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『 ペルソナ 』
麻生 遊夜aa0452)&ユフォアリーヤaa0452hero001

 生きるということが、不自由であったことなど今までなかった。
 望むものは全て与えられ、望まぬものは全て、望むように姿を変えてきた。
 努力など必要のない人生。
 それが『俺』の人生だ。


第一章 それは失われた遠い日々

『麻生 遊夜(aa0452)』は夜の湿った風を肌に受けて微笑んだ。
 親が成人祝いに買ってくれたオープンカー。
 これで乗り付けるだけでどの集まりでも大きい顔を出来る、遊夜にとってこいつは相棒であり、寡黙で物言わぬこいつを何よりも信用していた。
 こいつは親のように口うるさく何かを訴えることはない、ましてや働くことを強要したりもしない。
 あの、悲しそうな瞳でひたすら自分を見つめたりはしない。
「起きてるなよ。おやじ」
 そう遊夜は一つため息をつく。酔って虚ろな視線をミラーに向ける午後三時。 
 遊夜は家まで続く長い人気のない道を、ひたすらに走っていた。
「まだ、中間地点か」
 あと実家まで十キロ程度。
 それなりに裕福な遊夜の実家は、大きな家を建てたいがために都心から少し離れた林の中に存在する。
 その佇まいは日本において場違いと言わざるおえないほど豪華で、遊夜の家がどれほど金を持っているのか想像させるには十分だった。
 そして、この道路は麻生家しか使わないためろくに街灯がない。
 真っ暗な道を車のライトだけで駆け巡るのは嫌いではなかったが。
 その真っ暗な道が今日に限って明るい気がした。 
 普段と少し違い空気から炭のような香りもする。何があったのだろう。そう思案すると、脳がアルコールの全てを拒絶し、思考が回り始める。
「なんだ……。空が赤い」
 そして遊夜は気が付いたのだ、その空を炙るような赤い揺らめき、それが自分の実家の方に見えること。
 そんな、嘘だろ。その一心でさらにアクセルを踏み込む遊夜。
 目の前に地獄が広がっているとも知らずに、ただひたすらに道を急いだ。
 やがて視界が開け、自分の家の真正面に繋がる道路に出た時、遊夜は決定的な物を目撃する。
 燃え盛る豪邸。そして館の屋根を突き破る異形の生物。
「なんだよ、これ……」
 遊夜はその現実が何なのか、全く受け入れることができず、ただ茫然の火が収まるのを。
 眺めることしかできなかった。

   *   *

 その次の日、遊夜は事情説明、事情聴取のために警察署へ呼び出されていた。
「霊力の痕跡が観られます、相手は愚神だったようですね」
「そうか……」
 遊夜は足を組み直していった。ろくに休ませてない頭に手を当てて深くため息をつく。
「ご両親、家の使用人、警備員皆殺しでした。運がよかったですね」
「そうだな、昔から運がいいことだけは自覚してる」
 夜な夜な遊びまわっていたおかげで命を救った。こんなに皮肉なことはない。そう遊夜は笑った。
「その夜はどこへ?」
「友人の家でパーティーがあった。それに招待されたんだ」
 そんな、昨日の夜の喧騒も今は遠い、それこそ思い出せないほどに。
「冗談みたいだろ? 本当にやってたんだ、洋風かぶれで世間知らずの、大きい家の餓鬼だから。日本ではそう言うのはやらないって知らないんだよ」
 そう口元を釣り上げて笑う遊夜に、警官は冷たく一言言葉を浴びせた。
「噂通りの人だ……」
 遊夜はピクリと動きを止める、視線だけを警官に向けた。
「この町でも有名ですよ、麻生家のドラ息子。親が死んでも涙一つ流さないとは……」
 麻生の家は投資家だった、いくつかの会社に強い影響力を持ち特に地元では知らないものは誰もいない家だった。
「泣かないよ、あれは単なるスポンサーだった。俺に投資する何者かだ」
 遊夜はそんな家に生まれ、様々な教育を施されて成人したが、彼が選んだのは親に金をねだり、ほとんど働かずに遊び歩くことだった。
「それは、親の優しさだったのでは?」
「知らないね。説教ならやめてくれ、親がいなくなってやっと解放されたと喜んでた、水を差されるのは嫌いなんだ」
 そう告げると遊夜は席を立つ。
「遺産相続の手続き、早く済ませたい。手持ちの金が心もとないんだ」
「専属の弁護士がいたようですね。そちらへ連絡を」

第二章 淀み

 親が死んだ、冷え切った胸の内にその言葉だけがこだまする。
 残ったのは莫大な遺産。そして権利。
 しかし遊夜はそれをどう扱っていいか分からなかった。
 金はともかく、それ以外の権利やしがらみを、どうしたらいいのかわからなかった。
 一応遊夜は親の持っている会社の役員という扱いにはなっているが、その会社がなにをやっているのかもわからず、顔を出したこともない。
 その程度の社会経験しかない遊夜では親の持ち物の価値がわからなかったのだ。
 だから、様々な権利、土地、会社、株。それらすべてを金に換えた。
 おかげで懐はさらに温まり、当分は生きられるまとまった金になる。
 それを遊夜は、親を失う以前より速いスピードで使い込んでいった、あの人生が一変したあの日から遊夜は、金と時間を消費する一方で過ごしたのだ。
 何も生み出さず、どこにもいかない。
 何にも至れず、何も成せない。
 そんな選択を続けた結果。数年後遊夜はそこにいた。
 荒廃した室内、エアコンの黴臭い空気が部屋を見たし。遊夜が横たわるその部屋には家具も何もなく、放置したプラスチックの容器から異臭が漂う。
 遊夜が住むマンションの一室、そこには淀み汚れた世界が広がっていた。
 遊夜は思う、なぜ自分はここにいるのかと。はたして幸せなのかと。
 鉛のような体、アルコールでガタガタになった体を震わせて小さく丸まる、それこそ、子猫のように。
 遊夜は生活に行き詰っていた、おもむろに手に握ってた通帳を開く。そこに記されていたのは残高ゼロの文字
 こうなる前に、なぜ手を打てなかったのか。遊夜は考える。
 だが、結論は出ない。
 それは当然だろう、どうしていいか分からなかったのだから。
 変われなかった、だって自分の中には何もなかったから。
 たとえば。どんな逆境でも生き残る『強さ』
 例えば、助けてくれる人、味方になってくれる人を身近に作れる『優しさ』
 そして、なんとしても生きてやると言う『芯』すらもなく、いったいどこに行けるというのか。
 だが遊夜はそれを後悔はしていない、これでよかった、これでいいのだ。
 そう思っていた。
「生きることに飽きたら死ねばいい」
 そう遊夜は口にする。
「どうせ、俺には何もない」
 家族も、友人も、護るべきものも何もない。
 遊夜にとってこの世界は、生きていたいと思えるほど、価値があるものではなかった。
「そろそろ、潮時だな。そこそこいい人生だったよ」
 そう遊夜は瞳を閉じる。一眠りして、最後の金で腹を見たし。
 そして、この世界から退場しよう。
 そう、無気力な青年は思い瞳を下ろした。

    *    *

 その夜、遊夜は夢を見た。
 燃え盛る森、そして必死にかける自分。
 あの時の夢かと思った。自分が走る速度が車にも匹敵するほどに早かったから。
 でも違う、自分は信じられないほどに身軽で。樹の枝を飛びながら、息を切らしてそこに向かっていた。
 やがて視界が開けると、見えたのは。山一面の火事。
 そしてその耳に響くのは、仲間たちの悲鳴。
(なんだ、これは)
 それは異世界の話。
 『彼女』は群を率いていた。
 人生のほぼすべてを森の中で過ごす群は気まぐれで、でも仲が良く平和で、毎日を楽しく生きてきた。
 その群を率いているのが。『彼女』だった。
 気高く美しくそんな『彼女』に皆が従った、けれど、そんな彼女の前に姿を現したのは、彼女とよく似た姿の、しかし禍々しい瞳の獣。
「私が」
 『彼女』は瞳をそらせなかった、『それ』から視線を逸らせば、取り返しのつかないことになりそうで目をそらせなかったのだ。
 ただ、彼女は『それ』を見つめているとあることに気が付いた。
 『それ』の口がしきりに何かをつぶやいている、耳をそばだてて、その声を一心に聞き取ろうと目を身を固くした、すると。
 『それ』が笑っていることに気が付いた。次の瞬間『それ』は叫ぶ。
「わたしが、ころした!!」
 次の瞬間彼女は駆けた。森を駆け抜け山全体を見渡せる高い木々へ上る。
 すると見えたのが。その一面の火事だったのだ。
 
   *    *
 
 その時遊夜は目を覚ました。肌を滑る風の感覚すらあるリアルな夢であったが、目覚めれば朧げで、いつしかその光景は雲のように不確かになってしまった。
「なんだったんだ、あれは……」
 遊夜は財布を片手に家を出る。愛車を売ってしまったことを後悔しながら、とある場所を目指し歩く。
 それは、焼け落ちた実家だった。
 炭となった柱や壁を撤去するものが誰もいないので、雨にさらされるままになっていたが、いざ赴いてみるとかつての生活が思い出せるほどに館は焼け残っていた。
 そのことに遊夜は驚いた。というのも遊夜はあの事件以来初めてこの場を訪れたからである。
「親父、おふくろ。俺だめだったよ」
 そう館へと語りかける遊夜。
 目を閉じれば今でも思い出せた。
 幼少期からずっと暮らしてきた館内での思い出を、そしてどんなダメな息子でも決して見放さなかった親を。
「遅くなって悪かったな、俺もそっちにいくよ」
 そう遊夜はあたりを見渡す、確か倉庫があったはずだ、燃えていたとしてもロープの一本位あるだろう。そう歩き出す。
 するとだ。
 突然森がざわついた。
 がさりと荒々しく葉をかき分ける音が響き、そして。森の向こうに黒い影がちらりと見えた。
「いったい、なんだ?」
 遊夜は後ずさる。こんな辺鄙なところに人がいるのはおかしい、しかもなぜあんなに必死に走り回っているのか。
「気味が悪いな、死ぬのは明日でいいか……」
 そう遊夜は、自殺志願者にしてはおかしなことを口づさみつつ帰ろうとする。
 しかしだ、一瞬見えたあの黒衣の誰か、それがとても気になって再度振り返ったのだ。
 どこかで見たことがある気がする。
「いったい誰だ。なんなんだ」
 気が付けば遊夜の足は森へと向かっていた。
 こんな厄介事に首を突っ込むような性格ではなかったはずなのに。
 なのに何で。
「ユフォアリーヤ?」
 遊夜は彼女を『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』と呼んだ、本当は知らないはずの名前、一度も会ったことがない誰かの名前。
 だが知っていた、それが彼女の名前だと知っていた。目の前を逃げ惑うか弱い少女。
「ユフォアリーヤ……」
 これが彼女の名前なんだろうという直感がなぜかあった。
 遊夜は草木をかき分けて進む、彼女をに追いつくために。
 彼女のもの、とは違う足跡をたどる。
 踏みしめた足跡の形に草木が枯れている、そんな不吉な足跡をたどって。


第三章 さようなら

 ユフォアリーヤは見知らぬ森を駆けていた。
 ここはどこだろう、そう感じる暇もなく、ユフォアリーヤは道をかける。
 汗だくになりながらただひたすらに森を突き進む。
 追跡者を振り切るためにただ一心不乱に。
「私が、殺した」
 そう繰り返し告げる少女は、その言葉の通りにユフォアリーヤの居た群を破壊した。
 飲み込まれていく戦士たち、ユフォアリーヤが守ろうとした子供たちを、あざ笑うように少女は陰に捉えた。そして鉄臭いにおいが鼻腔一杯に広がると、ユフォアリーヤは群の生き残りを引き連れて逃げた。
 ユフォアリーヤと共に逃げるもの達も、一人、また一人と。
 そしてきが付けばユフォアリーヤは一人になっていた。
 孤独と、無力感と懺悔。にじむ涙をぬぐうこともなく、ただひたすらに敵から逃げる。
 その時だった。
 突如目の前に躍り出た青年がいた。
 それを避けるためにユフォアリーヤは地面を踏みしめる。だがそれがいけなかった。
 ぬかるんだ腐葉土と足の疲れ、そのせいで滑るようにユフォアリーヤは転び。樹の幹に体を叩きつけられた。
「アンタ、大丈夫か」
 ユフォアリーヤは疲れて霞む目で青年を見つめる。
「……ん、あなたは?」
 その時ユフォアリーヤは驚愕で目を見開くことになる、自分の口から出た言語もそうだが、何より水たまりに映る自分の姿が、今まで見たことがないものだったからだ。
「見つけた」
 次いで、混乱をぬぐいきれないユフォアリーヤの耳に響く不安をあおるような声。森に響いた不愉快なその声につられ視線を向けると。そこに追跡者を見た。
 それは、もう少女の姿をしていなかった。
「なんだよ、これ……」 
 それは怨念の集合体だった、影が彼女の背中から立ち上り、無数の顔となって霧散する、それを繰り返してた。顔は無限の怨嗟を奏で続け、稀に聞こえるのはユフォアリーヤを呼ぶ声。
 なぜ、なぜ救ってくれなかったのか。なぜおいて行ったのか、ただそれだけを叫ぶ声。
「……そこに、みんな、いるの?」
 ユフォアリーヤは震える手を伸ばす、すると青年がその手を取った。
「だめだ、行くな、引かれるな、あれを見るな」
「なぜ? あそこにみんながいる!」
「いない、死んだ人間はどこにもいない、あそこにあるのは君を殺したいというあの女の子の感情だけだ」
 その発言を聞いて追跡者は笑った。
「すごいね、わかるんだ、遊夜」
 遊夜と呼ばれた青年は目を見開いた。
「なんで俺の名前を知ってる?」
 にやりと笑う少女、その時、脳裏によぎったのは、燃え盛る館から飛び出てきた何か。
 その何かとは、この少女のことではなかったか?
「まさか……」
 そうだ、確かにそうだ。
 そう遊夜の胸の内で確信めいた思いが広がる。
 だって言っていたではないか、警察が。
 これは愚神の仕業だと。
「また、殺したのか。この子の家族を、俺の家族のように?」
 その言葉に身を震わせたのはユフォアリーヤだった。
 家族を失った、その実感が追い付いてきたのだろう。
 深い悲しみが彼女を捉えた。

「数年の孤独はどうだった? 私が送ったものよ、甘美でしょう?」

 まるで肯定するような言葉、それを受けて遊夜の血が沸騰する。
「お前!」
 次の瞬間、少女の両手から放たれたのは黒い蔦のような物。それが鋼の硬さを纏ってユフォアリーヤへと殺到した。
 それを、遊夜は真正面から握って受け止める。
 蔦は膝と腕、頬をかすめて血を飛び散らせた。
 しかし、幸いなことにユフォアリーヤへは届いていない。ユフォアリーヤの啜り泣きが聞こえるから。
「……みんな、ごめんなさい。ボク。まもれなかった」
 いま、彼女は数年前の自分と同じ気持ちを味わっているのだろう。
 すべてを失ってしまった痛み。そして目の前に広がる真っ暗闇への恐怖。
「……なんで、何でこんなことしてくれるの? ボクにはもう、何もないんだよ?」
「それは違う」
 遊夜は反射的に答えた、あの時自分が言ってほしかった言葉、それが自然と口をついた。
「まだ全部じゃない、そしてまたやり直せる、君はまだやり直せるんだ」
 ユフォアリーヤはその時初めて遊夜を真正面から見据えた、次いで青ざめる彼女の顔。
「おい、お前いい加減にしろよ」
 次いで遊夜は追跡者に向き直った、異形の少女、怨念を背負う少女を真っ向から見据える。
「もう、十分だろう、何があったかは知らない。だが俺の家族を奪ったことで満足しておけ、もうこの子に手を出すな」
「あははは、命令できる立場?」
 遊夜は思うのだ。もし、もしだ。あの時自分が動けていれば、誰かを救うことができていたかもしれない。
 自分はもうやり直せない、けど。
 最後なら最後らしく、せめて家族に誇れることを……。
「俺が守る、この子をもう泣かせない、だからあんたも泣いてないで前をむけ」
 遊夜は蔦を握る手に力を込める。その時少女が浮かべていた薄笑いが消えうせた。
「あんた、能力者?」
「ユフォアリーヤ! 俺に誓え! 【もう二度と失わない】と!!」
 そして次の瞬間見えたのは、美しく輝き放つ蝶と、ユフォアリーヤの微笑む表情そして彼女の声。

「うん。誓う、ボクは【もう二度と失わない】だから……」

 その瞬間、遊夜の意識は途絶えた。

 そこから思い出せたのは断片的な記憶。
 血で血を洗うような戦闘と。悲鳴。
 そして少女の驚愕の顔を、ほくそ笑む自分。
 混濁する意識、森を駆け。樹を切り倒し。
 力尽きて倒れた自分たちに。少女が告げた言葉。
 
 そして遊夜が目覚めると。その頭はユフォアリーヤの膝の上に載っていた。
 視界が半分になっている、どうやら目をえぐられたらしい、それに伴って脳にもダメージがあるようだ。まともに体が動かない。
「……ん、ごめんなさい、ボクがもう少し戦えたら」
 多大なるダメージに共鳴を強制的に解除させられ、直後に何らかの攻撃を受けたのだ。
 そのせいで遊夜は再起不能の傷を負った。
「俺は……、死ぬのか?」
「わからない」
「遊夜……」
 ユフォアリーヤは不器用に遊夜の名前を呼ぶ、そして頬を撫でた。
「なんで?」
 助けてくれたの?
 そんな意味だろう、遊夜はその言葉に答える。
「最後に、家族に誇れるような自分になりたかった」
「……ん。ありがとう、遊夜のおかげでボクは生きてる……」
 その瞬間、遊夜の生きている方の目から涙があふれた。
 ありがとうなんて言葉。訊いたのはいつ振りだろう。
「ああ、ちくしょう。あいつはもう行ったのか?」
「うん、致命傷、たぶん生きてない」
「そうか、そうか、俺もやればできるんだな、くそ、悔しいな。もっと早くわかってりゃな」
 そう泣きじゃくる遊夜の目元をユフォアリーヤはぬぐった。
「ありがとな」
「……なんで?」
「なんだろうな、生まれてきた意味のようなものを感じたかったのかもしれないな」
「うん」
 ユフォアリーヤの涙が遊夜の頬に落ちる。けれど、遊夜の触覚はバカになってしまったようでもう、働かない。
 目も口も、もうろくに役目をはたしていない。
「もし、もしこんな屑みたいな俺でも願えるなら。次に生まれた時は『優し』くて『芯』があって『強い』人間に生まれたいもんだなぁ」

 高い自意識と完璧主義、それが自分の敵だった。
 高い理想が、自分の生きる意味と価値を押しつぶして。 
 自分が掲げた目標を達成できないからさらに自分が嫌いになった。
 やがて諦めて生きることのみじめさと楽さを受け入れてここまで来た。
 後悔もない代わりに達成感もない人生。けれど、それが今になって意味を持ったことに、遊夜は幸福を感じていた。
(ごめんな、おやじ、おふくろ。今度こそ本当に、いくから……)

「聞いてくれ、ユフォアリーヤ」
 そう遊夜が言葉をかけると、ユフォアリーヤは涙を流しながらも静かに聞いてくれた。
「そこから先に『俺』はいない……でも」
 わずかに首を降るユフォアリーヤ。けど、彼女がどれだけ否定しようとも。
 別れというのは、誰にでも来るものなのだ。
「君が、本当に。良かった……」

 そう目を閉じ安らかに眠る遊夜、その頬に手を当ててユフォアリーヤは微笑んだ。
「……ん、ありがとう遊夜。そして、おやすみ、遊夜……」
 そして『遊夜』は死に『遊夜』は生きた。
 

エピローグ サイドA

 この物語の結末から言えば、遊夜は助かった。一命を取り留めた。
 しかし記憶の全てを失って、別人のように彼は、変わってしまった。
 個人の証明が、どこにあるか。その認識のしようによって。
 遊夜は死んでしまったともいえるし、遊夜は生きているともいえる。
 ただ、当事者にしてみれば、そんな議論どうでもいいことで。
 とりあえず生活はしないといけないわけで。彼は特になんの考えもなくこの町を出てしまった。
 故郷だと思われる場所。
 もう二度と来ることもないと思いながら都市に住まいを移した。そして彼はH.O.P.E.に所属、お金を稼ぎつつ孤児院を始める。
 まるでかつての自分が願った強くて優しい自分を体現するかのように。
 酒も飲まなければ、遊び歩くこともない、
 ユフォアリーヤをリーヤと呼ぶ。新しく生まれ変わった遊夜で、今日も彼は生きている。

エピローグ サイドB
 そして。 
 今回語られた二人の出会い、それをユフォアリーヤは夢に見ることがあった。
 そのたびにその光景は色鮮やかによみがえり、より細部まで思い出せるようになる。
 まるで、ユフォアリーヤに何かを思い出したがっているように。
 そして今回、新たに思い出したことが一つある。
 謎の少女に襲われた時、火に包まれた自分を見た気がした。
 あれは、いったい。
 そう震えをごまかすようにユフォアリーヤは遊夜の膝にすり寄った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『麻生 遊夜(aa0452)』
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 鳴海でございます。私も遙華もお世話になっております。
 今回は二人の出会い? の物語ということで気合を入れて書かせていただきました。
 お二人に関しては謎なことが多かったので、今回のこのお話を頂いたときにはいろんな面で驚きました。
 そしてそんなお二人のビギニングノベルに携わらせていただけることが光栄でした。
 お気に召しましたら幸いです。
 では本編が長くなってしまったのでこの辺で。
 鳴海でした、ありがとうございました。
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2016年08月23日

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