▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Season2 第二話 世界が逆回る日 』
御門 鈴音aa0175)&輝夜aa0175hero001

エピローグ

―― そうね
 暗闇に声が響いた。
―― 姉さんはそう言う人
 甘い砂糖菓子のように可愛らしい声。
―― 私ですら殺してしまえる、冷淡な人。
 そんな声で、甘い容姿で、軽やかな心で、人に愛される彼女を疎ましく思ったこともあった。
―― でも、それでいいの。それでこそお姉さま。
 けれど、輝夜にとってはたった一人の妹だったし、喧嘩はしたけど、いなくなってほしいと思うことはなかった。
―― でも、少し残念だわ。
 なのに。なのに何で。
―― 私を殺して笑うのね。
 自分の手は彼女の血で染まっているのだろう。
―― 最後に呪いをあげる、お姉さま。
 輝夜の手はいつの間にか彼女の首に伸びていて。彼女の首を際限ない力で絞め続けている。
―― 私は、お姉さまを愛していたわ

「ああああああああああ!」

 輝夜は思い出した、その細い首を握りつぶした時の感覚を、彼女の首から噴き出す血の温かさ。そしてその血に映る自分の笑った顔を。

(わらわは、楽しんでおったのか? あ奴を殺すことを望んでおったのか? 違う、そんなことは……)

 第一章 目覚め

 輝夜が夜に目を覚ますと、そこは病室で、輝夜のベットに突っ伏して眠る鈴音の姿があった。
「また、わらわは……」
 この光景を見るのは初めてではない、だから輝夜はなぜここに担ぎ込まれたか大体の事情は察していた。
 また、気を失ったのだ。
 なぜか。
 おそらくは戦闘による体力の消耗ではない、だとすれば、記憶の一部が蘇った副作用なのだろうと輝夜は結論付ける。
「朔夜……、なぜお主が生きて、しかもこの世界に……」
 輝夜は自分の夢を思い出して両手を震わせた。 
 あの感覚、あの熱量、あの感情の高ぶり、全ては本物だった。間違いなく輝夜の失われた記憶、その一部。
 だが、その記憶が正しいのだとすれば、『朔夜(NPC)』がここにいることはありえない。
 死んだ人間がこの世界に戻っては来れないように、死んだ鬼も現世に蘇ることはできないはずなのだ。
「鈴音……お主」
 輝夜はおもむろに鈴音の頭を撫でる、そしてメガネを取り隣の台に載せてやった。
 鈴音は心配性だ。いつも輝夜が倒れればこうやって看病してくれる。
 おそらくはもう、失いたくないのだろうと思う。
 鈴音はもう、親しい誰かを失いたくないから、人より余計に心配してしまうのだろう、輝夜は理解していた。
「ふふふ、ういやつじゃ……」
 そう輝夜は告げると、その鈴音の指先を口に含んだ、鋭い犬歯で痛みを感じない程度に歯を突き立てるとなめるようにゆっくり血を吸う。
「鈴音よ、聞いてくれ」
 おそらく聞こえてはいない鈴音に輝夜は独白する。聞こえることを願うように、でも聞こえないことも願うように。
「我が妹、朔夜はわらわを生んだ石と対極の石、創造石から生まれた鬼じゃ」
 月の明りが二人を照らしだし、静かな時を刻んでいる、そんな中輝夜は見たこともないような穏やかな顔で鈴音にポツリポツリと言葉を向けた。
「破壊の力を持つわらわと、創造の力を持つ朔夜。わらわ達は唯一同じだけの力を持つ姉妹じゃった、お世辞にも仲が良いとは言えんかったが。それでも思い入れのある相手じゃ」

「わらわ達はお互いをよく知っておる。それ故に、わらわは今すぐに朔夜を止めねばならん」

「朔夜にはのう、わらわにはない力として、魂を吸う力があるのじゃよ」

「おそらくか弱い人間を殺すのには効率も良く、早い。わらわはこの腕を振るっている間に奴は一息で百の魂を飲むじゃろう」

「そうなってしまえば人間にとって、どちらが脅威か。お主にもわかっておろう?」

「じゃから、というわけではないが。わらわは行く。決着をつけねばならんのじゃ。あ奴はわらわを呼んでおる。であれば、今一度。この手で……」
 
 輝夜はひとしきり語った後、鈴音の後輩が残した手帳を開いた。
 そこには朔夜の潜伏場所と思われる廃工場の地図が書いてあった。
 これが間違った情報であるわけがないと、輝夜は確信する。
 朔夜は輝夜に会いたくて仕方がないはずだから、だから何らかの手がかりは残していくだろう。
「あ奴は、すねているだけなんじゃ。じゃから鈴音。わらわは姉としての務めを果たしてこようと思う」
 輝夜はベットの上から飛び降りると、一つのびをして、病室の戸をひいた。
「恨むでないぞ」
 そして輝夜は窓を開け、月夜の夜に飛び出した。

第二章 月影

「ここかのう……」
 地図を見ながら街中を駆けた、やがて町はずれの廃工場にたどり着き、堂々と正面出入り口から突入する。
「朔夜よ、きて……やったぞ」
 その時である、突如工場全体の明りがついた。
 暗闇に慣れていた輝夜の目がくらみ、次いで工場内が騒音で満たされる、全ての機器が動き出したのだろう。
 ごうんごうんと振動してそれが体に伝わってくる。
「うぬ、朔夜! 小賢しいぞ」
 その瞬間、少女の笑い声が工場内に響き、それを追って輝夜は駆けた、しかし。
「おおおお、何じゃこれは!」
 輝夜が足を踏み入れたのは、生コンクリートの池である。
「ぬぅ」
 まったく足がつかないほどに深いその沼は、もがけばもがくほどカグヤを飲み込む。そんな輝夜めがけて、振り子のような巨大ハンマーが横なぎに迫り。
「くっ……」
 それに吹き飛ばされる輝夜、そのまま巨大ドラム缶洗濯機のような機器にシュート。ごろごろとひたすらに回された後に輝夜はベルトコンベアーに乗せられる。
「うぬぅぅう」
 回る視界、三半規管がごちゃごちゃにされ、胃の中がひっくり返りそうになる。
 そのままグデンとゆでられたタコのようにベルトコンベアで運ばれると溶けた鉄が四肢の上に流し込まれる。
「うぐっ、あああああ!」
 これで英雄が死ぬことはない、このやけども霊力を補充すれば回復するだろう、だが同時に力のほぼすべてを奪われた輝夜を拘束するのには十分で。
「これ、私一度やってみたかったの。連鎖的に起動するトラップ」
 そのまま輝夜は朔夜の目の前に運ばれてしまった。朔夜の笑顔が眼前にある。その顔は幼くはなってしまったが、間違いない、妹の者だ。
「せっかく訪ねてきてやったというのに、ずいぶんな歓迎じゃのう」
「姉さんだって、言葉より先に手が出るでしょう、ちゃんとお話しするならこうしないと」
 そう朔夜は輝夜を固定する四肢の鉄塊を蹴って見せる、きちんと固まっており並の力では破壊できそうにない。
「して、話とはいったいなんじゃ、わらわはお主と話をするようなことは何もない」
「ひどい、私はお姉さまに聞いてほしいことが沢山あるのに……」
 そうつぶやいて朔夜はその手の鉄杭をカグヤに突き立てた。
「くっ、ああああああ!」
 焼けた鉄の香り、傷口が泡立って皮膚が溶けて。きっと英雄にも有効なように加工が施されているのだろう。激痛が輝夜の全身を駆け巡る。
「たとえば、そうですね。あの時のこと。人間を愛するというのはどういう感覚だったんですか?」
 輝夜は鋭い視線を朔夜に向ける、しかしその視線を楽しむように朔夜は笑い。今度は太ももに鉄杭を突き刺した。
 エビ反りになって痛みに耐える輝夜。
「そして、私を殺した感想はどうでした? 楽しかった?」
 輝夜の脳裏に蘇る記憶。朔夜の首を絞める感覚、彼女の頸椎が砕ける感覚。
 それを思い出して輝夜は……
「く、わらわは、わらわは」
「楽しそうだったなぁ、私もやりたいなぁ」
「なぜこんなことをするのじゃ、朔夜、わらわへの復讐か?」
 その時、朔夜は鋭利に笑った。
「……単純でバカですね、姉さん。そんな風だから私のトラップにもはまるんです」
「朔夜よ、いくら妹だからと言っても、もうわらわは限界じゃぞ……」
「ん? 何がです? 反撃します? 今のお姉さまなんて怖くもなんともないですけど」
「なめるなよ」
 輝夜も、鋭利笑う。獲物を狩る猛獣の冷たさ。輝夜の声が凄みを増した。
「最初は話を聞いてやるつもりじゃったが、ちと元気すぎる用じゃな。大人しくしてやろう」
「どうやって?」
「ぶんなぐる……」
「…………無理ね」
 呆れた様子で朔夜はつぶやき、半歩後ろに下がった、その左手にはレバーがあり、それを両手で倒すと。
 ベルトコンベアーが動き出した、次いで耳をふさぎたくなるような高音が轟く、輝夜が運ばれて行こうという先には、丸鋸が設置されている。
 これでは真っ二つだ。
「わらわは確かにバカかも知らんが、お主はいつだって、甘いのじゃ!」
 その時朔夜の湛えた笑みが引きつった、輝夜が見苦しくも暴れ出したからだ。
「そんな、抵抗無意味って、私……」
「おおおおおおおおお! お主は何もわかっておらん!」
 次の瞬間、コンベアが傾いた。骨組みがきしみ、ボルトがはじけて無理に組み立てられたトラップは、輝夜の左右に揺さぶる力に耐えられなかったのだ。
「本当に、お嬢際が悪いわね。お姉さま」
 そして落下していく輝夜、轟音と立てて崩れていく機体。落下した衝撃で朴り出された輝夜はたちこめる砂埃の中で息をひそめた。
「やはり、私の手で息の根を止めないといけないようね!」
 次いで発射されたのは真紅の槍、それがコンクリートすら粉砕する勢いで輝夜に殺到する、それを輝夜は走りながら避けていく。
「姉さん!!」
 次の瞬間、煙を引き裂いて突っ込んできたのは真紅の槍を手にした朔夜、その槍を爪で捌き朔夜に肉薄、朔夜は素早く反応槍を投げ捨て、そして同じく徒手空拳で輝夜に挑んだ。
「お姉さまの魂を頂戴?」
「果たしてお主に吸えるのかの?」
 次の瞬間、掌底でカグヤは壁に叩きつけられる。そこを狙って朔夜は左手を天高く伸ばした。
 朔夜の手首から血が沸き立つように噴出、それが大槍をかたどってそして。
「心臓をもらうわ、その後にゆっくり啜ってあげるわ!」
 それが音速を超えて投擲される。その槍は真っ直ぐ輝夜の心臓めがけて走り。
 それが、突き刺さるその瞬間。輝夜は瞼を下ろした。
 ここまでか。そんな諦めと。
 これでよかった、そんな納得と。
 次いで、衝撃波、コンクリートの壁を粉砕して瓦礫が転がる重たい音。
 しかし、輝夜が瞼を開いたその時。
 輝夜の目の前に広がっているのは、輝夜にとって思いもよらない光景。

「お主……、鈴音!」

 見れば、鈴音がその胸にカグヤを抱き留め地面に横たわっていた、擦り傷だらけで輝夜を守るように両手で抱きかかえていた。
「輝夜、大丈夫?」
「どうしてここに? 人間」
 朔夜の声に鈴音は顔を上げた。体を起こし輝夜をかばうように立ち、朔夜に視線を送る。
 輝夜には見えた。宵闇を宿した黒い髪、黒い瞳。そこに宿る強い意志、そして沸き立つような生命の霊力。
 普段のあわてん坊の鈴音からすれば考えられないほど、輝夜の目には力強く映った。
「そこをどきなさい」
「輝夜、共鳴を……」
「いや、鈴音、もういいのじゃ、わらわは……」
 次の瞬間、襲いくる槍を避けるために輝夜を抱えて鈴音は走る。
「ばか!」
 そんな鈴音が輝夜を抱く腕に力を込めた。
「なんで! 輝夜なんで一人で行ったの」
「それは、お主を危険に巻き込まんために……」
「助けさせてよ、どんな危険も二人で乗り切ってきたじゃない」
「おぬ、お主は弱すぎる、いつも怪我をしてばかりではないか。じゃから」
 罰が悪そうに輝夜は言葉をきった。輝夜は知っていたのだ、自分の口から出た言葉は本心ではない、そんな単純な物ではないのだ。ただそれを鈴音は一瞬で理解した。
「…………私のこと気遣ってくれたのね。ありがとう」
「あり? がとう?」
 お礼なんて言われる筋合いはない、そう思った。
「輝夜、私はずっと助けられてきた、学校に従魔が出た時も、私が先走っちゃって従魔にのされちゃた時も、失恋したときも、ずっとそばにいてくれたじゃない」
 鈴音は言葉を続ける、輝夜が唖然と鈴音を見つめた。
「だから今度は、私が輝夜のそんな存在になりたい。私が輝夜みたいに強くないのはわかってる。けど、それでもまったく力に慣れないなんて思わない」
「鈴音よ……」
「輝夜、一緒に戦おう、もう泣いてる輝夜なんて見たくないから」
 そう微笑む鈴音。その笑顔が『スミコ(NPC)』の笑みと重った。
(ああ、鈴音よ、いつの間に)
 いつの間にか、強く優しくなっていた。それを輝夜は噛みしめる。
「戦おうぞ、鈴音よ、お主とならあ奴でも負ける気はせん」
「うん、輝夜!」
 共鳴、眩い光が世界を包む。月光をうつした金色の髪をなびかせて、鈴音フォームで鬼帝の剣を握る。
「あなた邪魔よ、私とお姉さまの間に割って入らないで、私たちは殺し合いをしているの」
 朔夜は明らかに苛立った様子で鈴音に槍を向ける。
「輝夜はそんなこと望んでない。輝夜は泣いてた」
「はぁ?」
 朔夜はその言葉を嘲笑う。
「私は、二人の間に何があったか分からないよ。輝夜は短気だからその時は鬼のように怒って、本当に殺しにかかっていたのかもしれないし」
――おい、お主どちらの味方じゃ。
 そんな輝夜の声を無視して鈴音は続ける。
「でもね、今は違うと思うの。少なくとも今は朔夜さんにひどいことしたこと後悔してる、だから!」
「うるさい」
 冷え切った声で朔夜は言う、槍を振るう音で鈴音の声をかき消して、その槍を構えた。 
「私は二人に仲直りしてほしいの!」
「人間のくせに!」
 はじかれたように駆ける朔夜、その槍を滑らせ刺突。それを鈴音は難なく避けてその槍を、切り伏せた。
 驚きの声を上げる朔夜。
「やはり、共鳴状態では勝ち目が」
 不利を悟ると朔夜は三歩大きく跳躍し工場の窓に飛び移った、そして告げる。
「次こそ、お姉さまに生まれてきたことを後悔させてあげるわ」
 そして夜の闇に溶けるように、朔夜はあっけなく撤退してしまった。
 完全に朔夜の気配が消えてから、共鳴を解く二人。
 その時、鈴音が突如泣き崩れた。
「おお、どうしたのじゃ鈴音、どこか痛いのかの?」
「違う、ちがうの。起きた時、輝夜がいなくて、手帳もなくて、本当に心配したんだから……間に合ってよかった」
「お主、我慢して一緒に戦ってくれたのじゃな」
「無事でよかった」
 その鈴音の落した涙が、まるで輝夜の心に溶けるように浸みわたり。
 あの時の光景が鮮明に眼前に蘇ってきた。
 朔夜を手に駆けた自分は、笑っていた。しかしその頬は引きつり。血の海に落ちる二雫の涙。
 自分は泣いていた。
 輝夜は鮮明に思い出した。朔夜を殺したくなかったこと、それでも殺してしまったこと、そしてそれをずっと悔いて悔いて、許してほしかったこと。
 そして本当の気持ちを探し出してくれた鈴音に感謝した。
 二人は廃工場の真ん中で抱き合って涙する。


エピローグ

 朔夜は傷ついた体を癒しながら玉座に座った。
 そして思い出す。忌まわしいあの言葉
『出来損ないの悪魔のくせに』
 その言葉を覆せるように朔夜は努力した。悪魔らしく、鬼らしく。残忍で狡猾で、そんな存在に慣れるように。
 しかし、姉はあの後一度も自分を認めてくれたことはなかった。
 あまつさえ、姉はその手で朔夜を……
「許せない……」
 朔夜は拳を叩きつけた。輝夜がのうのうと生きていること、自分を殺したことを忘れていたこと。
 そしてあの人間が、輝夜の隣にいること。
 なぜなぜなぜ。
 そんな怒りばかりが沸いてくる。
 殺してしまいたい、あの人間を、殺してしまいたい。
「あの契約者の人間を壊してしまえばお姉さまは無力になる」
 そう朔夜は気が付くと、ほくそ笑みながら、眠りについた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
『御門 鈴音(aa0175)』
『輝夜(aa0175hero001)』
『スミコ(NPC)』
『朔夜(NPC)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 OMCご注文ありがとうございます! 鳴海です。
 いつもお世話になっております。
 今回は朔夜さんと輝夜さんの初顔合わせということで、姉妹喧嘩にしては少し険悪な血なまぐさい感じを目指して書いてみました。
 いや、なんていうか朔夜さん書いていて他人だと思えない感じがしてすごく好きですね。
 こういうキャラクター鳴海つぼです。楽しんで書かせていただきました。
 今後朔夜さんがどんな反撃に出るかすごく楽しみにしています。
 では、本編が長くなってしまったので、この辺で。
 鳴海でした。ありがとうございました。
 また、お会いできることを楽しみにしております。
  

WTツインノベル この商品を注文する
鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年08月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.