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『―― それは光か、闇か ―― 』
松本・太一8504

「……人によって変わる『誰も知らぬ遺跡』ですか」
 松本・太一は小さなため息と共に呟いた。
(一体このダンジョンはどこへと繋がっているのでしょうね……)
 ログイン・キーが指し示す『誰も知らぬ遺跡』には、LOSTの異変に関わる何かが眠っているはずだ。
 松本自身がログイン・キーに選ばれた人間であるため、どんなコードでも『地下深く、彼女が眠る神殿』へと導かれるのではないだろうか、と彼は考えていた。
(……けれど、私は『大切な何か』を取り戻すために、そしてLOSTに渦巻く事情を知るためにもここへ来なければいけなかったんですよね)
 ログイン・キーを大事に持ちながら、松本は心の中で呟く。
(しかし、ここは敵が多いですね……)
 ひらり、と身に着けた装備を舞わせながら松本はなるべく敵に見つからないよう、物陰などに身を隠しながら先へ、先へと進んでいた。
 まさに『純真』を現したようなその白き姿は、普通に街を歩いていれば誰からか声を掛けられるだろう。魔法少女や聖なる僧侶、そして一角娘と、様々な職業を経てきたこともあり、松本を蝕む侵食は最初とは比べものにならないほど進んでしまっている。
 それでも『最後』を迎えないのは、まだ『彼女』に期待されているからだろう。
(こうしてみると、本当に女性そのものなんですよね……)
 ダンジョン内の水鏡に自分の姿を映せば、絹糸のようなさらりとした髪。
 一角獣と融合したような角が額から天を突くように伸びている。
(これでも、私はまだ『人間』としていられるのでしょうか)
 水鏡に映る姿は異形そのもの、けれど心はどこまでも清廉なままで、いっそのこと心までも侵食されてしまえば楽なのだろうか、と考えてしまうほどだ。
「あ……」
 そんなことを考えているうちに、ダンジョンの最深部へと来ていたらしい。
「あそこにいるのは、もしかしてLOSTの異変の――!?」
 ダンジョンを抜けた先には大広間が存在していて、その中央には光の柱がある。
 そして、その光の柱の中には見覚えのある少女がいた。
「……ログイン・キーを渡してきた、少女」
 そう、今までに何度か目にしたことがある『彼女』だ。
 けれど、光の柱の中で彼女は目を閉じて微動だにしない。
「どうして、何もイベントが起こらないのでしょうか。私は、辿り着いたのに……」
 LOSTにおいてNPCである『彼女』の元に来れば、何らかのイベントが起こると思っていた。
 もしかしたら、クリアに繋がる何かを得られるのではないか、と淡い期待もした。
 けど、松本の期待を打ち砕くようにイベントは何も起こらず、ログイン・キーも反応しない。
(まだ、私には為すべきことがあるということなのでしょうか)
 ここに到達するのは早い、と言われているようで松本は妙な居心地の悪さを覚えていた。
「あっ」
 松本が小さなため息をついた時、光の柱の中で眠る少女が僅かに目を開いた。
「あのっ、私はここに来ました。貴女が私を呼んだんですよね?」
 松本は質問を投げかけるけど『彼女』は何も答えず、ただ松本を見つめるばかり。
 そして、にぃ、と綺麗な、そしてぞくりとするほど不気味な笑みを浮かべて松本に手を差し出した。
「……っ!?」
 それと同時に輝きだすログイン・キー。
「う、わっ!」
 目を開けていられないほどの輝きに、松本が目を閉じると――。
「……あれ?」
 ダンジョンの入り口にまで飛ばされたらしい。
(結局何も分からなかった。彼女が何を望んでいるのかも、LOSTの異変も、私自身の異変も……ただ)
 松本が心の中で呟きながら思い出すのは、先ほどの『彼女』が見せた笑み。
 触れるのを躊躇ってしまうほどに綺麗で、だけど命すら奪われそうなほど不気味な笑み。
 光と闇が混ざり合ったような感覚に、松本はぶるりと身体を震わせた。
(もし『彼女』と戦うことになっても、今の私では力が違いすぎる)
 それなりに力を積んだからこそ分かる『彼女』との差に、松本は再びため息をついた。
(もう少し力をつけて『彼女』に会いに行こう)
 そう心に決めた松本だが、彼はひとつだけ忘れている。
 力をつければつけるほど、彼女に近くなればなるほど、松本自身を蝕む侵食も大きなものになっていくということに――……。

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます!
今回は外見の方も少し描写させて頂きましたが、いかがだったでしょうか?
満足して頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

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