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『第一回・久遠ヶ原ビールフェスタ 』
矢野 古代jb1679)&ミハイル・エッカートjb0544)&ラカン・シュトラウスjb2603


 この島でアルコール関係の催しが開かれることは滅多にない。
 住民の多くが学生であることもその一因だが、もうひとつ重大な、そして致命的な問題があるためだ。

 撃退士は酒に酔わない。

 酔えない酒の何が美味いのか。
 ビールなどただの苦い炭酸水ではないか。

 体調が悪いと酔うこともあるし、場の雰囲気に酔うこともある。
 だが、それはあくまで例外的なもの。
 撃退士さえ酔わせる酒もあるにはあるが、銘柄はひとつきりだ。

 しかし、ここに画期的な発明がなされた。
 スマートフォンの体調管理アプリを改造して作られたという、その名も「酩酊メーカー」だ。
 このアプリに希望の酩酊具合をセットしておけば、体内のアルコール度数に応じて脳を刺激し、相応の酩酊状態を作り出してくれるという。
 ほろ酔い気分から、へべれけ、ぐでんぐでん、人事不省、その他ありとあらゆる酔っ払いを作り上げることが出来るのだ。

 ただし、このアプリはいつでも自由に使えるわけではない。
 個別のデバイスへのダウンロードは禁じられているため、必要に応じてクラウドにアクセスする必要がある。
 アクセスが可能になるのは特別な許可を得たイベントの開催中、その会場に於いてのみ。

 そう、この久遠ヶ原ビールフェスタのような――


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「矢野殿が何やら楽しい場所へ行くと聞いたゆえついてきたのであるが……ここは何であるのか?」
 白猫着ぐるみ天使、ラカン・シュトラウス(jb2603)は物珍しそうに辺りをきょうろきょろと見回した。
 その傍らで、矢野 古代(jb1679)は歓喜に震えている。
「遂に、遂にこの時が来た!」
 溢れるネオンサイン、弾ける音楽、ジョッキになみなみと注がれた黄金色の液体に、白い泡。
 あちこちで乾杯の音頭が取られ、飲兵衛たちが歓声を上げる。
「これだ、これこそ俺が探し求めていた夏! ビバ、ビールフェスタ! 大人の夜がここにある!」
 撃退士という酔わない身体になって以来、憧れ続けて幾星霜。
「一度くらいは来てみたかったんだ!!」
 本場は無理でも都心で開催されるフェスタなら、どうにか都合を付けて行けないこともないだろうと思っていた。
 しかし思っているだけで、これまでその計画が具体性を帯びたことは、ついぞない。
 それがこの久遠ヶ原島に居ながらにして楽しめるとは、なんという幸運!
 開催の話を耳にしたらもう矢も盾もたまらず、気が付いたら友人二人を巻き込んでここに居たという次第。
「夢にまで見たあの光景が今、目の前に!!」
 嗚呼、酔えるって幸せ――まだ飲んでないけど。
 しかし雰囲気には確実に酔っている。
「おお! びーるであるか!」
 ラカンはぽんと肉球を合わせて頷いた。
「田舎のおじじどのの晩酌のお供に飲んだことあるのである!」
 その頃はまだ堕ちて来たばかりで味覚が定まらず、老人が「美味い」と言うものは全て美味いと刷り込まれて現在に至るわけであるが。
「びーるにもいっぱい種類があるのであるな!」
 彼が飲んでいたのは、釣り竿を手に赤い魚を抱えたふくよかな老人のイラストが付いたラベルだった。
「ほう、恵比寿様のラベルか。なかなかの通だな」
 その味を思い出したのか、ミハイル・エッカート(jb0544)がゴクリと喉を鳴らす。
 しかし、この国で流通している大手のビールなら、わざわざビールフェスに来なくても日常的に飲むことが出来る。
「ここはやはり、普段は手に入らないようなものを堪能すべきだろうな」
「と言うと、地ビールの類か」
 古代の問いに、ミハイルは「それも良いが」と会場の一角に目を向ける。
「ビールと言えば、やはり本場はドイツだろう。死んだ親父がドイツ人だったし、ここはひとつ故郷の味というものを楽しんでみたい」
「ほう、ミハイルさんはドイツの出か」
「いや、俺自身はドイツなんて学園の修学旅行しか行ったことないし、親父の顔も知らないがな」
 ただ母親からそう聞かされているというだけの話だ。
「自慢じゃないがドイツ語は Ich liebe dich くらいしか知らん、そこの看板に何と書かれているかも読めん」
 愛の告白を20カ国語くらいでスラスラ言えるのは男の嗜みである――というのは置いといて。
「だがとりあえず俺の中のドイツの血が騒ぐぜ、ヒャッハー!」

 というわけで、世界各国のビールが集う会場にあって真っ先に駆け込んだのが、このドイツコーナー。
 ビールと言えばドイツという図式が誰の頭にもあるようで、まだ開場から間もないというのに、そこには大勢の飲兵衛達が押し寄せていた。
「どうやらここは自分で好きなものを取るバイキングスタイルのようだな」
 古代は伏せて置かれた巨大なジョッキを手に取ると、とりあえず最も近いビールサーバの列に並んでみた。
「だって色々ありすぎて、どれを選べばいいのかわからないいんだもの!」
 片っ端から試していけば、きっと自分好みのビールが見付かるよね。
 何しろタダで飲み放題だし!
「ドイツと言えば、やはり黒ビールにソーセージだろう」
 ミハイルはイメージ優先で選んでみた。
「む! であれば我もイメージで選んでみるのである!」
 ラカンはヴァイツェンと呼ばれる白ビールをジョッキに注ぐ。
 白猫と白ビールで白繋がりというわけだ。
「おじじどのはいつもキュウリとナスのぬか漬けを肴に飲んでいたのである。我もそれに倣いたいのであるが……」
 ドイツにぬか漬けはないし、ピクルスは何か違う。
 仕方がないので白いソーセージを皿に盛る。
 三人はそれぞれ好きなビールと肴を持ち寄って、隅のテーブルに腰を落ち着けた。
「よし、まずは乾杯しようじゃないか!!」
 古代が音頭を取ってジョッキを掲げる。
 この時ばかりは何時も頑張る大人も飾ることなく、堅苦しい話も抜きに、ただただアルコールに溺れるサルとなろう。
 そして酔うのだ、心置きなく。
「ビールの神に、乾杯!」
 まずは渇いた喉を潤すべく、いつもの「とりあえず生」の勢いでジョッキの中身を一気に空ける。
「ぷはーっ! 美味い!」
「くぅっ、最高だな!」
「うまいであるー!」
 口の周りを泡だらけにして、三人は心の底から叫んだ。
 正直、飲むと言うより流し込む勢いで喉を通り過ぎたそれは、ただ冷たいだけで味など殆どわからない。
 だが夏の夜に飲むキンと冷えたビールは美味いに決まっているのだ。
「勝負は二杯目からだな!」
 何の勝負なのか、何と戦っているのか、よくわからないが、とにかくおかわり。
 そこでようやく味の分析が始まる。
「古代のそれはラガーか」
「ああ、その中でもピルスナーというやつだな、日本でよく飲まれているタイプらしい」
「ほう? どうだ、日本のと比べて何か違いはあるか? どっちが美味い?」
「そうだな、気のせいかもしれないが、丁寧に作られている感じがする。どちらが美味いかは、好みの問題だろうが……俺は気に入った」
 日常的に流し込んでいるお値段控えめなビールと比べて高級感があるのはもちろん、プレミアムなんとか、という銘柄と比べても遜色はないどころか上を行っているかもしれない。
「……これが純粋な昔ながらの味、というものなんだろうな」
 ドイツでは「ビール純粋令」という、何世紀も昔に作られた法律が未だに守られているらしい。
 確か「ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする」という内容だった。
 材料が少ないからこそ素材が厳選され、また製造過程でも手間暇をかけているのだろう。
「すると、この黒ビールもか」
 ミハイルは改めてじっくりと味わってみる。
「コクがあって香ばしいな、コーヒーにも似た味わいがある」
 原料の大半が炙った大麦だというから、そのせいか。
 余計なものが何も入っていない、シンプルな材料で造られているにも関わらず、その味わいは複雑で深い。
「白びーるもおいしいのであるぞ!」
 ラカンが飲んでいるのは小麦の麦芽で作ったビール、フルーツのような香りと引き締まった酸味と辛みが絶妙に調和していた。
 苦みは殆ど感じず、飲みやすい。
「そーせーじもなかなかいけるのである、びーるとの相性も抜群であるな!」
 お馴染みのフランクフルトや、文字通りの白いソーセージであるヴァイスヴルストはボイルで。
 テューリンガーやニュルンベルガーといったブラートヴルストと呼ばれる焼きソーセージ、サラミのようなメットヴルスト。
 ハムのように薄切りにされたビアヴルストは、その名の通りビールと一緒に食べるために作られたソーセージだ。
「さすがドイツはソーセージの本場だな。種類が豊富だし、どれをとっても美味い」
「そうだろうそうだろう、遠慮せずにどんどん食え!」
 まるで自分のことを褒められたように機嫌を良くしたミハイルは、更に大量のソーセージを盛って来る。
 美味い食事のおかげでビールの消費も進み、あれもこれもと試すうちに、もう何杯飲んだのかわからなくなった。
 例のアプリのおかげで、酔いもしっかりと回っている。
「やはり酒は酔ってこそだよなあ」
 古代は酔えることの喜びをしみじみと噛み締め、新たなジョッキを手にするのだった。
 淡い黄金色をしたヘレス、ケルンの町で造られたものしかそれを名乗ることが許されないというケルシュ、歴史の古いアルト、度数の高いボック――

「古代、その緑色のはなんら、それもビールらろか?」
 ネクタイを頭に巻いたミハイルは、古代のグラスに興味を引かれ、ぐっと身を乗り出した。
「これはな、ベルリーナー・ヴァイセという甘いビールら」
 どちらも呂律が回らなくなってきているが、本人達は気付いていない様子。
「緑色らろは、薬草のシロップを加えてあるかやらな」
「なんらそりゃ、ちょっと飲ませろー」
「おー、ころビールはなぁ、ストローで飲むんらぜー」
 古代は何故か持っていた予備のストローを取り出して、お椀型のグラスに挿す。
 その形は、これまた何故かハート型、そして飲み口が二本に分かれている。
 おっさん二人が息のかかりそうな至近距離で見つめ合い、ストローをちゅーーーーー。
「おぉ、やのどのとみはいるどのは、らぶらぶであるなー」
 ラカンもすっかり出来上がっていた。
「めでたいであるー! かんぱいであるー!」
 そこで何故か黒田節を歌い始める白猫天使。
「おじじどのが、酔うといつも歌ってくれたのであるー」
 セルフ手拍子で楽しそうに歌うその声を伴奏に、古代とミハイルの愛(違)はますます燃え上がる。
「なあなあ、ドイツと都都逸ってらんか似てらいか? 似てるよら、大発見らぞ、わっはっは!」
 でも都々逸ってなんだ、全くわからんぞ、わっはっは。
「いや、それよりヴルストと黒ストら! どうら似てるらろ!」
「やのどの、やのどの、くろすととはいったいなんであるかー、このあいだはききそびれたのであるぞー」
 そう、あれは今年の正月。
 羽根突きの際に投げた質問は何となくはぐらかされ、うやむやのままに終わってしまった。
 今度こそきちんと説明を聞くのだ、多分明日には忘れると思うけど!
「ふふふふふ、そんらに聞きたければ教えてやるろ」
 アルコール度数の高いデュンケルを一息にあおり、古代は蕩々と語り始めた。
 黒ストの魅力を、そして訊かれもしない褌の魔力を。
 しかし当のラカンは既に自分が放った質問を忘れている、それどころか質問したこと自体を忘れていた。
「このびぃるおいしいであるぞー! のんでおるかー?」
 べろんべろんのぐでんぐでん。
 やがて電池が切れたように、ぱたりと突っ伏して寝息を立て始めた。
「しろねこー! 俺はお前に良く似た黒い猫を知ってるろ!」
 相手が寝落ちたことにも気付かずに話しかけるミハイル。
「さては仲間だろう、それとも黒い猫が脱色して白猫のふりをしているろか?」
 そういえば羽根突きの時は白猫が黒猫に変身していた、ような。
 まさか中身が同じだったりするのだろうか。
 これは是非とも確かめてみなければ。
「背中にチャックあるろか?」
「おお、ミハイルさん、ここらここらー」
 いつの間にか古代がラカンの背中に回っている。
 黒スト及び褌に関する考察は最後まで話し終えたのか、それとも途中で意識が飛んで全てがリセットされたのか。
 今や二人の意識は完全に、新しいオモチャ(失礼)のみに向けられていた。
「いくろ」
 テーブルに突っ伏したラカンの首の辺り。
 もふもふの毛に埋もれたファスナーの端をつまむ。
「な、なんかドキドキするら」
「ちょっとモヤモヤしてくるろ」
 なんだろう、この女性のドレスを脱がすような、孵化しかけたサナギの背中を無理に破ろうとするような、妙な罪悪感は。
「だが俺達は確かめねばならぬ!」
 妙な使命感に燃え、ファスナーを下げる。

 ちーーーーー。

「中身はなんら?」
 人か、それとも……
「ねこら」
 なんと、白猫の着ぐるみの下にはまた白猫の着ぐるみが!
 その下も、そのまた下も、ずっと白猫。
「マトリョーシカか!」
「中身はどこら!」
 しかも不思議なことに、剥いても剥いてもサイズが変わらない。
「ろうなってるんら!」
 ちょっと怖くなってきた。
 これは怪奇現象か、それとも……いや、そもそもファスナーは開いていないのだ。
 実は酔いのために手が滑って空振りの連続、開いたと思ったのはただの気のせい――なんてことは、酔っ払いにはわからない。
「俺達、酔ってるのか?」
「いや、俺は素面らぞ、撃退士が酔うわけないらろ」
「そうらよな?」
 忘れている。
 アプリの存在をすっかり忘れている。
 結論、これは何かのトリックか、目くらましだ。
「ラカンさんはイタズラが好きらなー」
 ということに落ち着いた。
「よし、二人で飲み直すろー!」
 背中のファスナーをそっと戻したつもりになって、肩を組んだ二人はフラフラと彷徨い出る。

「ビールと言ったら、やはりイギリスは外せないら!」
 イギリスのパブで出されるビールは冷えていないと聞いたが本当だろうかと古代。
「ん? イギリスと言ったら気の抜けたエールらろ!」
「そうらったか?」
 フランスは古ワイン、ロシアはクワス……何故かそんな知識がミハイルの脳裏に勝手に湧き上がって来る。
 はて、これはどこで覚えたものだろう?
 酔った勢いで誰か別人の記憶と混戦してしまったのだろうか。
「いや、酔ってらい酔ってらい」
 イギリスのビールは日本などで主流となっているラガーとは製法が違う、エールという種類が一般的だ。
 エールは冷やさずちびちびと、お喋りを楽しみながらゆっくり飲むのが美味いという。
 肴はやはりフィッシュ&チップスか、それともキドニーパイか。
 北欧圏にも美味いビールはたくさんあるし、ピザを肴にイタリアのビールも良い。
「よし、ここにあるビールを全制覇するろ!」
 古代は高らかに宣言する。
 もちろん食事もがっつりと。

 しかし彼は知らなかった。
 ビールはタダだが食事は有料であることを。
 しかも謎の最新技術で各人の食べた量をきっちりと記録し、後で一括請求されるということを。
 更にはビールがタダである分、食事は少しばかりお値段が張る設定になっていることを。

 彼等の財布は、この危機を無事に乗り越えることが出来るのだろうか――!?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679/矢野 古代/男性/外見年齢39歳/ヴルスト黒スト黒褌】
【jb0544/ミハイル・エッカート/男性/外見年齢31歳/ドイツの都都逸はどいつが謡う】
【jb2603/ラカン・シュトラウス/男性/外見年齢27歳/謎の白猫マトリョーシカ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

酔わない設定の撃退士を何とか酔わせようとヒネリ出した苦肉の策がこちらです。
なお会場を出れば酩酊の効果は切れますので、二日酔いにはならない……はず、です。多分。

お楽しみいただければ幸いです。
何か問題がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
colorパーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年09月09日

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