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『【相縁奇縁、腐れ縁】 』
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●来訪者は、常に騒がしく。

 ヅーッ、ヅーッ、ヅーッ!

 振動式目覚ましの出来そこないのような、等間隔で唸る音が静かな部屋に響いた。
 机に向かっていたツラナミ(ka3319)は動じる様子もなく、ただ面倒そうに脇の端末を引き寄せ、既定の数値を入力する。
 耳障りなアラートはすぐに止まるが、今度は通信端末の呼び出し音がうるさく鳴り始めた。
 嘆息すると咥えていた煙草を指で挟み、通話ボタンへ手を伸ばす。
「警報が鳴ったようだが、こちらに異常はない」
(え、はぁ。そうですか)
 いきなり告げれば、出鼻をくじかれた保安要員が毒気の抜けた返事をした。
「その代わり、明日にでも修理班を寄越してくれ。たぶん、ドアの電子ロックを丸ごと交換する必要があるだろうから」
(あ……『また』ですか。必要なら、今からでも向かわせますが)
「明日でいい。用件は、それだけだな」
 話が見えていない相手に構わず、通話を切り上げる。
 これ以上は話しても埒が明かない上、更なる面倒事の襲来がわかりきっていたからだ。
「おーい、ツラー」
 案の定、べったんべったんと騒々しい足音が無断で部屋へ入ってきた。
「遊びに来てやったぜー」
「帰れ」
 開口一番、にべもない返事。
 しかし聞こえなかったのか、聞こえても意に介していないのか。
 いきなり押し込んできた来訪者は無遠慮に傍までやってきて、どっかと机に腰を下ろした。
 大量の試料や書類に埋まっていない場所へ陣取ったあたり、まだ幾分かの思慮を持ち合わせているのかもしれないが。
「なぁー、ツーラーナーミー」
 ……前言撤回。
 むさ苦しい顔に視界を占有され、その眉間にペンの尻側をぐりぐり押し付ける。
「お前、部屋の鍵はどうした」
「あー? 鍵なら開いてたぜぇ?」
「開いてたんじゃなく、こじ開けたんだろ。鍵がかかっているたびに壊すおかげで、警報と保安部に仕事の邪魔をされる身にもなれ」
 もっとも、警報装置は既に極小までボリュームを絞ってあるせいで、主に『鯆探知機』と化しているが。
「だったら、鍵を開けておいてくれればいいだろー。そうすれば、鯆サン専用マスターキーを使わずに済むのにさぁ」
「専用、マスター、キー……だと?」
「そ。コイツ」
 いかがわし気な単語を区切って聞き返せば、得意げに機械仕掛けの左腕を振ってみせた。
「単に、こじ開けただけだろうが」
「自称マスターキーなんだから、そこは物理的開錠とか、ソレっぽく言ってくれよー」」
 へらへら笑いながら、わきわきと義手を動かす鯆にツラナミは頭痛を覚える。
 まぁ、その義手と、ついでに義足になった原因はツラナミにあるので、ある意味では随分と湾曲的な因果応報というヤツかもしれないが。
「ところで。人の仕事の邪魔をする余裕があるようだが、自分の部署はどうした」
「おやぁ、心配してくれるのかなぁ。ツラナミー?」
 にへりと笑う鯆へ、露骨にツラナミが嫌そうな顔をし。
「兵器開発の連中から、俺のせいで仕事が遅れるとか難癖をつけられたくはないからな。それでコッチの予算まで口出しされたら、いい迷惑だ」
「大丈夫だってぇ。俺に限って、そんなヘマはしねぇからさー」
 笑いながら、うにうにとツラナミの頬を突っつく鯆。
 鯆は一向に退散する気配がなく、半ば諦めたようにツラナミは短くなった煙草を吸殻でいっぱいになった灰皿へ押し込んだ。
 いや、諦めという点については、とっくに悟りの境地に至っているが。


  同じような歳に格好、重度のヘビースモーカーと、二人には互いに通じる部分が多い。
  一方で、彼らの属する『組織』の中で鯆は兵器開発部門の責任者であり、ツラナミは薬物部門を統括する総責任者……とは別の、もう一つの『顔』も持っていた。
  しかし専門は違えど、背負った責任者という自由で不自由な『肩書』よりも、ずっと古い付き合いだ。
  鯆にとってのツラナミは同じ居場所に身を置き、共に仕事を進める仲間といえる相手。
  だが対するツラナミはといえば、鯆にさして興味などなく、むしろどうでもいい存在だった。
  それでも、時の変遷というのは面白いもので。
  最初はわずらわしかった『来訪』も、常習化した頃には追い出す気力も――ただし文句はつけるが――失せ、今では過去のツラナミを知る数少ない友人、家族のように思える程になっている。
  また鯆にとってもツラナミは単なる仕事仲間ではなく、彼の振る舞いを許容し、気が置けない遊び相手となり。
  ――今もこうして、友人の部屋を強襲している。


 呆れ顔のツラナミが白衣のポケットへ手を突っ込み、半ば潰れた煙草の箱を取り出す。
「ツラナミ、俺もー」
 一本引っ張り出す横から鯆がすかさず手を伸ばし、返事を待たずそれをひょいと奪った。
「お前、自分のがあるだろ」
「ざーんねん。ちょーど、切らしてんだよなぁ」
 羽織った白衣の下、ヨレたワイシャツの胸ポケットが膨らんでいるのを隠そうとすらせずに鯆はへらへら笑い。新たに一本煙草を出したツラナミも追及せず、手持ちのライターで煙草へ火を点ける。
 煙草の先端に赤い火がともったのを見計らったように、ぐぃと鯆が身を乗り出した。
 机の上に広がった書類に手をつき、身体をひねらせ、触れるか触れないかの距離まで顔を近付ける。
 眼鏡越しに見る黒い眼の、恨めしそうな視線をよそに、鯆は咥えた煙草の先端をツラナミの煙草で焙り。
 間近で感じる相手の呼吸、そして気配や匂い。
 一瞬、息を詰めそうになるが、ゆっくりとツラナミは赤い火種を揺らめかせ。
 騒がしい鯆もこの間だけは息を凝らし、静かに火が移るのを待つ。
「いやー、人の煙草は旨いなー」
 最初のひと息を肺にまで落とし込んでから、満足げに鯆は紫煙を吐いた。
「言っとけ」
「またまたぁ。ツラナミだって、そう思うだろ?」
「ほょられるのは主に俺の煙草らし、ほょってひくのは主にお前だらから……っへ」
 べし。
 面白がって頬を引っ張っていると、その手をツラナミが叩き落す。
「人の顔を引っ張るな」
「ツラのケチー、減るもんじゃなし」
「気分的な問題だ。あと、煙草は確実に減ってる」
「だって、ツラナミいいモン吸ってるからさぁ」
「その辺に置いてある、自販機の銘柄だぞ」
「あれ? じゃあ、後からナニか一服盛った特別製かぁ?」
 弄り回されるのを警戒してか、鍵付き棚に納められた薬品の列を鯆が指差した。
「……調合してやろうか。手早くぽっくりの特製品を」
「そりゃあ、困るなぁ。鯆サン、まだぽっくりする予定とかねぇから」
 目を細めて、くつくつと笑いながら机に座った鯆は足をぶらつかせる。
 そのまま、なんの前触れもなく。

 フッと、会話が途切れた。

  もしツラナミがいなくなったら……そんなことを、鯆は考えたこともない。
  考えないようにしているのかも、しれない。
  もたらす手段は違っていても、互いに人へ死を与える研究者。
  加えてツラナミは、直接死に関わる始末屋。
 『明日』の保証なんぞ、誰がしてくれるはずもない。
  ただ、ツラナミがいなくなったら……随分とつまらなくなるだろう、と。
  微かに疼く、義肢のそれとは違う、正体不明の痛みと共に思う。

  求めるのは、仕事の効率だけ。
  だからツラナミは冷酷冷徹にそれをこなし、それ以外に対する関心は皆無。
  例外があるとすれば、鯆の関わることか。
  騒々しいのがいなくなれば、彼の生活は再び淡白で単調なサイクルに戻るだけ。
  そんな予測の一方、どうしようもない空虚の気配が思考の外でまとわりつく。
  彼でも殺せないソレは、ことあるごとに……理由の有無を問わず、部屋を訪れる友人を連想させた。

 言葉の代わりに、しばし紫煙が二人の間を漂い。
 やがて、のそりと鯆が机の上から降りた。
「戻るのか?」
「あ?」
 目をやるツラナミの問いに、咥え煙草の鯆は怪訝な表情を返し。
「喉が渇いたんで、何か飲むかなーってな」
「……チッ」
「あぁ? いま、舌打ちしただろー。せっかく遊びに来た鯆サンに、ひっでぇなー」
「誰も、遊びに来てくれと頼んだ覚えはないが。というか、仕事の邪魔」
「お、良さげな酒、見ーっけ」
「だから聞けよ、お前は」
 薬臭い書斎から寝室まで徘徊した結果、サイドボードに置いてあった酒瓶と、キッチンから汚れていないビーカー2つを手に戻ってきた。
「飲もうぜぇ、ツラナミ。お前が飲まなくても、俺は飲むけどなぁ」
 どっかとカウチソファに腰掛け、ローテーブルの上に置かれたビーカーへなみなみと酒を注ぐ
 このパターンだと鯆は酒瓶を空にした末、そのまま自分の部屋へ戻らず、ソファで寝こける結末を迎える確率が高い。
「今日はもう、仕事にならんか」
 それに鯆一人で酒を飲み干されるというのも、何故か妙に癪で。
 しぶしぶ仕事を切り上げたツラナミは、重い腰を上げた。


 のちに彼らの下へ訪れる、死よりも深い断絶に、今は気付くはずもなく――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【aa0027hero001/鯆/男/47歳/―/ドレッドノート】
【ka3319/ツラナミ(=鵤)/男/43歳/人間(リアルブルー)/機導師(アルケミスト)】
■イベントシチュエーションノベル■ -
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2016年08月12日

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