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『群青は白みて紅を見る 』
シルヴィア・エインズワースja4157

「少しお変わりになりましたか?」

「え?」

 白い少女の言葉にシルヴィア・エインズワース(ja4157)は首を傾げる。

「いえ。他意はございません。失礼いたしました」

 それきり少女は口を閉ざし言葉が消えた。
 小さく流れるピアノの調べと衣擦れの音だけが鼓膜を震わせる。

「さっきのって……」

 少女は無言で手を再び動かしていたが、ややあって口を開いた。

「お客様のお耳をお借りする程の話でもございませんが……」

 ***

 シルヴィアの視線に少女が口を開く。その間も手は馴れた様子で準備を進めている。

「言霊というものをご存知でしょうか?人の言葉には霊力が備わっている。というもので御座います」

 シルヴィアにはピンとこない。良い言葉を使った方がいいという話は聞くことがあるがそれのことだろうか。

「言葉の力を用いて様々な現象を引き起こす。という意味では呪文が馴染み深いものかと思われます」

 言霊についてイメージがついたが、それが何の関係があるのだろう。
 疑問が疑問を呼び、いつしか少女の言葉に全ての神経を集中させていた。

「お客様の愛しい方からの言葉が魅力を引き出され、以前のよりも美しく、可愛らしくなられたように私の目には映りました」

「そうでしょうか?」

 そんな風に見えるのだろうか。と思うと少し顔が熱くなる。

「はい。少なくとも私には。真偽の程は自分の瞳でお確かめください」

 促されるままに姿見の前に立つ。
 そこに映し出されたのは、可愛らしいという言葉が似合う可憐な少女のようなシルヴィアだった。
 騎士のような立ち振る舞いをすることなど……いや、その手に弓や銃と言った武器を手にすることすらも想像がつかない。

「童話のお姫様のようですね。私には少し可愛らしすぎる気もします」

 そう驚きを隠しながら言うが、その瞳は鏡から外れることはない。
 白薔薇をモチーフにしたドレス。
 自己主張しすぎることなく脇役として彩りを添えるアクセサリー。
 ベースの美しさを生かしながら良い場所を引き立たさせるメイク。
 童話に登場する、『愛される運命を背負って生まれた姫』と言うのが表現として最も適切だろう。
 しかし、これが自分かと思うと初めてのデートの様な甘い緊張感が指先にまで広がっていく。

「そのようなことはございません」

 仕上げをするからと勧められるままに椅子に腰掛けたシルヴィアの耳元に少女の声が入り込む。

「覚えていらっしゃるでしょう?花嫁様との愛を」

 初めてキスした時の小さく震える唇。
 互いの目を見つめ合いながら誓った言葉。
 初めて重ねた時の薄桃色の肌。
 全てが宝箱にしまっておきたい程大切な記憶。
 そのどれも主導権は自分だったはず。
 そう記憶していたはず。
 しかし、深く鮮明に思い出せば思い出すだけ瞼の裏に広がるのは別の、真紅の妖艶な花嫁に愛される自分。
 昂りすぎた感情が逃げ場を求め身体中を駆け回っているのか、鼓動が早くなる。微かに浅くなった呼吸は甘さを帯び、白い肌は薄紅に染まっていく。

「女性は愛された分、どなたかを愛した分美しくなると古来より伝えられます。紅い花嫁様との愛が今の貴女様の姿となっているのです」

 少女の言葉に耳を傾けていたせいだろうか、それとも言霊の力だろうか、彼女の甘く艶めいた声や言葉が、シルヴィアの脳を溶かし、身体を火照らせていく。

「花嫁様から頂いた視線、吐息、言葉、それを思い出されるだけでこんなに悦んでいらっしゃる。今すぐにでも愛して欲しいと目がおっしゃっていますよ?」

 少しだけ意地悪な声で囁くと少女はそのまま頬に口付ける。
 その言葉にシルヴィアは何も言わなかった。
 ドレスの持つ雰囲気を、少女の言霊を吸い込みきった彼女は愛おしい人を待ち焦がれる少女そのものだった。

「私、変じゃないかしら?」

 それは先程までと違うこと等言葉を交わさなくてもわかっていた。

「化粧と言うのは白粉や紅で顔などを装い、着飾ること。とおっしゃる方がいらっしゃいます。今宵はこの装いに心身ともに身を委ねられることをお勧め致します。さあ、参りましょう」

 少女は恭しくそう言って一礼する。
 その言葉で迷いは断ち切られ、彼女は逢瀬の場へと一歩を踏み出した。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 白の令嬢】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お久しぶりです。
 今回は以前ご依頼頂きましたツインノベルでセリフとセリフの間、行間に隠れた物語になります。
 普段でしたら表に出ることのない物語をこうして書かせていただけることに喜びを感じております。

 お気に召したなら幸いですが、もしリテイク等御座いましたらお気軽にお申し付けください。

 度重なるご縁に感謝の言葉ばかりが浮かびます。次もまたお会いできる機会があれば光栄です。
 また、何か御座いましたらご指名ください。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年08月18日

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