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『何時かの前の夏祭り 』
レイラ クロスロードaa4236)&ブラッドaa4236hero001)&蜷川 恵aa4277)&徒靱aa4277hero001


「これでよし……と」
 ブラッド(aa4236hero001)はレイラ クロスロード(aa4236)の姿にふうと小さく息を吐いた。金色の髪に白い肌、合わせた浴衣は白地に紅と紫の朝顔柄だ。かんざしで髪もまとめ、綺麗に着付けてもらった己の姿を、しかしレイラがその両目に映し出す事はない。本来なら綺麗な青を宿していた瞳には、その全てを覆うように白い包帯が巻かれている。ブラッドはその包帯に、未だ消え去る事のない悔恨の苦みを感じながら、自分も甚平に着替えるためにと一度部屋の外に出た。いくらレイラが盲目で何も見えない身の上とは言え、さすがに異性の前で肌を晒して着替えるのは気が引ける。浴衣と甚平、普段着として常から身に着ける者もいるそれは、しかしレイラとブラッドの日常には到底馴染みのないものである。馴染みのない、しかも和服をわざわざ取り寄せて着る理由。それは二人にとっては楽しみでもあり、しかし同時にわずかに緊張を覚えさせるものでもあった。
「それじゃあお嬢、そろそろ行くか」
 甚平を羽織ったブラッドはレイラを抱える車椅子を玄関に向け押し出した。盲目の上車椅子。生まれつき足が悪く歩く事の出来ないレイラは、ある日出くわした猟奇殺人者に両目までをも奪われた。一人では動く事さえ出来ず、世界を見る事も叶わない。しかしレイラは悲嘆に暮れず明るく日々を過ごしている。そうしなければ暗闇の中一人世界に置いて行かれる気がするから。
「楽しみだね、ブラッド。恵ちゃんも徒靱さんも楽しんでくれると嬉しいなあ」
 明るく紡がれたレイラの言葉に、ブラッドはわずかに笑みを漏らしさらに足を踏み出した。兄を呼ぶように自分を呼ぶ、妹のように思う彼女を、外の世界に連れ出すために車椅子をギッと押す。二人がこれから向かうのは、何の変哲もない、夏祭り。


「ありがとう、レイラ。今日はお祭りに誘ってくれて」
 蜷川 恵(aa4277)は目を閉じたまま、自分の前にいるはずの友人へと声を掛けた。その目を覆うものは何もないが、恵もレイラと同じくその目で世界を見る事の叶わない身の上だった。生まれた時から目が見えず、光だけを感じる視力は、いくら望めど友の顔も、傍らに立つ英雄の姿も恵に教えてくれはしない。
 しかし、ここが賑やかな夏祭りだという事は、目が見えなくても二人の少女に存分に伝わっていた。たくさんの人の歩く音、食べ物の匂い、祭り囃子。楽しそうに響く声ははしゃぎ回る子供だろうか。彼らと共に走る事は叶わなくても、二人の心は存分にうきうきと跳ね回っていた。
「私も、一緒に来てくれてありがとう! 初めての夏祭りに、ブラッドや恵ちゃん達と、友達と一緒に来れて嬉しい」
 元気いっぱいのレイラの声に恵は思わずはにかんだ。少々人見知りの気があり、あまり喋る方ではない恵にとって、レイラは同じ盲目という境遇を共有する仲であり、友達になりたいと言ってくれた、大切にしたい友人だ。そんな相手にまっすぐに「友達」と、「嬉しい」と、言われて心が弾まない訳がない。今までは人の多い所は勿論、誰かと来るなんて経験はなかったから、その事も相まって恵の胸は温かなものでいっぱいだった。そんな恵の細い手を支えるように取りながら、徒靱(aa4277hero001)は似非くさいと評される関西弁で声を上げる。
「祭り言ゥたら神輿に花火! 最近の出店はよゥ分からんけど、逆にそれが楽しいわなァ。おっとケイ、足元気ィ付けや」
「ブラッド、よろしくお願いね」
 レイラの言葉にブラッドは車椅子を前へ押し、レイラはゆっくり進む車椅子の上で見えない瞳を左右に向けた。視界は相も変わらず暗い闇に覆われているが、その向こうからは賑やかな祭りの気配が惜しむ事無く漂ってくる。恵もまた徒靱に慎重に手を引かれつつ、自分達を取り巻く世界を脳裏いっぱいに思い描いた。徒靱は恵が転ばないよう彼女の足元に注意しながら、目に入った屋台の様子を恵の耳へと聞かせてやる。
「ケイ、焼きそばがあるで。でかい鉄板の上ででかいヘラ使って焼きそばいっぱい焼いてるわ。あれは冷やしたきゅうりやな! つやつやしたきゅうりに割り箸刺してめっちゃ冷たそうでうまそうや」
「徒靱、買いすぎは駄目だよ」
「わあってるって。……あ、ケイ、ちょっとここで待っときや。レイラの嬢ちゃん、ブラッドちゃん、ケイの事よろしゅう頼むわ」
 徒靱は恵の白い手から赤褐色の指を離すと、自分の興味を惹く屋台を端から順に巡っていった。しばらくしてビニール袋をガサガサさせながら場へ戻り、恵の手に甘い匂いを放つ割り箸を一本握らせる。
「これは?」
「チョコバナナや。バナナの上にチョコレートかけて冷やしたっつー食べ物や。これなら食べやすいやろ。ほら、落とさんようにここしっかりと持ってな」
 少し重みのあるそれを恵はこわごわ握り締めた。そっと口へと持って行き、先端とおぼしき所にゆっくりと歯を当てる。やわらかいバナナとチョコレート、二種の甘みが恵の口いっぱいに広がっていき、恵はチョコバナナから口を離し徒靱の気配へ首を向ける。
「これが屋台の味、なんだね。おいしいよ」
「そりゃあ良かった」
「お嬢、何か食べたいものがあれば買ってくるぞ」
「よく分からないから、おいしそうだと思ったものを買ってくれると嬉しいな」
 ブラッドはレイラの要望を受け少しだけ困った顔をした。悪友である徒靱はどうやら祭りの経験ありのようだが、ブラッドはレイラと同じく夏祭りは初めてだ。一体何がおいしいのか見当のつけようさえもない。
 と、「たこ焼き」という屋台が目に入り、ブラッドは「これはどうだ」と屋台のすぐ前へと車椅子を押し出した。レイラの白い鼻を香ばしい、食欲をそそるいい匂いがくすぐっていき、「これがいい」とレイラは背後のブラッドへ言葉を返す。「熱いから気を付けてな」という店主の言葉と共にたこ焼きを一箱受け取ると、ブラッドはレイラが熱い思いをしないようにと、割り箸を使ってたこ焼きの一つを半分に割ってやった。「熱いぞ」との注意と共に口に入れられたたこ焼きは、カリカリの外身ととろとろの中身、ぷりぷりとしたたこの食感を同時にレイラの舌に伝えた。まだわずかばかり熱かったそれを懸命に冷ましつつ、しっかりと飲み込んでからレイラは口元に笑みを浮かべる。
「おいしい。恵ちゃんもたこ焼きどうかな。半分こしよう? おいしいよ!」
「くれるの? ……ありがとう」
 本当は恵に直接食べさせてあげたかったが、盲目のレイラが盲目の恵に熱々のたこ焼きを食べさせるのは至難の技だ。それでも、恵は友達との半分こに嬉しそうに笑みを零し、「おいしいよ」とレイラの耳に明るい声を聞かせてくれた。徒靱が「わたあめ、りんご飴、お好み焼き」と屋台の定番おススメメニューを様子と共に言い聞かせ、その都度お財布とお腹に相談しながらビニール袋を増やしていく。あらかた買った所でテーブルと椅子の設置された休憩スペースへみんなで入り、ブラッドと徒靱はそれぞれ契約者のために皿に戦利品をよそっていった。焼きそばも、冷やしたきゅうりも、お好み焼きも、揚げたチーズも、レイラも恵も匂いを嗅ぎ、その姿を想像しながら口の中へと運んでいく。わたあめはまずパンパンに張った袋を触り想像して楽しんだ後、割り箸に巻いてもらったわたあめを二人同時に口へと入れた。ふわふわとした食感の後、口の中で甘くほろりと溶けていく。「おいしいね」と言う恵の声に「すごくおいしい」、とレイラも笑みを浮かべて言葉を返した。
「やー、食べた食べた。屋台で買って外で食べるんも中々乙なもんやなァ」
「……ん、あれはなんだ?」
 腹ごなしを終えた徒靱が満足そうに腹部を擦りつつ恵の手を引いていると、ブラッドが聞こえた「パン」という音に赤色の瞳を向けた。おもちゃのようなやけに細く簡易な作りの銃らしきものを、ぬいぐるみや菓子へと向けて引き金を引く子供達。徒靱はそれを見て「射的やなあ」と悪友の疑問に答えてやり、ブラッドは知らぬ遊びに「射的?」と言葉を返す。
「コルクの弾詰めた銃で、ああやってぬいぐるみとか菓子とかの的を狙って、弾当てて倒したら商品ゲット出来るゲームや。ブラッドちゃん、ここはちょっと男らしく勝負しようや!」
 徒靱の誘いにブラッドはこくりと頷くと、「お嬢、蜷川とここで待っててくれ」と車椅子のストッパーを掛けコルク銃を手に取った。レイラ達からあまり離れないようにと気を付けつつ、しかし戦場に立った時と同じ集中力でコルク銃を的に定める。一拍の緊張と共に放たれたコルク弾は見事レイラが欲しがりそうなぬいぐるみへと命中し、その後もクッキー、チョコ、ラムネと取っていくブラッドの放つ音に恵がそっと声を落とす。
「……あ、今徒靱負けた?」
「っだァ! 射的は勝てる訳ないやろ!」
 辛うじて小さなマスコットを落とした徒靱は悔しそうに拳を振った。実銃ではなくコルク銃なら万が一、と思ったが、ジャックポットの能力は遺憾なく発揮されたらしい。
「次は金魚掬いで勝負しようや! 今度こそは負けへんでェブラッドちゃん!」
 名誉挽回に気合いを入れ腕を捲る徒靱に、ブラッドもあまり表情を変えぬまま甚平の袖を捲り上げた。レイラと恵は邪魔にならない場所に揃って待機しながら、二人の放つ勝負の音に神経を集中させる。「そや!」という徒靱の発する声と、何かが跳ねる水の音。「む」と呻くようなブラッドの声がわずかながら耳を打ち、ぱしゃぱしゃと涼し気な音がレイラと恵の鼓膜を揺らす。しばらくして「よっしゃ!」と徒靱が立ち上がった気配がし、恵の腕にやわく振動する小さな袋が掛けられた。
「金魚掬いは俺の勝ち! 三匹も取ったで! すごいやろ」
「本当? すごいね」
「俺は一匹だ……」
「帰ったら金魚鉢用意してあげなきゃいけないね」
「ああ。……と、そろそろ花火の時間だな。移動しようか」
 ブラッドは金魚が一匹入った袋をレイラの手に持たせると、車椅子を押しさり気なく目的地へと歩いていった。人込みに注意しながらブラッドが誘導したそこは、レイラ達に一番のものを見せたいと、今日のためにと調べておいた花火の絶景スポットである。ブラッドは金魚の袋を預かり車椅子の端に掛けると、花火を楽しむための仕上げにレイラを主体に共鳴した。晴れる事のない暗闇からチカチカといくつか光が瞬き、ゆっくりと瞼を開いたレイラのその先にあったのは……赤。黄色。橙。青。緑。紫。金。白。……濃紺の夜空を焦がすように、あまりにも鮮やかに咲き誇る大輪の火花の華。「ひゅるるるるる」と笛に似た音が闇夜を縦に割いていき、「ドン」という豪快な音が鼓膜と身体を同時に揺らす。そして打ち上がるいくつもの花火は、レイラの顔も瞳も惜しむことなく照らし出す。光も音も、心にかかる黒い靄さえ全て吹き飛ばすかのようで、何か言葉にしたいのに、あまりにも見惚れてしまって声の一つも出せはしない。
「レイラ」
 ふと、名を呼ばれて瞳を向けると、そこには随所に赤と青のメッシュを入れた、白い髪を腰まで流した一人の女性が立っていた。徒靱と共鳴し、今だけは視力を得た恵がレイラへと笑い掛ける。レイラも恵に笑みを返し、車椅子を降り慣れない下駄で草の上を踏みしめた。自分の足で立つ事さえレイラにとっては特別で、だからこそこの一瞬を噛み締めながら恵の隣に並び立つ。恵もまた泣きそうな程に美しい夜空の華を見上げながら、隣に立つ友達へとゆっくりと手を伸ばした。そっと触れてきたそれをレイラはしっかりと握り締め、『二人』で人生初めての花火へと瞳を向ける。
「綺麗だね」
「うん」
「来れて、良かった」
「……私も」
 それ以上の言葉を忘れたように、二人は光を映す瞳を花火へと向け続けていた。言葉になんてしなくても、この景色、この時間、この温もりを、レイラと恵は分かち合えていると十分に感じられていた。同じ盲目で似た境遇の者同士、と言ってしまえば少々暗いものがあるだろう。けれどきっかけはどうであろうと、レイラと恵はかけがえのない、そしてもっと仲良くなりたいと思い合う大事な友人同士。花火の上がる音と煌めく火花に自然に恵の笑顔が深まり、レイラも表情を明るくしながら繋ぐ手にぎゅっと力を込める。
「また来よう。来年も」
『……あァ、また来年も』
 恵の言葉に徒靱が内側から声を返し、レイラも花火を瞳全てに映しながら頷いた。来年は今日とは違う浴衣を着てこよう。どうせならお揃いの浴衣を着てみるのもいいかもしれない。また食べ物を分け合って、ブラッドと徒靱の勝負の音を楽しんで、またここで、この美しい景色をみんなで一緒に眺めるのだ。その想像は幸せで、レイラと恵の胸の内をこれ以上なく温かくした。次から次へと花火が上がり夜空をいっぱいに染め上げる。その光景を瞳の奥の奥に閉じ込めようと言わんばかりに、『二人』は時が経つのも忘れ、上がり続ける大輪の華をずっと、ずっと、眺めていた。


「それじゃあブラッドちゃん、この辺で」
 疲れ眠った恵を広い背中に負いながら、徒靱は車椅子を押すブラッドへと片手を上げた。車椅子の中ではレイラが静かに寝入っており、ブラッドは相変わらずの表情で軽く顎をしゃくってみせる。
「そうや、今日は楽しかったか」
「……ああ」
「そりゃ良かった。ブラッドちゃん顔に出えへんからなァ。……また来年も行こうな」
「……ああ」
 ブラッドはそう返して車椅子を押して行った。見捨てないと、愛すると、出逢ったあの日に誓った少女にいつものように寄り添いながら。徒靱も恵を背負い直し帰路へと歩を進めていく。「来年も来よう」、恵の願ったその言葉に、しかし徒靱はもう一つ別の願いを持っていた。「共鳴せずに、いつか四人で花火を見よう」。それは口にするには物悲しい、途方もない願いだが、目の見えない恵と何時か同じ世界が見たいと思っている徒靱だからそう思う。いつか四人で、今日よりずっと美しい大輪の花火が見れたらいい。
「また絶対行こうなァ。そんで何時か一緒のモンを見ようなァ。……ケイ」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【レイラ クロスロード(aa4236) / 女性 / 13 / 能力者】
【ブラッド(aa4236hero001) / 男性 / 27 / ジャックポット】
【蜷川 恵(aa4277) / 女性 / 17 /能力者】
【徒靱(aa4277hero001) / 男性 / 28 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。今回は盲目のお嬢さん二人ご参加の夏祭りという事で、お二人にはどのように世界が映るのだろう、と想像しながら書かせて頂きました。
 その他様々なアドリブを入れさせて頂きましたが……もしシチュエーションや口調、イメージなど、不備がございましたら遠慮なくリテイクをお願い致します。
 いつか四人で美しい花火を見られる日が来る事を願っております。
 それでは、この度はご注文下さり誠にありがとうございました。
colorパーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年09月09日

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