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『 美味い酒の条件 』
レティシア ブランシェaa0626hero001)&ガルー・A・Aaa0076hero001

 数秒ごとに断続的に流れるチャイムの音にガルー・A・A(aa0076hero001)がのそのそと玄関口へと向かう。
「はいはい、聞こえてますよっと」
 ガチャリと玄関のドアを開くとそこには腕を組み不満げに顔をしかめるレティシア ブランシェ(aa0626hero001)の姿があった。
「ったく、早く出ろよ。熱中症で俺を殺す気か?」
「ハッハ、短気は損気だぜ、レティ。ま、入れよ」
 レティシアの非難は軽くかわし、ガルーは部屋へと続く廊下の先へと手をかざし入室を促した。

「いや、この間バイク走らせるついでにウィスキーの工場に寄ってきてよ。高めの酒買ってきたんだが、一人で飲むってのも寂しいだろ?」
 レティシアを先に座らせ、ガルーが冷蔵庫の中を漁る。
「何だ呼んでくれりゃ付き合ったのによ」
「男には一人で風に当たりたくなる時もあるってもんよ。分かるだろ?」
「フッ」
 ガルーの言葉を肯定するように一つ笑ってレティシアが空のグラスを掴む。
「ウィスキーか……どうするかな」
 そう呟くが、別に飲むかどうかを悩んでいるわけではない。ウィスキーには飲み方がある。彼が悩んだのはどう飲むか、だ。
「すぐに酔いつぶれたら勿体ないし、まずは水割りで行こうぜ。ハイボールでもいいけどよ」
「それなら水割りだな」
「OK」
 ガルーが氷入れとミネラルウォーターを持って席に着いた。カランカランと音を立てて氷がグラスに放り込まれる。そして、ウィスキーと水を手慣れた様子で注いでいく。
「いやしかし、これは1万しない程度だけどよ。高いウィスキーは平気で5万とか超えるから恐ろしいよなぁ」
「さすがにそのクラスとなると、滅多に手が出せねぇよな。まあ、値段の価値は十分にあるとは思うけどよ」
 ガルーが差し出したグラスにレティシアが静かに口を着ける。再びカランと氷の音が鳴った。
「お、飲んだことある? じゃあ、今度俺様に教えてくれよ、レティちゃんの奢りで」
「はぁ?」
 ガルーのからかう様な物言いにレティシアが突っかかる。
「何で俺が奢らなきゃならねぇんだよ、おかしいだろ」
「いやいや、これだって言わば俺様の奢りよ? 人生ギブアンドテイク。次はレティの番でしょ、普通に考えて」
「金額がまるで釣り合ってねぇだろ! 大体お前、年下の後輩に集るってのは、ちょっと格好がつかないんじゃねぇか、ガルーさんよ」
「ほほう、そういう事言っちゃう?」
 カラカラとグラスを回し、酒を撹拌しながらガルーがニヤリと笑う。
「じゃあ、ちと恰好つけて奢ってもらう事にしようか?」
「あん?」
 レティシアの疑問の声に答えるようにガルーが立ち上がる。
「西部劇風に言えば『付いてきな、小僧。負けた方が一杯奢りだ』ってところかな」
「そりゃ西部劇とはちょっと違う気がするが……いいぜ、面白そうだ。乗ってやるよ」
 ニヤリと一つ笑うと手に持っていたウィスキーをグッと一口飲みこみ、二人は連なって裏手の庭へと歩いて行った。

「とりあえず武器無しのステゴロ。腕以外の部分が地面に着いたら負け、でいいか?」
「OKだ」
 邪魔な小石を蹴りだしながら簡単なルール確認を行う。といっても本当に単純で簡単なルールであるが。
「勝った後の酒って美味いんだよな。人生の後輩に美味い酒飲ませてくれよ、ガルー先生」
「おーおー、ジャックポットが何か言ってんぞ。銃ありにしてやろうか?」
「ぬかしてろ。銃の扱い以上に荒事の方が得意分野なんだよ、俺は」
 軽い牽制のように軽口を叩きあう二人。一応冷静さを奪うという目的もないではないが、実質単なるじゃれ合いみたいなものである。
「両目が見えてりゃ勝てた、なんて言い訳はきかねぇからな?」
「あん、これか? 丁度いいハンデだよ。寧ろこれだけでいいのか? 後で泣くなよ」
 パチンと眼帯の紐を指で引っ張りレティシアが笑う。
「泣かねぇーよばーか! そっちこそ泣くんじゃねぇぞ、ガキは嫌いだからな」
 ガルーもそれに笑みを返し、懐からコインを一枚取り出し掲げる。
「これが地面に落ちたらスタートだ、いいな?」
「いつでもいいぜ」
「よし、じゃあ……いくぜ」
 ガルーの親指がコインを高々と弾き飛ばし、宙を舞ったコインが勢いよく地面に落下した。

 初めに動いたのはガルー。
 軽く右手を動かして視線を誘導しながら、レティシアの右目の死角を突くように左足で腿を狙う。
 大きなダメージにはなりにくいが、腿は避けにくく、かつ瞬発力に直結する部位である。初手としては非常に嫌らしい一手だった。
「見え見えだぜ、ガルーよぉ?」
 しかし、その蹴りはレティシアの右腕に止められる。レティシアの右目は疑いようのない弱点である。しかしだからこそ、その死角を狙われる経験は豊富だった。
 攻撃する気のない視線誘導のフェイントなどは、レティシアにとって『これから右側を攻撃しますよ』と宣言されているに等しい行為だ。
「舐めんなっ」
 ガルーの右足を強く払い、そのバランスを崩し逆の左手で殴り掛かる。
「ハッ」
 対してガルーはレティシアに弾かれた勢いに逆らわず、その勢いを回転力へと変え体を半回転。一歩後ろへ下がる。
 半歩分距離は離れたがそれでもまだレティシアの攻撃範囲内。レティシアは構うことなく左手を振り切りガルーの顔面を狙う。
「フン」
 しかし、半歩分の距離がガルーに迎撃の余裕を生じさせる。
 空手の上段受けのような動きでレティシアの拳を受け止めた。
「ち」
 零距離でのやり取りはガルーに分がある。それを自覚しているレティシアが、それ以上付き合うことは避け拳を引く。
「逃がさねぇよ」
 ガルーがそこを追って一歩前に踏み出す。
 レティシアの目の前でガルーの体が一回転する。
(回し蹴り!)
 ガルーの意図を悟り、咄嗟に頭を守る。
 ――頭以外であれば何とか耐えられる。
「そらぁ!」
 レティシアの脇腹にガルーの踵が突き刺さる。
「ぐっ!」
 バランスを崩し、倒れかけるがギリギリのところで堪える。
「どうした、ちょっと大人しいんじゃないの!?」
 しかし、その隙をガルーは逃さない。すかさず腕を伸ばし、レティシアのパーカーの前立てを掴む。
「くっ!」
「もらったぜ、レティちゃん」
 バランスを崩したところに服を掴まれてはひとたまりもない。あとは全力で服を引き寄せて押し倒し、決着だ。
 ガルーが勝利を確信し口の端を上げる。
「そいつはどうかな、ガルー先生よ」
「――!」
 ガルーがパーカーを引き寄せるのと同時に、レティシアがくるりと一回転する。
 ありえない挙動だった。当たり前だが、引っ張られれば体は前につんのめる。しかし、レティシアの体はむしろ回転しながら後ろに下がっている。
 驚愕するガルーであったが、右手に垂れ下がるレティシアのパーカーを見て事態を悟る。
 掴まれたパーカーを脱いだのだ。
「けっ、良い手を打ってきやがる」
「面白い一発芸だろ?」
 戦闘中に引っ張られた服を脱ぐなど早々できる事ではない。綺麗な試合や決闘では絶対に見られない、泥臭い反則じみた隠し芸。ある種レティシアの生き方を現した特技でもあると言えるかもしれない。
「俺の戦い方、見せてやるぜ」
 言って同時に足元の砂を蹴り上げ、ガルーの顔目掛けてまき散らす。
「うおっ」
 反射的に顔を反らすガルー。
 ガルーの視界が閉ざされたほんの一瞬を狙い、レティシアが地面スレスレの高さを駆ける。
 狙うは足元。今度はガルーの死角を突く低空タックルだ。
 膝を付く事が許されないルールの都合上、タックルは非常にリスクの高い行為だ。外したりすればそのまま自分が敗北しかねない。
 しかし、だからこそ意外性がある。裏をかける。
 レティシアには戦いの定石など興味が無かった。むしろ定石は破る事に意味がある。
 無言のまま一直線にガルーの膝元へ走るレティシア。
 目を開いてからレティシアの挙動を確認したのでは間に合わないはず――
「甘ぇよ」
 ――はずだった。しかし、ガルーは咄嗟に足を引き、レティシアのタックルを受け止める。
 ガルーの判断は迅速だった。目つぶしを受けた時点でレティシアの狙いを足元に絞り、ある程度対応を考えてから目を開けた。あとは状況に合わせて体を動かすだけだ。
 がぶり四つ。突っ張るレティシアをガルーが上から抑える形で場が停滞する。ちょうど『入』という漢字のような体勢だ。
 状況はレティシアの圧倒的不利。レティシアは常に前に出続けていないと、体勢的に地面に膝を付いてしまう。
 とはいえ、ガルーの方もレティシアが全力で前に出続ける限り迂闊には動けないが。
「もう終わりか? もう少し楽しもうぜ、レティちゃん?」
「ぬかしてろ」
(っつっても、実際どこかで賭けに出る必要があるな……。このままじゃジリ貧だ。よし……)
 レティシアが覚悟を決め、あえて体の力を一瞬抜き、体を抑え込まれるままに落下させる。
「お?」
 予想外の方向の動きにガルーの体が前方に泳ぐ。
(今だ!)
 その一瞬を狙って、地面に手を付き、その力だけで、体を跳ね上げる。
 頭の位置がガルーと同じ場所まで上がる。
 これで状況は五分――
(いや、待て)
 言い知れぬ違和感に襲われるレティシア。
 違和感の正体はすぐに気付くことが出来た。普段から常に肌身離さず身に着けているアイテム、眼帯。
 その眼帯の感触がおかしい。
(引っ張られて――)
「正解」
 ガルーは悪戯っぽい笑みを浮かべ、組み合っていた時にこっそり指に引っ掛けていた眼帯を手放した。
 帯の伸縮に引っ張られて勢いよくレティシアの顔面に眼帯がぶつかる。
「――っ」
 ほぼ密着状態からの予想外の奇襲。目は人間の絶対の急所の一つだ。それはレティシアの目が傷を負い、視力を失っていたとしても変わらぬ事実だった。
 眼球に受ける衝撃にレティシアが一瞬怯む。
「そらよ!」
 その刹那の隙にガルーの爪先がレティシアの踵を引っ掛ける。
 咄嗟の反応が間に合わず、そのまま尻餅を突き転ばされるレティシア。
「ほい、決着だな。やー、レティちゃんの奢りかー、嬉しいな!」
 満面の笑みを浮かべながらレティシアに手を差し伸べるガルー。その手を素直にとり、レティシアは立ち上がった。
「ち、仕方ねぇ。約束は約束だ。奢ってやるよ、ガルー先輩」
 殊更先輩を強調してレティシアが告げる。しかし、ガルーはどこ吹く風。既に勝利の美酒に思いを馳せていた。
「いやー、楽しみだぜ。ま、せっかくだからバイク転がして行こうぜ」
「フ、お子様連れていくわけにもいかないからな。丁度いいか」
「流石に酒はな……」
 お互いに相棒の顔を思い浮かべながら、家の中へと歩き出す。
「さて、まずは飲み直しだな。今日の酒だってきっと美味い」
「……そうだな。確かにそうだろうよ」
 気の合う友人と肩を並べて飲む酒はいつだって美味い。
 それは今日の酒も明日の酒も、安いも高いも変わらないのだ、きっと。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0626hero001 / レティシア ブランシェ / 男 / 27 / ジャックポット】
【aa0076hero001 / ガルー・A・A / 男 / 31 / バトルメディック】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ツインノベル、ご注文ありがとうございます。
お世話になっております、弐号です。
ガルーとレティシアの少し大人げない手合わせ、
お気に召していただければ幸いです。
お互い汚い手も上等のガチンコ派だったので、結構楽しく書かせていただきました。
どうかご笑納ください。
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弐号 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年08月15日

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