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『想いを繋ぐ柱 』
高林 楓(gc3068)


 バグアとの戦いが終結し、高林 楓(gc3068)が民間用軌道エレベータ―建設計画のイメージキャラクター(アイドル)、月日星・イカル(gz0493)の専属SPになってから一年の時が過ぎた。

 イカルと共に過ごしたこの一年、楓の心に内である想いが急激に膨らんでいた。傭兵時代に依頼で数か月に一回程度会うだけだった頃に比べると、本当に、急速に――。
 今や世界的なスーパーアイドルとなっていたイカル。そのスケジュールは毎日みっちり埋まっている。つまり一日の大半が仕事。ということは必然的に専属SPである楓は四六時中イカルの傍に居たのだ。
 そうなるとイカルのすべてが見えてくる。本当は気が小さく人前に出るのが苦手なのに精一杯気を張って、万人規模のライブなどのアイドル業をこなすイカル。
 実は面倒くさがりなところもあるイカル。少ない睡眠時間にお腹を出して爆睡するイカル。これにはイカルの性別を知る数少ない人物である楓は「やれやれ」といった感じ。
 普段は美少女スーパーアイドルをしているイカルだが、その辺り、プライベートでは大雑把というかだらしがないというか……男の子な面もあった。
 これにはたびたび週刊誌で『イカルちゃん専属のイケメンSP』などと特集を組まれる楓も本能……母性をくすぐられることも多々。
 イカルが女の子としてアイドルをやっているが本来の姿は男の子であるように、楓も普段は男性としてSPをやっているが本質的にはやはり女性なのだ。

 いつも明るく笑顔を絶やさず、ミスをしてもへこたれることなく芯の強いイカル。

 不器用なところもあるが、いつも一生懸命にアイドル業をこなすイカル。

 感情の変化が判り易く、プライベートでは表情がころころ変わるイカル。

 幽霊を怖がったり、怪談がダメダメだったりするイカル。

 男らしくは無いが、誰にでも分け隔てのない優しさを見せるイカル。

 人懐こく、甘え上手なイカル。(これに楓は無意識に嫉妬心を覚えることも多かった)

 そして……純粋無垢で、どこか儚さを感じさせるイカル……。
 楓はそんなイカルと近くで接する内に、『ずっと護りたい』という想いが大きくなり、ついには抱えきれなくなった。


「ふあー、さっぱりしたー」
 ホテルの一室にて。本日の仕事を終えたイカルが、シャワーを浴びてバスローブ姿で出て来た。
「今日もお疲れだったな」
 傍らにいた楓はキンキンに冷えた缶の炭酸ジュースをイカルに差し出す。
「ありがとうございます、楓さん。……ごきゅごきゅ。ぷはー! 美味しいー!」
 無邪気な笑顔のイカル。自分にはこんなにも無防備な姿を見せてくれる……。
 楓は口元をほんの少しだけ緩めた。
「あ、すみません。楓さんもお好きな飲み物をどうぞ。と、その前に楓さんもシャワーを浴びたらどうです? 気持ち良いですよ♪」
「…………」
 楓は思わず吹き出しそうになった。イカルは決して『そういった意味』で言ったわけではないのは判るのだが……。
 アイドルと専属SPという間柄ではあるが……その前に男と女であるわけで……。
 ――楓は近頃自分とイカルの関係を意識してしまうようになっていた――。
「……楓さん? このホテルのセキュリティは万全なので少し気を抜いても大丈夫ですよ。楓さんもたまにはゆったりしないと」
 くりくりとした瞳で自分を見つめてくるイカル。……気遣ってくれているのだな、と思う。
「わかった。それでは俺もシャワーを借りよう。何かあったらすぐに知らせてくれ」
 イカルは「はーい」と答える。

 ***

 楓は素早く黒スーツの上下を脱ぎ、最新高性能薄型防弾ベストも外す。その下のYシャツも手早くボタンを外して籠に入れた。
 ……更にその下は、さらし。万が一にも女性だと悟られぬようにきつく巻いてある。
 下着だけになれば楓も立派な女性だ。鍛え抜かれた肉体であり肩幅は広いが胸は女性らしく豊満である。

 最後の一枚を脱ぎ、バスルームに入り、シャワーのバルブを捻る。楓は頭から熱いお湯を浴びた。
 引き締まった肉体の上を温水が流れ落ちる。お湯を浴びながら楓は考えをめぐらせた。

 ――自分の、イカルへの想いが日に日に増大していることは自覚している。

 ――アイドルとSPではない、男女の関係を自分は望んでしまっている。

 ――それは、許されるのか?

 ――自分はずっと女を捨てて生きてきた。それなのに……

 ――イカルと一緒に過ごす内に、自分の中の女の部分が顕著に表れるようになってしまった。もはや、抑え切ることが出来ないほどに。

 自分の気持ちを再確認した楓はバスルームから出て身体を拭き、バスローブを巻いてイカルの元へ。
 ……楓が浴室を出ると、イカルは……ソファーの上で爆睡していた。愛らしい寝顔。
 それに目をやり楓は女性の微笑を浮かべる。そしてイカルに近づき、ぷにぷにのほっぺをつんつんした。
「ふえっ!? ……あ、楓さん。僕寝ちゃってましたか」
「ちゃんとベッドで寝ないと風邪を引くぞ。……イカル、聞いてほしいことがある。大事な話だ」
 楓はこれまでにない真剣な表情でイカルを見つめた。察したイカルはソファーの上に正座する。
 それを確認した楓は少し離れてソファーに座り、対面になる。
「ちゃんと聞いてくれ」
「は、はい」
 楓は前置き、すぅーと息を吸う。イカルも緊張した面持ち。
 そして楓は意を決してその言葉を口にした。
「イカル、永遠にお前のことを護らせて欲しい。仕事中だけでなく……公私ともに、ずっと、お前の傍で」
「……楓さん……それは、プロポーズと受け取って良いですか?」
「そうだ。そういう……ことだ……」
 自分には珍しく、いや、記憶にある限り最大に赤面してしまっていると楓は思う。
「……もちろん、お受けします。楓さんは僕にとってかけがえのない、大切な人です」
 楓の目の前に、イカルの満面の笑みがあった。
 楓はもはや気持ちを抑え切れず、イカルを抱き締めた。
 楓の顔は真っ赤になり、涙もボロボロと零れていた。
 今まで抑えに抑えてきたこの想いを――イカルは受け入れてくれた。それがどうしようもなく、嬉しかった。
「楓さん……詳しい話は……ベッドでしましょう……」
「……あ、ああ……」

 ***

 …………ベッドの上にて。
「楓さん、結婚は僕がお役目を終えるまで待って貰えませんか」
「イカルの……モルディブタワー計画のイメージキャラクターのことか?」
「そうです。契約期限が切れたら、一緒になりましょう」
「わかった」
 二人は見つめ合って微笑み合い、抱き締め合った。


 数年後――
『スーパーアイドル・イカルちゃん電撃引退!!』というニュースが世界中を駆け巡った。

 ……それはともかくとして。

 ***

 とある小さな島の教会。厳かに流れるパイプオルガンの音色、ごく親しい列席者達が見つめる中……。
 祭壇へと続く絨毯の上を、白いタキシードに身を包んだイカルの腕に純白のウェディングドレス姿の楓が軽く手を掛けて共に歩を進める。
 楓に、もはやさらしは必要ない。ふくよかな胸元が覗く。

 老年の神父が二人を優しく和やかな笑みで迎えた。
 ヴェールで顔を隠した楓に向かいイカルが微笑み、二人は定位置で脚を止める。
「それではこれより、新郎月日星・イカルと、新婦月日星・楓の結婚式を執り行います」
 神父が高らかに宣言し、式が始まった。
 二人は誓いの言葉を口にし、指輪を交換し、結婚証明書へ署名した後に――
「それでは誓いのキスを」
 神父に促されると、楓は自然に屈んだ。……プロポーズから数年が経ちイカルの身長がいくらか伸びたと言ってもやはり楓のほうが身長が高い。
 しかしそれを笑う者は一人も居なかった。
 イカルは楓のヴェールをめくり、優しく楓の唇に口付けた。……楓の閉じた瞳からひとすじの涙が零れる。
 どれだけこの日を待ち望んでいたか。彼女の胸の中が幸せに溢れ、感極まってしまったのだ。
 目を開いた楓の目じりをイカルがそっと拭ってやる。二人は見つめ合い微笑んだ後に(楓は立ち上がり)、
「この結婚に反対の方はいらっしゃいますか?」
 と神父が列席者に尋ねる。場はしんとしたまま。
「賛成の方は温かい拍手をお願い致します」
 続いて神父が言うと、拍手が巻き起こりイカルと楓の二人を包み込んだ。二人とも満面の笑みを浮かべている。
「ご列席者の皆様を証人として、本日ここに新郎月日星・イカルと新婦月日星・楓の結婚が滞りなく成立いたしました!」
 神父が結婚証明書を高く掲げて宣言した。

 ***

 その後はブーケトス。これまでの二人らしく、今度はイカルがウェディングドレスを着て、楓はタキシード姿に衣装チェンジである。
「うん、やはりこちらの格好の方がしっくり来るな……。イカルも似合っているぞ?」
「むぅー。僕としてはあまり嬉しくないんですけど……これからは夫婦ですし。それに楓さん、最近少し筋肉落としましたよね?」
「なっ……」
「体型が少し女性らしくなりました。肩の丸みとか」
「むむむ……」
 楓は頬を染める。その表情はもう乙女だ。厳つい肩では、肩を出すウェディングドレスが似合わないことを気にしていたらしい。
「まあ、僕達は僕達なりに、家族の形を作っていきましょう。それでは――そ〜れ!!」
 ブーケが宙を舞い、列席者の女性たちがダッシュした。その中にはイカルの元マネージャーも含まれていたという……。


 それからまた何年後か――

 透き通る海の近く、小さな島に家を構えた二人……。
 空が夕焼けに染まり、陽が水平線に沈むころ……。

 小さな子どもを抱いた小柄で童顔の夫と、椅子に座りもう一人の子どもを膝に乗せた長身美人の妻が――
 天に伸びる巨大な柱を見つめていた……。浜辺に打ち寄せる波の音が静かに響く……。

〜Fin〜
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2016年07月20日

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