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『少女は目覚め、剣をその手に 』
天都 娑己aa2459)&龍ノ紫刀aa2459hero001

プロローグ
「うーん、うーん。お御饅が。お御饅が……」
「御饅?」
『龍ノ紫刀(aa2459hero001) 』は隣で眠りこける『天都 娑己(aa2459) 』を見つめながら問いかけた。どうやら彼女は夢を見ているらしい。
 その娑己の姿を見下ろしながら、どうしたものかと思案する龍ノ紫刀。
「娑己様……、夢の中でいったい何やってんの?」
 結論、龍ノ紫刀はそうほっぺたを指で突っついてみることにした。プニプニである。
 なんだか楽しくなってしまう龍ノ紫刀だが、その表情が険しくなったことに気が付いて指を止める。

「ごめんね……」

 龍ノ紫刀は息をのんだ。その目尻に涙が浮かんでいる。
「守ってあげられなくて……ごめんね」
 龍ノ紫刀は一瞬目を閉じる。その涙の理由、意味それを彼女は知っている。
 だからこそ、いま彼女が何を夢見ているのか、容易く想像がついてしまった。
「全く、朝からなんて夢見てるのよ娑己様」
 今起こしてもよいものか、龍ノ紫刀は数瞬ためらったのち、台所へと踵を返す。トースターにパンを放り込み朝食の準備を始める龍ノ紫刀。
 娑己は最近運動量が増えたせいか、食欲が増したと普段から言っていた。
 毎朝朝ごはんの匂いを嗅ぐと起きてくる彼女だ。きっと朝ごはんの匂いで悪夢からも覚めるだろう。そう期待して龍ノ紫刀は朝食の準備を続けた。


第一章 リンカーになってからのその後

 リンカーの仕事とは何も愚神やヴィランと戦うものばかりではない。
 中には迷い猫をリンカーの力で探したり。
 商店街の復興に力を貸したり。
 霊力のせいで起きた珍事件を解決したり。
 そんな感じの、危険度の低い仕事も多岐にわたる。
 そして今回の娑己の任務は、迷い英雄の保護である。
「ま、まってくださーい」
 街中を共鳴状態で疾駆する娑己。
 彼女は住宅街を駆け。商店街を疾走し。ついに迷い英雄を公園まで追い込むことに成功したが。
 ここにきて英雄はスピードを上げたため、追いつくに追いつけないという状況が発生したのが今である。
「うう、私そろそろ体力の限界なんですけど」
――頑張って娑己様!

 公園のはらっぱを疾走する猫耳英雄。その体長一メートル程度しかないその英雄は今にも消えかけている。すぐに契約者を見つけないと、存在自体が危うい。
 しかし、前の世界で何かひどい目にあったのだろう。
 エージェントたちを一切信用しようとせず、追ってくる娑己を振り返った時もその瞳に恐怖が滲んでいた。。
「英雄さん! このままじゃ消えちゃいます」
 娑己は髪を振り乱して、障害物を乗り越えながら英雄を追う。
 胸が激しく揺れて運動しにくそうではあるが。それに負けず娑己の動きは俊敏だった。
「よっ」
 そうテーブルを飛び越える娑己。テーブル下や、障害物の隙間を縫って進む英雄を捉えるには、逆に障害物を飛び越えるしかないのだ。
 しかし、その障害物競争は慣れていないと相当にきつい。
「もう! いいかげん止まって、ひゃあ!」
 直後、テーブルに足を引っ掛け、空中で一回転する娑己。その後彼女はゴミ箱に突っ込んだ。
 そして、はぐれ英雄は音でそのことに気が付き一瞬止まる。
 その時だった、突如英雄の足に絡みつくウィップ。
 それが引っ張られ、土だらけになる英雄。
「おい、いたぞ!!」
「やっとみつけた!」
 その呼びかけに応じて集まってきたリンカーたち。
 計3人の男たち。
「こ、怖い、やめてよ、来ないで」
 英雄の悲鳴が聞こえる、それに構わず男はその首根っこを捕まえようと手を伸ばす。
「よし、これで帰れるな、疲れた……」
「やめて、ひどいことしないでよ」

「お待ちください」

 そう、その場に響いたのは嫋やかな声。
 その声を追ってみると、そこには娑己がいた。
 鈴としたし佇まいと強い視線に、男たちは手を止める、同時に、その姿にくぎ付けにされているはぐれ英雄。
「怖がっているでしょう? それではだめなんです、それでは……」
 そう娑己は英雄に歩み寄り、膝を折ると目線を合わせて英雄に言った。
「私は娑己。よろしくね」
「いや、いやよ。こわいわ。こわいわ」
 目に涙をため、四つん這いで丸まって、その英雄は体を震わせていた。
「大丈夫です。私は、あなたに危害を加えることはしません」
 そう手を伸ばす娑己。
――娑己様……
 龍ノ紫刀は危険だと、その手を止めようとした。しかしそれを察したのか娑己は。
「大丈夫です」
 そう言った。
 そして伸ばされる娑己の手、英雄の視線の下から手の甲を見せるように、ゆっくり腕を伸ばして、震える英雄の手を下からすくう。
 その指先はつめたく、震えが伝わってきた。
「もう大丈夫、大丈夫ですよ」
 そう手のひらを反して。英雄の手を取ると。
 意外にも英雄はそれを受け入れた。
 それを感じ取った娑己は、温めるように、英雄の手を両手で包み込んだ。
「怖かった、こわかったよぉぉぉぉ」
 そう娑己に飛びついて涙を流す英雄。
「大丈夫です、私たちは敵ではありません。大丈夫、大丈夫」
 あとで話を聞くと、彼女はこの世界に来る直前まで何かと戦っていたらしい。
 それが何かはわからない。
 だが彼女は敗北し、大切な物を失いここに来たらしい。
 そこで龍ノ紫刀はやっと彼女の怯えぶりを納得した。
 誰が敵だかわからない状況とは神経を削るものだ。
「娑己様、すごいなぁ」
 そして、そんなささくれだった英雄と一瞬で仲良くなってしまった娑己を眺めて、そう龍ノ紫刀は感服のため息をついた。

   *     *

「娑己様、無事あの子契約者が見つかったって。よかったね」
「一件落着です!」
 そううれしそうに笑う娑己、その娑己に龍ノ紫刀はさりげなく御饅頭を手渡した。
「どうしたの?」
「お腹すいているかと思って」
 それをホクホク顔でいただく娑己であった。
「一件落着と言ってもねぇ。今日はさんざんだったわ、娑己様が道は間違うし、勢い余って民家に突っ込むし。バナナの皮頭に乗っけたまま英雄と話しようとするし」
 その発言に驚き、饅頭を喉に詰まらせる娑己である。龍ノ紫刀からコーヒー牛乳を受け取って饅頭を流し込む。
「娑己様ってば……。今日もあたしがフォローしなかったらやばかったんじゃない?」
「あは、ありがとう〜、助かったよ〜!」
 このひとは本当に……。
 そう龍ノ紫刀は思案する。
 何にも一生懸命で、困っている人を放っておけなくて。でも自分のことは二の次で。詰めが甘くて。
 姫巫女様と比べると危なっかしくて見ていられない。
 そう、龍ノ紫刀にとって彼女は足りないところが目立つが。彼女は彼女で一生懸命やっている。成長もしている、だからあとの足りないところは自分が補っていけばいいかと結論付けた。
「なんで笑っているの紫?」
 こんな日々がずっと続けばいいなと龍ノ紫刀は願った。

第二章 戦うという決意。

 そんな生活の合間H.O.P.E.の掲示板まで足を運ぶ娑己。
 もうすっかり学校帰りや休日にここに足を運ぶことに慣れた二人だったが。
 それ故に見慣れない色の紙が掲示板に張られていることに気が付き、足を止める。
 そこは俗に地獄ゾーンと呼ばれる掲示エリアだ、本来の名称は、緊急募集掲示板。
 ここに張り出されている依頼は一刻の猶予もない、その割には、参加者が少ない。誰からも嫌われたミッションばかりが並んでいる。
 難易度の高さ、敵の強さ。負傷度もさることながら、一番嫌われる理由が。
 すでに犠牲が出ているところからミッションが始まる点だ。
 ここに掲示されているミッションはすでに事が始まっている戦いであり、つまり後手であり。
 確定で苦い思いを味わうことになる。無力をかみしめることになる。
 そんなミッションばかりなのだ。
 そしてさっきから娑己は、そこに張り出された一枚の紙を眺めて動かない。
「娑己様何をみてるの?」
「なんでもないよ紫、いきましょう?」
「まぁ。いいけど」
 そう言いつつも、上の空の娑己。御飯もあまり食べていない。
 龍ノ紫刀はさっきの件だろうなと、薄々感づいてはいたが、彼女の口から言葉がでるまで待つことにした。
「実はお願いがあるの」
「さっきの掲示の件?」
 龍ノ紫刀が間髪入れずにそう言ったので、あからさまに慌てふためく龍ノ紫刀。
「危ないよ、それに人死にが出るかもしれない」
 わずかに目を泳がせる娑己。迷うように指を組んだり話したり、そして瞼を下ろして彼女は、うん。と言った。
 そして次いで龍ノ紫刀を見たときはいつもの娑己の目ではなかった。
 決意を湛えた。凛としたそのまなざしを受け、今度は龍ノ紫刀が息をのむ晩だった。
「戦うのは、嫌いだよ。けど守るだけなら、できる」
 そう告げると娑己は席を立つ、勢いよく立ったその肩を龍ノ紫刀は掴んで座らせる。
「私、行ってくる……!」
「武器も持たないでいく気?」
 あ、っと驚いたような表情を見せる娑己。
 何も考えてなかったらしい。
「甘いよ娑己様。きっと娑己様は何も持っていなくても人を救えるんだろうね。けど人を救って娑己様が倒れたら、何の意味があるの?」
「それは……。でもだからって、見過ごすわけにはいきません。絶対無事で帰ってくるから、だから!」
 そう熱くなった娑己へ龍ノ紫刀は無言で一振りの刀を差しだす。
 そして龍ノ紫刀はわずかに刀身を抜き、ぎらつく刃を見せつける。
 それを見た瞬間娑己は首をふった。
「私、みんなを守りたいだけで……!」
「傷つけたいわけじゃない? でも相手は違うよ、あっちは守る気もなければ傷つけることをためらわないよ。そんな人たち相手に娑己様どうするの?」
 龍ノ紫刀は思い出す、娑己の袈裟の涙、そして龍ノ紫刀はその理由をやんわり察していた
「こんなことは言いたくないけど、この際だからはっきり言うね。人は死ぬってこと……理解してるよね?」
 龍ノ紫刀による無言の圧力、それを振りきって娑己は刀へ手を伸ばす。
 その時だった。

 娑己の脳裏に蘇る光景。
 悲鳴と、ぎらつく刃。
 流れる鮮血と。光を失う。親友の瞳
 抱きかかえたその子の体は徐々に熱を失い。唇は紫に代わり。
 気がつけば、体は固くなり、冷え切り。こびりついた血が、ぱりぱりと音を立てて剥がれて。
 視界の端に、彼女の命を奪った日本刀が見えた。 

「……娑己様はホントに優しいね。でも優しさだけじゃ守れないときもあるんだよ」
 その言葉に我に返る娑己。わかっている、そう喉まで出かかった言葉。
 刀を握る手が震える。
 けど、けど。
 刀がカタカタと音を立てて震えた。
「…………っ!」

「本気なんだね」

 そう龍ノ紫刀は娑己の手を上から包むように握った。二人で一本の刀を握る。
「……大丈夫、安心して、大丈夫」
 そう告げた龍ノ紫刀の瞳は優しかった。
「娑己様なら絶対に間違った使い方はしない」
 龍ノ紫刀は思う、新しい主は、姫巫女様とは全然違う。
 道は間違うし、おっちょこちょいだし、いざというときにぬけたことをするし。のんびりさんだし。過去救えなかった人のために涙を流す。
 そんな普通の女の子だ。
 だけど龍ノ紫刀は彼女を今までずっと見続けてきた。
 困難が立ちはだかってもあきらめず。どんな時でも心というものを考えることやめない。
 優しい人だ。
 そして龍ノ紫刀は思うのだ。それこそ刃をとってもいい者の条件だ。
 龍ノ紫刀は刀だ。姫巫女様を守るための刀。その証拠に大切な姫巫女様から賜った自分の名前にも刀の一文字が入っている。
 だからこそ断言できる。
「あたしはそう信じてるよ。娑己様。あなたはこの力を、私をただしく使える。心配しないで、自分を信じて」
「紫……」
「それに、お馬鹿な娑己様にはあたしがついてるじゃん。いつもフォローしてるでしょ? 任せてよ!」
「もぅ、また馬鹿って言った! でも……ありがとう!」

第三章 そして一振りの刃となりて

 戦場は激化していた。とある国の、とある村で。村役場のような大きな部屋に立てこもってリンカーたちが戦闘していた。
 敗色濃厚、すでに多くのリンカーが傷ついて動けなくなっているのに対して、ヴィラン達はまだまだ余裕の表情だった。
 追い詰められるエージェントたち、頼みの綱のメディックの肩口が大きく切り裂かれ、メディックは転倒する。
「助けてくれ!!」
 そうメディックが叫んだ瞬間。
 彼らの目の前に躍り出る清廉な巫女服の女性。
 彼女は鞘から刀を抜き放ち、そしてその切っ先を敵へと向ける。
 しかし、それは傷つけるためではない。
「この戦場から去ってください、私はあなた達を許します」
「何を言ってんだクソ女。さっさとどきやがれ!!」
「どきません!」
 少女は間髪入れずに言葉を返した。
「この子、怖がってるじゃないですか!」
 その言葉を聞いたとき龍ノ紫刀は苦笑いした。
――それ、私と初めて会った時のセリフじゃん
 けれどあの時と違って娑己は震えてはいなかった。
「もう、誰もつらい目には合わせません。そのために力を貸して紫」
「ええ、一緒に戦いましょう娑己様!」


エピローグ。

 その戦闘では奇跡的に死人は一人も出なかった。
 その代りにボロボロに傷つき疲れ果てた様子の娑己。
 ただ、その表情は晴れやかだった。
「誰も、死なせませんでしたよ」
「うん」
「相手も、誰も殺しませんでした」
「ああ、立派なことだと思うよ娑己様」
 そう龍ノ紫刀が告げると、疲れのあまり娑己は眠りに落ちた。
 その体を優しく抱き留める龍ノ紫刀。
「よく眠って、また明日元気な姿を見せてね娑己様」
 そう、優しく龍ノ紫刀は娑己の頭を撫でた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『龍ノ紫刀(aa2459hero001) 』
『天都 娑己(aa2459) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。鳴海です。
 OMCご注文ありがとうございました。
 今回は前回からの続きということで、二人の歩み寄りをテーマに描いてみました。
 けっこう構成を悩みましたが。娑己さんを見ている龍ノ紫刀さんという視点で。
 娑己の性格や思考を理解していくという形をとりました。
 お気に召しましたら幸いです。
 それでは、今回はこのあたりで。
 FLまでありがとうございました。鳴海でした。
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2016年07月20日

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