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『夜蛍 』
宮ヶ匁 蛍丸aa2951


プロローグ
  H.O.P.E.支部内某通路にて。
 最近の事情で支部内はあわただしく、普段の三倍は人が行きかっているのではないかという廊下は無数の声が反響し、雑多な情報となって氾濫している。
 そんな中、その声だけは妙にはっきりと耳に届いたのを彼は覚えている。
「あ、蛍丸!」
 そう声をかけられて『黒金 蛍丸(aa2951)』は振り返った。
 視線を泳がせ人ごみの中に彼女を探すと、大人たちをかき分けて、隙間から生えるように蛍丸の目の前に姿を現した。
 そこにいたのは『西大寺遙華(az0026) 』であり、彼女は小脇に分厚い本を抱えている。
「やっと会えたわね」
 そう遙華は微笑みを向ける、思えばこうして柔らかく遙華が微笑むようになったのはいつからだろう。
 そう感慨深い思いが心を満たした。
「最近お忙しそうでしたからね、僕もなかなか連絡をつける暇が……」
「今会えたからいいのよ、そしてこれ、とても面白かったわ」
 そう遙華は、例の分厚い本と、鞄の中から文庫を二冊差し出した、計三冊。
 二人は一週間に一度程度こうして本の貸し借りをするようになったが、もうどれだけの本を二人で共有したかは覚えていない。
 それくらいに二人は『同じ時』を過ごした。
「どうでしたか? 感想は」
「私、あまりミステリーって読んだことがなかったのだけど、のめりこんでしまうわね、ずっと読んでいたくなるの、夜更かししてしまって大変だったわ。つまり面白かったわ」
「今度ゆっくり感想戦といきたいところですが、正直時間がないので……」
 そう蛍丸は背後の扉を見やる、そこは会議場Bという札がかかっており、さらにその隣には『大規模作戦会議室』と紙が貼られていた。
「あ、ごめんなさい、時間を使わせてしまったわね」
「いえ、いいんです。あ、僕まだお借りした本を読んでないのですが。まだ借りてていいですか?」
「ええ。いいわよ、今の時期は忙しいからね、期間は気にせずに読んで頂戴」
「ええ、ありがとうございます。それでは」
 そう蛍丸がくぐった会議室の扉を、遙華はただただじっと見つめていた。

前編  恋を知らない乙女の慟哭
 
 眩い輝きが目の前にあった。彼はいつも人に囲まれていて、人気者で。
 でも自分にも変わらぬ笑顔を振りまいてくれた。
 そんな彼が自分のもとに歩み寄り、その手を差し出してくれたとして。
 少女はうつむき、自分の靴を見つめることしかできなくて。
 自分で敷いた線を越えることすらできなかった。
 
 その白線の意味も知らぬまま。
 
 彼女は暗がりに取り残され。一人。
 
 やがて腕を伸ばそうにも、足は凍りついたように動かなくなっていた。
「遠くに行かないで、そこにいて」
 そう心が叫んでいることにも気がつけず。彼女は茫然と立ち尽くすのみ。
 彼女は思った。自分が蛍なら。
 彼のように輝きを放てたなら。
 彼に見つけてもらえるだろうか。
 そんなことを永遠と考えていた。

   *    *

 そこは中東某所。大規模作戦にはオブザーバーというか、資源提供役というか、後方支援で参加していたグロリア社のまとめ役として遙華はその日派遣されていた。
 しかし戦闘能力が低い彼女は役目を終えると、とっとと戦場からはじき出され、少し後方のキャンプで書類整理に勤しんでいたのだった。
 時間は深夜を回って午前二時、眠気覚ましに栄養剤を飲み下す。
 その時だった。
 遙華の通信機から声が発せられた。ディスプレイには『鬼』の文字。
 相手は『ロクト(az0026hero001)』である。
「どうしたのロクト? ノイズがひどい」
 電波を何とかする、と言ったような言葉を発してしばらく、がががっとやっていたのだが、突然声がクリアになりロクトの声が大音量でキャンプに響いた。
「あなたいまどこにいるの?」
「後方待機よ、というよりあなたにサインしてもらわないといけない書類がたまっているのだけど、今どこに……」
「遙華、落ちついて、今から野戦病院に来なさい」
 その一言で遙華はすべてを察した。
「そんな。みんな」
 遙華は頭が真っ白になりキャンプへと走った。
 野戦病院は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
 次々と運び込まれる重症患者。
 そこら辺の岩場に腰かけ手当てを受ける軽症患者。
 そしてタンカーで運ばれる意識不明の患者。
 その中には遙華の見知った顔が複数見えた。そして。
 その中に蛍丸の姿が見えた。
「蛍丸!!」
 叫んで遙華は駆け寄ろうとした、しかし、そのタンカーの脇にいるのは彼の英雄。その少女が涙を流しながら蛍丸の名前をしきりに呼んでいた。
 その時遙華は思ったのだ。
 自分の出る幕ではないということ。
 蛍丸と共に戦っていたわけでもないのに、一緒になって彼の意識に呼びかける権利などあるのだろうか。
「ああ」
 遙華は病院の待合室に取り残された。


後編 光源

 一つの闇の中に落ちた時。思考すらあいまいになって、甘い麻酔が全身を支配した。
 自分の名前を呼ぶ、無数の声、仲間たちの声。そして。
 彼女の声。
「僕は……、そうだ、ここから抜け出さないと。待ってる人がいるから……」
 その声に導かれるままに蛍丸は走った。
 その世界の縁を目指して。

    *    *

 激戦のあった大規模作戦から数日、蛍丸が目を覚ましたという報告を聞き、遙華は見舞品を両手に抱えて、蛍丸の元を訪れた。
「あ、遙華さん!」
 蛍丸は変わらない笑顔を向けてくれた。
「蛍丸、元気になったのね、よかった」
 そう、フルーツの盛り合わせを近くの台において蛍丸に向き直った遙華。
「はい、もう退院してもいいくらいです、今お借りした本を読んでました。とても面白いですね」
「それはよかった…………。無事でよかったわ」
「はい」
 蛍丸はその言葉に頷いた。
 それは、蛍丸自身が一番感じていたことだった。
「沢山怒られました、無茶するなって」
「ねぇ、遙華さん話さないといけないことがあるんです」
「どうしたの? 改まって」
「遙華さん、次の日曜日また本を買いに行きましょうか」
 遙華は恥ずかしそうにそっぽを向いて言った。
「べ、別にいいわよ」

   *    *
 
 リンカーになってからというもの、体の回復が早い気がする。
 そう蛍丸は指を伸ばしたり曲げたりしていた。
 待ち合わせの時計台の前。まだ包帯や湿布のとれない部分はあるが日常生活を送れる程度に回復した今日。
 快気祝いということで遙華と遊ぶ約束になっていた。
「お待たせ、蛍丸」
 そう後ろから声をかけてきた遙華に笑顔を向けて、蛍丸は歩き出した。
「こうして遊ぶのも久しぶりですね」
 前に入った喫茶店、本屋さんそして。
 夕陽沈む公園、湖、風にたなびく遙華の髪。
 二人は近くの売店で買ったソフトクリームなどなめながら、蛍丸は夕陽を。遙華は湖面を見つめていた。
「とても心配したわ。仕事も手につかなくなって。私って身内が友達が傷つくのに弱いみたい」
 そう弱弱しく微笑む遙華。
「こうなる結末を私は、ちらりとでも考えたのに、具体的に手を打つことはできなかった、私がどこかで何か予防線を張っていればみんな元気に帰還できたんじゃないか、ただそれだけ思ってしまって、考えてしまって」
「でも、それはきっとみんな思っていることなんですよ、力があれば、誰かを守れたのに」
 遙華は思い出す、病院の空気、そこには後悔だけが溢れていた。
「僕も実感しました、今のままではだめだということ、そして死にかけている僕を引き戻してくれたあの子とのこと、もう悲しませたくないと思いました」
「蛍丸?」
 風が遙華の髪を揺らし、遙華は目を閉じる。
「大丈夫ですか?」
 蛍丸はその顔を覗き込む。
 まじかに映る遙華の顔、でも以前とは心に沸く感情が違う。
「うん、目にゴミが入っただけ」
 そう目をあけた遙華は機能の一部を停止した、体はこわばり、けれど顔はどんどん赤くなっていく。
「遙華さん、実は話さなければならないことがあるんです」
「な、なにかしら」
 上ずった声の遙華、逃れようと一歩下がると手すりにぶつかってしまい。それを見た蛍丸が代わりに一歩距離をとった。
「勘違いならごめんなさい、遙華さん僕のこと、好きですか?」
「え? 好きよ、友達じゃない」
「そう言う意味ではないんです、遙華さん」
 本当はわかっていた、彼女が抱いている感情が何か。
 そして、いつこの気持ちがすれ違ってしまったのかもはっきりとわかっていた。
「ずっと考えていました、あのガデンツァとの戦闘は間違いなく命を懸けたもので、それ故に沢山の後悔と無念を抱きました」
「…………」
「ボクが死んだらどうなるんだろう、悲しむ人がいるだろうか、残された人はどうなってしまうのでしょうか」

「その時わかったんです。僕が今一番大切にすべきものが何か」

「一番大切にしなければならないもの……」
 遙華は茫然とつぶやいた。その言葉を噛みしめるように再び目を閉じる。
「遙華さんとは友達でいられればと思ってます」
「ええ、そうね私たちは友達、それ以上でも以下でもないわ」
 遙華は思い出す、暗い洋館で彼が自分のことを守ってくれたこと。その背中。
「私は貴方に守ってもらえてうれしかったわ。ありがとう、蛍丸」
 遙華の頬に伝うそれが、茜色を映して煌いた。
「遙華さん?」
「…………今日は一人で帰れるから。私はもう少し、この夕陽を見てから帰りたいの」
「わかりました。」

 エピローグ
 蛍丸の去った公園で一人。ぼんやりと遙華は湖面を見つめている、その水底には鯉がおよいでおり、その動きは優美だ。
「そんなおばあちゃん臭いことしてないで、もっと何かないの」
 そう声をかけてきたのはロクトだった。
「その口調、見てたわね?」
「あら、悪かった?」
 まったく悪びれもしないロクトである。
「にしても、傷が浅くて済んだじゃない」
「何がよ」
「失恋……」
「ん…………、そうか、私蛍丸のこと好きだったのね」
「大人になったわね、遙華」
 そう引き寄せられたロクトの胸の中夜の闇に染まるまで、遙華その場を動けなかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『黒金 蛍丸(aa2951)』
『西大寺遙華(az0026) 』
『ロクト(az0026hero001)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております鳴海です。
 この度OMCご注文ありがとうございます。
 今回は蛍丸さんと遙華の恋物語ということで、青春中の学生がやりそうな恋愛をモチーフに描いてみました。 
 恋愛ものはやはり難しいです。
 なんにせよ、蛍丸さんの決断はとても男らしいものだったと思います。その感じがうまく出せているとよいのですが。
 暑中お見舞いありがとうございました。遙華も喜んでいました。
 お返事できなくて申し訳ありません。このノベルが書き上がるまでは遙華がどう動くのか私でもちょっと予想ができなくてかなり大人しかったので、不安に思わせてしまったかと思います。すみません。
 これからは大丈夫なので、これからもうちの遙華をよろしくお願いします。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。
 
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2016年08月05日

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