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『光の袂へ 』
無月aa1531)&ジェネッサ・ルディスaa1531hero001


第一章 潜入
 世界をどれだけ光が満たしたとして、そこに人がありものがあれば影が生まれる。
 夜でさえそうだ。それは地球の大きな大きな影。
 何かが存在し光がある限り、また影も存在する。
 そしてその陰、闇は。光の袂に出られないか弱き者の巣窟となった。
 悪とは常に、か弱き者を貪り食って存在するものだ。
 『無月(aa1531)』はその陰の中で生きるものだった。
「ヴォイド聞こえるか?」
 作戦のためのその場限りの名前が、インカム越しに呼ばれる。
「感度良好だ。これより潜入ミッションを始める」
 虚無(ヴォイド)そう呼ばれた彼女は、そこにあってない、闇に潜む忍びの者だった。公にできない仕事を組織から請負遂行する、その繰り返しが彼女の日常である。
「今回のミッションで君に手に入れていただきたいのは、彼らが市場にばらまいているクスリの輸入先の情報、そしてその物をばらまいている人間たちのリスト」
「ああ、わかってる」
「期待しているぞ、ヴォイド」
 今回もいつもと同じ潜入任務、それは彼女の得意とするところであり、しくじったことは一度もなかった。
 今回も万全の準備を敷いてある。抜かりは一切ない。
 そのはずだった。
 しかし。
 ダクトを進んでいた無月が降り立った場所は、何もない倉庫のような場所。
(なぜ、地図上ではここが)
 組織幹部の執務室だったはずだ。なのにどうして。
 そう混乱する彼女に、網膜を焼くような強い光が浴びせられる。
 まともに顔をあげられない状態になった。
「く!」
「あんたが、無月か」
 下卑た声が倉庫内に響き渡る。それに続くように男たちの笑い声が聞こえた。
(なぜ私の名を……)
 そう思った瞬間に、体は動いていた。
 ダクトの中に逆再生でも見ているような、スムーズな動きで戻る。
 ダクト越しに蜂の巣にされてもたまらないので、ここはいったん引こうそうおもった瞬間だった。
 その倉庫内に銃声と。そして。
「いたあああああああああああいよおおおおおおお!」
 子供の泣き声が響いた。
 思わず動きを止める無月。
「おら、人の話は聞くもんだ。おとなしくしねぇとここにいる子供全員ぶっ殺しちまうぞ」
「おかあああさん!たすけて、たすけて!」
 無月は拳を握りしめた。
「反応がねぇな、よし、殺せ」
 次の瞬間、ダクトから苦無が飛んだ。
 視覚ではなく音を頼りに放たれたそれは、驚きで銃身をそらすには十分だったらしく、肉をえぐるような音は聞こえなかった。
 そして、無月は子供と銃を持った男の間に入る。
「めが、見えてねぇな」
 光を当てられれば闇は蒸発するのが定め。
 無月は強い光で一時的に視力が弱まっていた、こんな状態で銃を持った男たちの間に入るのは自殺行為である。
「だが、君ならそうすると読んでいた」
 直後間近で聞こえたのは、聞き覚えのある声。
 というより、先ほどからインカム越しに無月をナビゲーションしていた声ではないか。
「上官……。あなたが裏切ったのか?」
「私が裏切ったのではない、君が裏切ったのだ。表向きはな」
 奥歯をかみしめる無月、組織内に自分を疎ましく思っている物がいるのは知っていたが、このような強硬手段に出るとは思わなかった。
 つまりは、罠にはめられたのだ。
「連れて行け」
 無月はそのまま、独房に連行された。
「明日からお前は、死こそが希望って人生を送る羽目になるぜ」
 そう誰かが言ったのが、妙に耳についた。

第二章 奇襲

 牢は地下にあり、八つある牢屋は満杯だった。そこには子供、大人多種多様な人種が無差別に押し込まれている。
 彼らは皆、組織に逆らったもの、もしくはその関係者なのだろう。
 その一室に無月は叩き込まれた。
「待ってろ、すぐに準備をして戻ってくる」
 無月の両腕は縛った腕、二十キロはあるのではないかと思われる手錠をかけられていたし。足は壁から伸びる鎖で繋がれていた。
 これでは逃げようがない。
 さらに隣から子供のすすり泣く声が聞こえてくる。ここで自分が逃げればこの子たちはいったい、どうなるのか。
「いたい、いたいよう」
「……必ず」
 無月は淡々と告げる。
「必ず助けてやる、だから泣くな」
 その時である、突如牢の扉が開いた。
「来い、お前に会いたい人がいるそうだ」
 そう無月が案内された先は、拷問部屋だった。
 まず無月は十字架に磔にされ、電流が流れる棒でしたたかに体をうたれた。
「ぐぅ……、がっ」
 しかし無月は顔をしかめるだけで悲鳴は上げない。
「この程度ではだめか……」
「……っ。上官」
 無月は自身の司令塔だった男を見据えて言葉をかけた、その表情は今まで見たこともないくらいに歪んでいる。
「電気ではだめだ、鞭でうて、その後塩水に浸してやる。まずは痛覚というものが何だったか思い出させてやるんだ」
「こんなことをしてなんになる。上官」
 無月は問いかけた。
 なぜ、なぜ彼が、組織が自分を売ったのか、想像もつかなかったのだ。
「決まっている、私がお前を嫌っているからさ」
 その時唐突に無月の両手の拘束が外される、四つん這いに地面へ落された無月だったが、電気のせいで全身がけいれんし。思ったように動けない。
 その無月の横っ面を上官は札束ではたいた。
「これはな、お前をこの組織に売り渡したかねだ。本当はこんなものはいらんくらいに懐は温かいのだが。くれるというのだからもらっておこうと思ってね」
「…………」
「私はな。お前が心の底から気に食わなかったんだよ!!」
 上官は語った、今までの無月の行いがどれだけ不快だったか、自分の邪魔だったかを。
「何が助けだ。手を血で染めるのを恐れているだけではないか?」
 そう無月の上で札束の紐を解く。床に散らばった紙幣、その印刷された人の目が無月を見つめている。
「ははははは! ひろえ、一枚拾うたびに一人殺すがな、一枚でも拾えばお前を助けてやるぞ」
「……」
 無月はそれを茫然と見つめているだけで何も言わない、そう、なにも。
「つまらん、死なない程度に殺せ」
 そう上官は拷問部屋を後にした、無月は、ありとあらゆる、精神、そして肉体へ苦痛を与える処置が、夜を徹して施された。
 
第三章 拷問
 
 地下では日のめぐりが感じられない、拷問の最中ではどれだけの時間が過ぎたかもカウントできない。
 時間の感覚を失えば、あとに迫るのは、この時こそ永遠なのではないかという錯覚。
 しかし無月はその錯覚に支配される前に独房に戻ることを許された。
 理由は単純。拷問していたもの達が音を上げたためである。
 無月はまるで粗大ごみのように独房にもどされた。
 それから、無月は混濁した意識の中脱出の方法を模索する。
 まだ無月は諦めていなかったのだ。
 だけど、いつも同じ結論にたどり着く。
 じぶんひとりであれば可能だが、この牢屋にいる人質全員を助ける方法は、ないということに。
「おねえちゃん」
 その時、声が聞こえた。
 隣の牢から。少女の声が。
「お姉ちゃんだいじょうぶ?」
 小さな手が牢の向こうから伸ばされる、その手を無月はとった。
「大丈夫だ、心配ない」
「お姉ちゃん……」
 温かい、血の通った人間のてがそこにある。
 そう思えば自分は頑張れる、そう無月が体を起こそうとしたとき、牢の扉が開いた。そしてあの声が響く。
「まだ救おうとしているのか……」
 あわてて手を引っ込める少女、しかし無月はその手を戻さなかった。黙って無月は上官を見あげる。
「その目だ、生意気だ」
 そう上官は無月の手を踏みつける。
「いいだろう、お前を聖人と同じ扱いにしてやる。こい」
 彼の指示によって拷問は別の形にシフトされた。
 まったく労力がかからず、なおかつ長時間楽しめるものに。 
 無月は磔にされた。
 両掌と足を食いで打たれ放置された。
 この体性では自分の体重を少ない点で支えることになる。結果肋骨に負担がかかり、やがてそれが折れると各内臓の荷重がかかって機能が狂う。
 磔刑とは人を緩やかに死に向かわせる、絶望深い罰なのだ。
 無月も数日もすれば鎖骨も折れ、肩の筋肉はズタズタになり、ついに器官を締めるようになっていた。
 酸素不足の脳で彼女は考える。
 あの少女を、助け出してやりたかった。
 光あふれる場所に帰してあげたかった。
「あの子は、輝く太陽の下ではどのように笑うのだろうな」
 ついに無月に限界が訪れる。
 その意識は死神に吸われるようにどんどん遠ざかっていき、その体が前に傾いだ。
 やがて地面が迫り衝突すると思った瞬間。
 無月は柔らかい腕に抱きとめられていた。

第四章 反撃

 無月は全身に走る激痛で目が覚めた。
 そしてすぐに異変に気が付く。
 自分は冷たい床の上ではなく、温かい布団の上に寝ている。そして全身の傷が治療されているではないか。
「ここなら安全さ。幹部を脅して部屋を奪った。だから監視カメラもないし、君がいない理由も彼がうまいことでっち上げてくれた。少なく見積もってもあと二時間は大丈夫だ」
 そう語りかけてきたのは中性的な声。
「あなたは……」
 思わず無月は問いかける。
「僕はジュネッサ……」
『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』
「私を助けてくれたのか?」
「あいつらの仲間ではないから安心して」
 そうジュネッサが手を貸すと無月は半身を起こす。
「あとはここから逃げるだけだね、見たところ君も心得がある様子、体力が戻れば、そう難しくないかな、けが人にこんなことを言うのは心苦しいのだけどね」
「いや、私は」
 間髪入れずに無月は答える。
「人質が心配だ。私は彼女らを助け出さねばならない」
「その体で?」
「傷ついていてもやらなければならない」
「一人で?」
 無月の脳裏に上官の言葉が蘇る。
『金や権威に媚びず常に弱者の声を優先し、決して命を奪わず外道でさえ救うべき、そう訴える君はとても目障りだった』
 もし自分が組織から捨てられた理由がそれだったとしても、無月はいまさら自分の生き方を変えられない。
 助けを求める声を無視することなんてできない。
 そう無月はジュネッサの言葉に力強く答えた。
「私はいく、助け出してくれたことには感謝している、だが、私は」
「だったら、ボクもいこう」
「…………なに?」
 一瞬無月は耳を疑った。
「いや、ボクも行くよ。君と同じ状況でも僕は君と同じことを言うと思う」
「だが、見ず知らずのあなたを、しかも……」
「ジュネッサ」
「ジュネッサさんを巻き込むわけにはいかない。しかも命の恩人で」
「僕、君たちで言う英雄なんだ、そして君とは契約ができるみたいだ」
 ジュネッサは頷く。
「僕らが力を合わせればきっと倒せる」
 そう二人は頷き握手を交わす。
「君の名前は」
「私は、無月と呼ばれている」
「無月君か、これからよろしく」
 そして組織は突如現れた一人の忍びによって壊滅まで追い込まれる。
 当然人質も全て解放し、道すがら無月は笑った。
「初めて君の笑顔を見たよ」
 ジュネッサが言う。
「む、笑ったか?」
「ああ、彼女たちを見て笑ったよ」
 その視線の先には光の袂に出て、うれしそうに生を謳歌する解放された人質たちがいた。
「H.O.P.E.へ行こう、君の生き方はそこにふさわしい」
 その言葉に、無月は頷いた。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『無月(aa1531)』
『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 OMCご注文ありがとうございました。
 今回のお話、昔あった聖女依頼での無月さんのプレイイングも参考に描きました。
 表面上は固い、冷たい。けれど母性溢れる無月さんをうまく描くことができていたら幸いです。
 さらにビギニングノベルということで、ドラマ性を意識してみました。
 楽しんでいただければ幸いです。
 では、またお会いしましょう、鳴海でした。
 ありがとうございました。

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2016年07月27日

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