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『戦闘訓練ギアナにて 』
宮ヶ匁 蛍丸aa2951)&麻生 遊夜aa0452

プロローグ

 ギアナ高原、ここには大規模訓練を想定した訓練所が沢山ある。
「わざわざ訓練したいがためにここまで来るなんて、呆れたわ。男の子ってなんでそうなのかしらね」
『西大寺遙華 (az0026) 』は施設内部を見渡しながら首を降った。
 そんな彼女の髪をわちゃくちゃにしながら遊夜は言う。
「男には、やらねばならんことがある。家を守ることと、好奇心に従って行動することだ」
「きゃーーー」
 嫌がる素振りも見せつつまったく抵抗しない遙華。
 そして『黒金 蛍丸(aa2951) 』が『麻生 遊夜(aa0452) 』の言葉に頷く。
「ですね」
 いろんな意味で緊張しているのか、普段より動きがぎこちない蛍丸である。。
「どうしたの蛍丸? 気分が悪いの」
「え? あ、いえ違うんです。その……」
 蛍丸は遙華を見たり目をそらしたりしている、挙動不審である。
 それを見て遊夜は若いなと微笑んだ。
「じゃあ、ついてきて施設の説明と注意事項があるから」
 そう二人は扇動する遙華の背を追った。
 
第一章 戦闘訓練開始。

「チャーリー役の私がルールを再度確認するわ」
 遙華の声が訓練施設にこだました。 
まず、チャーリーとは常にゲームを中立の立場で俯瞰している存在のことよ。そしてゲームがひとたび開始されれば、試合終了の鐘が鳴るまでゲームに干渉することを封じられる存在、ここまではOK?」
 遙華の声に合わせてモニターにはスライドが表示される。
「訓練武器を使い3ポイント先取で勝利よ。攻撃に当たるごとに一ポイント加算されるから、いかに攻撃を避けるか、攻撃させないかの勝負ね」

「そして攻撃に当るの定義だけど、武器や防具ではじかれた場合はセーフ。二人が装着しているスーツは、攻撃を受けると発光するようになっているわ、このスーツに傷が三つついた時点で敗北ね」

「当然防具の装着はOKにしているけど、それがあまり意味をなさないのは二人ともわかっているわよね。戦場において防具なんて気休めでしかないわ。達人はそれでも致命傷を与えてくるから」

「アイテムの持ち込みは五つまでOKとし、持ち込んだアイテムはチャーリーである私しか知らないわ」

「今回のテーマはサバイバル、森や遮蔽物の多い地域での遭遇戦ね。検討を祈るわ」

「あと、言い忘れたけど。この放送はあなた達が潜んでいる間の30分、ずっと流されている予定よ。自分に有利な地形を見つけてうまく立ち回ってね」
 そう、すでに戦いの準備は始まっているのだ。
 この広大な箱庭のどこかに敵がいる、そして敵は自分の命を狙っている。
 密林の中の白兵戦。それが今スタートしようとしていた。
「そろそろ30分ね」
 そう遙華の映像が新しい言葉を吐いた。その瞬間モニターにカウントが表示される。
 それは徐々に減っていき、やがてゼロを刻んだ。
「それでは、スタート」
 開始の笛が鳴る。

第一章 蛍丸の場合。

 サバイバルの基本は事前に情報を得て知っていた。
 足跡を残さないようになるべく岩や木の根の上を歩くこと、匂いを気にすること、そして地形を最初に把握した方が勝利すること。
「それにしても……」
 蛍丸はあたりを見渡す。
 熱帯樹林に、動物の鳴き声、風や川の音。再現度の高い自然がそこにあった。H.O.P.E.とはこんな技術も持ち合わせていたのか。
 全てが人工物だと、蛍丸には信じがたかった。
「とりあえず、高い位置がどこにあるか確認しましょう。相手の動きがわかるかもしれません。そしてそこを起点に、小川付近に陣取って……」
 相手はスナイパーとして名をとどろかせている、であれば高所こそ自分のテリトリー、そう考えるのではないかと蛍丸は考えた。
 しかし、実際は違った。
「え?」
 蛍丸が何かを踏み砕いたと思った時にはもう遅い。
 しゅるしゅると音を立て何かが巻き取られ、足をからめ捕られ宙に浮く。
「そ、そんな!」
 もう戦いは始まっていた、そして蛍丸の周囲には罠が張り巡らされていたのだ。
「近くに麻生さんの姿なんてなかったはずなのに」
 その時声が聞こえた、森の中から響くように。
 その声だけではどこに遊夜が潜んでいるのか判別不可能だった。
「意外とすんなりはまったな、どうする?」
 余裕綽々と言った様子で遊夜は言う。
「今回は無しにして仕切り直すか?」
「そんなことはしません!」
 反射的に蛍丸は叫んだ。宙ぶらりんの状態で。
「なら一ポイント先取とさせてもらおうか」
 そう背後から遊夜は歩み寄り、脇に立って蛍丸を横目でとらえた。そしてその手の中の暗器、大振りのナイフを蛍丸の腹部に突き立てようと振りかぶる。
 その瞬間。
 蛍丸は腰の矢を素早く抜き取り、その矢じりでナイフの刃をそらした。
「ほう……」
 蛍丸は腕の力だけで矢を放ち、遊夜を牽制する。
 遊夜は半歩下がって距離を取る。
 それを蛍丸は素早く追った。
 幻想蝶から槍を召喚して足に絡まる蔦を切断。
 地面に着地して振り返る。
 次の瞬間轟音。放たれた散弾が、周囲の木々や地面をえぐる、しかし。蛍丸は瞬時に盾を召喚してその攻撃をはじいていた。
「くぅ」
「至近距離でこれを受けるとつらいだろ」
 そう遊夜はショットガンを構えなおし第二射に入ろうとした瞬間。
 蛍丸の反撃の一矢。手にもった矢を手首のスナップだけで射出したのだ。放った矢は遊夜の肩をかすめる。
 ポイントが入ったか、そう蛍丸が訓練場上部にあるモニターを見あげるも、西大寺カウントはまだゼロ。防護帯にあたったのだろう。
「ひやっとしたな」
 そう踵を返す遊夜。
「あ、待ってください!」
 先ほどのファーストアタックで蛍丸は、もう一度隠れられると不利だと覚った。そのため反射的に遊夜の後を追う。
 しかし彼はハンターだ。密林の走り方を熟知している、もう姿が見えないほどに距離をとられ、蛍丸は足音を頼りにそれを追うしかなかった。
(…………え? 足音が近すぎる)
 そう蛍丸は異変に感づいて振り返ると、そこにはショットガンを構える遊夜が。
「しまっ……」
 今日、この短時間で二度も背後をとられてしまった。
 蛍丸は息をのむ。そして浴びせられたのは鉛玉の雨。
 耳が痛くなるような轟音を盾を前に遮る。
 しかし、フルオートショットガンの連射力は伊達ではない。
 あまりの衝撃と、そして遊夜自身の角度調整により盾が跳ねあがり。無防備にさらされた腹部に弾丸を叩き込まれた。
「くっ……」
 衝撃が内臓を揺さぶられる、それと同時に得点ボードに遊夜一点と記載された。
「いや、焦ったよあの状況で反撃してくるなんてな……。どうする?」
 そう遊夜はショットガンを蛍丸に向ける。
「仕切り直すか?」
「…………お願いしてもいいですか?」
 しばらく考えてから蛍丸はその提案に乗った。
 当然だろう、訓練用でなければ内臓をズタズタにされている攻撃だ。痛みに身を痛みが引くまではまともに動けないだろう。「
「今回は戦闘訓練だから。こんな奇襲みたいな形で終わってもつまらんだろ」
 そう遊夜は蛍丸の手を取って立たせるとお互い別の方向へ走り出した。
「ただ、今回だけです。次はそのまま継続しましょう」
「俺はそれで構わん」
 そう二人の男は笑って別の道を行く。

   *   *

 この状況で一ポイント先取よりも、遊夜がこのような環境に慣れていると示されたことの方が大きいだろう。
 そう遙華は分析した。
 これで蛍丸はこの森が遊夜の体内と錯覚することになる。
 まるで遊夜の息遣いがどこからでも聞こえてくるような錯覚。恐怖を根源とした狩られるものの心理。
 それに染まってしまえば狩人遊夜の思う壺である。
「次はどんな戦いが見られるのかしら」
 そう遙華は微笑んだ。

第二章 遊夜の場合

 遊夜は潜みながら蛍丸の痕跡を追っていた。フェイスペイント、迷彩服、それにイメージプロジェクターの二段構え、この姿を発見するのは困難に思えた。
 そしてところどころに罠を設置し、先ほどのように敵を誘導するための音楽プレイヤーなど樹に括り付けていく。
 遊夜はハンターである、獲物の思考を読むことなどたやすく、蛍丸がどれほど移動の痕跡を消したとしても、遊夜には分かる。
 葉がこすれて曲がっているだとか、樹に手をついた際の苔の形だとか、微細な森の変化から後を追えるのだ。
 遊夜は繰糸を周囲に絡めるそして、わずかな振動で揺れた先に蛍丸がいると判断。突貫した。
 しかしそこに蛍丸はいない。
 放たれる矢。それを遊夜は体をひねってかわす。
 弓矢が銃に勝る点としては、付加効果の狙いやすさや音が小さい点があげられる。
 しかし、矢というものは長い。その刺さり方、角度で簡単に位置がばれてしまう。
 それは蛍丸も承知の上で、矢を放った直後に移動を開始する。
「甘い!」
 そう遊夜が糸を手繰ると、計算されていたようワイヤーがが蛍丸に殺到。
 木々の向こう側で、何かを縛りあげる手ごたえが遊夜にはあった。
「うわ、また」
 展開は先ほどと同じ内容をたどることに。
 しかし木々をかき分けてそれを見ると巻き込まれているのは盾だけだ。
「なるほど……」
 はめられたか、そう遊夜は直上に視線を向けると上から落下してくる蛍丸が目に入った。
 その手には何も握っていないように見える。
(何が狙いだ?)
 基本的にこの戦いは裂傷など体に明確に傷がつかない限りポイントとして計算されない。それ故に武器ももたずに突貫という行為の意味が解らなかったのだ。
 だが、それは蛍丸の計算内だった。混乱させる目的で手は空なのだ。それで問題ない理由があった。
 蛍丸は遊夜と違いもう一つ、武器を持っている。
 武道である。
「はあっ!!」
 力強くふりおろされた拳を遊夜は半歩下がって避ける。
 蛍丸は実家の武道を継承している。つまりは素手でも脅威になりうるわけだ。
 その為、最接近した蛍丸に遊夜はナイフを振るうも、それはたやすく回避され、逃げようとしても肉薄される。
 突き出したナイフの手を取られて、巴投げ、背中から樹に叩きつけられ、遊夜は呻いた。
「ぐあ……」
 肺から空気を叩きだされる遊夜。しかしこの攻撃はポイントに含まれない。
「くそ!」
 なめていたわけではない、ただ忘れていたのだ。彼は普段拳を使わないから。
 そして明滅する視界を何とか抑えて蛍丸を見据える。
 蛍丸が弓を構えていた、だがいま回避行動をとっても無意味だろう。そう判断し遊夜はショットガンを構える。
 同時に放たれる弾丸と矢。
 拡散する散弾は、真っ向から矢を叩き落とした。
「そんな!」
「面制圧力に関しちゃ、こいつの右に出るものはいないからね」
 そして遊夜は開いた片手でナイフを放つと、それが蛍丸の頬をかすめた。
 2ポイント目。そのスコアを確認し、遊夜は蛍丸との距離を調節する。
 戦闘続行の意思確認もしない。ここで仕切り直す必要はないと言われているためだ。
「さて……追い詰められたが、どうする?」
 遊夜はそうつぶやきながら蛍丸の出方をうかがった。ショットガンの制圧力にまかせ、蛍丸の逃げる方向に弾を乱射する。
 そして追い詰められるままに蛍丸が逃げた先は開けた土地だった。二人は光の袂に出る、河原である。
 地面にはサイズの大きい砂利が敷き詰めており体勢が整えにくい。
 さらにはところどころ人間が隠れられそうな岩が置いてある。
「なるほどな、ここなら確かに」
 だが、俊敏性なら自分が勝っている。
「ここでも、俺の方が有利だ……」
 しかしそんな遊夜の予想に反して、蛍丸はとんでもない行動に走った。彼は槍を砂利の隙間に差し込みそして。
「はぁああああああ!」
 気合一閃、円をかくように砂利を巻き上げた。
「おいおいおいおい」
 砂利が雨のように降り注ぐ、それを遊夜は近くの岩場に隠れてやり過ごすしかなかった。
「むちゃくちゃだろ!」
 身をすくめて頭上から飛来する石を回避、その雨がやむのを待つ。
 しかし蛍丸は待たなかった。石をはじきながら遊夜に接近。次いで大岩の左わきから顔をのぞかせる蛍丸。
 次いで放たれたのは右ストレート、それを遊夜がかわすと岩にひびが入ったのが見えた。
「なんて威力だ……」
 あわてて距離をとる遊夜。
「鍛えてますから」
 そう蛍丸は小さく笑い、逃げる遊夜を追うように矢を放つ。
 それは見事に遊夜の腹部に突き刺さる、すると仮想の矢じりが溶けるように消え
 スーツが反応し、スコアボードに蛍丸一点と刻まれた。
「追い詰められてるな……」
 やけになって遊夜は散弾をばらまく、砂利を砕き岩を砕き、その隙に蛍丸は弓を放つ、
 中距離からの射撃戦が小川のほとりで繰り広げられることになった。
 小川の付近ともあり、矢を音で察知するのが難しい。遊夜の耳がぴくぴくと動いた。
 次いで槍の投合。脆くなっていた岩を粉砕すると、その陰に隠れていた遊夜めがけて破片が降り注いだ。
 その岩の破片が遊夜の肩口に突き刺さり、蛍丸のポイントが二点に増える。
 お互いにあとがない。
「これで終わりです」
 蛍丸は駆けだした。その手に握るのは弓のみ。
 すべての力を使い果たした蛍丸、渾身の一撃をみまうつもりだ。
 しかし遊夜はほくそ笑む。
「かなりひやひやさせられたが、まぁ、これは経験値の違いってやつかね」
 狩りには大きく分けて二種類の手法がある。
 追い詰めていく狩りと。
 誘導する狩りである。
 先ほどから蛍丸へ見せていたのは追い詰めていく狩りだったが。
 河原に出てから状況が変わった。
 見晴らしがよくなり、遠距離武器を扱う腕に差が出なくなったこと、奇襲がしにくくなったこと。
 弓にとって有利な地形になったこと。
 其の他多くが蛍丸に若干有利の状況を作った。
 そして、それ以上に遊夜を恐れさせたのは蛍丸の成長スピード。 
 こちらの手の内を読めるようになり。こちらの嫌がる戦法をとるようになった。
 それが意識的にか無意識的になのかはわからないが。末恐ろしいと遊夜は笑う。
「若いって、素晴らしいね、ほんと」
 いつの間にか遊夜は組み伏せられていた。ショットガンもナイフもあたりに散らばっている。
「ボクの勝ちです」
「それは俺の息の根を止めてから言わんと、だめだな」
 そう遊夜が小指を引くと、しゅるしゅるとあたりに音が響き。途端に蛍丸の両手をからめ捕ってしまった。
「ええ!」
 そして遊夜がさらに強く糸を引くと、今度は蛍丸の体が宙ぶらりんになってしまった。
「いつの間に……」
「最初からだな」
 遊夜は状況が変わってから戦法を追い詰める、のではなく誘導して罠にはめるに切り替えていたのだ。
 蛍丸に合わせて周囲を走っていたのはこのためでもある。
「完敗です」
 うなだれる蛍丸。彼の降参を持って、今回の戦闘訓練は終了した。


 エピローグ

 二人は河原でバーベキューをしていた。
「あの白兵戦への切り替えや、矢じりをナイフ代わりに使う発想はよかったな」
 そう遊夜が肉を焼きながら言うと。
 若干悔しいのか。テンション低めに蛍丸は言った。
「頑張りました、それにしても僕の動きが遊夜さんに筒抜けだったような気がするんですけど」
「まぁ、それはなぁ、経験と、勘ってやつだな」
「なるほど……」
 蛍丸は大の字に寝そべり、遊夜から肉を受け取った。
「ほいさ、そう言えば」
 遊夜は困ったように頬をかく。
「西大寺さんと何かあったのか?」
「じつは、僕自分の思いにけりをつけようと思って」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『黒金 蛍丸(aa2951) 』
『麻生 遊夜(aa0452) 』
『西大寺遙華 (az0026)』



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度OMCご注文いただきありがとうございます。
 鳴海です。
 蛍丸さんは毎度ありがとうございます。
 遊夜さんはいつもお世話になっております、この場で会えてうれしいです。
 今回はお二人の戦闘訓練ということで。
 武器を複数使った戦略の構成に重きを置いて書いてみました。
 三つの武装をめまぐるしく状況に合わせて使うという描写ですね。
 気に入っていただければ嬉しいです。
 またシチュエーションもめまぐるしく変わるので、書いていてとても楽しかったです。
 では本編が長くなってしまったのでこの辺で。
 今回はありがとうございました。また近いうちにお会いしましょう
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鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年08月02日

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