】
【鳶群六路(ka4822)/男/14/舞刀士(ソードダンサー)】
【ちとせ(ka4855)/女/12/魔術師(マギステル)】
【ムウ(ka5077)/男/20/霊闘士(ベルセルク)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 こんにちは、雪虫です。この度はご指名頂き誠にありがとうございました。
 皆様の交流を主点として描かせて頂きました。口調やイメージなどが違う箇所がございましたら、お手数ですがリテイク申請をよろしくお願い致します。
 この度は皆様とご縁を持てた事、心より感謝申し上げます。 
 皆様の今後のご活躍を心よりお祈り致しております。
白銀のパーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年07月19日

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