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『宿題・合宿 』
邦衛 八宏aa0046)&葛原 武継aa0008)&木陰 黎夜aa0061)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&紫 征四郎aa0076)&メグルaa0657hero001)&ファウ・トイフェルaa0739)&ルーシャンaa0784)&泉興京 桜子aa0936

●休日・崩壊
 邦衛 八宏(aa0046)は自分より頭二つ分下にある光景を呆然と眺めていた。時は夏休み。とは言っても葬儀屋と書いて社会人とも言う八宏にはあまり関係ない行事だが、とりあえず八宏はこの日、煩い居候が遊びに出掛けたこの休日に久々の悠々自適引きこりタイムを満喫しようと固く心に決めていた。今日はどれをやろうかな、と大量のソフトに腕を伸ばし掛けた所で、玄関から「ピンポーン」とインターホンの音が聞こえてきた。郵便だろうか、はて、と頭に疑問符を浮かべながら玄関の扉を開けた八宏は、自分の視界より少し下の所に何かがある事に気が付いた。視線を下げればそこには満面の笑みを浮かべて立っている大勢のちびっ子達。何故、コミュ障引きこもり廃ゲーマーの目の前にこんなに大勢のちびっ子が。と混乱を来たす八宏の前で、近所に住む知人、兼とあるゲームの仲間でもある紫 征四郎(aa0076)が両手に持った何かを差し出す。
「クニエ、今日はお世話になるのですよ!」
 その、薄いと言えば薄いが厚いと言えば厚い本には「夏休みの友」と書かれていた。友と書いているくせに八月の終わりに大勢のちびっ子達を絶望のドン底に叩き落とす「夏休みの友」、正式名称「夏休みの宿題」である。なんでそんなものが自分の前に、と呆然とする八宏に対し、ルーシャン(aa0784)が薄紫色の髪を揺らしてぺこりと頭を下げてみせる。
「公園にいたら、征四郎お姉ちゃんからお話し聞いてね。お世話になります、八宏お兄ちゃん」
「はじめまして! お邪魔するのである! せーしろーどのがしゅくだいをおわらせるさくがあると言うておったゆえついて来たのである。おせわになるのであるぞ!」
「よろしくお願いします」
 続いて泉興京 桜子(aa0936)、葛原 武継(aa0008)がそれぞれぺこりと頭を下げ、他のちびっ子達も追従して各々つむじを八宏に見せた。まるで意味が分からない。何故、当たり前のように桜子の英雄(ほぼおかん)が手作りした林檎ゼリーと、武継が「ママから預かりました」と渡してきたクッキーを腕に抱えているのだろう。唐突なちびっ子襲来に気絶寸前に陥る八宏に、どうも様子がおかしい事を察した征四郎が困ったように眉根を寄せる。
「あの、一昨日ぐらいに電話したのですよ……実は征四郎のうちにひとつしかないクーラーが壊れてしまって、宿題も終わっていなくって、それでクニエの家で勉強会をさせて欲しいと一昨日電話をして、OKを頂いたので友達と伺ったのですが……」
 聞いてない。だが征四郎が嘘を言うとも思えない。恐らく現在外出中の居候が電話を受けOKを出し、当事者の八宏には何も伝えず遊びに出てしまったのだろう。脳の中でサムズアップする居候へ呪詛の念を飛ばしつつ、八宏は困った。ここで頷けば引きこもりの休日は跡形も無く崩壊する。それ以前にコミュ障引きこもり廃ゲーマーにこのミッションは荷が重過ぎる。
 しかし、この日差しの暑い中、宿題を抱えて訪ねてきたちびっ子達を締め出すなど鬼の所業に他ならない。初対面ではない訳だし、以前動物園に遊びに行く引率として付き添いをした縁もある訳だし……
 八宏は地獄の鬼にさえ「辛気臭い」と言われそうな仏頂面を浮かべると、「とりあえず、お入り下さい」とちびっ子達を中に招いた。こうなっては仕方ない。しかしコミュ障一人では「ちーん」というおりんの音が鳴りかねない。
 苦渋を浮かべる八宏の脳裏にとある人物が思い浮かんだ。男性、と言い切るには少々疑問符の浮かんでしまう容姿をしたその英雄は、彼(?)のパートナーへの立ち振る舞いを思い起こせばこの奇妙な修羅場の助っ人には相応しいように思える。
 八宏は愛用のスマホを取り出すと、職人技の素早さで瞬く間に文字を錬成した。出来上がったSOSを助っ人(希望)へ送信し、他に出来る事と言えばただ祈りを捧げる事だけだった。

●合宿・開始
 メグル(aa0657hero001)はなんとも言えない気分で目の前の光景を眺めていた。「以前私的な仕事をお願いしたことがある」、という縁の八宏から突然の救援要請を受け一応駆けつけはしたのだが、宿題合宿の監督役など、自分に務まる仕事なのかといささか不安が拭えない。
 しかし八宏がコミュニケーションが得意でないというのは知っているし、橋渡しのために自分にSOSを出したのだろうし……頼まれたからには精一杯手伝わなければ。そう決意を固めるメグルの前で、八宏はすでに血の気が失せかけた顔でスマホを素早くフリックする。
『申し訳ありませんがお願いします……僕は文系、民俗学、数学はそこそこ出来ますので……』
「僕も数学など答えが出せる物は得意です。工作系も一通りなら出来ます。国語は少し苦手で、生物もあまり得意ではないですね」
『とりあえず最初は見守る方向で行きましょう。それではよろしくお願いします……』
 八宏はスマホで会話を終えるとメグルにぺこりと頭を下げ、メグルも無表情のままぺこりと八宏へ頭を下げた。そんな二人の元にちびっ子達が内の一人、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が近付いてきた。面識はあれど、どちらかと言えば能力者側の方が付き合いが濃く、オリヴィエ本人はあまり会話した事はない大人二人組に対し、常の無表情を変えぬまま淡々と口を開く。
「勉強見るの、俺も手伝う。学校行ってないから宿題ないし、こっち来たばかりの頃に漢字ドリルや計算ドリルとかはやっていたから、中学手前の文系科目は教えられる。……数学如何は苦手だし、基本は邪魔しないよう傍から見守ろうと思うけど……」
「うちも、小学生の勉強なら見れる……でも、数学と英語が苦手だから、教えてくれると、嬉しい……」
 そこに木陰 黎夜(aa0061)もおずおずと声を掛けてきた。コミュ障廃ゲーマー葬儀屋の八宏、最近では柔らかくなったとは言え無表情がデフォのメグル、礼儀は弁えているが愛想のないオリヴィエ、根は真面目だが基本無気力でぶっきらぼうな口調の黎夜、ここまでハードルの高い教師陣もそうそう揃いはしないだろう。
 しかし、彼らはHOPEの名をその背に負いしエージェント。ここで退く訳にはいかない。例えそれが「夏休みの友」討伐の手伝いであったとしても。こうして、コミュ障ゲーマーが物寂しく引きこもる予定だった葬儀屋の一軒家は、ちびっ子達が溢れ返る合宿所へと一日限りで進化した。

●宿題・討伐
 征四郎の頭の中は目の前の算数ドリルと同じぐらいに真っ白だった。夏休みも数える所残り僅かとなっているが、度重なる依頼詰めで宿題はほぼ驚きの白さを保っている。努力家だが勉強が苦手な征四郎はそれでも持ち前の生真面目さで、しっかり宿題を討伐しようと一念発起したのだが、先に述べたようにクーラーが壊れた。この暑い中クーラーなしで夏休みの友と死闘など死亡フラグバーゲンである。そこで「近所の、顔は怖いがゲームの師匠の優しく頼れるお兄さん」の存在を思い出し、どうせならと公園に集まった友達一同に声を掛け、みんなで「近所の、顔は怖いが優しく頼れるお兄さん」の家に転がり込んだ訳である。
 転がり込んだ訳であるが、それで征四郎の学力が超進化を遂げる訳ではなく、算数ドリルの驚きの白さは中々退治されてくれない。半ば泣きそうになりながら、しかし逃げだす訳にもいかず、でも気分転換に……と粘土に手を伸ばし掛けた所でオリヴィエが見咎める。
「やる事やってから遊びじゃないのか」
「遊ぶワケじゃないのです! これも宿題なのです! 粘土で貯金箱を作るのです!」
「そうか。でも、先に大変な奴を片付けた方が良くないか? ……ほら」
 オリヴィエはそう言って征四郎の隣に座ると算数ドリルのページを開いた。数学は苦手だが、征四郎の倒すべき相手は小学二年生の算数問題。全く分からない訳ではない。
 征四郎はライバル視しているオリヴィエに教えられる事に少しうっとなりつつも、「よろしくお願いするのです」と大人しくぺこりと頭を下げた。征四郎にとってのオリヴィエは負けたくない相手ではあるが、一方で年の近い兄のようにも思っている人物である。今の状況など、苦手な教科だが頑張って教えてくれようとしている無口で無愛想だが優しい兄のようではないか。
 この人がお兄ちゃんだったらよかったのに。それはこの夏休みの間中、依頼同行でほぼ一緒にいた間に何度も頭を過ぎっていた考えだった。しかしその本心を決して口にはしないまま、征四郎は鉛筆を握り算数ドリルに向き合った。

「すいません、作文の題材に悩んでいて……何かいいものってないでしょうか」
「ドイツからこっちきたばかりで、ニホンゴってむつかしくて、小学校一年生だけどモンダイをよむのもタイヘンなんだ……何がかいてあるのか、おしえてくれるとうれしいんだけど……」
 八宏は二人のショタ……もとい武継とファウ・トイフェル(aa0739)の無垢な瞳に見つめられ硬直状態に陥っていた。顔は相変わらず仏頂面で、話すのもスマホが無ければままならないが、小さな子供達が自分の周りで楽しそうにしている事には居心地の良さを感じている。
 感じているが、それで八宏のコミュ力が超進化を遂げる訳ではなく、一気に二人に詰め寄られコミュ障引きこもりは固まるどころかもはや意識が飛びそうになっていた。
「さくぶんのだいざい? それならだいすきな人などどうかのう。だいすきな人のだいすきなところやすごいところをいっぱいかけば、さくぶんなどあっというまにおわるのである!」
 八宏がショタ二人に挟まれ昇天しそうになったその時、桜子が絶妙なタイミングで助け船を出してきた。武継は126cmの自分よりもさらに小さい着物姿の少女へと視線を向ける。
「大好きな人、ですか?」
「うむ!」
「だったら、家でママのお手伝いを頑張った話にしようかな。パパに自由研究を手伝ってもらった後に書くのもいいかな……ありがとうございます。なんとかなりそうです」
「れいにはおよばぬ! ただ、もしよければしゅくだいをおしえてほしい。さんすうドリルとか色々とちゅうでわからなくなってしまったのだ!」
 うっかり宿題の存在を忘れ、宿題を教えてもらう為に参戦した桜子は幼くも尊大な口調で言い放った。ちなみにこれは無駄に偉そうにしている訳ではなく、古流剣術を伝え続く旧家の次期当主として育てられた生い立ち故のものである。本人に悪気はないし、いまいちその辺は分かっていない。
 桜子の「えへん」と言わんばかりのお願いに、武継は年上のお兄さんらしく「いいですよ」と言葉を返した。所謂お坊ちゃま校に通っている武継の宿題は、一般的な小学四年の夏休みの宿題ながらやや多めで難しめのものだったが、武継の学力的には問題なく解けるし、日記やドリル類は毎日コツコツとやっているのでその辺りは問題ない。唯一題材が決まらず悩んでいた作文も桜子の一言で光明が見えた。今日中に撃破したい所ではあるが、皆のお手伝いをしながらじっくり決めても問題はなさそうである。
 と、宿題討伐の目途がついた武継は、「ワシがわかるところをおしえられた!」とご満悦な桜子と共に八宏とファウから少しズレた所へ移動した。助かった。心の中で両手を組み感謝を捧げる八宏の裾を、ファウが小さな手で摘まみくいくいと引っ張ってみる。
「八宏さん、ボクのおてつだい、おねがいしてもいいかな……?」
「……はい、分かりました。それでは分からない宿題を……」
「よろしくおねがいしまーす」
 八宏の言葉を途中で遮り、ファウは当たり前のように八宏の膝の上に座った。「こっそり八宏さんのお膝にお座り」を狙っていたファウはご満悦な表情を浮かべたが、一瞬で膝を占拠された八宏は再び意識が遠のき掛けた。ファウは征四郎、黎夜と共に某MMOを共にプレイした仲であるし、依頼で一緒になった等何かと縁のある子だが、それで八宏のコミュ力が超進化を(以下省略)。
 しかしここで意識を手放すぐらいなら、そもそもちびっ子達の宿題合宿に許可なんて出していない。八宏はなんとかわずかなコミュ力をかき集めて踏ん張ると、ファウを膝に乗せたまま「特にむつかしい」と出された国語の問題文をぼそぼそボイスで読み上げた。

●共闘・戦線
 黎夜は数学のプリントを前に頭を悩ませていた。読書感想文は最初に倒したのであとはプリントやドリルだけ。しかし方程式と文法が分からない数学と英語を特に苦手とする黎夜は、とある問題を前に五分ぐらい硬直していた。
「大丈夫ですか?」
 と、頭上から掛けられた声に黎夜は首を巡らせた。そこにはメグルが、中性的だが少し青年寄りな顔立ちに気遣いを浮かべて立っていた。過去に受けた虐待や虐めが原因で男性恐怖症を患っている黎夜は、未だ慣れた者であろうとも男性であれば恐怖を拭いきれないのだが、ゆえに中性的なメグルの容貌は黎夜にとってありがたいものがある。また、依頼で同行した事があるとは言えあまり話した事がない邦衛やメグルと、勉強を見てもらうという形で少しでも交流したいと心密かに思っていた。黎夜は湧き上がる緊張に喉をごくりと鳴らしつつ、メグルが「得意」と言っていた数学のプリントとドリルを見せる。
「方程式が、わからなくて……教えてくれると、嬉しい……」
 メグルはしばし黎夜の手元に広げられた宿題に視線を落とすと、「分かりました」と黎夜から少し離れた所に腰を落とした。黎夜は顔立ちは中性的だが、短く刈った髪、左目の眼帯、そしてぶっきらぼうな口調から一見少年のようにも見える。しかし接してみればきちんと女の子らしさもあり、メグルはその姿に自分の相棒の、昔の姿を少しだけ重ねていた。
「ありがとう。あとは一人でなんとか出来ると、思う……」
 一時間後、なんとか目途のついた黎夜は疲れたように息を吐いた。メグルも「どういたしまして」と言いながら、勉強を教えるという慣れない仕事に少し頭がクラクラした。ちょっと休憩を、と立ち上がろうとした所で征四郎、桜子、ファウ、ルーシャン、武継が黎夜の元へと集まってきて、公園仲間達に囲まれた黎夜は訝し気に首を傾げる。
「……どうした?」
「オリヴィエがダウンしてしまったのです」
「八宏さんも……」
「僕も教えられるけど、さすがにちょっと人数が多いから……」
 征四郎、ファウ、武継が黎夜に向かって声を上げ、それで黎夜とメグルはおおよその事情を把握した。オリヴィエは数学が苦手、八宏はコミュニケーションが苦手。苦手なものを長時間頑張った疲れがさすがに出てしまったのだろう。メグルも得意な数学とは言え教師役に少々疲れを感じたので、オリヴィエと八宏が休憩を欲したのは仕方のない事と言える。
 黎夜はしばし考えた。まだ英語が残っているが、これは八宏かメグルに頼まない限りなんとか出来る気がしないし、二人とも少し休憩を取ってもらった方が良さそうだ。それに勉強を教えるのは自分の気分転換にもなる。成績は美術と体育を除けば中の上くらいだが、ちびっ子達の中では唯一の中学生だし、小学校低学年の勉強を見てやるぐらいは訳もない。
「じゃあ、とりあえず自分でやってみて、どうしても分からない所が出てきたらうちか武継に相談して」
「「「「はーい」」」」
 計4名が元気よく右手を上げ、メグルはちびっ子達を置いて一時撤退する事にした。ダウンしたという二人は大丈夫だろうか、と様子を見に行こうとした所で、財布を持って玄関に向かおうとするオリヴィエとすれ違う。
「どこか行くんですか?」
「気分転換ついでに、アイスとか飲み物買ってくる……あいつらもそろそろ休憩した方がいいだろうし……」
 淡々と目的を告げたオリヴィエは玄関から外へと出て行った。外見は10歳の少年だが言動はしっかりしている、一人でお使いに行かせても問題はないだろう。と、もう一人の探索に戻ったメグルは部屋をいくつか覗き込み、ようやくこの家の主である八宏の姿を発見した。が。
「……」
 しばらく放っておいてあげよう。メグルは何も見なかった事にしてちびっ子達の元へと戻った。お子様を膝の上に乗せ、スマホ禁止で問題読み聞かせの刑は引きこもりコミュ障のスタミナをガリガリするのに十分過ぎたようである。
 居間に戻ると黎夜が征四郎と桜子に、武継がファウに宿題を教えている最中だった。その後しばらくしてオリヴィエが戻り、ジュースとアイスを食べながらの一時休憩タイムとなった。甘く冷たいジュースとアイスに喉と心を癒された後、ちびっ子達は再び夏休みの友との死闘に戻る。メグルとオリヴィエは口出しせず、傍から見守る係に徹する事にしたのだが、(ちなみに八宏は戻ってこない)、どうやら征四郎と桜子が戦いに勝利したらしく各々黒に染まった夏休みの友を天井へと突き上げる。
「終わったのです!」
「れいやどのありがとうなのじゃ!」
「どういたしまして。でも中学生になると、難しくなる……気を付けて……」
 喜びに舞う征四郎と桜子に、黎夜は通常装備の無表情で淡々とそう告げた。黎夜としては親切心の忠告だったかもしれないが、現段階でさえ夏休みの友と死闘を演じているちびっ子達に「さらに難しくなる」などホラー以外の何物でもない。と、勉強が苦手なちびっ子達が恐れおののいている最中、今まで皆の様子を黙って見ていたルーシャンが口を開いた。
「あの、絵の宿題と、工作、手伝って欲しいの……問題集はもう終わったんだけど、絵の宿題と、工作、残ってて……絵、何描けばいいのか迷ってるの……」
 それを聞いた一同が「あ」という顔をした。夏休みの宿題はドリル、プリント、作文以外にも「絵」「工作」というものがある。ルーシャンは黎夜にとって征四郎、桜子、ファウ、武継、オリヴィエと同じく公園で遊ぶ仲である。協力したいのは心の底から山々だったが
「うち……絵画工作系はひどいことになるみてーだから……」
 黎夜は言いにくそうにそう告げて協力を辞退した。さてどうしたものか、と工作系が一通り出来るメグルが顎に指を添えた所で、征四郎が明るく凛とした声を張り上げる。
「征四郎も図工と絵日記の宿題をやるのです。一緒に作るのですよ!」
「ワシもてつだうのであるぞ! るーしゃんはおりびえどの、せーしろーどの、れいやどの、みなと同じくなかよしな友達なのである。せーしろーどのときょうりょくしていっしょにしゅくだいをせいはするのだ!」
 征四郎に引き続き桜子も元気に声を上げ、沈んでいたルーシャンの顔が一気にぱっと明るくなった。危険がないか見る必要はありそうだが、それ以外は彼女達自身に任せても大丈夫そうだ。そこにようやく復活した八宏も幽鬼の顔で舞い戻り、武継と教師役の交代を申し出た。再びファウに膝の上を占拠され、コミュ力の壁に激突する八宏の事を気にかけつつ、工作組の事をオリヴィエに頼みメグルは黎夜の手元に広がる英語の宿題に視線を落とす。
「……なんだそれは」
「貯金箱なのです!」
 オリヴィエは征四郎が楽しそうに作っている、よくわからないぬるっとした生き物型の粘土像に訝し気に首を傾げた。勉強よりも体を動かす方が好きな桜子は、着物姿でぴょんぴょんしながらルーシャンや皆を応援している。
 知らない人が多くて実の所心配だったが、メグルは表情を和らげた。大変な事は大変だが、こういう事も存外悪くはないものだ。

●死闘・終了
「スイカ……です……皆様、どうぞ……」
 聞き取り辛いぼそぼそボイスで八宏がなんとか伝え終わると、ちびっ子達はそれぞれ冷えたスイカへ己が手を差し向けた。武継はスイカを二人分手に持つと、特に仲良しの友達であるオリヴィエの元へと歩いていく。オリヴィエは差し出されたスイカに一瞬目を見開いた後「ありがとう」と受け取った。
「八宏さん、ゲームやってもいいかな?」
「了解しました、少々お待ちを……」
 ファウのお願いに八宏がゲームの準備をし、皆の様子を見ていたルーシャンが画用紙を取り出した。それを見た桜子がスイカを手に持ったままルーシャンの手元を覗き込む。
「どうしたのだ、るーしゃん」
「色々考えたけど、絵は皆が宿題したり、スイカ食べたり、遊んだりしてる様子をスケッチさせてもらう事にしたの。其々色んな様子なのを、可愛く描くね……♪ あ、桜子ちゃん、スイカの汁でお着物汚さないように……ね」
 顔を上げたルーシャンは、桜子の口の周りがべとべとになっているのに気が付くと、濡れタオルを用意して口をそっと拭いてあげた。桜子はふふふと笑い、ルーシャンも行動力があって明朗快活な、大好きなお友達ににっこりと笑みを浮かべてみせる。
「あ、飲み物、買ってくる……」
「レイヤ、征四郎も行くのですよ!」
 工作を手伝えなかった代わりに、と立ち上がった黎夜に征四郎が付き従った。征四郎にとってのオリヴィエが年の近い兄のような存在なら、黎夜は守ってあげたいと思っている、大事な姉のような友達である。黎夜は一瞬きょとりとした後「よろしく」と眼帯のない右眼を向けた。適当に飲み物を買い、二人が戻ると対戦ゲーム大会は「ガチゲーマー八宏の神プレイを鑑賞する会」へと変貌を遂げていた。ファウはルーシャンに描かれるのも全く構わない様子で八宏の手元を覗き込み、武継は「子供達だけで遊ぶとき時々ついてきてくれる、優しく尊敬出来る大人の人」の特技を興味深そうに見つめている。
 オリヴィエはスイカを食べながら皆の様子を眺めていた。二年前にこちらの世界に来た英雄であるオリヴィエは、普段は依頼と家業の手伝い等をして過ごしている。学校に行っていないのもそのためだ。今回も集団の中ではいつも比較的年長組に入るため、保護者や兄的役回りとして皆についてきたのだが、もしそうしようと決めなければオリヴィエにとっての今日の「物語」はなかったのだ。
 そう考えるとなんだか奇妙な感じがして、オリヴィエは無意識に口元を緩めた。そしてちびっ子達からスイカの皮を回収しようと、ビニール袋を求めて台所に歩いていった。

●素敵な・思い出
「今日は、どうもありがとうございました」
 武継は感謝を込めて八宏とメグルに頭を下げ、それを皮切りにちびっ子達も各々ぺこりとつむじを見せた。八宏は玄関先から「お気を付けて」と皆を見送り、途中までちびっ子達と歩いたメグルも分かれ道で夕焼けに染まる瞳を向ける。
「じゃあ、僕はここで。残りの宿題頑張って下さいね」
「ミシロのところの綺麗なお兄さん。あまりお話する機会が無かったので、今日会えて嬉しかったのですよ」
 征四郎の言葉にメグルは目をぱちくりとさせ、「はい、僕も」と表情を和らげた後背中を向けて帰っていった。その後武継が「セイシローちゃん、今日はどうもありがとう」と仲のいい女の子友達に右手を振って別れを告げ、また一人、また一人とそれぞれ家へと戻っていった。征四郎も我が家に辿り着くと「ただいま」と玄関の扉を開け、部屋に入ってさっそくとばかりに絵日記を机に広げる。何気ない日常から、やがて従魔や愚神との戦いの記録へと変貌した絵日記の最後のページは真っ白だった。そこに征四郎は今日集まった皆の絵と、今日あった出来事を色鮮やかに描いていく。苦手な算数に泣きそうになった事も忘れ、得意な絵をいっぱいに駆使して今日一日の思い出を一生懸命書き留める。
『今日は、友達みんなで宿題をしたのです。みんなでする宿題はとっても楽しくて……』
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【邦衛 八宏(aa0046)/男/28/能力者】
【葛原 武継(aa0008)/男/10/能力者】
【木陰 黎夜(aa0061)/?/13/能力者】
【オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)/男/10/ジャックポット】
【紫 征四郎(aa0076)/女/8/能力者】
【メグル(aa0657hero001)/?/22/ソフィスビショップ】
【ファウ・トイフェル(aa0739)/男/6/能力者】
【ルーシャン(aa0784)/女/6/能力者】
【泉興京 桜子(aa0936)/女/7/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。
 一日限りの宿題合宿、気合いを入れて書かせて頂きました。色々大変な思いをされた方もいらっしゃるようですが(意味深)、ひと夏の楽しい思い出として皆様の心に残って頂ければ嬉しいです。
 それでは、この度はご指名下さり誠にありがとうございました。
colorパーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年08月19日

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