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『● 』
飯野雄二aa0477)&淡島時雨aa0477hero001
 東京に無数のサイレンが鳴り響く。大通りは常に数台のパトカーが駆けまわり、道路は事実上封鎖されているようなものであった。一般車両が通ろうものなら、パトカーを避けるのに道路の端を日進月歩で進まなければならない。
「……まるでこの世の終わりみたいだなぁ」
 路地裏に停めた車の窓から、飯野雄二(aa0477)は空を仰ぎ見る。サイレンは絶え間なく聞こえ、時折、路地も通っているのか近づいては離れていく。ここが見つかるのも時間の問題だろう。
「さて、どうすっかなぁ」
 後ろを振り返れば、菓子を食べている幼女がいた。この騒動の渦中の人物、大厳寺まい(NPC)である。誘拐されたものの、何とか逃げ出してきたところを雄二たちが保護した。
 本来であれば警察に届け出るのだが、雄二たちは彼女から依頼を受けてしまったのだ。その依頼の内容は、まいをパパのところまで送り届けることである。お菓子を食べ、ジュースを飲み、まいは運転席にいる雄二を見上げる。
「おうち……まだ?」
「まいちゃん、知恵の輪が解けたらパパに会えるよ」
 助手席に座っていた淡島時雨(aa0477hero001)が、脇に置かれていた知恵の輪を指差して告げる。
「本当?」
「本当だよ」
 まっすぐにまいを見つめ返して、時雨は頷く。隣で表情を曇らせた雄二を肘で小突く。不安を悟らせないように、雄二は前を向く。地図アプリを取り出してルートを考えるが、妙案は思いつかない。
 都内に入れば、あとは彼女の自宅に行くだけ……そう楽観視していた自分を呪いたい気分だった。
「やっぱり、自宅は無理だな」
 時雨にだけ聞こえるように、雄二は声をひそめる。
「それじゃあ、約束が違うよ。雄二」
「あのなぁ、少し前に起きたことを思い出してみろよ」
 時雨の抗議に雄二は、ため息を吐く。今鳴り響くサイレンの音が、記憶と混じって一層大きく感じられた……。


 都内に意気揚々と乗り込んだ雄二たちは、まいの自宅を目指すべく大通りを走行しようとして……後悔をした。少し広い道に出れば、警察官が巡回しておりパトカーも走っている。気がつけば再び数台を引き連れて、走るはめに陥っていた。
「予想してしかるべきだったな」
「予想していなかったとは思わなかったよ」
 雄二の半笑いの感想に、時雨がサイドミラーを覗きながらいう。サイドミラーには右往左往しながら、雄二たちを追いかけるパトカーの姿があった。
 どこから出現するのか、次第にその数は増えているようにも見えた。
「彼女を届けられれば、依頼は解決だ。このまま行くぞ!」
「ねぇ、もし塞がれてたら……撃っていい?」
「いや、それはダメに決まってるだろ。警察は、敵では、ない、いいな?」
 今は敵みたいなものじゃん、という時雨の言葉は聞き流す。目を凝らせば、狭いトンネルを潜り抜けた先に行き止まりが見えた。アクセルを踏み込み、あえて速度を上げれば、後続のパトカーも釣られてスピードを上げていく。
「捕まってろよ?」
 時雨とまいにそれだけを告げ、ハンドルを思いっきり回した。壁にぶつかるラインを見極め、ドリフトをかましたのだ。パトカーの何台かが横転し、後ろで幾度と無く破壊的な金属音が聞こえてきた。雄二は、「さて」と気持ちを切り替えて、後ろは気にしないことにした。
「あーあ」
 サイドミラーでその惨状を確認した時雨が、声を上げるのだった。
 結局、まいの自宅に近づけば近づくほどに警察の数は増えていく。時には狭い路地を無理から通り、警察のバリケードを飛び破って逃げる。
「塗装だってタダじゃないんだぞ!?」
 ガリガリと装甲が削れ、バコバコと揺れる車の中で、まいが知恵の輪に飽きるのも仕方ないことだった。

 だが、もうすぐ知恵の輪は再開される。それが解けるとき、父親に会えるとまいは信じている。依頼人と交わした契約を破るわけにはいかないのだ。


「よし、自宅はあきらめよう」
 雄二はバックミラーに映るまいが、知恵の輪を手にしたのを見て意を決する。
「え、じゃあ、どうするの?」
「まいの父親が勤める会社に行く。誘拐犯共が何を要求したのかはわからないが、身代金にしろ父親の仕事関連にしろ……一個人じゃ対応できないだろうしな」
「つまり雄二は、まいちゃんの父親が会社にいる可能性が高いと読んだわけだね」
 頷くと同時に雄二は携帯を時雨へ手渡す。
「そろそろ出発しよう。時雨は父親に連絡を取ってくれ……くれぐれも誤解をあたえないでくれよ?」
「大丈夫、大丈夫。ボクにまかせてよ!」
 明るい時雨の声に嫌な予感がする。その予感が現実のものとなるのは、ものの数分後のことであった。

「もしもし、ボクは淡島時雨というものですが……大厳寺様をお願いできますか。えぇ、はい、事情は知っています。むしろ、そのことで伝えたい事があるのです」
 おそらくは手が離せないとでも言われたのだろう。まいが直通電話を知らなかったため、代表番号にかけざるを得なかった。会社側がどこまで把握しているのかは、わからないが、父親が電話に出てくれれば一番はやい。
「大厳寺さんですね。えぇ、誘拐の件でお話がありまして……娘のまいちゃんは現在、ボクたちが保護しています。あなたのところにお連れしたいと……え、いえ、違います!」
「どうした、時雨?」
 電話口の向こうから、怒号が飛んできているようだった。気にはなるが運転早々に警察に見つかり、雄二は構っていられる余裕が無い。聞いては見たものの、時雨は必死に違いますとだけ答えていた。
「あ……やばい」
 ツーツーツーという音が虚しく携帯から聞こえてくる。何が起きたのかは想像に難くないが、それでも聞かざるをえない。
「何が、起きた?」
「えっとね。誘拐犯と勘違いされて……私の全戦力で貴様らの手から娘を取り返してやるぅって力強く宣言された」
「戦力って……あぁ……」
 パトカーの追走を振り切り、幹線道路へ出る。雄二は思い出したように、そういえばと呟く。
「あの企業って仄暗い噂があるんだよなあ」
「噂?」
 あぁ、と雄二は後部座席のまいを気にしつつ、声を落として告げる。
「なんでも、非合法なことをさせる私設部隊を保有しているとか……な」
「でも、噂なんだよね。たとえいるとしても、東京でそんな部隊を投入するなんて普通は考え……」
 そこまで言いかけて、時雨は素早く後ろを振り向いた。バックガラスの向こうに一台の真っ赤なスポーツカーが見えた。とっさに、雄二、と声をかけてバックミラーを見るように促す。雄二が確認すると同時に、スポーツカーの窓から腕が出てきた。その手には銃が握られている。
「雄二! 避けて!」
「言われ、なく……てもっ!」
 時雨の声に応じて、雄二はおもいっきりハンドルをきった。タイヤが道路を擦る音に続いて、銃声が響く。続けて二発、三発と銃弾が飛ぶ。車はブレーキ音を立てながら左右に移動し、後部座席のまいが小さな悲鳴を上げた。
「おい、時雨。あいつらバカか!?」
 まいの回収が目的にも関わらず、火器を使用してきた相手に雄二は声を荒げる。
「バカなんだと思うよ。何か、揉めてるみたいだし」
 そうやら部隊の中でも、気づいた人間がいたらしい。フロントガラスの奥で、数人が拳を振り上げているのが見えた。やや知能指数の足りない集団なのか、こういう保護任務に慣れていないのか。悩ましいところだ。
 だが、今はその揉め事を最大限に利用しよう。
「さぁ、おあつらえ向きのものが見えた」
 サングラスの位置を直し、雄二はぐっとアクセルに足を入れる。頭を押さえるように注意をしながら、スピードメーターが上がっているのを確認する。
 目の前に現れたのは、今日何度目だろうか。もはや都内のいたるところに用意された検問とバリケードだった。堂々とぶち破るのか、と思いきや傍らに落ちていたバリケート材料にタイヤをかける。
「またなの!?」という時雨の問いかけに、「何度でも、派手にやるさ」と雄二は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。嫌な予感に汗を浮かべた時雨は、次の瞬間に軽い無重力体験をした。
 車がまっすぐに跳躍し、身体が浮いたような感覚を得たのだ。そして、ドンと強い衝撃が尻から頭にかけて突き抜ける。
「もう! 警察はバリケードの台を放置するのやめてほしいよ」
 時雨の文句を掻き消すように、後方から盛大な事故を示す爆発音が聞こえてきた。どうやら揉めている間にスポーツカーは警察の中へ突っ込んだらしい。せめて、死傷者が出ていないことを願うばかりだ。
「それにしても、パトカー増えてないか?」
 軽快にパトカーを引き連れながら、雄二はふと疑問を口にする。バリケードを抜けてから何度かドリフトをかまし、路地をすり抜け、その台数を減らしたはずのパトカーが、むしろ増えていた。
「あー、もしかして……さ」
 助手席で辺りを見渡していた時雨がふと思いつきを口にする。
「全部出てきていたたり?」
「全部って、パトカーが全部ってことか。まさかな」
「ありえないと思う?」
 二人で後ろを振り向けば、まいの向こう側に百台近いパトカーの群れがいた。そういえば、しばらくパトカーによるバリケードには遭遇していない。
「もし本当にそうなら」
「そうなら?」
 時雨の問いかけに、雄二は笑い声を発しながら、東京の道を駆け抜けていく。
「このまま連れて行っちまおうか」
 視線をくべれば、まいの父親がいる会社が見えてきた。全面ガラス張りの超高層ビルだ。見覚えのあるロゴマークにウィンクして、雄二は力強くまいへ告げる。
「さぁ、もうすぐお父さんに会えるからな!」
 東京をけたたましいサイレンの音が包み込む。
 一世一代のカーチェイス、クライマックスはもうまもなくだ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【飯野雄二 (aa0477)/男/22/種族:人間/クラス:生命適正】
【淡島時雨(aa0477hero001)/女/18/クラス:ドレッドノート】
【大厳寺まい(NPC)/女/?/誘拐された幼女NPC】

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2016年07月26日

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