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『君に贈る── 』
虎噛 千颯aa0123)&木陰 黎夜aa0061)&アーテル・V・ノクスaa0061hero001)&木霊・C・リュカaa0068)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&紫 征四郎aa0076)&ガルー・A・Aaa0076hero001)&白虎丸aa0123hero001)&笹山平介aa0342)&柳京香aa0342hero001)&大宮 朝霞aa0476)&ニクノイーサaa0476hero001)&天都 娑己aa2459)&龍ノ紫刀aa2459hero001)&呉 琳aa3404)&aa3404hero001)&鹿島 和馬aa3414)&俺氏aa3414hero001)&鵜鬱鷹 武之aa3506)&ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001

●準備です!
「もっと力を抜いて──」
 虎噛 千颯(aa0123)の家のキッチンでは、彼の妻の紗代の声が響いている。
 彼女が付きっ切りなのは、柳京香(aa0342hero001)だ。
「卵ひとつちゃんと割れないなんて……」
「慣れてないとそういうものだよー。娑己様も相当だし」
「今、話しかけないで……!」
 がっくりする京香に笑いかける龍ノ紫刀(aa2459hero001)の隣では、京香のお仲間とも言うべきか、天都 娑己(aa2459)が卵の中から菜箸で殻を必死に取り出している。
 娑己も付きっ切りが必要なレベルにつき、紫が傍にいるのだ。
「それにしても手馴れてるわね」
「ルゥ、武之の為に頑張ってるもん!」
「それもどうなんだ……」
 大宮朝霞(aa0476)がザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)の手並みを褒めると、ルゥルゥはえへんと胸を張った。
 が、クズのデパート鵜鬱鷹 武之(aa3506)、他にやる人いるなら家事だってやんない。
 察した木陰 黎夜(aa0061)がバターを泡立て器で混ぜながらぽそりと呟く。
「レイヤ、レモンをいれるのです?」
「あぁ、うちはレモンクッキーにしようと思って」
 紫 征四郎(aa0076)が摩り下ろしたレモンの皮に気づくと、黎夜は征四郎へ自分が作るクッキーの種類を教えた。
 征四郎もクッキーを作るが、征四郎は蜂蜜を加えた少し甘めのクッキーと黎夜とは違う。
 少し甘めなのは、ガルー・A・A(aa0076hero001)が甘党だからで、どこまでの甘さにするかは木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が基準になる。
「クッキーも色々あるからねー。 娑己様はもっと簡単なレシピになるけど」
 なんて笑う紫の手並みは娑己と真逆で大変良い。
 その娑己は京香共々卵も割り終え、紗代指導の下必死の作業中。
「小麦粉を篩いながら入れる……難しい……」
「本当に……。お菓子作りってこんなに手間が掛かるものだったのね」
 娑己に応じる京香は、事も無げに色々作ってくれる笹山平介(aa0342)を思い浮かべる。
 何故料理が得意であるかのルーツを思うと、今の彼の微笑の向こうにも思うことはある。……が、今はそれよりもマフィン作りに集中しないと。
 何のかんのと虎噛家のオーブンがフル稼働し、思い思いのお菓子が消えていく。
「大宮はシュークリームだったか。明日天気いいが大丈夫か?」
「その辺の対策はばっちりよ。ニックを驚かせるんだから」
 黎夜がカスタードクリームの準備を始める朝霞に声を掛けると、朝霞はここにはいないニクノイーサ(aa0476hero001)に食べさせる瞬間が楽しみなように笑う。
「皆美味しく仕上がってるよ! だって、一生懸命作ってたもの!」
 ルゥルゥが既に出来上がったお菓子の数々を前に笑う。
 紗代が京香、紫が娑己に付きっ切りである為、ルゥルゥが細々としたフォローを行っていたりする。……まぁ、ルゥルゥは料理上手だし、いつも皆より遙かに手間のかかる武之(と書いてクズと読む)のフォローしてるから大丈夫。
「たくさんあるのですね」
「お土産になるようにもしてるんだよ」
「焼菓子なら多少日持ちするしね」
 征四郎が色々動いていたのにと感心すると、ルゥルゥがにこにこ笑い、そこへ娑己のフォローも終わった紫が会話に加わる。
 このお菓子は、サプライズ。
 ピクニックが決まった時に女性陣でそうした声が上がり、皆で紗代に相談したのだ。
  千颯にバレてしまうかもしれないが、ちゃんとしたキッチンで料理するならば、紗代の協力は必要である。
 理解してくれた紗代は千颯と白虎丸(aa0123hero001)に遠くまでの買い物を頼んで家から遠ざけてくれ、且つ、カモフラージュに自分もお菓子を作ってサプライズをフォローしてくれた。
 明日は、上手くサプライズできるといいね。
 そんな会話を交わして、彼女達はお菓子作りを終えた。

 そして、翌日──

●足取りも軽やかに
「今日は雲ひとつない晴れで良かったよなー」
 千颯の運転するマイクロバスは賑やかなものだ。
「野外飲み会で晴れじゃないって悲しいからねー」
「飲み会じゃない」
 リュカの隣でオリヴィエがやれやれと溜め息をつく。
 表情が豊かとは言えないオリヴィエも困り顔は割と多い。
 そのオリヴィエの頬をガルーがつついた。
「オリヴィエー、晴れの日にこの顔は良くないなー、俺様が」
「必要ない」
 オリヴィエは手馴れた様子でガルーをバッサリ切った。
「この季節で晴れは助かるけどね。俺氏の毛皮のコンディションも保てなくなってしまうよ」
「解ります♪ この季節だと私も髪の毛が……」
「ホント、湿気多いよねー」
(会話として成立しているのが解らないわ)
 俺氏(aa3414hero001)と平介、リュカが湿気の話で盛り上がっているが、平介の隣の京香は謎の会話成立に眉を顰めても皆お喋りに夢中で気づかない。
 と、京香は会話をしてない武之に気づいた。
 武之もこちらを見る。
「養ってくれるなら、ツッコミしてもいいけど」
「……辞退しておくわね」
 京香は謎の会話へのツッコミを諦めていると、
「湿気対策がなっていないんだろ。湿気というのは」
「ガルー、ミジカク言うのですよ」
 ガルーが2人の会話に加わり、湿気対策を解説しようとした所を征四郎が切った。
 曰く、今日のお弁当も材料を細かく計量しようとした為、阻止する戦いをしたらしい。
 オリヴィエ、征四郎に切られたガルーは「俺様今日はのんびり過ごすつもりなのぉ」と到着まで寝る体制に入った。
 多分不貞寝ではない。

「ルゥ、リンとタオの為に2人の好きな物ちゃんと作ったよ! 紗代さんのお弁当の中に入れてもらったから、食べてね」
「もももも勿論ですよ、ルゥさん。食べないなんて失礼なことしませんからね」
「楽しみだなー! ピクニックもワクワクしてたけど、もっとワクワクしてきた!」
 濤(aa3404hero001)と呉 琳(aa3404)はルゥルゥを真ん中に彼女と楽しく、いや、 濤は平常心ではないが、お喋り中。
 ルゥルゥが2人の腕を抱えるようにして喋っている為、 濤は硬直に等しいが、ルゥルゥに恋愛感情は皆無であり、それは理解している。理解と平常心が別次元なだけで。
「お弁当は私も手伝ったのよ。皆も持ち寄るとはいえ、沢山の量を作るのだし、手はあった方がいいかと思って」
「あれだけの量になると、単純な下準備すら時間かかるからな」
 朝霞が会話に加わると、ニックもそれに続いた。
 彼はサプライズは知らないが、朝霞がお弁当作りに協力したことは知っているのだ。
「でしょ?」
「お弁当作りも楽しかったよね!」
 朝霞がニックへ笑うと、ルゥルゥも無邪気に笑う。
 サプライズを知っている朝霞はルゥルゥの台詞にサプライズがバレるのではと思ったが、ルゥルゥは早く寝るよう努力はしたという征四郎同様前日から準備を楽しみにしていた口なので、男性陣は誰も気に留めなかった。
「紗代殿が作ったお菓子を食べ尽くしてしまったのが惜しいでござる」
「だって、美味しかったもの。ね!」
「美味しかった! 今度武之にも作ってあげるんだー!」
 白虎丸が紗代の作戦とも知らずに残念そうに言うが、朝霞とルゥルゥはそうして笑う。
 ニックは「太るぞ」とぽそっと言って朝霞に「ちゃんとダイエットするもの」と返されてから、ちょっとした応酬をしたが、武之はルゥルゥが来ると思ったのか文字通り狸寝入りしてた。
 まぁ、ルゥルゥは武之の内心なんて気づいてないから、気にしないと思うけど。

「あー……それは、どうなんだ?」
 黎夜が紫を見た。
 紫は黎夜にしーっと指を立てて気づく声を出すなと言う。
「……見守り隊、と言っておくものかしらね?」
「何だそれ」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が紫の視線の先を理解してそう漏らすと、黎夜も紫のしていることは理解しているもののアーテルの言ってるものがよく解らない。
「好きな人が幸せになるよう見守っている人達とでも言おうかしら」
「覗きって言わねーのか?」
「身も蓋もない言い方をすると、そういうことをしている場合もあるわね」
 アーテルは黎夜のツッコミに苦笑した。
 紫がガン見している先には、娑己と鹿島 和馬(aa3414)の姿。
 彼らは互いに互いを意識する友達以上恋人未満な間柄──要するに、見守り甲斐のある時期である。
(初々しいな……)
 見た目的には和馬と同じ年齢位のアーテル、その経験が如何なるものかは胸の内に留めるのみだが、彼らを見てそう思う。
「そろそろ着くかしらね?」
 アーテルは窓の外を見、黎夜へ別の話題を振った。

 さて、紫の視線に気づかない2人はと言うと──

「今日は晴れてよかったよね。行く公園も広くて色々あるって言うし、楽しみ!」
「雨天順延はちょっとなー。次に全員の都合がつくのがいつの日かって感じになるし」
 娑己と和馬は飲み物手にそんな会話を交わしていた。
 一見すると、ごく普通に会話をしているが、紫と俺氏の策略で隣の席になった彼ら、実は距離が近いこともあり、ちょっと意識していたりする。
(普段こんな近くで話すってないしなー……)
 明るい笑顔もいつもより近いとあり、和馬は笑顔が近いという嬉しさと──
『──綺麗だ』
 あの時のことを思い出してしまう。
(何で俺あの時……)
 顔に熱が集中していく気がするが、変に思われるから抑えないと。
 一方の娑己も──
(この前の雨の日の時よりも近いかも……)
 あの時は傘がひとつしかなくて、2人で入った。
 和馬と少し距離が離れてたから、楽しさの方が強くて。
 ……その後、和馬の肩が濡れていることに気づいて、和馬が気を遣ってくれたことに気づいたのだけど。
『最後は誓いのキスね』
 あの時寸止めの距離が解らなくて──
 娑己の顔も真っ赤に染まり、それから和馬と目が合った。
 思わず目を逸らした娑己は手で胸を隠す。
 ……そういえばと思い出したことを意識して。

「オレちゃんの背後が春の陽気だなー」
 千颯がそう言ってくれなかったら、どうしたらいいか解らなくなってたかもしれない。

 やがて、目的地へと到着。
 晴れの空の下には沢山遊べる公園が広がっていた。

●楽しげに
 目指すは、この公園1番の原っぱ。
 中央に大きな木があるこの原っぱ近くには緩やかな丘や遊具があり、ピクニックのカラーを出すならここが1番である。
「リュカ、緑がキレイなのですよ! お花も咲いているのです!」
 征四郎がリュカの手を引き、歩いていく。
 日傘にストール、言うまでもなく日焼け止めとここにいる誰よりも日焼け対策をしているリュカであるが、彼にとってそれは死活問題である。
(近くに……OK)
 千颯が原っぱ中央にある木の下ならリュカも安全だろうと征四郎が歩いていく中、花壇ではなく、摘んで問題ないシロツメクサとアカツメクサの花畑が原っぱにあるのを確認。
(あと──)
 視線を巡らせ、『それ』を確認。
 事前に調べてはいるが、後で確認しておこう。
 そうこうしている内に原っぱ中央にある大きな木の下へ到着、ここを拠点とすることになった。
「手際いいなー」
「普通」
 シートを敷くのをてきぱきと準備を進めるオリヴィエへ琳が声を掛けると、オリヴィエは素っ気ない対応。
 そこへ征四郎がやってきて、「しょーぶですよ、オリヴィエ!」とシート敷き勝負が一方的に開始された。
「あっという間だったなー」
「ホント! 凄いねー!」
 琳が感心する隣で、娑己も小さく拍手をしている。
「そうだ、皆で遊具で遊んできたらどうかな。遊んだ感想、教えてほしいかな」
「まかせるのですよ!」
 リュカがシートに腰を下ろしてそう言うと、征四郎がオリヴィエを見る。
 予想していたらしいオリヴィエがはぁと溜め息を吐くが、ここに続く者達がいた。
「ルゥも一緒に行く! 武之、ルゥと行かないって言うんだもん!」
「興味あるし、行ってみたい」
「俺も行くぞ!」
 ルゥルゥ、黎夜、琳である。
 黎夜は問題ないが、ルゥルゥと琳は確実にオリヴィエの見守り対象だろう。
 しかも、見守り隊の見守りとは違う種類の見守りだ。
「オリヴィエ、難しいお顔してどうしたの? お腹痛い?」
「トイレか? エイユウってトイレ行くのか? タオは行っているの見たことないけど」
(多分そこじゃない)
 オリヴィエの眉間の皺にルゥルゥと琳が気づき声を掛けるが、黎夜は心の中でツッコミした。
 心の中なのは、有効な手立てではないからだ。
「ここで見てるから、楽しんでらっしゃい」
 アーテルにも送り出され、遊具を楽しみたい全員で移動開始。

「ガルーちゃんバスの中と違って大人しかったねー」
「俺様のんびりするって言ったしー」
 リュカがあのやり取りでガルーが介入しなかったのが意外と話を向けると、アーテルと紫と一緒に昼の支度を整えるガルーは明るい調子でそう返した。
(その割に気にしているみたいだが、指摘しない方がいいだろう)
 アーテルはガルーが征四郎とオリヴィエを何度か見ていることに気づいている。
 誓約を交わす征四郎は解るが、オリヴィエは……と思った時、ガルーにとってオリヴィエは友人なのだろうと思う。同時に、年下の冷静過ぎる友人には思うことが多くあっても不思議はない、と。アーテルはガルーの過去を詳しく知っている訳ではないが、男性恐怖症の黎夜の英雄だけあり、人は多く見ているつもりである。
(それと、きっと気づいているな)
 アーテルはリュカが気づいていることにも気づいたが、ガルーが視線を外した隙にリュカがアーテルへ内緒にしてと無言の仕草をしたので、小さく頷いて同意を示した。
 あまり見過ぎても露見するので、アーテルは紫が時折見てにやっとしている方向に目を移す。
 そこには──

「いたのか、気づかなかった……」
「猫氏、俺氏の毛皮が心地良かったらしくてね。起こすのは無粋だと思わない?」
 和馬が脱力して見る先には、俺氏──と特に仲がいい灰色のソックス猫が丘でのんびりしている。
「でも、ごろごろするって気持ちいいかも!」
 何か思いついた様子の娑己が丘の上からごろごろして下ってみる。
「草まみれ!」
 娑己は所々草をつけながらも明るく楽しそうに笑って、起き上がる。
 和馬がその楽しそうな様に頬を緩めていると、服を引っ張られた。
「和馬氏、ここは転がる流れだよ?」
「俺氏は!?」
「猫氏も一緒に転がすなんて和馬氏ヒドイ」
 俺氏平坦な調子で泣き真似までぶっこきだしたので、和馬はやらないつもりと理解して、「猫の面倒ちゃんと見ろよ」と言い置いて、ごろごろ転がり出す。
「そもそも俺氏に声を掛けてる場合じゃないよね、猫氏」
 和馬も草まみれで笑ってる様を見て、俺氏が呟く。
「あ、たのしそうなのですよ!」
「ルゥもやるー!」
「俺も!」
 やがて、遊具で遊んでいた年少組(黎夜とオリヴィエは加わっていいのかと言いたげだったが)が合流し、丘の上からごろごろ転がり出す。
 すると、全く関係ない子供達もそれが楽しく映ったのか、丘へやってきてごろごろと転がり出した。
「皆楽しそうでいいね」
 デジカメで撮影する俺氏へ寄りかかる猫がふあっと大きなあくびをした。

●絢爛揃い
 やがて、お昼の時間となり、全員が木の下へ戻った。
 広げられるのは、ピクニックの醍醐味でもあるお弁当。
「うち達からも。それと、あまり行き渡らないと思うけど──」
「わ、サクランボ!」
 黎夜が出したのは、自分達が作ったお弁当の他サクランボだ。
 娑己が顔を輝かせると、昨日のお菓子作りで実は初顔合わせだった黎夜も「アパートの大家からお裾分けされて美味しかったから」と持ってきた話を零す。
「それにお弁当も美味しそう。私も作ってきたけど、あまり作れなくて」
「うちは一緒に作……大きい」
 黎夜は言いかけて、娑己が取り出したおにぎりの大きさに驚いた。
「中身は何が入っているんだい?」
「中身はね──」
 俺氏が和馬を気しながら話を振ると、娑己が自作の具を沢山詰めたと窺えることを言い出した。
「上手くいかなくて。おにぎりってコツある?」
 ハムサンド、卵サンドといったサンドイッチ類と甘めの玉子焼き、アスパラのベーコン巻き、ポテトサラダといったおにぎりにも中の具にも関係ないお弁当準備の黎夜に聞いてしまうのが娑己といったところだろうが。
「春全開だよね」
 俺氏が何も変わらない口調で言うと、水筒の麦茶を飲むアーテルは気になっていたのかぽそりと呟いた。
「それより、鳥が凄いな」
「猫氏も久し振りに野生に帰ったようだね」
 娑己へおにぎりの中に入っている鶏そぼろへの感想を伝える俺氏へ鈴なりに舞い降りる野鳥を見て、猫がじゃれている。
 傍目から見ると凄いが、俺氏は動じないで和馬を見る。
 和馬は娑己のおにぎり手に千颯 、朝霞、琳の所謂天空塔イリュージョンアタッカーへ買ってきた飲み物を注いでいた。
「こっちのウィンナーは花の形で、こっちはウサギの形……凄いな! 食べるの勿体ない!」
「食べて味の感想も伝えてやって」
 琳が飾り切りのウィンナーひとつひとつに目を輝かせれば、紗代の心遣いを知る千颯が写真は俺氏が撮っていたことを教え、勧めてみせる。
 ウィンナーも単純にフライパンで焼いた訳ではなく、飾り切りの形が損なわれないようオーブントースターを使用している……というのは、紗代を手伝った朝霞は知っていて、千颯の言葉に嘘はないと知っている。もっとも、千颯の言葉を疑うような琳ではないのだが。
「鹿島さん、このから揚げどう? おにぎりのから揚げと味付けが違うの。食べてみて」
「こっちはピリ辛なのか」
「味付け変えたのを種類変えて作ってるのよ」
 勧められるままおにぎりを口にした和馬が感心すると、朝霞はそう言って笑った。
 朝霞がおにぎりと違う味付けのから揚げを勧めたのは、和馬が手にしている娑己のおにぎりの具、彼のから揚げは娑己が作っているものなので、料理が下手という彼女へ配慮した形だ。
「味付けのバリエーション、今度聞きたいなー」
「俺様も聞いておきたい。この味噌ごまは特に」
「レシピ頼めば回してくれると思うぜ」
「実際私は聞いたわ!」
 用意していたおしぼり、取り皿だけでなく、インスタントの味噌汁を配り終えた紫とガルーがバリエーション増やしたいと話に加わると、千颯がそう笑い、朝霞も既に自分は聞いたと胸を張った。
「あ、そういえば、糠漬け美味しかったー。自家製?」
「自家製」
「そうなんだ。糠床どうしてるー?」
「俺様の糠床の配分は──」
 紫とガルーは何やら糠床談義に発展。
 ついていける紫も相当料理を嗜んでいるらしく、メモを取り出した。
「……れは美味しいですね」
 女性陣回避して腰を下ろしていた濤も琳が美味しいを連呼するサーモンのクリームコロッケを口にし、食べ慣れない味に顔を綻ばせる。
「ホント? ルゥも食べてみる!」
「ル、ルゥさん、どどどうぞ」
 濤がぎくしゃくと勧めると、友達と笑って隣に腰を下ろしたルゥルゥがサーモンのクリームコロッケを口に運び、ぱっと顔を輝かせた。
「これ、美味しい! 中身がトロトロしてる!」
「本当? ちょっと食べてみたい」
 琳とルゥルゥの会話で興味を持ったリュカが加わった。
 今回お弁当を作っているのは、朝霞の手伝いを受けた千颯の妻紗代の他、黎夜とアーテル、娑己、そしてガルーであるが、特にガルーは和食に特化したお弁当を持ってきていることもあり、興味を持ったらしい。
「美味しいから食べるといいのよ! ルゥもそっち食べていい?」
「当たり前なのですよ」
 ルゥルゥに笑う征四郎はお重からクリームコロッケを取り皿に盛り、リュカへ差し出す。
 逆にルゥルゥへはオリヴィエが自作のアサリの佃煮で作ったおにぎりを差し出した。
「アサリが沢山! ガルーは料理上手なのね」
「……天秤で計測するのはどうかと思うが」
 ルゥルゥに応じるオリヴィエは紫と料理談義するガルーをちらりと見た。
 今日は随分大人しいような気がする。
 と、そこへリュカが「せーちゃんとオリヴィエも食べてみなよ。これ美味しい」と勧めてきた。
 すると、全く関係ない武之まで勧めに応じる。
「タダ飯出来る貴重な機」
「美味しいそうです」
「そこまで面倒見るなら濤君は養っていいと思」
「お気になさらず。あのですね、私は──」
 武之の言葉を遮った濤、武之へ説教開始。
 何となく内容を理解したオリヴィエが溜め息を吐き、征四郎が色々味の交換をしてリュカの取り皿に乗せているのを見る。
「ガルーちゃんは和食のお弁当だしね、色々楽しめるって美味しいよね!」
「切磋琢磨にもなるでござる」
「さっきから何を準備しているんだ?」
 リュカへ白虎丸が声を掛けていると、玉子焼きやから揚げといった重複するおかずの味付けの違いを堪能していたニックが白虎丸へ視線を向けてくる。
 白虎丸は平介のフォローを受けて、何やら準備をしているようだ。
「秘密、らしいのだけど……」
「教えてしまったら面白くないですからね♪」
「笹山殿の言う通りでござる」
 京香が眉を寄せると、平介と白虎丸は内緒の姿勢。
 ニックも見たことがない代物を準備しているので、京香と同じ表情だ。
「あぁ、なるほど」
「内緒なー」
 アーテルはバイトしてこの世界をより知っていることより思い当たったようだが、千颯が『その瞬間』を驚かせたいらしく、笑って封じる。
「見た所火を扱うようだが……」
「何なのかしらね?」
 ニックと京香の答えが出ないまま、準備完了。
 平介が声を掛け、注目を集めた。
「これから、私と白虎丸さんでポン菓子を作ります♪」
「駄菓子をと思ったでござるが、楽しめるものがいいと思ったでござる。手伝ってくれた笹山殿には感謝でござるよ」
 白虎丸がその説明を補足すると、ポン菓子作成開始。
 お米が機械の中に注がれ、ガスでゆっくり機械が動作──中の米に圧力を掛けているらしい。
 その間にも白虎丸がアウトドア用のコンロで砂糖と水を煮詰めていく。
「頃合いですよ♪」
「心得たでござる」
 皆が見守る中、白虎丸がポン菓子を金属の棒で軽く叩くと、爆発音と同時に籠の中に膨らんだお米がどさどさーっ。
 すぐに準備していた蜜と絡めると、音で寄ってきた他の子供達にも配っていく。
「実際に見るのは初めてだな……」
「征四郎もなのですよ」
 最前列で見ていた黎夜と征四郎が顔を見合わせる。
 と、一緒に見ていたオリヴィエが大人しい。
 2人してオリヴィエを見ると、爆発が異常と感じたらしいオリヴィエが思わず銃を手にしようと手を伸ばしたが、出てきたポン菓子が予想外過ぎて目を丸くして固まっていた(ついでに予想してなかった京香とニックも固まっていた)
「こんなに大きな音を立てて驚かせたなら」
「ポン菓子多めでいいでござる?」
 武之は平常運行だったが、それ以上に白虎丸の天然が上だった。
 2人のやり取りを見た千颯が身体丸めて腹筋訓練の勢いで大爆笑していたのは言うまでもない。

●微笑ましげに
 昼食も終わってひと段落着くと、黎夜、征四郎、ルゥルゥの3人が征四郎曰く女の子同士の話とかで琳とオリヴィエを置いてどこかへ行ってしまった。
「あんたは行かないの?」
「うん、のんびりー」
 京香がシートの上でのんびりしている紫へ顔を向けると、紫はまったりとした調子で笑う。
「それに誰かが怪我しちゃった時、手当する人いてもいいかなーって。ケアレイ前の応急処置だねー。まぁ、あと、急に具合が悪くなった時もねー」
 救急箱も持ってきていると察することが出来る一言だ。
「特に和馬ちゃん青春してるしねー」
「うんうん」
 千颯がその会話に加わると、紫がもっともらしく頷く。
 食事の後、和馬は娑己と一緒に2人乗りの自転車を借り、レンタルのサイクルコースを楽しみに行った。
 自宅警備員として優秀に過ごしてきた和馬、手遅れではない青春の1ページである。
「少しは見習ったら?」
「養ってくれるなら、少し検討するけど」
 千颯が顔を向けると、和馬と違って手遅れの武之はシートの上でゴロゴロ。
 ルゥルゥの保護者枠で嫌々来ている部分もあるので、主催の千颯の顔は潰さなくとも稼働率最低限は安定である。
「濤くん養ってー」
「最早前提すらなしですか」
 話を振られた濤は呆れ顔。
 ごろごろしながら寄ってこようとするので、濤は手でぐいと食い止めた。
「働く気のない者を養う対象として見ていませんのでね!!」
「養ってくれるなら、最初の3日、1時間ずつ働くことも検討しないこともないよ」
「本当にクズですね」
「気にしてると頭──」
 武之は最後まで言い終える前に濤から無言の鉄拳制裁を受けた。
 無言だったのは距離は取っていてもこの場に女性がいるからである。
「そのクズ叩き直してくれる! ──すすすすす少し失礼!」
 濤が武之を引き摺ってシートを出て行くと、千颯も腰を上げた。
「オレちゃん、お土産ちょっと見てくるー」
 愛妻家で子煩悩な彼らしい言葉は微笑ましい。
 京香と紫は彼を送り出し、シートに2人きり。
 入れ替わるようにトイレだと席を外した平介が戻ってきた。
「おや、皆さんは?」
「根性叩き直したり、お土産買いに行ったり、かしらね」
 京香が平介へ説明すると、平介は微笑のまま顎に手を添えた。
「私もお土産買いに行きますね♪」
「私も行く?」
「京香はここで待っててください。沢山買って持ちきれなくなったら、電話しますので♪」
 平介は京香の申し出をやんわり断って、千颯の後を追うように歩いていく。
 手が必要な程お土産を買うつもりかという気もするが、想定する相手を指を折って数えると、あながち冗談でもない。
「キャリーも用意してたのに、行っちゃうのが早いねー」
「本当に準備いいのね……」
 ちょっと残念そうな紫に京香は苦笑を浮かべずにはいられなかった。
 そこへ朝霞が戻ってくる。
 朝霞はさっきまでニックと俺氏相手にフライングディスクをしていた筈だが。
「白虎丸さんに連れて行かれちゃったのよねー」
 そうして朝霞は京香と紫が少し目を離した隙に起こった出来事を話し始めた。

 午前中は平介、京香も加えてキャッチボールで楽しんでいたが、午後は朝霞と俺氏がディスクを持参していたこともあり、そちらで遊ぼうという話になった。
 俺氏提案で投げ合わず、誰かが投げたものを落とさずにどれだけ早く取れるかを競っていたのだ。
「あっ」
 が、俺氏が投げたディスクがどこか遠くへ飛んでいってしまい、俺氏は探しに行くといったまま戻って来ない為、朝霞は自分が持ってきたディスクでニックと投げ合うことにした。
「身体能力は流石だな、朝霞」
「鍛えてるもの!」
 ニックがそう言うと、朝霞はどやっと笑う。
(とは言え、変身は……)
 どうにかならないか、とニックなどは思うが、朝霞にとっては大変重要な要素だそうで。
 そんなこと言ってられない状況で変身を優先させて人々の命がどうこうなどということに陥ったことはないので、そこはヒーローとして真に優先させるものは何か理解しているということなのだろう。
「ニック、どうかしたの?」
「いや、何でも──」
「これは大変な顔色でござる!」
 その時、突如白虎丸が割り込んできた。
 散歩に行くとお昼前も後も姿を消していたのに。
「水場にて少しひんやりするといいでござるよ。行くでござる」
「え…、あ、ちょっと」
 白虎丸に連行され、ニックはどこかへ行ってしまった。

「男の子達は木に登って虫取りに行くーじゃあちょっと危ないかもだから一緒に行くーって話になっちゃっていないし、女の子だけになっちゃったね」
「そういえばそうね」
 話を聞き終えた紫がそう締め括ると、京香もその通りだと気づく。
「たまにはこういうのもいいのかもね」
 朝霞がくすっと笑うその目の前に紫が汗を拭き取る濡れタオルを差し出してくれる。
「わぁ! ありがとう」
「スポーツドリンクもあるよー」
「至れり尽くせり!」
 朝霞は顔を輝かせ、紫に礼を言った。

 だから、ニックが白虎丸にこういう不平を漏らしていたのは知らない。
「自然に連れ出せたでござる」
「いや、かなり白々しい棒読みだ。朝霞でなければ不審に思ったぞ」
 彼らが向かう先は水場ではなく──

●サプライズを込めて
 女性陣から微妙に離れている、シロツメクサとアカツメクサがある場所。
「これも使って大丈夫」
 千颯が幻想蝶の中からタンポポを取り出した。
 少し離れた場所にタンポポも自生していたので、摘んでも問題ないものとして拝借したそうだ。
 また、公園内の園芸種を摘むと問題なので、ヤグルマギクも公園内売店で多少買ってきたらしい。
「こういう花の方が季節じゃないと見られないかもね」
「花屋で買うような花でもない分、といった所だろうな」
 リュカが花を確かめるように手に取ると、アーテルも意外にそういうものだと同意。
「皆誰に作る? 重複している場合は花冠以外のものをと思うんだけど」
「少なくとも作り始めた和馬氏は娑己氏1択だね」
 質問に応じた俺氏の通り、和馬は既にシロツメクサで花冠制作開始している。
「器用でござるなぁ」
 白虎丸が感嘆の溜め息をつく。
 が、ガルーが和馬の表情を見て、声を上げた。
「やだリア充が出たわぁ……って聞こえてないな」
「娑己ちゃんだけ連名のブーケにした方が良さそうな勢いだなー」
 ガルーの揶揄も聞こえない位集中している和馬は周囲に気づいてない。
「俺は朝霞以外作らない」
「俺も黎夜に作るつもり」
 ニックとアーテルは自身の能力者のみに花冠作るべくそれぞれ花を選んでいるが、工程の順調さにはかなり差がある。
 すぐさま千颯がニックのフォローに入り、解り易いやり方を教えていく。
「当然編みますよね?」
「千颯くんの顔を立てておけば、後で飯種にありつけるからね」
 濤へクズ全開対応をしつつ、武之はシロツメクサの花冠を誰も相手がいないだろうと思うルゥルゥの為に編む。
「結構難しいな」
「お兄さんも初めてだから難しいよ。オリヴィエなんて見て」
 琳がタンポポ手に苦戦していると、リュカが声を掛けてくる。
 言われるまま顔を上げたら、オリヴィエがアカツメクサを手に悪戦苦闘中。
「こういうセンスが問われる物は苦手だ……」
「利き手で花を固定し、逆の手で花を操作する感じですよ」
 そこへ平介がやってきた。
 平介の教えに倣って琳がやってみると、やり易いらしく、おおと歓声。
「イメージとしてはクロスさせた茎が螺旋状に登っていく感じになりますね。それで茎を引き締めて密着させることで花同士がくっつき、隙間が埋まるんですよ」
「力加減が難しいね。通すのも思ったより難しい」
 平介の説明を聞くリュカは強度の弱視である為他の皆とは要領が違うようだ。
「コツが解ると早いね。作り慣れてるんだね、ありがとう」
「ありがとうございます♪」
 リュカに礼を言われ、平介は笑って礼を言う。
 すると、リュカが手を止めて、平介を見た。
「どうかされました?」
「ううん。何でもない。野外飲み会じゃなかったのは残念だけど、その価値はあったな」
 リュカはそう言って、深く笑う。
 平介は内心、自分の笑みが剥がれたのだろうかと心配になったが、周囲を見る限りそうではないようだ。
(鋭い人だ)
 人と違う世界を見る故か。
 平介がそう思っている間に、制作が終了し──
「ほら、俺氏の予想通りだった」
「リア充ー」
「ちちちち違う!!」
「違わないー」
 俺氏、ガルー、千颯に囲まれる和馬は必死の弁明。
 予想通り、和馬は指摘されるまで娑己以外に作ることを失念していたのだ。
「うっかりさんでござるな!」
「1番言われたくない層に言われたー!!」
「気持ちは解る」
 白虎丸のフォロー……が、トドメで、和馬が悶えている。
 尚、理解を示したのは本人ではなく、ニックだ。
「和馬くんの春はさておき」
「凄い切り方だな」
「実際、そろそろ戻らなければ不審がられる」
 武之のあっさり具合にアーテルがツッコミするも、オリヴィエも容赦なかった。
「喜んでくれるといいな!」
「一生懸命作ったんですから、喜んでくれますよ♪」
 琳が反応を想像してわくわくしている隣を平介が歩いていく。
「照れ屋さんなんだね」
「ちちちち違います!」
 見守る濤は琳と距離が離れていたが故にリュカにバレて指摘されて顔を真っ赤にさせていた。

●考えてることは同じで
「皆でどこ行ってたの?」
「これは……?」
 朝霞が腰に手を当てて問うと、ニックが彼女の後方に広がるそれを尋ねる。
「サプライズよ!」
「昨日、チハヤのおうちでつくったのですよ」
「……やられた」
 朝霞の言葉を引き継いで征四郎が説明すると、千颯は全てを察した。
「なら、オレちゃん達からもサプライズ!」
 千颯が目配せすると、男性陣も花冠や花束を出した。

「どう、ニック? 私だってけっこうやるでしょ?」
「正直予想外だった」
 朝霞のドヤ顔にニックは差し出されたシュークリームを受け取りつつ、答えた。
 普通に持って来れば、カスタードクリームも使用しているシュークリームは真っ先に傷む。
 そこで朝霞は保冷材をたっぷり入れて移動し、ニックが絶対に幻想蝶に入らないタイミングで幻想蝶の中に入れるという万全の保管体制を取っていた。
 それだけあり、シュークリームは傷むこともなく、ごく普通に美味しそうである。
(それだけにこれを渡すのか……)
 ニックは思わず後ろに隠したタンポポの花冠を意識する。
 サプライズがあるなら乗ってやろうと、特にやることもないので乗ったはいいが、花冠を作った経験などなく、千颯に教わって完成したとは言え、不恰好な仕上がりのものになってしまった。
「俺は──」
「頑張って作ってたよー」
「なっ!」
 やっぱり止めようと口を開く前に教えてた千颯が容赦なくバラした。
「人の許しなく教えるとはいい度胸だな」
「隠しちゃうの勿体ないしー」
 千颯、ニックの言葉にノーダメージで口笛吹いて逃げていく。
「ニック、見せて!」
「……こういうのは、俺には向かないな」
 朝霞が輝いた顔で手を差し出す、そこに花冠を載せた。
 隙間が空いて花が密集していないし、形も不恰好な花冠だったが、朝霞は幅広の帽子を取ると、タンポポの花冠を頭上に載せる。
「似合うでしょ!」
 笑う朝霞を見て、ニックは口元を綻ばせる。
 それを遠くで見た千颯も作戦成功と笑みを浮かべた。

「凄い! ルゥ、お姫様みたい!」
 ルゥルゥが花のように笑ってくるくる回る。
 シロツメクサの花冠は武之のもの、両手首のブレスレットは琳と濤が作り、レイのようなネックレスは俺氏からのもの。更に千颯、白虎丸、平介の連名でアカツメクサのブーケを渡されたとなればルゥルゥの機嫌が悪くなる訳がない。
「本当にお姫様みたいだぞ!」
「ありがとう! あれ、タオは?」
 琳が似合っていると褒めると、くるくる回っていたルゥルゥは濤の姿がないことに首を傾げた。
 が、すぐに木の陰に濤がいることに気づく。
「タオ! ありがとう! こっち来て、一緒に写真撮ろうよ!」
「一緒!? 写真!?」
 濤の声が裏返る。
「それにルゥね、たっくさんお菓子作ったから、タオにも食べて欲しいの!」
 シートにあるのは、シュークリームやクッキーといった他の女性陣が作ったものの中央にスコーンが山積みになっている。
 お土産の分もあるようだが、手際良く作れたのはルゥルゥの能力の高さによるものだろう。
「へー……」
「武之の分もあるからね!」
 気のない返事の武之の内心を疑わないルゥルゥは明るく笑う。
 そこのクズが原因で家事能力高くなったのだろうというのは想像余裕だ。
「濤くん、今なら俺も養えるよ」
「これ、美味しいな! へー、色んな味がある。タオも選ばないとルゥルゥに失礼だぞ」
「今行く」
 琳にその通りのことを指摘されたので、武之には反論はしないで、シートへ戻る。
 ちなみに、スコーンはウェディングケーキのルーツだったりするので、濤が知ったらどういう反応だったかは言うまでもないことである。

「たまには青以外もいいと思って。どうかしら?」
 アーテルが差し出したのは、アカツメクサに四葉のクローバーが混じった花冠だ。
 花冠をじっと見ていた黎夜がぽつりと呟く。
「同じこと考えてるとは思わなかった」
「?」
 黎夜が差し出したのは、透明なラッピング袋に入ったクローバーの形をしたレモンクッキーだ。
 他の皆と食べたり、渡したりするレモンクッキーは星の形をしているが、アーテルに渡すものだけ、形を変えたのである。
 それを聞いた征四郎がリュカへそそっと近寄った。
「征四郎も、リュカにはおみやげのクッキーをトクベツにつくったのですよ」
「え、本当? せーちゃんから特別のお土産貰えるなんて嬉しいな」
 征四郎はリュカの言葉にはにかみ、金木犀の花の形のようなクッキーをリュカに渡した。
 普通のクッキーは黎夜が星の形を作るというので、一緒に星の形にしたが、リュカにだけはと思った時、どういう形にしようか悩んだ。
 結果、物語を見つけに行くきっかけになったと話す金木犀の形にしようと思ったのである。
「なら、こちらも……はい、せーちゃん」
「格好はつかないが」
 リュカがシロツメクサの花冠を征四郎の頭に載せると、オリヴィエもシロツメクサのブーケを差し出した。
「分担していて、間に合わなかった」
「?」
 バツが悪そうなオリヴィエは珍しいと征四郎が思っていると──
「ネックレスも預かってるの。こちらは自分で、と思うのだけど、花冠は載せていいかしら?」
「載せる位なら……いい」
 アーテルがリュカの動きをきっかけに黎夜へ頭にアカツメクサの花冠を載せていいか聞いていた。
「あ、お兄さん達からも贈り物」
「……これ」
 リュカがアカツメクサのブーケ、オリヴィエがアカツメクサのブレスレットを手渡している。
 征四郎の口元に笑みが浮かんだ。
(がんばってくれて、ありがとうです)
 リュカは花冠を自分に編んだ分黎夜に間に合わず、オリヴィエは黎夜にブレスレットを編んだ分自分に間に合わなくてブーケになった……それを申し訳なく思ってくれることが嬉しい。
「……あ」
 俺氏からも預かったアカツメクサのネックレスを黎夜が掛け、その頭上に許可を得たアーテルが花冠を載せて良かったと思いきや、ガルーが不意打ちでオリヴィエの頭にシロツメクサの花冠を載せた。
「似合ってるぜ?」
「……」
 ガルーの言葉にオリヴィエは眉間に深い皺を刻んで同じ位深い溜め息をついた。
「屈め」
 不機嫌そうなオリヴィエがガルーの服を掴んで強制的に屈ませると、髪に1輪シロツメクサを飾った。
「似合ってるぞ」
 オリヴィエの大変真面目な声が場に響いた。

「ガルー氏とオリヴィエ氏は中々可愛いことになっているね、猫氏」
 俺氏は猫氏へそう話している。
 既に娑己以外全員へ作ったネックレスは配布完了、レイのようにして作った為、誰も特に抵抗を覚えず首から下げて貰えた。
 その娑己はと言うと、千颯、白虎丸、平介に自分も加えたブーケを手にしているが、花冠、ネックレス、ブレスレット、指輪……全て和馬が作ったものを身に着けていた。
「和馬さん器用……凄い綺麗……」
「何て言うか、作り過ぎたって言うか……」
 見入る娑己へ和馬がその後の揶揄も思い出して恥ずかしく、目線を逸らして頭をかく。
「ううん、こんなに作って貰えて嬉しい! ありがとう!」
 嬉しそうに笑う娑己は明るくて、花のように綺麗で──
(かわ……って、俺何考えてるんだ!?)
 和馬は自分の頭に浮かんだ言葉に真っ赤になった。
 不思議そうな娑己の背後に俺氏。
 何故か、スケッチブックを持っている。
『和馬氏、俺氏は和馬氏をそんなヘタレな子に育てた覚えはないよ』
 肩に乗る猫も俺氏に同調しているように見えて、和馬は微妙にイラッとした。
 が、スケッチブックのページがぱらり、と捲られる。
『素直に言わないと、俺氏が猫氏と一緒に代弁しちゃうよ』
「……和馬さん?」
「その、自分が作ったのを娑己が身に着けてるって……何だか、いいな、こういうのって思って」
 和馬がそう言うと、娑己は意味を理解して和馬と同じ顔色になった。
「あの、お礼、っていう訳じゃない、けど……」
 和馬さんに、だけ。
 娑己は消え入りそうな声で、和馬にだけ渡そうと作ったクッキーを差し出す。
「あんまり上手くないけど」
 歪な、馬と言えなくもない形。
 けれど、和馬は娑己が思うより早く受け取ってくれた。
「ありがとな。今凄い嬉しい」
 その言葉が嬉しく娑己が笑えば、和馬も笑う。

(うん、良かったね。娑己様)
 俺氏にこっそりサムズアップした紫も和馬と娑己を見守っていた口だ。
「今日は縁の下の力持ち、お疲れ様でしたでござる」
 白虎丸がヤグルマギクの花冠を差し出していた。
 それだけでなく、千颯と平介がヤグルマギクのブレスレットを差し出している。
「ありがとう。びっくりしたー……」
「今日交流し易いよう立ち回っていたと千颯とも話していて、お礼が出来ればと思っていたでござるよ」
「私は便乗です♪」
 白虎丸に平介が笑って続く。
「本当にありがとう」
 紫は娑己といなければ得られない幸せと思い、ヤグルマギクの花冠を頭の上に載せた。

 見届けた平介は京香の所へ歩いていった。
 どういう訳か輪に加わろうとしていないが、何か躊躇っているのは一目瞭然だ。
(京香も笑顔でいてくれれば、私は幸せ)
 だから、何も言わずにヤグルマギクの花冠をその頭の上に載せる。
 対する京香は平介が笑顔で花冠を載せてきて、控えめに言っても驚いていた。
「京香は作らなかったんです?」
「自信がなくて、並べてないわ。渡すのもどうしようって思ってるレベルだし」
 平介が話題を変えるようにお菓子を指し示した。
「なら、まずは私が」
「言うと思ったわ」
 京香がバツが悪そうに差し出すと、潰れて形が悪いマフィンが姿を現す。
 平介が手に取り、食べると、微笑を深めた。
「初めて作ったのに美味しいですよ。それに、当たりでしたから、私はラッキーです♪」
 卵の殻が残ってたかと京香は思うが、平介が笑ってそう言うので、「次は当たらせないわよ」と笑ってやった。
 ちなみに、卵の殻は平介が食べたこの1個しかなかったので、ある意味正しい。

●この先も
 千颯運転するバスが夕方の高速を走る。
「楽しかった?」
「楽しかった。……ビックリもしたし」
 アーテルが遠足を知らなかった黎夜へ声を掛けると、黎夜は窓の外に視線を投げたまま、アーテルの言葉を肯定した。
「私もビックリしたわね」
 自分へのサプライズをしてくると思わなかった。
「スマホに沢山撮ったわ。後で整理して送るわね」
「……皆にも頼む」
 黎夜の頼みにアーテルは静かに笑った。

「オリヴィエ、しーっ」
「それはいい」
 自分に寄りかかってうとうと寝ている征四郎を尊重するリュカへオリヴィエは半眼を向けた。
「何で俺が担当している?」
 オリヴィエは、寝ているガルーと白虎丸に挟まれている状態で圧迫されている。
「せーちゃん眠そうで、1番後ろにしちゃったからね」
 オリヴィエは「重い」とリュカに言うが、リュカは征四郎に掛かりきりだ。
「ポン菓子は成功でござる……」
「糠床の配分はだな……」
 寝言なのか寝た振りのからかいなのか判断つかない。
 オリヴィエの眉間がメッチャ刻まれている中、寄りかかる征四郎が夢を見ているのか小さく笑う。
「物語、いっしょなのですよ……」
 しっかりしていても、まだ年相応の少女。
 楽しむのを負けないと勝負を申し込んだり、ガルーに迷子になるなと窘められる年齢の少女なのだ。
「うん、一緒だね」
 リュカは優しく笑って征四郎の頭を撫でた。

「羽化直後の蝶見たの? 運がいいわね」
「もうすぐ飛ぶ所だったみたいで、飛んでった!」
「ルゥも見たかったー」
 まだまだ元気な朝霞が琳から木登りや虫取りの成果を聞くと、羽化してもうすぐ翅が乾いて飛び立つアゲハチョウの発見を話していた。
 ルゥルゥは見たこともないそれが羨ましいと素直に声を上げる。
「これからなら、セミやカブトムシなども見られるかもしれませんね♪」
 平介が加わると、朝霞もセミやカブトムシについて話し出し、琳とルゥルゥの目を輝かせる。
「俺氏はクワガタの存在もきっちり提唱しておきたいね。山の友人の1人だよ」
(虫って1人でいいのかしら)
 俺氏が更にクワガタを持ち出すが、京香は別のことが気になってそれどころではないが、俺氏相手に気にしてはいけない気がする。
 と、濤と目が合った。
「あ、いや、その、お、俺氏さんには困ったものですね! 武之さんもそう思いませんか?」
 何故か挙動不審になった濤が武之に話を振る。
 寝ているらしい武之が半目を開けて、こう言った。
「養ってくれるなら、俺氏くんであっても、俺は気にしない……」
「そういう問題ではないと思うが」
「なら、ニクノイーサくん、養ってよ」
 ツッコミしたニックへ扶養希望を出した武之の希望は、即却下された。

 やがて、ルゥルゥと琳が眠ると、運転する千颯以外は寝ている者が多くなった。
 そんな状態でも寝るに寝れない者がいる。……和馬だ。
 行きと同じように娑己と隣に座ったのはいいが、娑己が疲れてぐっすり眠ってしまったのだ。
 起こすのも忍びないと黙っていたら、娑己が和馬に寄りかかってきたのである。
「ん……」
 娑己が身じろぎしたので、起きると思った和馬は目が覚めたらどうしようと寝た振りを決める。
 瞼の向こうで、娑己が起きたような気配がするものの、目を開けられない。
(ど、どうしよう、和馬さんに寄りかかって寝てた……!)
 和馬が寝ているのが不幸中の幸いだが!
(で、でも、疲れてるし……)
 寄りかかっていた時温かくて何だか気持ち良かったから、と娑己はそのまま目を閉じる。
 すぐに眠りに落ちたが、寝た振りしていた和馬の顔色がますます赤くなっていたことには気づかなかった。

「あと、どの位?」
「もうすぐだねー」
 助手席にいた紫はすっかり静かになった車内、絶対に寝てはいけない千颯を気遣い、コーヒーを差し出した。
 礼を言って受け取る千颯は状況を伝える。
「今日は楽しかったー。娑己様も楽しんでたし、ありがとう」
「濤ちゃんにも言われて、同じこと言ったけど、オレちゃんも楽しんだし、あと、紗代ちゃんがいなかったら、ここまで上手くいかなかったと思う」
 そう話す千颯の顔は紗代への想いからか、優しい。
 パージしなければ一般的にはもっといいが、パージのない千颯など炭酸のないコーラ、圏外のスマホと同じである。
「今度お礼を言いに行くね」
「そうして」
 紫が窓の外に視線を転じると、千颯も運転に専念する。

(お礼を1番言うのは譲らないけどな)
 千颯は息子と帰りを待つ妻を想う。
 シロツメクサで作った花冠以外にも、千颯はこっそり『それ』を用意していた。
 『それ』は、まだ早い季節の花だ。
 けれど、『それ』が今見頃の場所があり、そこのフェアをやっていた為に売っていたのだ。
 自分で束ねたいという意思を尊重し、やらせてくれた売り子には感謝しなくてはいけない。
 『それ』は今、花冠共々、幻想蝶へしまってある。
(紗代ちゃんが、なんじゃなくて、オレちゃんが、なんだよな)
 何故なら、自分にとっての光輝は──
 だから、彼女が『向日葵』ではなく、自分が『向日葵』──『太陽』に向かって咲く。
 それは絶対に揺らがないこと──誓うまでもなく、世界が変わろうと変わらないもの。

 間もなく、バスが到着を告げて停車する。
 楽しさも嬉しい驚きもあった1日は、この先も続いていく。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【虎噛 千颯(aa0123)/男/23/揺るぎなき心】
【白虎丸(aa0123hero001)/男/45/国越える天然世界宝】
【木陰 黎夜(aa0061)/?/13/夜明けに足掻く者】
【アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)/男/22/暁の守り手】
【木霊・C・リュカ(aa0068)/男/28/物語の綴り手】
【オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)/男/10/不器用なおにいちゃん】
【紫 征四郎(aa0076)/女/7/今は、まだ】
【ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/31/拘り過ぎる『賢い女』の息子】
【笹山平介(aa0342)/男/24/微笑に全てを隠して】
【柳京香(aa0342hero001)/女/23/レディー修行中】
【大宮朝霞(aa0476)/女/20/センターヒロイン】
【ニクノイーサ(aa0476hero001)/男/26/薫陶(?)される『天空を駆ける、輝ける者』】
【天都 娑己(aa2459)/女/16/息づく想い】
【龍ノ紫刀(aa2459hero001)/女/16/心と臣】
【呉 琳(aa3404)/男/16/True Prue】
【濤(aa3404hero001)/男/27/隠し切れないHETARE(対女性)】
【鹿島 和馬(aa3414)/男/22/解き放て俺の馬力】
【俺氏(aa3414hero001)/男/22/受け入れて俺氏の鹿力】
【鵜鬱鷹 武之(aa3506)/男/36/クズ】
【ザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)/女/12/頭カラッポGirl】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
読んで楽しんでいただければ幸いです。
白銀のパーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年07月19日

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