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『水が紅く染まる時 』
天谷悠里ja0115

「そうですか?」
 紅い薔薇のドレスを身に纏った天谷 悠里(ja0115)は戸惑っていた。ドレスを着ただけでこんなに変わるものだとは思っていなかったのだ。
 変わったのではないかという少女の指摘に首を傾げるが、見れば見るほどいつもの自分とは違う、別人の様に見えてしまう。
「ええ。どうしてそう思うの?」
 メイク道具を揃えながら黒い少女は興味深そうに尋ねる。その声の端に戸惑う悠里自身を楽しんでいる様な雰囲気が感じられる。
「貴女達は実際に防具を身につけ武器を手に取ることもあるでしょう?」
 確かに。撃退士である以上それは当たり前の事。でも……それとこれを一緒には考えたくない。
 ドレスを見つめたまま黙り込む悠里をそのままに黒い少女がメイクを施していく。
 長いまつ毛の間から濡れたように輝く夜闇の如き瞳。
 熟し口を開けた柘榴のように紅く艶めく唇。
 幾重にも天使の輪が出来た髪はこれから行われる儀式の為に禊を終えたばかりのよう。
 鎖骨や目元に控えめに輝くラメは上品さと妖艶さを引き出すスパイスになっている。
「鏡を見て。最初に来た時貴女はこんな風だったかしら?」
 頬の上を滑る少女の指に導かれるまま悠里の視線は鏡へ向かう。
「あっ……」
 鏡の中で真っ赤な薔薇がこちらを見ている。
 鏡だという事を忘れていれば誰だろうと首を傾げてしまうかも知れない程に目の前の女性は自分のイメージとはかけ離れていた。
「ドレスのせいですよ。でも、いつもありがとうございます」
 なんとかそう切り返すも、少し前の彼女ならこんな胸の開いた大人っぽいドレスは着なかっただろう。
「そう?それじゃあ身も心もドレスに委ねて仕舞えばいいわ。安心して。もっと深くできる様にしてあげる」
 その声は見た目に不釣り合いな程艶めいていた。

 ***

 耳飾りやネックレスを悠里の体につけながらそっと体に触れる細く小さな指が心地いい。
「胸も大きいんだし、腰のラインも綺麗だわ。折角グラマーなんだからもっと出せば良いのに」
 いやいや。と口を開こうとした悠里が見たのはため息が出る程の美女。
 上品で艶っぽく、女王と呼ぶのが相応しいかの様な威厳のある佇まい。
「これが……私……?」
 そっと鏡をなぞれば彼女もまた自分をなぞる。
「そう思わない?」
 豊満で柔らかそうな胸、下半身の双丘へと繋がるくぼみは綺麗な曲線を描く。誰もが目を奪われる程だろう。
「あの……」
 心臓がゆっくりと動きを早め、体の芯が濡れるのを感じながらも悠里は疑問を声にしようとした。
 自分はこんなにスタイルがよかっただろうかと。
「まだ、時間があるわね。座って少し待ちましょうか。思い出して?貴女達が育んできた愛を」
 素朴な疑問は口から零れる事のないまま少女の艶っぽい囁きで頭から掻き消えた。

 ***

 改めて思い出す。
 ここに初めてやってきた月夜。
 結婚式で交わした誓いのキス
 そして、初めて2人だけで過ごした甘い夜。
 他にもここで見たもの、体験した事、感じたもの、その全ての光景に愛しい人が映り込む。
 そして、どの蜜事でも真紅のドレスに身を包んだ悠里が花嫁に口付け、決して離さぬようにと唇を奪い、深く深く何度も愛している。
 それはつい先程行われたかの様に彼女の肌を火照らせ、意識を甘くしていく。
 その様子は、外国映画にあるベッドシーンなどよりずっと官能的で、汚れないものだと感じた。
「もっと思い出して。花嫁のとろけそうなうっとりとした表情。強請るような甘い声。境界が邪魔になる程交じり合った夜」
 何度も触れた唇の柔らかさも、見つめる度に吸い込まれそうになる瞳も、繋いだ手の温かさも、穏やかな微笑みも全て覚えている。
「記憶の中の貴女は今と同じ。妖艶で美しいでしょう。身も心もドレスに任せて仕舞えばいいわ」
 少女が熱い息と共に甘美な言葉を耳に流し込む。
 ゴクリと喉から音がして深く甘くて熱い息が悠里から漏れた。
 その反応に少女は満足そうに微笑むと頬へ軽くキスを落とし去った。
 1人残された悠里は鏡を見つめながら甘い息を零すばかり。
 その一呼吸ごとにドレスが体に心に溶け込み、馴染んでいくのを感じていた。
 誓いの儀式まで後数刻。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 紅の貴婦人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お久しぶりです。
 今回は儀式前の言うなれば幕間の物語になります。
 以前ご依頼頂きました物語と一部セリフが同じ部分がございますが、セリフとセリフの間に何があったのかという部分を描きたく、この様な形にさせて頂きました。

 お気に召したなら幸いですが、もしリテイク等御座いましたらお気軽にお申し付けください。

 度重なるご縁に感謝の言葉ばかりが浮かびます。次もまたお会いできる機会があれば光栄です。
 また、何か御座いましたらご指名ください。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年08月17日

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