『夏色の休日 』

構築の魔女（aa0281hero001）＆辺是　落児（aa0281）

●皆で海へ
「こちらですよ、高音さん、十架ちゃん」
　構築の魔女(aa0281hero001)は、剣崎高音(az0014)と夜神十架(az0014hero001)の姿を見つけて手を振った。
「すみません、遅くなりましたか？」
「いいえ、今来た所です」
　高音が十架と共にやってくると、構築の魔女はにこりと微笑んだ。
　隣にいる辺是　落児(aa0281)も緩やかに彼女の言葉を肯定する。
「今日の装いも似合っていますよ」
　構築の魔女が2人を見て微笑む。
　今日は休日で海水浴に行くとあり、2人ともそれらを考慮した装いとなっていた。
　高音がシンプルなマリンブルーのワンピース、十架はスカイブルーからマリンブルーへのグラデーションカラーのサマードレスだ。十架のサマードレスの方が凝っているのは高音の拘りだろう。
　すると、高音がくすくす笑った。
「魔女さんこそ似合っていますよ」
「ちょっといいところのお嬢さん風……には無理があると思っていたのですが」
　十架も無垢に頷き、きらきらとした瞳を向けるので、構築の魔女は苦笑した。
　今日は白の薄い長袖に波打ち際を意識した白から蒼へのグラデーションカラーのロングスカートと麦藁帽子、サンダルというスタイルで、やはり海水浴を意識したものである。
「……落児……疲れ、てる？」
　十架がやけに疲れている様子の落児に気づき、労うつもりなのか背伸びをして頭を撫でようとしているので、落児は彼女が労い易いように身を屈めた。
　疲れている理由は、出掛ける前の構築の魔女の一言が原因だったりするのだが。
「大丈夫ですよ、十架ちゃん。落児は今日も可憐であろう高音さんと十架ちゃんを褒める言葉を探したり、それに見劣りしない格好探しに余念がなかっただけですから」
「ロロ……！！」
　さらっと言った構築の魔女とは対照的なのは落児だ。
　海水浴に行くだけあり、落児も今日はスーツではない。
　ネイビーのカットソーに半袖のマリンブルーのパーカーを羽織り、下は白のアンクルパンツ、足もスポーツサンダルと普段の印象を大きく変えるものだ。
　が、それはTPOを考慮したものだし、見劣りと言うより一緒に歩く彼女達が恥をかかせないようにという意味合いが強く、そして褒める言葉(構築の魔女の盛大な『意訳』による変化付)を探すとかではない。
　……ということを落児としては弁明したいのだが、言葉に関係なく構築の魔女の方が上手であった。
　そんな2人の反応を見、十架は高音を見、それからはにかんで落児の頭を撫でた。
「落児は……頑張りや、さん」
　構築の魔女は笑いを堪え、高音を見ると、高音も同じような顔をしていた。

●楽しみの砂浜
　合流し、何だかんだと楽しく海水浴場に行けば、やはり同じように休日を楽しもうとする人々の姿が多く見受けられたが、平日ということもあり、人が多すぎるということはない。
「芋洗いのような状態は避けたいですからね」
「お盆休みに入るとそうなってしまうかもしれないですね」
「皆、楽しそう……」
　構築の魔女が振り返る先には、シンプルな競泳用の水着の高音と小花柄の可愛らしいワンピーススタイルの水着の十架がいる。
　彼女達らしい(正確には十架の水着は高音が趣味で選んでいるだろうが)水着に微笑む構築の魔女は緋色のセパレートタイプのタンキニの上に丈の長い白のラッシュガードを羽織っている。こちらは日差し対策だ。
　着替えた時は流行のものとは言え少し派手かと思ったが、ラッシュガードを羽織ったし、何より海水浴客で同年齢くらいに見える女性も大体同じようなものであるので、目立たないだろう。
「既に落児が待ってますね」
　待ち合わせ場所には既に落児がおり、ネイビーのシンプルなサーフパンツの上に白のパーカーを羽織っている。
　女性3人待ち……と、視線を向けられたことに居心地の悪さを感じたのか、落児は早く行かないかと見てくるが、構築の魔女の目がきらっと光った。
「あら、落児、凛然とする高音さんと可憐な十架ちゃんの水着姿の美しさに言葉が出ないようですね」
「……」
「でも、私を含め、言葉が欲しいですね」
　答えない、ではなく、絶句している落児の姿はとても新鮮だ。
(やはり、いつもと違う状況だといつもと違う反応が引き出せますね)
　構築の魔女、落児が長い付き合いでも見せない反応にウキウキである。
「……ロロ、ロロロロ……」
「……ちょっと、驚きました」
　観念したらしい落児が何か言うと、構築の魔女は目を瞬かせた。
　ちなみに、彼が言ったのは、「だから目立って居た堪れないので移動をお願いしたい」である。だから、ということは、構築の魔女の言い分は認めたということだ。本音か譲歩かは別として、構築の魔女を驚かせるのには十分であった。
　しかし、ここで驚いたままであったら構築の魔女などという名を名乗る緋崎咎女(秘密のお名前)ではない。
「落児は他の男に見せたくないと言っていますので、移動しましょう」
　背後で落児が高音と十架に向かって、そこまでは言っていないと必死にアピールしていたのは言うまでもない。

　サンダルを履いているが、夏の砂浜は暑さを足の裏に伝えてくる。
　十架はそれも楽しいのか少しワクワクした様子で砂浜に一歩ずつ足を踏み下ろし、その横を彼女が十分楽しめるよう落児が歩いていた。
　……というのも、十架は小柄であるが、そのスタイルは子供のものではなく、一目で英雄とわかる容姿でもない為、変なことを考える者がいないとも限らないからだ。
「十架ちゃんは英雄ですから、寧ろ変なことをしたら、相手が心配なのですけどね」
「楽しみにしてたので、きっと凄く怒るかと」
　彼らの前を歩く構築の魔女と高音は2人の様子をたまに見て、そうした会話を交わす。
　自分達には子猫のように甘えてくる十架も敵か味方かで見極めた結果、前者の場合は怖いからという理由で徹底的に排除する傾向がある。その怖いからを上回るのは、高音が絡んだ場合の怒りだが、最近においては高音が好きで高音も好きな味方の人にも高音ほどではないにせよ適用される……となれば、危険は確実に相手であるのだが。
「落児も……熱い、から……ふーふーは無理でも、注意して、ね」
「……ロロ」
　十架としては結構真剣らしいが、それが微笑ましく映るらしい落児もどこか楽しそうだ。
　やがて、ちょうどいい場所が見つかると、落児がレンタルしたパラソルを設置し、構築の魔女がビーチマットを準備する。
「以前のモルディヴも素敵でしたが……今日は楽しみましょう」
　パラソル以外にもビーチボール、浮き輪も借りているし、デジカメはバッテリーもバッチリ。
　となれば、あとは楽しむだけ。
　構築の魔女がまずは見ているとビーチマットでまったりする中、遊びたいらしい十架が落児と高音の腕を取った。
「ロロ、ロロー……」
「高音さんと十架ちゃんが楽しみにしていた甲斐のある可愛さなので、自分もいい所を見せたいと言っています」
　まずは何をしようか聞いていただけの落児の言葉を構築の魔女は遠慮なく『意訳』した。
　何度『意訳』されても、構築の魔女が反応を待たれているとしても、慌てずにはいられないのが落児だ。
「ロロロロ！？」
「照れなくてもいいんですよ。当日の服装も水着も期待しておいてくれと私が自主的に伝えてありますし」
　『意訳』ですらなかった。
　そんな2人のやり取りに高音が隠し切れず小さく笑いを零す。
「大丈夫ですよ、落児さん。今日もとても素敵ですから、寧ろ私達が周囲の女性に嫉妬されそうです」
「かっこいいから、大丈夫」
「ほら！　2人もそう仰ってるじゃないですか。応援してますから、頑張ってください」
　魔女殿の場合は単に楽しがっているだけだろう。
　落児はそう言いたかったが、自分より確実に口が上手の構築の魔女にまた『意訳』されるだろうと思い、2人に感謝の意味で軽く頷く。
　十架が嬉しそうにはにかんで、まずはビーチボールで遊びたいとアピールした。
　ということで、まずはビーチボールで遊ぶらしい。

(淡白な関係ではなかったけれど、今は『誓約』があるだけ……説明を求められればそうなのだけど、やはり変化は人によって与えられるものですね)
　構築の魔女は落ち着いた気分で冷たく冷えたペットボトルのお茶を飲み、ビーチボールで一緒に遊んでいる落児を見た。
　エージェントになってから彼はやはり少し変わっていると言っていい。
　外部からの刺激とも言おうか。
　以前なら、あの光景は想像出来なかった。
　燃え尽きた灰のようであった落児は今も自分以外の者が判る言葉を話せないが、それまでも反応は緩やかのみであった。今も緩やかなことが多いが、緩やかだけではない(大半は自分の意訳が原因だが)
(高音さんと十架ちゃんには感謝しないと)
　当初落児は特に十架に怖がられないか心配しているようだったが、十架判定によると、落児は気遣ってくれる優しい人らしく、怖がるより懐いているようだ。
　高音も元々の性質上、ゆったりとしている落児と波長が合う。
　恋愛関係ではないというのは一目見れば判るが、得難い友人だろう。
「微笑ましいですね」
　呟く視線の先には、打ち損じて波の上に落ちたビーチボールを拾う落児の姿と打ち損じてしまった十架がお礼を言う姿がある。
　どっちが微笑ましいのかは、構築の魔女でないと判らない。

●午後も楽しく
　ビーチボールで楽しく遊んだ3人が戻ってくると、ちょうどいい時間ということで、海の家で食事をしようということになった。
　やはり目立ってしまって居心地悪そうな落児の表情は新鮮なものである。
「何を食べましょうか」
「焼きそばにする、わ」
　定番メニューを確認しながら構築の魔女が尋ねると、十架が焼きそばを指し示す。
「私も焼きそばでしょうか。今の時間あまり待たなくて良さそうですし」
「今日は高音さんと十架ちゃんとの海水浴ですし、お酒の類は少し遠慮しておくとして、私もそれにしましょう。落児は？」
　高音に頷いた構築の魔女が落児を見ると、落児は頷いて肯定を示した上で焼きとうもろこしを示した。
　彼はあれもプラスしたいらしい。
「普段だと想像出来ませんね」
「なら、今度は夏祭りなんかに行くといいかもしれませんよ」
「あら、それは名案です」
　構築の魔女と高音が会話を交わしながら、注文しに行く。
　見送っていた落児は十架が別のものに目を奪われていることに気づいた。
　そう、かき氷だ。
「……ロローー」
「……？　後で、で、大丈夫、かしら」
　落児を見上げる十架。
　頷いてみせると、十架は「約束、よ」と指きりの指を出してくる。
　躊躇ったが、落児が応じているそこへ構築の魔女と高音が戻って来た為、彼の時間が停止したのは言うまでもない。

「だ、大丈夫ですよ、落児さん。魔女さんはその部分については仰らないかと」
　海の家で昼食も終えた後、構築の魔女は十架のきらきらとした視線に負け、今は彼女と泳ぎに行っている。
　浮き輪でばしゃばしゃ泳ぐ十架の近くで、ごく普通の泳ぎをしている構築の魔女。
　落児的には、多分この展開は想定外だっただろうと思うが、十架が無垢なだけに構築の魔女は弱い部分もあるのだろう。
　とは言え、あの場面を見られたのは、後々良くない気がする。
　そう思う程度に構築の魔女は自分の反応を楽しんでいる。
　微妙に空気を察した高音がこうして慰めてくれているのだが。
「でも、今日は本当に楽しくて。私と十架ちゃんだけだとプールには行っても海には行こうと思わないから、誘ってくださって嬉しかったです。海なんて高校の臨海学校以来ですよ」
「ロロー」
「落児さんは林間でした？　臨海でした？」
　高音の問いに落児は目の前の海を指し示すことで、臨海であると返す。
「あら、それでは同じですね。私の高校では遠泳があって……」
　落児は自分の高校の臨海学校を思い返し、どこも大体似ていると高音の話に耳を傾ける。
　あの時は今この瞬間を想像出来なかった。
　大切なあの『君』を喪った時はもっと未来を想像出来なかった。過去も現在も否定したかった。
　今は──自分の過去を思い返し、現在もこうしている。あの夢で『君』に逢えたからだろうとも思う。
　緩やかでも、あの頃より生きている感覚を実感出来ていると思う、が。
　日常が変化したのは、こうしたあの頃とは違う出会いや多くの出来事のお陰だろう。
「落児はモテモテですね。次は私でしょうか」
　物凄い楽しそうな空気の構築の魔女によって振り回されるようになったのは、果たして日常の変化としてカウントしていいのか。
　落児は、その点については疑問視しておきたいと思っている。

　沢山遊んで、泳いで、かき氷を食べて。
　気がつけば、もう夕方。
　着替えて、帰りの電車に乗れば、十架は疲れて寝ている様子。
　高音に釣られるように落児が電車の窓の外を見ており、構築の魔女はそんな3人を見ている。
　来て良かった夏色の休日は今日の所は終わり。
　また語る日が来れば、その時語ることになるが、落児が振り回されるのは確実なのだろう。
　それも、休日ならではのこと。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【構築の魔女(aa0281hero001)/女/22/底を見せぬ大紫羅欄花】
【辺是　落児(aa0281)/男/20/翻弄される紫苑】
【剣崎高音(az0014)/女/19/毅然と可憐の白百合】
【夜神十架(az0014hero001)/女/17/はにかみの鈴蘭】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
休日を楽しく書かせていただきました。

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真名木風由

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2016年08月08日