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『おつかい道中ほのぼの二人旅 』
ガレアス・クーヴェイka3848)&モーラ・M・ホンシャウオka3053


 冒険都市リゼリオの一角に店を構える大衆酒場「海神の憩い場」は、大抵の酒場がそうであるように昼時は食堂としての顔を見せていた。
 新鮮な海の幸を使った料理は客の評判も上々で、夜の時間帯でさえ酒よりも料理を目当てに通ってくる常連客も多い。
 そんなお得意様のため、店ではいつもその日の朝に獲れた新鮮な食材を過不足なく仕入れていたのだが――

「ふむ、それは困ったのう」
 店で働く厨房係の仲間に話を聞いたガレアス・クーヴェイ(ka3848)は、その太い眉をハの字に下げた。
 今日は夕方から団体客の予約が入っているという。
 それ自体は喜ばしいことなのだが、問題は彼等のリクエストだ。
「やっこさん達、どうしてもこの店の海鮮カルパッチョが食べたいって言ってね」
 それは今が旬のクロダイをメインに、イカやタコ、クルマエビなどと野菜を合わせ、特製のソースをかけた「海神の憩い場」自慢の一品だ。
 ところが急な注文だった為に、肝心の食材が足りなくなってしまったのだ。
「ウチとしても材料がないから提供出来ませんなんて事は言いたくないし、これから誰かに遣いに行ってもらおうかと……」
 そこまで言って、彼は目の前で人の好さそうな笑みを浮かべているガレアスをじっと見た。
「ガレさん、あんたヒマかい?」
 他にすることがないのか、それとも店の空気がことのほか気に入っているのか、ガレアスはいつも本来の勤務時間よりもずっと早く店に出て来る。
 寝ている時を除いては、殆ど全ての時間をこの店で過ごしているのではないかと思えるほどだ。
 今もまだ勤務時間ではないはずだが、他に仕事がないなら好都合。
 彼をひとりで行かせるには不安がないでもないが、まあ市場まで行って帰って来るだけだし……大丈夫だろう。多分。
「悪いがひとっ走り買い付けに行ってきてくれないか、手当を弾むように、店長に言っといてやるからさ」
「なに、手当など要らんわい、わしで役に立つなら遠慮のう使ってくれて構わんよ」
 ガレアスは太い眉尻をますます下げて、ニコニコと相手を見る。
「悪いな、じゃあ必要なものはここにメモしてあるから……っと、これじゃ細かすぎるか」
 小さな字でびっしり書き込まれたメモを見て、相手は申し訳なさそうに頭を掻いた。
 ガレアスの目には、その文字がただのぼんやりとしたシミのようにしか見えないことは、この店で働く者なら誰でも知っている。
「じゃあ読み上げるから、それを覚えて――」
 そう言った瞬間。

 ごろんガランどっしゃんザバァーーーっ!

 何かが転がり水がぶちまけられる派手な音と共に、少しばかり緊張感のない悲鳴が響き渡る。
「ほぇあぁぁーーーーーーーっ!」
 店先に置いてあった掃除用のバケツに足をひっかけて転び、零れた水に流されるように店内にスライディングをかましたのは、従業員のひとりモーラ・M・ホンシャウオ(ka3053)だった。
「も、もうしわげねっス!」
 ついうっかりお国の言葉が出てしまい、慌てたモーラは転がったバケツを拾おうとして蹴り飛ばし、ますます慌ててそれを追いかける。
「あー、モラちゃん、そこはいいから、うん」
 モーラのダイナミック出勤には慣れているらしく、男はメモをヒラヒラさせて彼女を呼んだ。
「ちょっとガレさんに付き合ってあげてくれないかな」
 モーラをサポートに付ければ安心だろう、もし何かあっても二人なら……いや、この組み合わせだと余計に不安な気もするが。
 だって片や天然腹ペコと、片やおっとりどじっこですもの。
 しかし、それは気のせいだと思い込むことにして。


 かくして、二人は仲良くお遣いに出かけることとなった。
「えーと、必要な食材はクロダイ二尾とスルメイカ三杯、マダコ一匹、クルマエビたくさん……ここだけアバウトですね」
 並んで歩きながら、モーラはメモの内容を読み上げる。
 が、読むことに集中するあまり他のことに気が回らなくなってしまったようだ。
「ほい嬢ちゃん、市場はここを右じゃ」
 そう言ったガレアスの声も聞こえないらしく、まっすぐまっすぐ進んで行く。
「……ついでにイワシを20尾とバルサミコ酢、タマネギとパプリカも、だそうです」
 そこまで読んで、モーラは漸く顔を上げた。
「あら? ガレアスさん? 迷子ですか?」
 はぐれたのは自分の方であるという自覚は、もちろんない。
 どこに行ったのだろうときょろきょろするその真後ろから声が聞こえた。
「ここじゃよ、ここ」
「ひゃっ!?」
 まさかそんなところから声が聞こえるとは思わないモーラは思わず飛び上がり、その拍子にメモがヒラリと逃げて行く。
「あっ、待って……!」
 海からの風に乗って、ひら、ひらり。メモは軽やかに飛んで行く。
 暫く逃げ回ってようやく地面に降りたその紙を、誰かが拾い上げた。
「よォ、これ姉ちゃんの落としモンかい?」
 見るからに頭と育ちが悪そうな、しかし顔だけはそこそこ良い感じの若い男が指先でつまんだ紙をヒラヒラさせている。
 背の低い女の子なら、高く掲げたその紙には手を伸ばしても届かないだろう。
 しかしモーラはあっさりとそれを奪い返し、丁寧に頭を下げた。
「……あの、拾ってくださって、どうもありがとうございます。ご親切に、感謝します」
 普通ならこのあたりで、それが単なる親切ではないことに気付くだろう。
 しかしモーラは天然だった。
「姉ちゃんよォ、感謝すんなら言葉じゃなくて態度で示してくんねーかな」
「……はい……?」
 頭の下げ方が足りなかったのだろうかと、モーラは先程よりも深く頭を下げてみた。
「こう、でしょうか……?」
「姉ちゃんおもしれーな、気に入ったぜ。ナリはでけぇが、なかなかの上玉だし……どうだ、俺と付き合わねぇか?」
「あの、私はこれからお遣いに」
「いいじゃねぇか、そんなもん――」
 男がモーラの腕を掴もうとした、その時。
「うちの娘が、なんぞ粗相をしでかしましたのう?」
 のんびりとした、しかし何故か腹の底に響くような威圧感のある声がした。
 見れば、ガレアスが立っている。
 本当にただ、のほほんと突っ立っているだけに見えた。
 なのに、相手の男は小刻みに震えだし、じりじりと後ずさりを始めると――逃げた。
「ちっ、親父がいたのかよ」
 踵を返し、そんな捨て台詞を残して。
「あ、いいえ、この人は……」
 父親ではない、と言おうとした時にはもう、その姿は見えなくなっていた。
「今の人は何だったのでしょう……?」
 どう見てもナンパだが、本人は全く気付いていない様子。
「さぁて、なんぞ急な用事でも思い出したんじゃろ」
 目尻を下げて、ガレアスは手を差しのべた。
 ふらふらと飛び回る糸の切れた凧に、糸を付け直そうというのだ。
(「女子はあまりふらついておると危かろうの」)
 丈夫な革紐でもなく鎖でもない、ただの糸。
 切ろうと思えば簡単に切れる頼りない絆だが、風に吹かれて流されそうになった時に引き留めておける程度の強さはある。
 クルクル回って落ちそうになれば、それを引いて立て直してやりことも出来る。
(「こちらが気を付けて見ておいてやれば良い話よなあ」)
 だがモーラは何に気を取られたのか、ガレアスから視線を外して再びふらふらと漂い始めた。
「ガレアスさん、ねこさんですよ、ねこさんの親子さんが日向ぼっこしています」
 のびり寝そべった親猫の周りで子猫が三匹、じゃれあって遊んでいる。
 モーラはすぐ目の前に座り、じっと目を離さずにその様子を眺めていた。
「可愛いですねぇ」
「ふむ、そうだのう」
 大丈夫、まだ時間はある。
 市場はすぐそこだ。

 やがて暑くなったのか、それとも日向ぼっこに飽きたのか、或いは餌の時間なのか、母猫は大きく伸びをすると路地の奥に向かってさっさと歩き出した。
 子猫たちがじゃれあいながら、その後に付いていく。
 モーラも当然のように付いて行こうとしたが、猫たちは壁に開いた隙間を通って姿を消してしまった。
「ここはどう頑張っても通れませんね……」
 名残惜しそうに穴を覗き込んでいたモーラだったが、やがて諦めて立ち上がり……自分が手の中に何かを握り締めていることに気が付いた。
「何でしょう、何かのメモ……あっ」
 思い出した。
「す、すまねぇだ、オラつい猫さ夢中んなっつまって……あ、いえ、夢中になってしまって」
「なんの、まだ時間はそう経っとりゃせんわ、わしの腹時計がそう言うておるわい」
 ガレアスはそう言ってポンと腹を叩き、再び手を差しのべる。
 しかしモーラはそれを取ろうとはせず、何やらもじもじしながら小声で囁いた。
 何事かと耳を近づけてみると――ふむ、なるほど。
「わしで良ければ、えすこぉとさせてもらうかのう」
「はい、よろしくお願いします」
 軽く突き出された肘に、モーラは自分の腕をそっと絡めた。
 これは相手が自分よりも小柄な場合は様にならない。
 そして悲しいかな、モーラは大抵の男よりも背が高いのだ。
 しかしガレアスは横幅はもちろん、縦の方向にも自分より大きい。
 こうしていると自分が小柄な女の子になったような気がして、それがとても嬉しかった。
 おまけに彼は大きいけれど怖くはない。
 寧ろ可愛い。
 ぬいぐるみのくまさんのようだと、モーラは思う。

 そうしていると、二人は仲の良い親子のように見えるらしい。
 頼まれた食材を探して市場を歩く間にも、あちこちから親しげな声が飛んできた。
「おっ、今日は娘さんとデートかい?」
「いいねぇ、羨ましいよ。うちの娘なんか『お父さんフケツ!』ってこうだぜ?」
 そんな声が飛び交う中、時にはオマケしてもらったりしながら買い物は順調に進み、メモに完了を示すチェックマークが増えていく。
「……これで最後ですね」
「ふむ、ではナマモノじゃて急いで帰るとするかのう」
 得にイワシなどは足が速い。
 今度は来る時のように道草を食っている時間はなかった。
 しかし。

 ぐぅ〜〜〜〜〜。

 市場を出たところでガレアスの腹の虫が盛大に鳴いた。
「腹が減ったのう」
 喉からはちょっぴり悲しげな呟きが漏れる。
 食べ物はある。
 この通り、両手いっぱいに。
 しかし、これを食っては叱られる。
 叱られるが腹は減った。
「……むむむぅ……」
 考え込みながら、それでも足を動かすガレアス。
 その目の前で、モーラが道端の何かを指さした。
「ガレアスさん、あれにしませんか?」
「むん?」
 見れば何かの屋台のようだが。
「どこかお店に入ってゆっくり食べる時間はありませんけど、屋台で何か買えば歩きながら食べられると思うんです」
 ちょっとお行儀は悪いけど、と言って笑うモーラに、ガレアスは満面の笑みを浮かべて頷いた。
「良いのう、うむ、それが良い」

 ふーっ。
 ふーっ。
 モーラはホカホカと湯気を立てる丸い団子のようなものをフーフーと冷まして、ガレアスの口元へ持って行く。
「はいガレアスさん、あーんしてください?」
「あーん」
 ぽいっと放り込まれたそれは、タコヤキという蒼世界の海鮮料理だ。
 奥歯で潰すとソースと青のり、それにかつお節の香りがふわっと鼻から抜けて行く。
「美味いのう」
 ほのぼのと微笑みながら、ガレアスは再びぱかっと口を開く。
 そこに間髪を入れず放り込まれるタコヤキ。
 ガレアスの両手は荷物で塞がっている、そして足を止めるわけにもいかない――ということで、今やモーラはガレアスの前で後ろ向きに歩きながら、せっせと給餌に励んでいた。
 目の前に次々と差し出されるタコヤキをぱくぱく食べるガレアスは、やはりぬいぐるみのくまさんのようで、とても可愛い。
 くまさんならハチミツのほうがお似合いかもしれないが、流石に往来でこうして食べさせるには不向きだろう。
 かといってタコヤキならいいのかと言えば、そういう問題でもない気はするけれど。
 そんなことを考えながら歩いていたら、足がもつれた。
 いや、寧ろ今までよく転ばなかったと思うほどに、モーラは頑張った。
 けれど。
「ひょぁ……っ!?」
 身体がふわりと浮き上がる。
 手にしたタコヤキの包みも浮き上がる。
 それだけは死守せねばと、モーラは包みをしっかりと抱え込んだ。
 尻餅をつくと思った、その瞬間。

 ――とん。

 何かが柔らかく背中を支えてくれた。
「大丈夫かのう?」
「ガレアスさん……?」
 この大きな身体で、しかも両手に重い荷物を持って。
 なのにどうしてこんなに素早く動けるのだろう。
 柔らかく支えてくれたのは、ガレアスの大きな背中だった。
「嬢ちゃんはわしの横からあーんしてくれたらええよ、しかと前を見てのう」
 目尻を下げた柔和な顔に、モーラはこくりと頷く。



 帰ったら、その背中にもふっと抱き付いても良いですか?
 お礼にハチミツあーんしてあげますから……!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3848/ガレアス・クーヴェイ/男性/外見年齢44歳/はらぺこくまさん】
【ka3053/モーラ・M・ホンシャウオ/女性/外見年齢22歳/ほのぼのてんねんがーる】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

はじめてのおつかい、いかがでしたでしょうか。

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
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2016年09月05日

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