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『キラキラ☆じゅーんぶらいど 』
ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&ガルー・A・Aaa0076hero001


「あらぁ〜、イイわねぇ〜」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)はテーブルに両肘を付いて顎を支えながら、ほうっと溜息を吐いた。
 視線の先にあるのは大型のテレビ画面。
 その中で純白のドレスを身に纏った美しい女性達が、こぼれるような笑顔をこちらに向けている。
 背景には荘厳なチャペル、隣にはいずれもイケメン揃いの男達。
「ステキねぇ、羨ましいわぁ……」
 うっとりと夢見る目つきで、ベルベットは再び溜息を吐く。
 いや、これでもう何度目になるかわからない。
 溜息を吐く度に幸せがひとつ逃げて行くという話が本当なら、ベルベットの幸せはもうスッカラカンだ。
「あらやだ、どこかで補充してこなきゃだわ☆」
 お出かけしましょう、そうしましょう――イケメンと一緒に♪


「いったい何でこんなことに……」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は「早く早く♪」とふさふさ尻尾で自分を招く狐の化身と、その背後で圧倒的な存在感を示す華やかな店とを、ハイライトの消えた目で見比べていた。
 ショーウィンドウには豪華なドレスやタキシードが飾られ、店頭には南の島へと誘うポスターが貼られている。
 頭上の看板に書かれた「ブライダルサロン」の文字を見るまでもなく、そこが何の店なのかは容易に理解できた。
 理解はできたが、何故に自分がここに引っ張って来られたのかが理解できない。
 いや、理解することを拒んでいると言ったほうがいいだろうか。
 その背後に控えたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に至っては、既に思考を停止して久しいようだ。
「さあガルーちゃん、おりびえちゃん、今日は一日ここで幸せな夢を見ましょうね(はぁと」
 スキップしながら店内に足を踏み入れたベルベットに見えない糸で引きずられるように、二人は夢の空間へと足を踏み入れる。
「いや、ベルベットさん……そりゃいくら何でも店に迷惑ってもんじゃありませんか」
 引きずられながら、ガルーは無駄な抵抗を試みた。
 いくら心は女性でもベルベットの見た目は体格の良いオニイサンだ。
 オリヴィエも確かに可愛くはあるが、どこから見ても立派なオトコノコだ。
「男三人で入る店じゃないと思うんですがね……」
 しかし、そこはベルベットも抜かりなく、ちゃんと「そういう店」を選んでいた。

「いらっしゃいませ」
 丁寧に頭を下げたサロンの支配人が、まんざら営業のためばかりとは思えない満面の笑みを浮かべながら三人をいざなう。
「当サロンはあらゆる立場の方々に広く門戸を開いております……と言うかぶっちゃけ良いですよねドレス! 男の子だって誰でも一度は憧れますよね! 着てみたいと思いますよね!」
 そうだろうか、などという疑問を差し挟む余地も与えずに、支配人は力説する。
「ですので、当店ではキングサイズを超えるインペリアルサイズまでをご用意してございます。どうぞご存分にご堪能くださいませ!」
 そんなサイズあったかな、と思いつつ、ガルーはずらりと並ぶドレスの数々に目をやった。
 確かにでかい。これなら自分はもちろん、更に大きなベルベットでさえサイズに困ることはないだろう。
「お決まりになりましたら、お声かけください。着付けのお手伝いをさせていただきますので……お写真のサービスもご用意してございますよ☆」
 バチンとウィンクをして、支配人は部屋の隅に控える。
 恐らくこれは彼の個人的な趣味であり、ドレスも彼のコレクションなのだろう。

 怖ろしく縦に長い部屋の両サイドにサンプルを着たマネキンがずらりと並び、その後ろには各種サイズ違いのドレスがハンガーに掛けられている。
 部屋の突き当たりには大きな姿見と、試着室のドアが三つ並んでいた。
 それぞれのドアの脇には着付け担当の従業員が存在を感じさせないほどに静かに佇んでいる。
「さぁて、まずはどれを着てみようかしら……んー、これだけあると目移りしちゃうわねぇ」
 ベルベットは両頬に手を当てて、腰を捻りながら悩ましげな声を上げた。
 ウェディングドレスにカラードレス、着物にエスニックな民族衣装、それにタキシードまで揃っている。
「カラオケなら目を瞑って適当にボタン押すとか……あぁ、そうだわ!」
 大きな手をポンと叩いて、ベルベットはいそいそと部屋の隅に置かれたテーブルに歩み寄った。
「コレよ、コレ♪」
 そこにはドレスの写真を一枚ずつ収めたクリアファイルが置かれている。
 実物を見なくても好みのドレスを探せるし、そこに書かれた番号でオーダーが可能になっているのだ。
「運命の神様はどれを選んでくれるのかしら♪」
 目を瞑ってファイルを捲り、適当なところで手を止める。
「コレだわ、C−801」
 Cはカラードレスを示す記号、801は通し番号だ。
「まっ、意味深な番号ね、うふふっ」
 ベルベットはそこに何かの意味を見出したようだが、もちろん数字に意味はない。
「じゃあさっそく着てみるわネ♪」
 サイズを選んで試着室に消えた数分後――

「じゃーん!」
 カーテンを勢いよく開け放つと、南国の太陽のごとき眩い光が溢れ出た。
 いや、ドレス自体が光を放っているわけではない。その色彩とデザインがそう見せているだけなのだが、それでもギャラリーのふたりは眩しそうに目を細めた。
 ハーフアップに結い上げた銀の髪には赤いハイビスカス、オレンジのAラインに透明なガラスのビーズが散りばめられた上に、肩から裾にかけて斜めに配された大きな黄色いフリルがアクセントを添えている。
「どうかしら、似合う?」
 試着室から躍り出たベルベットは頬を上気させ、ファッションモデルのように赤いカーペットの上を颯爽と練り歩いた。
「……意外と、様になってる」
 こくり、オリヴィエが頷く。
「もう、おりびえちゃんたら、そんな時は素直に似合ってるとか、綺麗だねって言うものよ?」
「……似合って、る」
「うふふ、アリガト(はぁと」
 ベルベットはにっこり笑って両手でキスを投げると、ガルーの方に向いて片手を耳に当てた。
「あらあら、ガルーちゃんの声が聞こえないわねぇ?」
「いや、お綺麗ですよ……でも足元気を付けてくださいね、ベルベットさん」
 ガルーは調子に乗ってステップを踏むレディに手を貸そうとするが、その手をさらりと受け流し、ベルベットはくるりと舞う。
「そんなことより、ガルーちゃんも早く着替えていらっしゃいな。ほら、おりびえちゃんも♪」
 一緒に踊りましょうと誘われて、ガルーは諦めの溜息を吐いた。
「あら、ガルーちゃんの幸せもだいぶ逃げちゃったわね。取り返すためにも今日は一日、ここでファッションショーをやりましょうね♪」
「ああ、貴女が楽しければそれでいい……最後までお供させてもらいますよ。オリヴィエ、お前さんもいいかげん腹を決めな」
 軽く背中を叩かれたオリヴィエはしかし、それでも憮然とした表情を崩さなかった。
「あらあら、おりびえちゃんはどうしたのかしら?」
 いつもはあんなにノリが良いのにと、ベルベットが首を傾げる。
 と、目玉だけがぐりんと動いた。
「……女装担当は、俺じゃない……」
 普段から依頼で女装してるのは相棒のほうだと、何か胡散臭いものでも見るように大人二人をじっと見る。
「……なのに、なんで俺なんだ」
「やーねぇ、可愛いからにきまってるじゃないの!」
 ばーん!
 オカマの張り手が背中に炸裂した。
 勝てない、この中性類にはどうやっても勝てる気がしない。
「そ・れ・に☆」
 ベルベットは片目をバチンと閉じて唇をとがらせ、人差し指を左右に振った。
「こないだも楽しそうに女の子の服着てたって聞いたわよ、ろ・り・び・え・ちゃん(はぁと」
 ぶちんっ。
 その瞬間、オリヴィエの中で何かが弾け飛んだ。
 めきょ!
 ガルーの爪先に靴のの踵がネジ込まれる。
「うおぉいってぇっっっ!」
 草履に足袋の上から踏まれては、たとえゴム底でもさぞや痛かろう。
 ガルーは痛む足を抱えて、片足でぴょんぴょん跳ね回った。
「なんでこっち来んの!? 誘ったのベルベットさんでしょうが!!」
 自分だってオリヴィエがいなければ断って……断っ……、いや、無理だな、うん。
「……バラしただろ」
「俺様はただ動画を撮ってお前さんの相棒に送ってやっただk――ぐはッ」
 今度は肘がメリ込んだ。
「だからなんでっ!?」
「……うるさい」
 腹パンでも足ドンでも、ベルベットを相手に出来るものならやっている。
 出来ないし断れもしないから、ここにこうしているのではないか。
「……そもそも、なんでドレス……」
「知らん、おおかたテレビでジューンブライドの特集でもやってたんだろ」
 それに影響されて、ドレスブームに火が付いたに違いない。
 わかりやすいオカマさんである。

 と、二人が仲良く漫才しているところに低音ではあるが裏返って脳天気な声が響く。
「ねぇねぇ、おりびえちゃんにはコレが似合うと思うの!」
 手にしているのは淡い黄色に白を重ねた丈の短いドレス。
「ガルーちゃんにはコレかしらねぇ」
 もう片方の腕には夜の闇のような黒と紺のドレスが掛けられていた。
 もう逃げられない。
 追い詰められたふたりは腹を括って、キラキラと光るドレスをそれぞれの手に受け取った。

「あら〜、ふたりともよく似合うじゃな〜い?」
 さすが自分の見立てに間違いはないと、ベルベットは試着室から出て来たふたりの姿にご満悦。
 ガルーもまた、オリヴィエの姿に目を見張った。
「……お前さん、なんか可愛いな」
 幾重にも重なったフリルでふわふわに膨らんだ膝丈スカートに、背中で結んだ大きなリボン、ハート型にカットされた胸元に、剥き出しの細い肩。緑の髪には白い花が揺れている。
 男と女に別れる前のどちらともつかない中性的な体型には、余分な贅肉はもちろん筋肉さえも付いていない。
 ガルーはふと、鳩尾のあたりに「きゅんっ」と鋭い痛みを感じた。
(「えっこれは……恋……」)
 いいえ、腹パンです。
「リーヴィ、おま、そんな可愛い格好してんだから少しは手加減ぐほぉっ」
 追撃の腹パン、いただきました。
「もう、ただでさえコルセットぎゅうぎゅうでめっちゃ苦しいんだから、そんなことされたら中身出ちゃうでしょうが!」
 それにしても少し前までは「ドレスは燃やす」「スカートは断固拒否」と言っていたオリヴィエが、どういう風の吹き回しだろう。
 まあ、ベルベットの押しの強さに逆らえる者など、そうはいないだろうが。
 そのオリヴィエは、せっかく着飾ったガルーの方を見もしない。
「……見慣れてるし、珍しくもない」
 本当は見ないのではなく、なんだかドキドキして見られないのだが、その理由はまだ本人にもわかっていなかった。
「なんだよ、ベルベットさんのことは素直に褒めるくせに」
「……実際、似合ってるし」
 本当に似合っていれば、似合うと褒める程度の甲斐性はあるのだ。
「……褒めて欲しかったら、ドレスの似合う男になればいい。趣味なら、極めろ」
「趣味じゃねぇし無茶言うな、って言うかそんなにヒドイかねぇ?」
 ガルーは大きな鏡に自分の姿を映してみる。
 大きく膨らんだスカートは、黒のベースに光の加減で僅かに濃淡の異なる紺色の大きなフリルが幾重にも重なり、至る所に星のようなビーズが煌めいていた。
 その色のおかげで全体には締まって見えるが、いくら締め付けてもウェストのくびれは存在感を放棄し、代わりにその上に乗った胸板の筋肉が縫い目を弾き飛ばす勢いで激しく自己主張している。
 首筋や肩、腕もムキムキという程ではないが、健康な成人男性としては充分な筋肉が蓄えられていた。
「飲み会で笑いは取れるな……」
 腰を捻って艶っぽいポーズを決めてみる。
「はい、そのショットいただくわ!」
 ベルベットの声と同時に、係員がカメラのシャッターを切る。
「次は三人で並んで撮りましょ! はい、おりびえちゃんが真ん中ね♪」
 そうして並ぶと、ドレスの色が朝焼けと昼の太陽、それに夜と、時間の移り変わりを表現しているようにも見えた。

「じゃあ次はみんなでお揃いウェディングドレスよ♪」
 同じデザインのサイズ違いを三人で。
「いやベルベットさん、ここは俺がタキシードで二人をエスコートする場面でしょう」
「なに言ってるのよガルーちゃん、そんなの後でいいわよ」
「そんなのって……」
「今日の主役はドレスよ、ド・レ・ス☆」
 だから気が済むまで三人でドレスを着倒すのだ。
「ガルーちゃんもおりびえちゃんも、タキシードなんてフツーに着れるでしょ?」
 強引に押し切られ、けれど確かにその通りだし、ドレスも一度袖を通してしまえば……何と言うか、カイカンになってくる。
「わかりました、今日はとことん付き合いましょう。な、リーヴィ?」
 返事はないが、腹パンが来ないところを見ると異存はないのだろう。
「そうそう、次はメイクもきちんとしましょうね、こういうのは堂々と開き直るのが肝心なのよ?」
 純白のドレスは軽やかな素材の現代風のものから、どっしりと重いクラシックタイプまで。
「ベルベットさん、こんなのもありますよ?」
 楽しくなってきたらしいガルーが、着物とスカートを合わせたような和洋折衷のドレスを見付けてくる。
 それはまるでお狐様の隈取りのような、白地に赤いラインが入ったもので、袖や裾には銀糸で花模様の刺繍が施されていた。
「あらやだ、あたしにぴったりじゃない?」
 ベルベットは小躍りしながらそれを手に取った。
 ならばメイクもそれらしく、赤い隈取りにしてみようか。
「あたし元々は大きな狐の化け物だったのよ? コン♪」
 大人ふたりはロング丈、オリヴィエはミニ丈で、三人並んで狐のポーズ。
 他にもインド風にサリーをアレンジしたスリムなドレスや、ヨーロッパの可愛い民族衣装風、それに――

「あらっ、これなんかどうかしら!」
 ベルベットが嬉々として掲げて見せたのは、上半身の布面積が極端に少ないセパレートタイプのドレス。
 下半身にも深いスリットが入っているそれは、つまり……
「ベルベットさん、これは、その……ベリーダンスの衣装では?」
「あらガルーちゃん、よく知ってるわね♪」
「まさかこれを着ろなんてことは……」
「……ベリーダンスって、何」
「子供は知らなくていい、オリヴィエにはまだ早いから!」
 いや待てよ、寧ろ着せるなら子供のほうが……いやいやそれは流石に通報されるだろ!
「ってもう着替えてんですかいベルベットさん!?」
 早い、そして躊躇ない。
 視覚の暴力度もハンパない。
「ほら早く着替えなさいな二人とも」
「いや、それだけは勘弁……っぐはぁっ!?」
 炸裂するオリヴィエの腹パン@ガルー。
「だからなんでこっちに八つ当たり……っ」
 それはあんまり理不尽な仕打ちではありませんこと!?

 その後、ガルーとオリヴィエの二人は――




 以上の記録はブライダルサロンの支配人による営業日誌の記述を参考に、忠実に再現されたものである。
 しかし残念なことに、日誌は何者かによって最終ページを切り取られていた。

 そこに何が書かれていたのかは、今もって謎のままである――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0936hero001/ベルベット・ボア・ジィ/?/外見年齢26歳/花も恥じらう心は乙女】
【aa0068hero001/オリヴィエ・オドラン/男性/外見年齢10歳/目覚める季節】
【aa0076hero001/ガルー・A・A/男性/外見年齢31歳/ドレスの似合う男(31)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

……最後は、ご想像にお任せします(投げ(

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
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2016年08月03日

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