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『運び屋の気まぐれカーチェイス(後編) 』
飯野雄二aa0477)&淡島時雨aa0477hero001

「何が起こっているのか、誰か説明してくれ……」
 この国際的大企業の総務部に勤めて2×年。係長の地位にまで上り詰めたこの男は、眼下で起こっていることに戦慄していた。
 朝から警察に囲まれていた会社に、一台の車が到着した。一人の男と少女……それから幼い子どもが降りたかと思うと群がる警察官の間をすり抜けて我が社に入ってきたではないか。
 それから少し遅れてパトカーが餌に群がる虫のごとく、ビルへぶつかっていく。何が起こっているのかわからないまま、呆然と立ち尽くす。
 数秒して出した結論は、
「そうだ。見なかったことにしよう」
 だった。


 国際的な大企業ともなれば、ビルのエントランスは何もなく広々とした空間が広がっている。何をモチーフにしたかわからないモニュメントを中心に、ソファとテーブルのセットがいくつも並んでいる。お客様を出迎える観葉植物もちゃちなものではなく、高々とした木々が鉢植えに入れられている。
 こうした大企業にふさわしい光景が、二人の闖入者によって崩されていく。入り口のガラス扉にソファを押し付けて、その片割れ、飯野雄二 (aa0477)が後ろに向かって叫ぶ。
「おい、時雨。そっちの植物も持って来い! 隙間を埋めるぞ、隙間!」
「ちょっと、雄二も運ぶの手伝ってよ。一人より、二人で運んだほうが早いんだから」
 頬を膨らませて抗議するのは、雄二の相棒、淡島時雨(aa0477hero001)だ。せっせと鉢植えを運びながら、雄二に恨みを込めた視線を送る。
「仕方ないな。よし、そっちのソファも使っちまおう」
「せーので、持ちあげるからね」
 せーのっと声を上げて、二人はまたソファを運ぶ。瞬く間にエントランスの均整は崩され、ものというものが手際よく会社の入り口を塞いでいった。
 奇妙なことにその様子を一人の幼女が眺めている。
 彼女の名前は、大厳寺まい(NPC)。この前代未聞の大騒動のきっかけとなった女の子である。だが、本人はそのことを知らない。
「なにをしてるの?」
「んー、そうだなぁ」
 どう答えたものか笑みを引き攣らせた雄二に変わり、時雨がぱっと応える。
「お父さんと会うのを邪魔しようとする人を邪魔しているんだよ」
 なるほど、とわかったのかわかっていないのか。まいは納得したように頷いた。まいが質問をしたころには、バリケードの生成は終了し警察官の怒号がガラスの向こうから漏れていた。
「うわ、おっかねーなぁ」
 バリケードの隙間から一目見た、警察官の形相に雄二はまた笑みを引き攣らせる。
「鬼の形相というのは、まさしくあのことだな」と神妙な面持ちで出入り口に背を向けた。なお、警察にとっては残念なことに裏口等の侵入経路すべてを二人は別け隔てなく塞いでいた。
「これでしばらく時間を稼げるね」
「とはいえ、兵は拙速を尊ぶんだ。急ぐぞ」
 まずはこの惨状を間の渡りにして呆然としている受付嬢に、話を通さなければならない。アポイントを取っているとはいえ、これはビジネスマナーだと雄二はいう。
「今さら感にあふれるマナーだね」
「それは言わないお約束だ」
 そうこう言っている間に、カウンターにたどり着く。二人を目の前にして、受付嬢はプロらしからぬ小さな悲鳴をあげた。雄二は肩をすくめて、口上を述べる。
「いやはや、脅かせてしまったようで申し訳ありません。決して俺たちは怪しい者では……ぬぐぉ!?」
「それ、怪しい人がいう台詞!」
 途中で時雨に足をおもいっきり踏まれて、前口上は中断した。一つ咳払いを入れて、時雨は改めて受付嬢に笑みを浮かべる。
「えーと、すみません、先ほど連絡した淡島という者ですが……」
「淡島様。当社には、どのようなご用件でしょうか」
 ここはプロの受付嬢。時雨が来客の素振りを見せると、すぐに表情を切り替えた。
「大厳寺様にお嬢様のお届け物です。取り次いでいただけませんか」
「大厳寺個人への配送でございますね。確認をいたしますので、少々お待ち下さい」
 にこやかで丁寧な対応に、逆にいたたまれなさを感じてしまう。受付嬢が内線をかけている間に、外の騒々しさが加速度的に増していく。こいつはまずい、と雄二が呟くのと受付嬢が電話を切るのが同時だった。
「あいにく、大厳寺は席を外しており……」
 受付嬢が言葉を続けられたのは、そこまでだった。
 派手な破壊音とともに、バリケードと扉が破られる。中へ入ってきたのは警察官だけではなかった。その先頭に立つ、トレンチコートにシャッポのいかにもな男が拡声器で叫ぶ。
「もう、逃げられんぞ、ル……」
「いわせねぇよ!」
 危険な台詞を前に、雄二は慌てて手近に転がっていた本を投げて拡声器を手放させた。
「それでは、戻られるまで大厳寺さんの部屋で待たせてもらいます!」
「あ、それは、ちょっと、困り……きゃあ!?」
 慌ててまいを抱えてかけ出した雄二とそれに続く時雨……を追うようにしてトレンチコート以下数十名が走り抜けていく。
「機動隊やSATを始め、救急や消防にまで人員を借り出させたのだ。逃げ場はないと思えぇ!」

「すごいこと言ってるね、雄二!」
「だが相手はあくまでも、民間人だ。実弾を撃つなよ、いいな、撃つなよ!?」
 いつのまにか銃を取り出していた時雨に、雄二は息継ぎの合間に忠告する。もちろん、と答えて時雨は銃口を下げる。
「この企業の見せられない人たちが出てきた時に、使うだけだよ」
「たのも、しいねぇ!」
「というわけだから、私が先導するね」
 足を速める時雨の目の前に、どこかの窓から飛び込んだらしい警察官が立ちふさがる。公務の執行を妨げないように、丁重な手段、つまりは無手で投げ倒す。
「ボクの行手は、誰にも邪魔をさせないからね」
「おーい、無茶はするなよー」
 邁進する時雨を追いかけながら、雄二は声を上げた。まいを抱えているからか、いつもより体力の消費が激しい。おまけに、捕まらないようにして上へ昇るのには、階段を用いるしかない。
「マジか……よ!」
「ちょっと遅れてきてるよ、雄二!」
「時雨、こっちはまいちゃん抱えてるんだぞ。少しは、考慮してくれ」
「でも、それぐらいの女の子なら、20キロあるかないかだよね。全然いけると思うよ。だから、がんばれー」
 よく言うぜ、と苦笑いを浮かべて雄二は一度立ち止まる。ちらりと後ろを見れば、かなりヤバイ表情をした大人たちが走ってくる。まいにはとてもじゃないが、見せられないと目を塞ぐ。
「ガラじゃないが、ちょっと叫ぶとするか」
 気合の咆哮を上げて、階段を一気に駆け上がる。ここまでのカーチェイスを思い出しながら、アドレナリンをぎゅんぎゅん排出していった。気づけば、時雨も追い抜こうとしている。
「ちょっと、先に行くのはダメだよ」
 慌てて時雨もピッチを上げる。二桁と少しぐらい駆け上がったところで、一度疲れが出た。さすがに無茶をしたと、反省する。
「そういや、まいの親父さんの部屋ってどこだ……」
「え、雄二知ってるんじゃないの」
 二人は互いに曖昧な笑みを浮かべた。どちらかが余計な言葉を吐くより先に、時雨がまいへ問いかける。
「お父さんの仕事部屋にまいちゃんは言ったことあるのかな?」
「……ある」
「どこか覚えているかな、教えてほしいんだ」
  一度立ち止まり、まいの返答を待つ。下階からけたたましい靴音と怒声が聞こえてくる。だが、焦ってもまいが混乱するだけだ。時間はないが、急かすわけにもいかず、もどかしさが募る。
 小さな唸り声を数秒上げて、まいは「21階!」と声を上げた。
「……間違いないんだね?」
 力強いまいの頷きに、雄二は乾いた笑い声を上げるのだった。


 大厳寺の部屋は、まいの生体認証で入ることが出来た。
「……失礼……しま、す」
 その部屋にたどり着くと同時に、時雨と雄二は床にへたり込んだ。降ろされたまいは、元気そうに窓へ近づいて都会の景色を楽しむ。空調が効いていることが、唯一の救いだ。
 いつ襲われるかわからない状態で、緊張もあったのだろう。雄二よりも時雨の方が、どっと汗をかいていた。
「うー、お父さんに会う前に汗が引くといいな」
「とりあえず、閉めておけば警察は入ってこれないだろう」
 つかの間の休息。息を整えていると、プロペラ音がビルへと近づいていた。咄嗟にまいが、パパのヘリコプター、と声を上げる。雄二が窓に近づいたときには、その姿はなく、音も止まった。
 数分後、革張りの重たい扉が勢い良く開かれた。まいとは似ても似つかないクマのような壮年の男が、まいへ向かって突進してくる。
 軍人の如き眼光に、雄二と時雨は得物に手をかけるのだが……。
「パパ!」というまいの一言で、鞘に収めた。
 お互いに抱き合う親子を見つめ、雄二と時雨は「よかった」と口をそろえて声に出した。
「よかったな、時雨。これでめでたしだ」
「そうだね、ゆう……」
 時雨が、雄二の名前を呼び終わる前に、ガチャリと金属音が手首から聞こえてきた。時雨が腕を上げると、何故か雄二の腕も一緒に上る。見れば手錠がかけられていた。
「はっはっはっはっは、ついに……ついに捕まえたぞ、大悪党!」
 あっけにとられる二人の後ろで、一人の男が笑っていた。振り返れば、あのトレンチコート刑事だった。弁解しようとする二人に、「悪党の言葉なぞ聞かぬ」と刑事は意地の悪い笑みを浮かべる。

「待ってください」

 野太い声で割って入ったのは、大厳寺であった。まいから事情を聞いたのであろう。彼は誠心誠意を尽くして、雄二たちの恩赦を願い出た。もとより、いろいろな噂のある企業の幹部である、刑事は顔を歪ませて後でお伺いしますとだけ告げた。
 結局、一泊二日の警察署宿泊ツアーの後、大厳寺パパの口添えもあって雄二たちは無罪放免と相成った。数日後、まいは解くことの出来た知恵の輪をもって会いに来てくれた。

「ありがとう、おじさん、お姉ちゃん!」
「おじ……まぁ、いいか。よかったな、まいちゃん」
 幼子の感謝の言葉が、物語の締めくくりだ。おじさん呼びに曖昧な笑みを浮かべる雄二と、笑いをこらえる時雨に画面は狭まっていき、フェードアウトしていくのだった。

 END

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【飯野雄二 (aa0477)/男/22/種族:人間/クラス:生命適正】
【淡島時雨(aa0477hero001)/女/18/クラス:ドレッドノート】
【大厳寺まい(NPC)/女/?/誘拐された幼女NPC】

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2016年08月09日

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