▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Fantastic White 』
ロザーリア・アレッサンドリaa4019hero001)&夢洲 蜜柑aa0921)&アウローラaa1770hero001)&ウェンディ・フローレンスaa4019

●白いアルバム

 テーブルの上で、花瓶いっぱいに活けられた白いバラが揺れた。
 梢を通り抜けた初夏の夜風が、開け放った窓から部屋に流れ込んでくるのだ。
 たちのぼる艶やかなバラの香りに、芳しい香りが混じりあう。
 アウローラはいち早くそれに気付いて、鼻をひくひくさせながらソファの上でのびあがった。
「どうしたの、アウローラ」
 夢洲 蜜柑が声をかけるが、すぐに香りに気付き身体を捻る。
 この家の住人であるウェンディ・フローレンスが戸口で優雅にほほ笑んでいた。
「お待たせしましたわね。さあ、たくさんお召し上がりになって」
 ウェンディは銀のトレイにのせた山盛りのスコーンをテーブルに並べる。
「これ、おねーさまが? すごい!」
 蜜柑は目をキラキラさせて、焼き立てほかほかのスコーンとウェンディの顔を見比べた。
「ふふ、夜のお茶会というのも偶には楽しいものでしょう? 蜜柑ちゃんのお口に合うといいのですけれど。ああ、アウローラちゃん、丸呑みよりはほら、このクリームとジャムをつけたほうがおいしいですわよ」
「ほへ?」
 今まさに、スコーンをまるごと頬張ろうとしていたところで、アウローラは手を止めた。
「ほら、こうして。割って食べるのよね、おねーさま!」
 蜜柑がスコーンを割って見せる。まだ子供っぽい自分の容姿を気にして、頑張って背伸びしている蜜柑だが、ウェンディにはどこか甘えるような口調だ。
 それでいて、アウローラには人間の世界の知識を教えることも多く、友達かともすれば少し自分のほうがおねえさんのような立ち位置である。
 一方、素直な性格のアウローラは、年下の蜜柑にあれこれ言われて世話を焼かれることに、余り抵抗がないようだ。
 言われるがままにスコーンにジャムとクリームをたっぷりのせ、齧りつく。
「ん……おいしいです、とっても」
 アウローラはそう言って目を丸くした。
 人間界には彼女の知らない面白いもの、珍しいもの、素敵なものがいっぱいだ。

 ウェンディは自分も席に着き、それから小首を傾げる。
「ロザリーったら、またどこかで本を読みふけっているのかしら……」
 相棒のロザーリア・アレッサンドリが部屋を出ていったまま戻ってこないのだ。
 もともと本の精霊だけあって、目にした本に興味を示すとそのまま座り込んで読み始め、全てを忘れて没頭してしまうところがある。
 探して来ようかと首をめぐらすと、ようやく当の本人が姿を見せた。
「ロザリー、待っていましたのよ。どうしましたの? 遅かったですわね」
 そこでふと、ロザーリアが胸に何かを抱えているのに気付く。

 それは一見、普通のアルバムだった。
 真っ白い装丁に金のアラベスク文様の箔押しはとても美しかったが、それだけだ。
 だがそれを胸に抱いているのがロザーリアとあっては、普通のアルバムではないのだろう。
「ロザリー、それはアルバム?」
 蜜柑が尋ねると、ロザーリアが頷く。
「いつから持っていたのかわからないんだよね。でもなんだか綺麗だし、一緒に見ようと思って」
「見せて見せて!」
 蜜柑が自分の場所を譲り、ロザーリアは蜜柑とアウローラの間に座る。
 表紙を開くと、少しセピアがかった写真が目に入る。
「まあ。素敵ですわ」
 ウェンディが思わず声を漏らした。
 それは白いドレスを纏って微笑む女性の写真だった。
 いつの時代なのかはわからないが、ふっくらとした頬はきっとバラ色に輝いていただろう。髪に飾られた花は甘い香りが漂ってきそうなほどにみずみずしい。
「きれい。花嫁さんなのね」
 蜜柑が顔を寄せる。
 ロザーリアは皆がちゃんと見たことを確認して、ページをめくっていく。

 どれだけそうしていただろう。
「あれ?」
 アウローラの不思議そうな声で、皆が顔を上げた。
 お茶のカップに伸ばした手が、何もない空中に彷徨っている。
 全員が周りを見渡し、それからお互いの顔を見る。
「……えっ?」
 さっきまでいたはずの居間とは明らかに違う光景。
 いつの間にか全く見覚えのない部屋で、全員が真っ白の絨毯の上に座りこんでいたのだ。


●謎の部屋

 ウェンディが皆を代表するかのように、そっと囁く。
「ここはどこかしら?」
 かなり広い部屋だった。
 見上げると高い天井からは、美しいシャンデリアが幾つも下がっている。
「衣装部屋、のようですわね……?」
 誰の、かはわからない。
 だが部屋の壁のほとんどに、ドレスがいっぱいに掛けられている。残る一面にはカーテンが複雑にかけられていた。
 蜜柑がすっくと立ち上がり、近付いて行く。暫くカーテンを広げたり引っ張ったりしていたが、やがて振り向いた。
「ここ、フィッティングルームみたい」
「元の昨日は忘れていたが、そういうアルバムだったようだね。ということはつまり……」
 ロザーリアが腕組みする。
「着てみろということだね!」
 ――突飛な発想だ。
 だが何故かその場の全員が、頷いた。

 そう、きっとこれは夢の中にちがいない。
 夢だと理解しながら見る夢なら、思い切り楽しんでしまおう!


 それぞれが壁に近寄り、そっとドレスに触れる。
「綺麗……」
 蜜柑が溜息と共に、一枚を取り出す。
 大きく広がったスカートに、フリルとレースが首元までふんだんにあしらわれている。飾りのパフスリーブが愛らしい、おとぎ話のお姫様のようなドレスだ。
 見回すと、姿見がある。
 蜜柑はおずおずとドレスを身体に当て、姿見に自分を映す。
 その瞬間、ドレスは蜜柑の手を離れ、魔法のように消え失せた。
「えっ……?」
 消えたのではなかったのだ。蜜柑は姿見の中に、ドレスを纏った自分を認めて息を呑む。
「ちょっと待って、どうなってるの!?」
 驚いた声に、皆が振り向く。
 アウローラが目を見張った。
「蜜柑ちゃん、とっても可愛いです!」
 ウェンディも感動を表すように、両手を胸の前で合わせる。
「まあ蜜柑ちゃん、いつの間に。でもとても良く似合っていますわ」
「アウローラ! おねーさま! よくわからないの。身体に当てたら、いつの間にか……」
 蜜柑はドレスの裾を持ち上げ、おそるおそる自分の身体を見回す。

「そういう部屋なんだよ、きっと」
 ロザーリアが言う。
 理由なんかどうでもいい。きっとそういうことなのだ。
 ウェンディはロザーリアの言葉をすぐに受け入れた。
「ええ、そうですわね。ではわたくしも選んでみましょう」
 ベッドの上で本を読むことしかできなかった自分が、彼女のお陰でこんなに元気になった。それはどんな物語よりも不思議で素敵な出来事だったのだ。
 ならばロザーリアの持っていたアルバムが、どんな夢を運んできても不思議ではない。
 ウェンディは取り出した一枚を身体に当てる。
 それと同時に、ドレスはウェンディの身体を包み込んだ。
「まあ。不思議ですわね」
 そう言いながら、にこにこしている。
 纏っているのはエンパイアスタイルの純白のドレスだった。
 柔らく細かなひだが胸元から優雅に流れ、神話の世界の女神のよう。
 ウェンディは鏡を覗きこみ、少し考えこむ。
「胸元はシンプルにして、髪は遊んで……」
 その呟きと同時にドレスが輝き出し、ウェンディの全身が光に包まれる。
 光が消えた後には、ウェンディが思い描いた通りに全てが整っていた。
 カールした金髪にあしらった生花の花冠、優しいピンクのリップ、柔らかく流れるレースのマリアベール。
 ウェンディらしい大人びた様子にも若々しさを思わせるドレス姿だった。

「おねーさま綺麗……!」
 蜜柑が駆け寄ってきて、髪やメイクを丹念に眺める。
「でもどうして? あたし、ドレスだけしか変わらなかったのよ」
「どうかしら……蜜柑ちゃんはどんなイメージでしたの?」
「え?」
 きょとんとする蜜柑。
「わたくしは『こんなメイクで、こんな髪で』と考えましたの。その瞬間、全部整ったのですわ」
 つまり、メイクや髪型に明確なイメージがないと、変化はしないらしい。
「う……」
 蜜柑は困ってしまった。背伸びしてみても、まだメイクなどよく分からない年齢だ。
 ウェンディはなにかを探すように、視線を走らせる。すると白い鏡台があるではないか。
「あちらへ行きましょう。お化粧してあげますわ」
 蜜柑を座らせ、ケープをかける。
 くすぐったそうに身を捩る蜜柑の肩を優しくおさえ、ウェンディは囁いた。
「少しだけじっとしていて下さいましね」
「は、はい……!」
 思わず改まる蜜柑に、ウェンディはイメージを伝える。
 ドレスに負けないように、でも飾りすぎずに健康的な愛らしさを生かして。
「どうかしら?」
 蜜柑は鏡の中の自分に、目をぱちぱちさせた。
 カラーグロスでキラキラする唇、上気したようにそっと入れたチーク。
 まるで自分に似た誰か別人のようだ。
「すごい……! 魔法みたいね」
「これから少しずつ覚えていきましょうね。でも急がなくてもいいのですわ」
 ウェンディは自分の花冠と揃いの花を蜜柑の髪に飾った。


●不思議なきもち

 ロザーリアとアウローラは悩んでいた。
 キャッキャと楽しそうにドレス姿に変化して行くウェンディと蜜柑を見て、綺麗だとか、素敵だとか思うのだが。
「どれにしよう……」
 いざとなると選びきれない。ふと、ロザーリアが尋ねる。
「アウローラもドレス着たりするんだ?」
 いつも快活で、溌剌とした印象のアウローラが、ドレスを着てすましているところがどうにも不思議だった。
「着たこと自体はあります」
「意外だね」
 ロザーリアが目を丸くする。
「可愛いけど、動きにくいですよね」
「ああ……まあね」
 その会話で、ロザーリアはふと思いついた。
「あたしちょっとあっち見て来るね」
「いってらっしゃい」
 別の棚に向かって足取り軽く歩いていくロザーリアを見送り、アウローラはまたドレスを眺める。
「ウェディングドレス……って、結婚式に着るドレスですよね」

 結婚。特別な契約。
 それは少し、英雄と能力者の関係にも似ているようだ。
「でも契約の時には、着飾ってお披露目はしないですしね」
 ひとりごとを呟きながら、一枚を手に取った。
 シンプルなドレスに薄いオーガンジーのレース生地を重ねたもので、ウェストの大きなリボンがアクセントになっている。
 そう、動きにくい服だ。
 やたら重いし、かさばる裾は足に絡むし。
(それなのに、どうしてこんなにも心を惹かれるのだろう?)
 気がつけば人間の心に同化しつつある自分を、不思議だとも、面白いとも思う。
 ふと気がつけば、アウローラは手にしたドレスを纏っていた。
「え? あれ……?」
 茫然としているアウローラを、蜜柑とウェンディが目ざとく見つける。
「可愛い! でも髪とメイク整えたらもっと可愛いと思うのよ!」
 今、ウェンディから教わったばかりの蜜柑が、ちょっと得意そうに胸を張った。
 アウローラはふたりに引っ張られるようにして鏡台の前に座る。
「ウェストのリボンが素敵ですから、上半身はコンパクトにまとめてみますわね」
 ウェンディは魔法使いのようだ。
 あちこちをいじられ、最後にさっとケープを取りはらうと、鏡には健康的なオレンジ色の髪飾りに、オレンジの唇のアウローラがびっくりしたように映っている。
「えっ、これは……」
 立ち上がって全身を見る。
 以前に着たドレスと同じような、裾の長い服だ。
 でも全く違う、照れくさいような、気恥かしいような不思議な気持ち。
 それでいて甘酸っぱいとでもいうような喜びが、胸に湧き上がる。
「どうかしら? お気に召して?」
 仕上げにと、ウェンディに手渡されたオレンジ色の花のブーケに、アウローラは半ば顔をうずめるようにして頷く。
 それはまるでお嫁に行くお嬢さんのような、初々しくも愛らしい仕草だった。

 その頃。
 ロザーリアはようやく、理想の一枚を選び出した。
「うん、イメージ通り!」
 いそいそと抱えて鏡の前に立ち、少しの間目を閉じる。
 身に付けた自分の姿をイメージして……そっと胸にドレスを当てる。
 それからゆっくりと目を開いていくと、思い通りの自分が映っていた。
「ふふっ」
 少しくすぐったくて、小さく笑う。
 肩を出したドレスは上半身がコンパクトで、スカートは大きく膨らんだプリンセスライン。フリルは花が咲くように立体的で華やかに、その分髪はきちんとまとめあげシンプルなショートヴェールを合わせてみた。
 肘までの細い手袋も含めて、あくまでも上半身は軽やかに。
 それは以前にどこかの本で見かけたプリンセスの姿だったかもしれない。
 結いあげた金髪に輝くティアラには、その名残があるような気もする。
 でも今、ロザーリアは自分に似合うものを選んだのだ。
 歩き難くても、面倒でも、自分の好きなものを選んで身につける。
 そうすればいつか、身につけたものは本当に自分のモノになるだろう。
「ロザーリア、なんかカッコいいのね」
 まるで自分の心が伝わったかのように、蜜柑がそう言った。
「やっぱりそう思う?」
 ポーズをつけて振り向くと、蜜柑は軽く肩をすくめた。


●新しいページ

 それぞれのドレスにあったブーケを持って、お互いに顔を見合わせる。
「なんだかちょっと変な感じだね」
 ロザーリアがくすくす笑う。ウェンディは一緒になって笑いながら、尋ねた。
「これからどうしますの?」
「あっちへ行こうよ」
 ロザーリアが指さしたほうをみると、いつからそこにあったのか、金の飾りの美しい、白く大きな両開きのドアが見えた。
 一同が近づいていくとドアが音もなく開く。
 その先の部屋にはステンドグラスの光が満ちていた。
「教会……かな?」
 だが祭壇は見当たらない。
 足を踏み入れると、何かが舞い落ちて来る。
「きれい……」
 蜜柑が息を呑む。
 高い天井からまるで雪のように、音もなく無数の花びらが落ちてくるのだ。
 部屋には窓際にも燭台にもあふれんばかりの花が飾られ、歩く足元にも花びらが敷き詰められている。
「ここはいったい、どういう場所なのでしょう」
 アウローラが差し伸べた手にも、花びらははらはらとこぼれてくる。
「「夢の場所」」
 同時に口にし、ロザーリアとウェンディは互いの顔を見合わせる。
「夢の場所、ですか」
 繰り返すアウローラに、ロザーリアが頷いた。
「うん。花々に祝福される、夢の場所。その理由とか、どこかとかは考えなくていいんじゃないかな」
 いつの間にかロザーリアの手には、リボンで飾られた美しい瓶があった。
 ロザーリアはその中身を、傍のテーブルに置いてあった背の高いグラスに注ぐ。
 ウェンディが、蜜柑が、アウローラがグラスを手に取った。
「同じ夢を見る仲間に、乾杯」
「乾杯ですわ」
「乾杯……ってこうですか?」
「あ、これ炭酸入りのジュースなのね。かんぱーい♪」
 グラスを合わせる涼しい音が、高い天井に響いた。

 記憶はそこで途切れる。


 やがて目を覚ました彼女達は気付くだろう。
 白い箔押しのアルバムの表紙は、別の世界への扉だったことに。
 いにしえの女神のようなウェンディが。
 愛らしい花の妖精のお姫様のような蜜柑が。
 気恥かしげな、オレンジの花束を抱いたアウローラが。
 そして、異国のプリンセスのように、すっくと立つロザーリアが。
 白いアルバムには新しいページが加わり、新しい写真が貼り付けられていることだろう。
 夢か現かと悩むのは野暮でしかない。
 全ては記憶の中に、確かに刻まれているのだから。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【aa4019hero001 / ロザーリア・アレッサンドリ / 女性 / 21 / ジャックポット】
【aa0921 / 夢洲 蜜柑 / 女性 / 14 / 人間・回避適性】
【aa1770hero001 / アウローラ / 女性 / 20 / ドレッドノート】
【aa4019 / ウェンディ・フローレンス / 女性 / 20 / ワイルドブラッド・
生命適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました、不思議なアルバムが見せた夢のエピソードをお届けします。
ウェディングドレスは婚礼衣装ですが、袖を通したいという想いは挙式とはまた違ったところにあるようにも思います。
お任せ頂いた部分を含め、ご依頼のイメージから大きく逸れていないようでしたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。

白銀のパーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年08月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.