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『卒業!子供時代! 』
静玖ka5980)&ka5978)&ka6002

 世には残念ながら、縁あって夫婦となったにも関わらず、様々な理由から不仲となってしまう夫婦も存在する。そういった場合は概ね、夫婦生活に終止符を打つにせよ、妥協点を見つけて生活を続けるにせよ、あまり幸せとは言えない暮らしになってしまうもの、らしい。
 そういった話を聞くにつけ、ならば我が家は遥かにマシなのだということは、もちろん静玖(ka5980)も理解していた。理解していた、けれど。

「もう、うち我慢できまへんぇ?!」

 どどーん! と仁王立ちして胸を張り、声高々とそう叫んだ静玖の言葉に、叫ばれた澪(ka6002)はちら、と彼方へ視線を巡らせた。それは別に双子の片割れの言葉に同意しかねた訳ではなく、単に、そちらの方向に居る『原因』につい眼差しを向けてしまっただけなのだけれど。
 そんな澪の眼差しに導かれるように、静玖もまたそちらへと眼差しを向ける。その先には彼女たちの家があり――そうしてその中には彼女の『我慢の限界』を越えた『原因』、すなわち彼女たちの『両親』が、居て。
 ちら、と眼差しを向けただけですら、とても仲睦まじい様子が伺える、とても結婚○年目にして静玖含む3人もの子供が居るとは到底思えない、新婚ほやほやと言われても大半が信じるであろう仲の睦まじさ。しかし、それが序の口に過ぎないことを悲しいかな、彼女たちはよく知っている。
 まったく、と静玖は腹立たしいやら恥ずかしいやら照れ臭いやら苛立たしいやら、とにかく色んな感情がごちゃ混ぜになった気持ちでそんな両親を遠目に睨めつけた。

(おとはんもおかはんも……ほんまに……ッ)

 毎日毎日、飽きもせず子供たちの前でいちゃいちゃと――否、いちゃいちゃだけならまだいいのかもしれないけれど、多くの場合はさらにその向こうの高みまで。ちょっとくらい人目を気にしてくれないものだろうかと、見せられてる子供たちの方が両親に苦言を呈したくなってしまうとはこれいかに。
 繰り返すが、もちろん世に聞く『互いの顔も見たくない』というような不仲の夫婦より、そりゃあ仲睦まじい方が良いに決まってる。きっともちろん、そうに決まってる。
 だがしかし。

「あーんなイチャエロ、毎日見せられるうちらかてつらいわ〜〜〜ッ!!!」
「うん。だよね」

 お空に向かって拳を突き上げ絶叫する静玖の言葉に、こくこく澪が頷いた。その表情は真剣というより自然体そのもので、逆に彼女の心情を如実に表している。
 な! とそんな澪の反応に、静玖は力強く何度もブンブン頷いた。何しろこの、『両親ラブラブすぎて辛い!!』という思いは気づいた頃には、彼女達の心の根っこのところにしっかりと存在していたのだから。
 もちろん、彼女達が蔑ろにされて育ったのかといえば、そんなことは決して、全く、これっぽっちもない。両親は子供たちを力一杯可愛がってくれたし、今もそれは変わらない。
 だが、だからこそ気づいてしまったというか。否応なしに、思わざるを得なかったというか。
 すなわち――子供たちを可愛がりつつも全力でイチャラブするあの両親にとって、ぶっちゃけ子供たちってお邪魔虫以外の何者でもないんじゃないのか……? と。
 ゆえに。

「澪、うち、いえ出ますぇ?! そして面白い世界へ!!」
「ん。静玖が行くなら、私も行く」

 ぐぐぐっ、と力強く拳を握り締め、ぽろっとかけ値ない本音も漏らしながら宣言した双子の片割れに、こく、と澪は頷いた。静玖の言葉の意味がわからなかったという訳ではない、きちんと理解した上で、そうしたいと思ったから。
 家を出るということ――その先にある、未だ定かには知らない外の世界に飛び出すということ。それにまったく不安がないといえばきっと嘘になってしまうけれど、それ以上に楽しみな気持ちが強いのは事実。
 だからその家出計画に頷いた、澪に静玖が「なー」と満面の笑みを浮かべた。が、すぐにその顔を少し、思わしげに曇らせる。

「兄ぃは……無理やろな。やから、二人で……見つからんようにや」
「……うん。兄様はダメ。後継だし。二人で、行こう」

 そうして言った静玖の言葉に、澪は努めて簡潔にそう言った。とはいえ、その声色に滲む寂しさばかりは、隠し切れはしない。
 それでも、兄を巻き込んではいけないと判っているから澪は、きゅっ、と唇を噛み締めてからもう一度「二人で行こう」と頷いた。そうして、寂しさを押し隠すように楽しさをかき立て、家出計画を練り始めたのだった。



 このところ家の中に漂う常ならぬ空気に、ふむ、と雹(ka5978)は考えを巡らせた。

(父さんと母さん……はいつも通り仲良し)

 ちら、と確認も込めて向けた眼差しの先では、大変いつも通り、いちゃいちゃべたべたきゃっきゃうふふとしている両親がいる。何1つ変わらない、日常の光景だ。
 逆にあの両親がよそよそしく、とは行かないまでも長い時間を離れて過ごしていることがあれば、その方がよほど異常に違いない。なので仲良くいちゃいちゃしている分には、雹も困りはしないのだけど。
 ただ気にかかることがあるとすれば、果たしてあの両親の姿を日常的に、強制的に目の当たりにしている妹たちにとって、教育上はあまりよろしくないのではないだろうか……という事だろうか。仲良きことは美しき哉、と単純に受け流すには少々、割と、かなり度を抜いた『仲良し』具合ではあることだし。
 となると。

(やっぱりあの二人の方……だよな)

 くるん、と両親から視線を逸らし、反対側を見やればそこには、今日も二人で何やら話し合っている素振りの双子の妹たちがいる。それ自体は、仲の良い姉妹の光景と言えなくもない。
 だが、なんとはなしに妹たちの様子がおかしいと、雹はこの頃感じていた。この、家の中に漂う常とは異なる空気も、となればあの2人が原因と考えるのが自然だろう。
 そして、なぜ2人の様子がおかしいのか、と考えると――

(……これ、どう考えても家出の準備だよな……)

 そう考えて雹は、ふぅ、と小さくも深い、そしてどこか楽しげなため息を吐いた。まったく、と知らず小さく呟いた口の端にも、微かな笑みが浮かんでいる。
 一体どうして、とは少しも思わなかった。それよりも雹の内心を占めていたのはどちらかと言えば、仕方ないな、という微笑ましい気持ちである。
 きっと本人たちはこっそり、内密に準備を進めているつもりなのだろうけれど、雹の目から見ればいかにも粗削りというか、家出準備の痕跡を隠しきれていない。もちろんそれでも、きっと同じ年頃の子供に比べれば十分、完璧にやりおおせてはいるのだけれど。
 それでも、雹にとってはまだまだ目の離せない、可愛い妹たち。そんな二人が自分にも黙ってこっそりと出て行こうと計画しているのを、だから雹も黙って見送るという訳にも行かない。
 まったく、と雹はもう1度口中で、小さく小さく呟いた。口元に浮かべた笑みを、知らず深めながら。





 ここまで来ればさすがに大丈夫だろう、という所までやって来て、ようやく二人は足を止めた。ついと来た方を振り返ってみても、もちろん懐かしい我が家はおろか、見慣れた景色の1つも見えはしない。
 それに安堵と、達成感からくる高揚を感じながら静玖は、背負った荷物を揺すり上げて双子の片割れを振り返った。

「ここまで来ればもう安心ですぇ!」
「うん。気付かれてる感じしないね」

 澪も眼差しを後方へと向けながら、こくり、静玖の言葉に頷く。家をこっそり抜け出してからも、ここまでの道のりも、念のために周りを警戒しながらやって来たけれども、誰かが追いかけてきているような感じはしなかった。
 それに、安堵する気持ち。でもどこか、寂しい気持ち。
 きっと同じ気持ちを感じているに違いない、静玖はけれども悪戯が成功した時のような笑みを浮かべて、ぽん、と懐を大仰に叩いてみせた。

「あ、おとはんのへそくり持ってきたよって、軍資金は安心やぇ。当面、お金で困ることはあらしまへん。さん……二人やったらなんでもできますぇ!」

 ひょい、とその言葉に目を見開いて見せれば、誇らしげな双子の片割れの笑顔がある。それでも、わずかに飛び出してしまった本音の言葉を、隠し切れはしなくて。
 澪と静玖と、それから。遥か遠くなった我が家に残してきた、いつだってそばに居てくれた、頼り甲斐のある。
 ああ、けれども二人で決めたのだ、その人は――兄は巻き込まないと。二人だけでやりおおせるのだと。
 だから澪も頷いて、意識して力強い笑顔を浮かべて、己に言い聞かせるように言の葉を紡ぐ。

「うん。静玖と一緒なら私は平気」
「――仲間外れは寂しいね」
「………ッ」

 その言葉に、どこか揶揄うような響きを秘めた優しげな声がふいに、応えた。それはとても聞き覚えのある、なのにとても懐かしい声。
 一体誰の声なのか、判らないはずがなかった。判ったにも関わらず――否、判ってしまったからこそ静玖はそちらを見つめたまま目を丸くして動きを止め――そして澪は。
 どうして、と呟いた。思わず声の主を振り返り、そこに過たず脳裏に思い描いた相手が立っていることを確認して。
 バッ、と勢いよく顔を背ける。だって彼の、大好きな兄の顔を見ていたら、兄に見つめられていたらきっと、絶対に泣いてしまうから。
 決して振り返りはすまいと、強く胸に誓って澪は、震えそうな声を引き絞って告げた。

「なんで、来たの? 帰って。兄様……」
「そ……そうですえ! うちらを止めようとしても無駄ですえ!」
「止める?」

 澪に助勢するように、静玖も慌ててそう叫ぶ。だがそんな二人を見比べた兄、雹が返したのはそんな、不思議そうにも響く声だった。

「止めないさ。僕も一緒に行くよ」

 そうして雹が告げたのは、彼にとっては当たり前の、けれども妹たちにとっては青天の霹靂に違いない言葉。案の定、ぽかん、と呆気にとられた顔になった二人を見て、雹はそれこそ特大のいたずらが成功したかのように微笑んだ。
 ここまで妹たちに気付かれないよう、二人が家を出てからずっと追いかけて来た雹である。なんと言っても可愛い妹たちだ、二人だけで世間に出すなんて心配だし、危なっかしくて仕方ない。
 だから、と笑顔で雹は両手を広げ、二人をぎゅっと抱き締めた。

「丁度いいさ、僕もそろそろ独り立ちしないといけないからな。僕らはいつも一緒だ」
「兄ぃ……」
「兄様……」

 雹の力強い腕に抱き締められて、知らず、家を出てから張り詰めていた双子の気が緩む。胸の奥から湧き上がってくるのは、どうしようもない安堵の喜び。
 その暖かな腕に澪は、強く強く顔を埋める。本当は兄と離れたくなかったことを、一緒に行くという兄の言葉が泣きそうなほど嬉しいことを、知られたくはなかったから。
 そうして存分に抱き締められて、すっかり安心したところで、はた、と静玖と澪は顔を見合わせた。

「でも、兄様まで居なくなったら……家に誰も……」
「そうや、おとはんとおかはんが!」
「ああ、それなら大丈夫だよ。書置きを残して来たからね」

 どうするんだと、思わず声を上げた双子の妹たちを見て、けれどもその辺りにも抜かりのない雹はにっこり笑ってそう告げる。今頃はきっと両親も、残してきた書置きを読んで安心していることだろう。
 そんな雹の言葉を聞いて、さっすが兄ぃ、と静玖は途端に安心の笑顔を浮かべた。家のことが心配いらないとなれば、早くも頭はこれから始まる新しい生活のことでいっぱいだ。
 もっとも、澪はといえばそこまで簡単に安心することも出来ず。果たしてこの兄は一体どんな書置きを残してきたのかと、伺うような眼差しで見上げてみれば、心配要らないよ、とますますの笑顔が返ってくるばかり。
 うーん、と考えた末に澪は、考えることを放棄した。雹がそういうのなら、きっと大丈夫……なのだろう。きっと。
 そんな表情を見てとって、うんうん、と雹が笑顔で頷く。そうして改めて兄妹は、揃って新たな世界への一歩を踏み出したのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職 業 】
 ka5978  /  雹  / 男  / 16  / 格闘士
 ka5980  /  静玖 / 女  / 11  / 符術師
 ka6002  /  澪  / 女  / 12  / 舞刀士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
大変お待たせしてしまい、本当に申し訳ございません。

ご兄妹での大きな世界に電撃デビュー(?)の物語、如何でしたでしょうか。
アドリブ歓迎との事でしたので、かなり自由につづらせて頂いてしまいましたが……
ちなみに先日とある情報記事で拝読したところ、フランス辺りでは、こういうご両親の方が普通だったりするそうですね。
とはいえ、目の当たりにさせられる(!)お子様の苦労はなかなか大変そうな気がいたします……(苦笑
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座

ご兄妹のイメージ通りの、新たな始まりへの希望に満ちたノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年08月15日

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