▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『めるてぃぷろみす 』
斉凛ja6571


 きっと、満足なんてそこにはないのかもしれない。
 ――だけれど。
 そこに生まれるのは“絶対的”な期待。

 今日は、三つ。
 三つの心。
 鼓動の糸。

 だから、言葉では慎もう。
 でも、どうか、願うことだけは赦して――と。

 貴方の心音を感じさせてほしい。





 繋いでいたいから。




 青に晴れた日。
 ――都内。

 今日は、三人。
 三人の言葉。
 想いの糸。

「――ああ、こちらのお店ですわ。お洒落な洋服が多種、揃っているのだと雑誌で読んで……とても楽しみにしておりましたの」

 Melinaの微笑み翻し、くるり。
 白銀の糸が波打つように、赫な瞳へ輝きを散らす。はらり、視界に翳を落とした前髪を優雅な手つきで横へ流しながら、彼女――斉凛(ja6571)は白い歯を零した。

「ご主人さ、――いえ。失礼致しました。流架様、本日はわたくしとりつの“約束”にお付き合いして下さり、ありがとうございますですの」

 凛が唯一の主人と慕う彼――藤宮 流架(jz0111)
 主とメイド。甘い吐息のような時間は、紅茶と何時かの“誓い”が沈むティーポットへ忍ばせて。今日は只の、男と女。

「やや? 気にしないでいいよ。逆に、君達の時間に俺が介入して本当によかったのかい? 旅行の時に交わした大切な約束なのだろう?」

 甦るのは、

 ――痕。
 だが、あの時、湯で心を溶かして。
 意思と意志に覚悟を囁き、互いに交わしたのは女同士の約束。貸し借りはショートケーキに飾られた苺のように添えて、共に食べてしまえば怖くない。

 凛は、ゆるり、と、かぶりを振って、整った口許で柔和に笑む。

「大切だからこそ、ですわ。ね? りつ」

 小首を傾げ、視線を向けた先には、一人の少女が斜め下に目線をやりながら下唇を噛んでいた。凛の友であり、恋仇の御子神 凛月(jz0373)が、目許に微かな朱を差して短く顎を引く。その様が非常に年“不相応”で可愛らしくて。だが、気高い彼女にそんなことを言ってしまえば当然――拗ねるだろう。凛と流架はどちらからともなく視線を合わせて、ひっそりと吐息で笑んだ。





 さあ、先ずはショッピング。
 今日の物語に色彩の花を添えにゆこう。
 パトロンの両脇には薔薇と桔梗で恋色咲かせ――街角の洋服店へ、いざ、ふわゆらり。





 in 宝石瓶。

 蝶が舞うフレア。
 奏でる染地。
 とろけるレース。
 贅沢なナチュラルと、クラシカルの上品さに夢現気分。

 とびっきりのお洒落に魔法をかける為、凛と凛月は甘い蜜に誘われる蝶のような羽ばたきで、ふわり、色の渦へと飛び込んでゆく。

 右へ、左へ、白い指先でハンガーを寄せて。
 巡り合いになるかもしれない一着を手に取り、眺めて、ほぅ……と、凛は温んだ吐息を漏らした。

「素敵、ですの。ご主人様はどんな服が好みかしら……ふふふ」

 独り言は“主人”への想いを抑えられないようで。
 はにかんだ頬が、薄紅の薔薇色に染まる。うっとりとした双眸を緩慢な瞬きで一度、伏せて。手許のスカートに視線を落とした。

 水花が咲くようなミントブルー。
 ゆったりと上品に揺れるシフォンが涼しげな印象であった。

 シンプルだが、模様のクルクマの花がとても可愛い。
 だが、

「わたくしに似合うかしら……?」

 スカートの両端を摘まみ、自分の腰へ当てる。
 丈はミモレ。色々なアレンジコーデが楽しめると雑誌に載っていたが、少し大胆にセミショート丈に挑戦してもいいのかもしれない。
 何故なら、最近の凛は背伸びをしたい“お年頃”だから。
 一年を切った大人の階段への魅力を先取り出来るのなら――彼と一緒の機に、と。

 でも、迷う。
 なら――。

「聞いてしまえ、ですわ」

 半ば放置気味であった流架の姿を目で探すと、トップスのエリアで佇んでいるのが窺えた。スカートを手に、足早に彼の許へ向かう。と、先程は位置の具合で視界に映らなかったのだろう、凛月が彼の傍らで、凛が考えていた同様のことをしていた。

「……じゃあ、これは? 黒地の……ち、ちゅ、ちゅに、」
「は? ちゅー?」
「ばっ、馬鹿じゃないの!? ち、ちゅにっく! チュニックよ、馬鹿」
「ああ、はいはい。ふむ、ゆったりめの生地なのだね。白レース、は綺麗だが……凛月ちゃんの髪は真黒だからな。色彩の豊かな髪飾りで束ねて彩ったりすると、どちらの黒も負けないかもね」
「むぅ。あ、これとかどう? 白のトップス。袖の花刺繍が素敵だわ」
「おや、清涼感があって夏らしいじゃないか。ガウチョパンツとかと合わせても可愛いんじゃないかい?」
「は? ガチョウ?」
「……なんで? ズボンだよ、ズボン。ああ、ごめんね。世間知らずの凛月ちゃんには難しかったか」
「うるさいウザい」
「ウザいなんて言葉、何処で覚えたんだい?」
「アニメ」

 ……。
 凛は無意識に微笑みを浮かべていた。
 此れは此れで、充分“許せる”二人の会話であったから。

 ――だが、色気は譲らない。

「流架様、わたくしが選んだ服もご覧になっていただけないでしょうか?」

 控えめに。
 しかし、凛の指先はさり気なく彼の袖を、くぃ、と、引いていた。

「ん? ああ、構わないよ。……へえ、柄が素敵じゃないか」
「そうなのですわ。色も爽やかで花柄にピッタリですの。ですが、これに合わせるとしたらトップスは如何したらいいのでしょう?」
「んー、そうだね。……その色だったら、……――ああ、このネイビーとかどうだろう。長袖になってしまうが」

 流架はスカートのデザインを確認しつつ、手許のトップスを選り分けていたが、ふと、動きを止めて、品を定めるように視線を留めた。そして、色合いの束から一着を取り出す。

「まあ……袖口がレースになっているのですわね。手許に花が咲いたようですの、大人のナチュラル……という感じでしょうか。ああ、肌触りも滑らかですのね」
「ん、シンプルだが、手許の華やかさはさり気なく目を惹くと思うよ。少し薄手だから重ね着用でもいいかもしれないね」
「流石ですわ……流架様。ああ、でも、流架様の好みも……その、知りたいですの。参考にしたいですわ、今後の為に」
「ん?」

 凛の小さな手のひらがヤる気充分の握り拳を作って、瞳が狩人の如く彼を射る。
 零距離のロックオン――流架は威圧感で溶けそうであった。
 だが。

 ぐぃ、

 口を開きかけた流架の身体が、もう一人の彼女――凛月の傍らへと強引に寄せられる。凛月は彼の腕を取ったまま、むすり。膨れた頬に、微かな朱で染まった上目でじろりと。

「先ずは私の服、でしょ。ほら、今度はあっち見たい」
「ちょっ、凛月ちゃん――」

 ――。

 ロックオンを外された……だと!?

「……燃えますわね。わたくしも負けていられませんわ」

 めげていられるほど安い女(メイド)はやっていない。
 唯一を確信した時からそうだ。主人に対する“一途”な想いは、既に凛の中で不変となっているのだから。

 ――と、ライバルな“恋心”を想い起こして。
 でも、
 唯。
 可憐な二匹の蝶は、憧れの人に褒められたいという“乙女心”に揺られているだけなのだが。










 結論から言おう。
 ――決着などつかなかった。

 一方の花が、ぱあぁと咲けば、
 一方は、しゅんと萎れ、
 片方の鳥が、ちゅんと奏でれば、
 片方は、ぷくりと膨れる。

 流架の一言で見事なまでの一喜一憂だ。
 そんな支配力は今いらない。こんなことを続けていたら決まるものも決まらなくなるからね(にこり by流架

 というわけで。
 色々と迷った末に結局決まらなかった彼女達の服を、流架がコーディネートをするという形で乙女達の話は纏まった。

「気に入らなくても文句は受け付けないよ?」
「そんなこと致しませんわ。流架様がわたくしの為に選んで下さったのですから。色も、デザインも、上から下まで流架様の好みで合わせられるなんて……ああ、わたくしを流架様色で染めて下さいませですの(ぶつぶつぶつ)」
「……凛君、戻っておいで。チョップ食らいたいのかい?」
「は! それも一興、いえ、ご褒美ですわ」

 おかえり。
 では、気を取り直して。

 ――凛の色合いには深い赤を。
 ベルト付きのワンピース、英国調のタータンチェックが大人な印象を醸し出していた。
 これからの季節に幅広く着回しが出来る一着で、今回はコットンフレアのペチスカートで合わせてみる。裾の花レースが白にふわふわと揺れ、引き締まったワインレッドの色と相性がいいようだ。

 装飾には、黒薔薇のモチーフが咲いたバレッタで髪を緩く結い上げて。
 アンティーク調の鍵のネックレスで胸元を奏でた。

 ほぅ……と、凛が両頬に手のひらを添えながら蕩ける。もじもじきゅんきゅん。
 そんな彼女は取り敢えず余所に。
 さて、お次は――。

「凛月ちゃんのだが……って、何だい、その目は」
「別に。ちゃんと私に合った可愛い服、選びなさいよ」
「おや、何様だい?」
「凛月様よ」

 本日も凛月は怖いもの知らずなご様子。
 ほんとなにさま。

 ――凛月の色合いには淡い紫を。
 アシンメトリーなレースをあしらったヘムラインのワンピース。濃い紫のレース刺繍が柔らかな色彩を桔梗柄で飾り、ミディアムフレアスカートでエアリーに重ねた。

 髪には真白の花レースのカチューシャを。
 そして、ウサギと時計をモチーフにしたネックレスでキュートに胸元を飾った。

 ふおぉ……と、凛月の瞳が星の瞬きでもってきらきらと輝く。

 どうやら、流架のコーディネートは二人の御眼鏡に適ったようで。
 支払いはパトロンにお任せし、二人は各々の服を抱えていそいそと試着室へ向かった。勿論、彼が選んだ彩りに身を包む為。





 そして、お披露目タイム。





 凛はワインレッドにきりりと映えた艶でエレガントに。
 凛月はラベンダーにふわりと染めてフェミニンに。
 店のサービスで、デコルテに香水をひとふき――そして、唇に仄かな紅のリップで女子力アップ。

「おや、綺麗におめかししたね。二人共お姫様みたいじゃないか」
「……ほんと?」
「ああ」
「流架様。わたくし……今は流架様のメイドではなく、唯、貴方様の――いえ、普通の女の子に見えますでしょうか?」
「やや? 君はいつだって素敵なレディだよ。自信を持ちなさい」

 傾けた頬に、優美な微笑みで頭を撫でられれば、一抹な不安すらも吹き飛んでしまうようで。凛は、ふふ、と、口許に笑みを湛え、はにかんだ仕草を隠すように凛月の傍へ小走りに寄った。

 弾む音符で、囀り合う二匹の小鳥。

 こうして見ると、殺伐とした時間を共に歩んできたとは微塵も感じさせない。星屑の如く、きらきら。はしゃぎ奏で、可愛らしいその姿は“仲の良い普通の女の子”であった。

 流架は店先で此方を呼ぶ二人へ穏やかに目笑し、頷く。
 そして、右の掌で前髪を掻き上げながら短く息をつくと――「ふふ、お疲れ様でした」と、店員が流架の後ろから労いの言葉をかけてきた。流架は前髪を掻き上げたままの姿勢で振り返り、

「お騒がせしました」

 と、眉尻を下げて苦笑した。




 続けて一行。
 洋服店のち、凛の希望で銀座のチョコレート店へ。

 超がつくほどの高級店らしく、凛が焦がれに焦がれていたようで。
 元より、今日はあの日交わした約束を頂戴する為の機であったが故、奢る立場の凛月もそれなりの覚悟はしていた。つもりであった。

 席につき、メニューを開く。
 上質なショコラの香りが、見目にも美味な写真からも漂ってくるようで。だが、その品の値段はというと――。

「……凛月ちゃん、平気なのかい?」
「なに、この店。0が一個多いんじゃないの? ちょっとオーナーに文句言ってくるわ」
「おやめ!」
「どうかなさいまして? 流架様、りつ」
「いや、どうもしないよ。凛君は食べたいもの選んでいなさい」
「? わかりましたわ。ああ、何がいいかしら……エクレア、もいいけれど……パフェも美味しそうですわね。飲み物はホットチョコレートにしようかしら」

 凛は既に夢現状態。
 凛月は今にもオーナー目がけて殴りかかりに向かいそうな状態。
 ……。
 仕様が無い、と、流架パトロン。

「いいよ、凛月ちゃん。俺が払うから君も好きなもの食べなさい」
「……でも、約束したし」
「意外と律儀だね」
「うるさい」
「じゃあ……少しだけでいいから助けてくれる?」
「……! んっ!」

 約束は約束。
 大切な約束、であったから。
 凛月は僅かでも添いたかった。




 チョコ疲れを感じることなくショコラを堪能した乙女達。
 舌と心に余韻を残しながら店を出ると、外は夕の茜空。楽しい時間はそろそろ幕引きである。

「本当に送っていかなくていいのかい?」
「ええ、わたくしなら大丈夫ですわ。流架様はりつのエスコートを。りつはわたくしよりもずっとか弱い女の子ですもの」
「そうかい? じゃあ、気をつけて――」
「流架様。私、あそこのお店少し覗いてくるから」
「は?」
「今日は楽しかったわ、凛。また一緒に遊びましょうね」
「こら、お待ち! 凛月ちゃん!」

 流架の呼び声も右から左に、凛月は服の裾を翻して、たたた、と、駆けていった。
 眉根を寄せながら溜息をつく流架の横で、凛は「(……ありがとうございますですの。りつ)」と、彼女の胸中を察していた。それは、譲られた時間。彼との僅かな時間――。

「流架様、今日はご一緒して下さりとても嬉しゅうございました。これはわたくしからの気持ち……お礼ですわ。どうぞ、お受け取り下さいませですの」

 凛はベージュのショルダーバッグへするりと手を滑らせた。そして、両の手のひらに乗せて差し出したのは、丁寧にラッピングされた彼への贈り物。
 手に取った流架が「開けても?」と、不意に瞳を覗き込んできたので、凛は息を呑みながら顎を引いた。

 かさり、
 しゅるしゅる……。

 ――。

「おや、香水か。香りはグリーンノート、だね。ふふ、爽やかな香りを選んでくれたのか。ありがとう、凛君。素敵なプレゼントだ」

 彼が柔らかに微笑んだ。

 はらはら風。
 舞い踊る背伸び心。

 洋服も、香水も、貴方の為に。
 貴方の花に、貴方の香りになって、唯、傍に――。





「いつかまた……一緒にお出かけしたいですわ」





 棚引く雲に想いを乗せて。
 切に、










 グリーンノート香る貴方と二人、何時かの空の下――夢を見る。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja6571 / 斉凛 / 女 / 15 / 赫姫】
【jz0373 / 御子神 凛月 / 女 / 19 / 藤姫】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 双姫の“保護者”】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
平素よりお世話になっております。
愁水です。

今回のご発注は三人デート。
洋服選びは流架にお任せ、とのことでしたので、当方がはりきってしまいました(
あ、いえ、申し訳ありません……流架が、です(背後に日本刀構えた誰かの気配が)

流架や凛月の平素の会話や、凛月が凛様を想う心も描写させて頂きました。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
此度も素敵なご縁をありがとうございました!
WTシングルノベル この商品を注文する
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年08月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.