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『何見て笑う 』
蒼聖ka1739)&朱殷ka1359

 あまり人通りの多い所ではないはずだが、今日は、というか、ここ数日前から人の通りが増えている――それに気が付いたのは蒼聖がなんとなく、窓の外をしばらく眺めている時だった。
(なにかあったか……?)
 顎に手を当て、首を上に傾ける。
 夏の日差しが肌をチリチリと焼き、額から流れた汗が頬を伝ってぽたりと、手を濡らす。その時ふと、今という時期を思い出した途端、納得した。
「ああ、祭りの時期だ」
 昔は毎年、朱殷と行っていたのを思い出すが、大きくなってからここ数年、行く事がなくなってしまっているのですっかり忘れていた。
 祭りにまったく興味がない、というわけではない。少し割高で特別美味いわけではない出店の串をかじり、花火を見ながら飲む酒が美味いのは知っている。
 だがそれでもやはり、行く気にまではならなかった。
「朱殷がいなければ、どうにもな」
 ふらりといなくなって、数年。帰ってきたかと思えば、やはり、ふらりふらりとどこかに行って、たまに顔を見せに帰ってくる。
 そんな切れた風船みたいな朱殷である。タイミングよく祭りの日にいるということはこれまでに、ない。
「今年もまた、うちで横になりながら、眺めてるだけ……?」
 今、人ごみの中ちらっと一瞬見えた赤い髪に、目を見張った。ゆらりゆらりと揺れるそれを、見間違えるはずもない。
 蒼聖は思わず外へ、飛びだすように出ていった。
 するともう目の前にまで来ていた彼は、不敵に笑って見せた。
「よぉ。朱殷様のお帰りぞ」
「……お帰り、朱殷。覚えていたのか?」
「あぁ? 何の話ぞ」
 首を傾ける朱殷に、蒼聖は「まあそうだろうな」と笑ってしまった。
 なぜいきなり笑うのか理解できない朱殷が眉間にしわを寄せるのだが、蒼聖の「近いうちにお祭りがあるんだよ」という言葉に納得した。
「なるほど、な。祭りか……懐かしい響きよな。昔はお前と毎年、行ったものよ」
 祭りのある方へと顔を向け、懐かしむように目を細める。
 蒼聖も同じように祭りのある方へと顔を向けると、決心するように頷く。
「朱殷。明日、祭りに行こうか」
 昔に比べ、きっと今は関心が薄いから断られると思っていた蒼聖だが、「良いぞ」と肩がすかされるような返事が返ってくる。
 朱殷自身も、蒼聖がきっと断られると思っていただろうとわかっていたのか、言葉を続けた。
「お前からの誘い、断るわけもあるまい。共に昔を懐かしみ、飲もうぞ」
「――ッ……ああ、そうだな」
 両拳に力をこめ、危うく両手を振り上げてしまいそうになりそうだったが、なんとか留まった蒼聖。
 ただ、そんな様子も朱殷はわかるのか、笑みをこぼすと振り返った。
「さて、まずはお前の顔が見れたのだし、私は行くかの。戻ってきたと報告でもせねば、色々言うてくるだろうよ。また明日、会おうぞ」
「ああ、また明日な」
 来た時と同じく赤い髪を揺らし、去りゆく背中を見送った蒼聖が思い出したように家の中へと引き返していく。そして箪笥の前に来たかと思うと、次々に引きだしを引いては何かを探していた。
「――あった」



「あいかわらず、マメよな」
 朱の作務衣に袖を通した朱殷が、笑う。蒼聖はそれと同じ作りをした、蒼の作務衣に袖を通していた。
「似合うかもしれないと買っておいたが、箪笥の肥やしになるところだったんだ。それに、折角だからとことん楽しんでみないと」
 朱と蒼の作務衣を着て肩を並べると、祭りの会場へと向かう。
 久しぶりに来る祭り――こんなに人が多いものだったろうかと、人ごみをかき分けていく2人。かなり気を付けてはいるが、それでも時折、前を歩く蒼聖はすれ違いざまに肩が当たってしまい「すまん」と頭を下げる。
(朱殷だと、もう堪忍袋の緒が切れかねないな――いや、みんな避けてるのかもしれないな)
 勝手な想像だが、なんとなくそんな風に思えて朱殷の顔を見る。目つきこそいつも通りだが、それでも見る人によっては睨んでいるように見えるだろう。だからか、蒼聖の想像通り、人の方から避けていく。朱殷から避けるそぶりは、一切感じない。
 そのおかげで思ったよりイライラが溜まっていない表情で、視線に気づいた朱殷が「こんなに道が狭きものであったか」と、蒼聖に尋ねる。
 蒼聖もその疑問を抱いていたが、問われ、今になって改めて考えてみると簡単に答えが出た。
「……最後に来た時、まだ小さかったからだな」
「――おぉ、そうか。それほど前の話であったか」
 2人の視線が、少し下を向く。
 昔の自分達がそこにいるかのような錯覚に、目を細め、頭を振った。頭を振った先でふと目に留まり、朱殷はそこに指を向ける。
「蒼聖、久しぶりにやってみようぞ」
「ん? ……ああ、金魚掬いか。懐かしいな。でも朱殷は苦手だったろ?」
「それは昔の話ぞ。今の私であれば、金魚如き造作もなき相手よ」
 幾多の戦いを潜り抜けてきた朱殷が豪胆に笑い、蒼聖の背中を力強く叩く。常人ならむせかねない一撃だが、鍛えられた蒼聖にはそうでもなく、「じゃあやってみるか」といつも通りの調子で人の流れに逆らい、横切っていく
「店主殿。2人、1回ずつくれんか」
「あいよ!」
 蒼聖が店の主人から受け取り、それをひとつ、朱殷に渡す――と、途端に朱殷の眉が釣りあがる。
「なんぞ、これは」
「金魚掬いに使うもの、だよ」
「こんなモナカで掬えとな。ずいぶん時代も変わったものぞ……こんなモノを使っても良いならば、いくらでも掬えてしまう」
 そう意気込んで朱殷が金魚が泳いでいる箱の縁にしゃがみ込むと、金魚が一斉に朱殷の手が届かない反対方向へ集まっていく。無言で移動し、反対方向へしゃがみ直した朱殷だが、やはり金魚達は朱殷のいる所から反対の方向へ移動する――どう見ても、朱殷から逃げているようにしか見えない。
「朱殷、もう少し殺気を抑えたらどうだろう」
「それは誤解も甚だしい。私はこやつら如きを殺そうなど、微塵たりとも思いはせぬ」
(じゃあ朱殷がただ、金魚に嫌われてるだけか)
 中央を陣取っていた蒼聖は逃げ回る金魚の動きに合わせ、モナカで掬いながらそう思うのであった――

「納得いかぬぞ」
 イカをかじりながらしかめ面の朱殷の横で、気まぐれで立ち止まって買った酒の入った酒壺や、ちょっとしたつまみを片手に、蒼聖が肩をすくめた。
 どちらの手にも、金魚はいない。さすがに飼えないという事で、蒼聖が金魚を店に戻したのである。
「……このままでは腹の虫が治まらぬ。アレでもう一戦」
「今度は射的か。ワシはかまわないぞ」
「そのようなわけで、店主、弾をこちらによこすが良い」
 代金を叩きつけるように台の上に置き、手を前に突きだす朱殷。イカなどとっくの昔に腹の中へと消えていた。
 傲慢な態度に店主は怯みもせず、じろりと睨み返しながらもその手に弾を雑に手渡す。蒼聖はというと頭を下げながら静かに代金を渡して、ごく普通に弾を受け取っていた。
 弾を詰め始める朱殷――だが、先に構えたのは蒼聖であり、その大きな体の長い腕を生かし、できる限り至近距離で撃つの正攻法で挑む。
 小物を次々と落とし、最後の1発で、とりあえず中くらいのものを狙って、落とす――ここまできても、朱殷はまだ弾をこめていた。
「……朱殷?」
「良し」
 良しと言った朱殷の手には射的の銃がひとつ。先端についた弾以外の弾が、どこにもない。
 ――まさか。
 何かに気付いた蒼聖が手を伸ばし口を開こうとした瞬間、朱殷は銃を振りかぶった。
「ちまちま撃つより、1発で大物狙いぞ!」
 全ての弾を無理に詰め込み、撃鉄では力が足りないからと、それを吐き出させるために遠心力をも利用して引き金を引く!
 ――のつもりだったのだろう。
 だが銃は無情にも、手からすっぽ抜けていた。
 すっぽ抜けた銃は一番大きな景品を貫き、壁に当たった反動で他の景品を次々となぎ倒していく。
「そら逃げようぞ、蒼聖!」
「え? ……ああ、朱殷。逃げるのはよくないぞ!」
 後ろに店主の怒号を聞きながらも、スルスルと人ごみの中を上手く逃げていく朱殷を追いかける蒼聖であった――




 怒号も雑踏の中に消えたあたりで、やっと朱殷が止って蒼聖へ楽しげな笑みを向けた。
「やあ、愉快よな」
「愉快じゃないぞ、朱殷……」
「そのわりにだ。お前、顔が笑っておるぞ」
 そう言われて蒼聖は自分の顔に手を振れ、その言葉が本当である事に初めて気が付いた。
(昔を思い出したから、か。童心に返るとは、このことだな)
 振り回されていたが、楽しかったと思い出していた蒼聖の耳には、「今日はずっと笑っておうたがな」という朱殷の言葉は届いていない。
「そろそろ酒が飲みたいが――」
 走ったせいか笑ったせいか、乾いた喉をゴクリと鳴らす朱殷だが、周囲を見回す。
 雑踏、店主の声、楽しそうなお喋りなど色々な音。そして人が集まったことと、祭りという雰囲気が持つ熱気。しばらく眺めていた朱殷だったが、まだ浸っている蒼聖に向きなおった。
「ここは、酒を飲むには騒がしい」
 すると踵を返し、どこかへずかずかと歩いて行ってしまい、それに気づいた蒼聖は後を追いかける。

 喧騒は聞こえないが、祭りの雰囲気だけは伝わる――そんな少し離れた所に腰を下ろしていた。
 向かい合って座り、互いに酒を酌み交わすが、言葉はなかなか出てこない。お互い、話す事は色々あるはずなのだが、それでもなぜか言葉が出てこない。
(話したい事がありすぎるな)
 いない間にあった事、全部を話したいとは思うが、どこから話せばいいのか、また居なくなる前に話そうと迷ってしまっている蒼聖だが、ふと寂しさを覚えた。
(きっとまた、居なくなるんだよな)
 それが、それこそが朱殷だとわかっている。わかっているが――
 沈黙が続いていると、腹に響く低い音がして、地上からひゅるひゅると昇っていく火の玉。そして音が大気を震わせ、大輪の華が夜空に咲いた。
 次々に咲き始め、空が様々な色に染まる。
 見上げた蒼聖。夜空の大輪に、目が離せないでいた。
 1つ大輪が咲くたびに蒼聖のもやもやも弾け、「熱いうちに、楽しもうか」と酒のつまみに買ったものを並べ立てる。何を話すか悩んでいたのも忘れ、次から次へと言葉が溢れ、夜空に華が開くたびに言葉が途切れる。
 ここまで来ても花火に依然として興味のない朱殷だが、見あげて楽しむ蒼聖の横顔を見ながら、一杯。
(……こうして喜ぶお前を見るのも、悪くない)
 我が事ながら呆れ、苦笑が浮かぶ。
 目線を落とした蒼聖が不思議そうに首を傾けるが、「なんでも」と酒を飲んでその想いを隠す。
 やがて花火も終わって再び静けさが戻り、余韻を楽しむ蒼聖の口数は少なく、朱殷も言葉を口にしない。
 気まぐれに朱殷は空を見上げると、そこには自分を照らしてくれる、月がいる。いつだったか聞いた誰かの言葉が頭によぎり、その言葉が口を突いて出た。
「――月が綺麗よな」
 朱殷を照らす地上の月も見あげ、「そうだな」と笑う。
 そうして優しい明かりの下、尽きる事のない話をずっと続ける2人であった――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka1739/ 蒼聖 / 男 / 38 / 朱殷の月 】
【 ka1359/ 朱殷 / 男 / 38 / 蒼聖の太陽 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご発注、ありがとうございました。どちらも口調に悩み、ギルドでの発言を参考にさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。帰ってきたという報告をいの一番に蒼聖へする朱殷、それとすこしばかり童心に返る時間へ力を注いでみましたが、お楽しみいただけましたか?
またのご発注、おまちしております
colorパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2016年08月10日

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