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『約束の地、それは―― 』
紫 征四郎aa0076)&木陰 黎夜aa0061)&アーテル・V・ノクスaa0061hero001)&ガルー・A・Aaa0076hero001


 夏になったら皆でお化け屋敷に行こう。

 英雄ガルー・A・A(aa0076hero001)とアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)がそんな約束を交わしたのは、昨年末のこと。
 互いの相棒を肴に酒を酌み交わしていた時に、自然とそんな流れになった。
 どちらの娘もホラーと虫が苦手と聞けば、親としてはそれを克服するための手助けをしてやりたいと思うのが人情ではないか。
 いや、べつに面白いものが見られそうだとか、そんな不純かつ悪趣味な動機ではない。
 もっとも決めたのは酒の席でのことだから、その時点では酔った勢いの悪戯心100%だったかもしれないけれど。
「今はただ純粋に二人のことを思って……なあ、アーテルさん」
「ええ、娘を思う親心ですよ」
 共犯者達は顔を見合わせ、菩薩の如き笑みを浮かべる。
 まあ、結果的に何か楽しいことになったなら、それはそれで遠慮なく楽しませてもらう心づもりではあるが、最初からそれを狙っているわけではないのだ。多分。
「虫ってのはまあ生理的なもんだろうから、そいつを無理に慣れさせるのも酷ってもんだろうが、ホラーは、なあ」
 幽霊なんているはずがないし、テレビやスクリーンの向こうからゾンビが飛び出して襲ってくるわけでもない。
 たとえ実際に襲って来たとしても、日頃はもっと強力で凶悪な相手と戦っているのだ。たかが未練たらしい死に損ないの何が怖ろしいものか。
「要は慣れだ、慣れ。朱に交われば赤くなるってやつだな」
「ええ、そうですね」
 用法が微妙に違う気もするが、まあ何となく意味は通じる。
 それに、アーテルにはもうひとつ、相棒に対して気がかりなことがあった。
 彼女の『男性恐怖症の克服』、それは彼等の誓約にもなっている。
 これを機に、少しでも自分以外の男性に対する恐怖心が薄れてくれると良いのだが。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


 夏休みもそろそろ折り返し地点に差しかかった、ある晴れた日。
 紫 征四郎(aa0076)は、行き先も告げられないままに相棒のガルーによって家から連れ出されていた。
「ガルー、どこへ行くのかもわからないままでは、征四郎はこまるのです」
 服装にしろ持ち物にしろ、女の子には相手と場所、そして状況に合わせた準備が必要なのだ。
 どうやら改まった場所へ行くわけではないようだし、ガルーと二人なら普段の格好で構わないだろう。
 しかし他の誰かと一緒なら、服装にも気を遣うのはレディの嗜み。
 会う人を思って、何を着て行こうかとあれこれ迷うのも、女の子にとっては楽しみのひとつなのだ。
 なのに、この相棒ときたら。
「おんなごころを、ちっともわかってないんですから」
 ぷうっと頬を膨らませながら、征四郎は大股に歩くガルーの後を小走りに付いて行く。

 着いたところは――

「なんですか? わくわくさまーふぇすてぃばる……?」
 海沿いにある再開発地区、そこの空き地に作られた夏休み限定のイベント会場だ。
 征四郎は傍らのガルーを見上げる。
 これは遊びに連れて来てもらったのだと素直に喜んで良いのだろうか。
 でも、それならそれで行き先くらいは教えてくれても良さそうなものだが、何度尋ねてもガルーは「良い所だ」の一点張り。
(「なにか、あるのですね……?」)
 ピンと来た。
 その予感は、向こうから歩いて来る友、木陰 黎夜(aa0061)とその英雄アーテルの姿を見た時、確信に変わる。
 黎夜の表情はいつになく固く、相棒との間に流れているのは、どう見てもこれから楽しく遊ぼうという空気ではなかった。
「レイヤ、レイヤもだまってつれてこられたのです?」
 その言葉に、黎夜は黙って頷く。
 焦点を失ったような瞳には「ハル絶対許さない」と書かれていた。
「なにがはじまるのです?」
 周囲の様子をざっと見たところ、総じて子供向けのイベントであるらしく、会場内は明るくポップな配色に彩られ、スピーカーからは思わずスキップしたくなるような楽しげな音楽が絶えず流れている。
 ピエロが奏でるアコーディオンの伴奏に合わせてジャグリングを披露する大道芸人や、着ぐるみを着た何かのキャラクター達のパレード、あちこちで配られている色とりどりの風船。
 広場ではヒーローショーなどが行われているらしく、お面を被ったりオモチャの武器を手にしたチビッコ達が歓声を上げていた。
 しかし、全体に明るく華やかな中で一ヶ所だけ、妙に浮き上がって……いや、沈み込んでいる場所がある。
「あれ、見て……」
 黎夜は遠くに見えるその施設を指さした。
 その一角だけ、色がない。
 全てがモノトーンで、ただ入口に掲げられた看板の文字だけが赤く際立っている。
 それはこのイベントにおける最大の目玉、毎年のようにバージョンアップを繰り返し、入場者数を着実に伸ばしているという、とあるアトラクションだった。
 遠くから見ただけで回れ右をしたくなったが、おどろおどろしい赤い文字は嫌でも視界に入ってくる。

『期間限定・本当に怖いお化け屋敷 呪われた病院 改』

 ご丁寧に全てにフリガナが付いているから、征四郎にも読むことが出来た。
 更には「心臓の弱い方はご遠慮下さい」とまで書かれている。
「えんりょなくごえんりょしましょうです、レイヤ」
 大人達にくるりと背を向け、征四郎は黎夜の手を引いて歩き出した。
 その背にガルーの声が飛ぶ。
「逃げるのか?」
「にげてなどいないのです!」
 反射的に振り向いて叫ぶ。
 騙して連れて来られたのだから、これは逃亡ではない。拒否権の発動だ。
 しかしガルーはそんな抗議など意に介さない様子でニヤリと笑った。
「俺様は騙したんじゃねえ、黙ってただけだ」
 音にすれば僅かな違いだが、その意味は大きく違う。
 それに悔しいけれど、確かにガルーは、そしてアーテルも、何も言わなかっただけで、嘘はついていなかった。
「征四郎、こうなったら覚悟……決めよう。いつまでも怖がってたら、きっといつまでも子供扱いされるから」
 黎夜に言われ、征四郎の瞳に強い意思の光が宿る。
 上等だ、受けて立とう。
 これが大人になるための試練だと言うなら。
「わかりました。だいじょうぶですよ、レイヤは征四郎がまもるのです!」
 征四郎は黎夜の手をぎゅっと握る。
 だがしかし、何と言う運命の悪戯か、はたまた作為か。
 ペアの組み合わせを決める籤引きによって、二人はあえなく引き離されてしまった。
「どうしてなのです、征四郎はレイヤといっしょがいいのです!」
「残念だけど、そういう決まりなのよ」
 臨時のパートナーに決まったアーテルが、いつもの柔らかな口調で言った。
 小学生以下の子供は大人と一緒が原則、そして一度に入れるのは二人までと、入口の案内板にも書かれている。
「よろしくね、征四郎ちゃん」
 目の高さまで屈み込んで、にこりと微笑む。
 いつもの相棒とは違う扱いに、ちょっとだけ、征四郎の胸がきゅんと鳴った。
「こ、こちらこそ、よろしくおねがいしますのです!」
 これはこれで良いかもしれない――これから立ち向かう敵が、お化け屋敷でさえなかったら。


「じゃ、先に行くな」
 一番手はガルーと黎夜、アーテルと征四郎はそこから三分ほど遅れてのスタートとなる。
「ガルーさん、黎夜のことをお願いします」
 アーテルは僅かに心配そうな面持ちで二人の背を見送った。
 心配しているのは、お化け屋敷で体験するであろう様々な恐怖に関することではない。
 そちらは寧ろ大いに怖がって、声が枯れるほどに叫んで、泣いて、日頃は抑えがちな感情を爆発させてほしいと考えていた。
 いっそ暫くは一人でトイレにも行けないくらい怖がってもいいとさえ思う。
 心配なのは、彼女の男性恐怖症だ。
 ガルーに任せておけば大丈夫という信頼感はあるし、彼なら徒に黎夜のトラウマを刺激するようなことは、絶対にしないという確信もある。
 ただ、何気ない行為やちょっとした言葉のひとつで、意図せずスイッチが入ってしまう可能性は否定できなかった。
(「……いや、そこまで気にしては何も出来ないか」)
 アーテルは小さく首を振ると、振り返った黎夜に力強く頷いて見せた。
 自分の手を離れた以上、あとは信じて待つ以外にない。
 その瞳から未だ消えない怒りの色は――まあ、後でなんとかしよう、出来るものなら。


 入口から数歩のところで黎夜は足を止めた。
 いや、足が勝手に動きを止めてしまったと言うべきか。
「どうした、もう帰りたくなったのか」
 その気配に気付いて、数歩先を歩いていたガルーが振り返る。
 近付く気配を感じた黎夜は反射的に後ろに下がった。
 凍り付いていたはずの足も、この時ばかりは機敏に動く。
「手、繋ぐか?」
 距離を置いて立ち止まったまま、ガルーは尋ねた。
 まるで人に慣れていない子犬にでも接するように背を屈め、手を差しのべることもなく、じっと反応を待つ。
(「相手が征四郎なら放っといて先に行っちまうとこだが、嬢ちゃんだしな……少しは過保護にしてやってもいいだろ」)
 黎夜が心に抱えるモノについて詳しいことを聞いたわけではないが、仕事を共にした際の様子などから何となく察しは付いた。
 それに、子供に怖がられて距離を取られるという事態は、ガルー自身の恐怖も少なからず刺激していた。
(「まいったな、こいつはどうすれば……アーテルみてぇにやればいいのか……?」)
 つまりオネェ言葉を使えばOK?
「あー、こほん」
 咳払いをひとつ、ガルーは慣れない言葉遣いを頑張ってみた。
「お、おて、おててを繋いでみるのは、どうかしら、ねぇ?」
 しかし、そんな小細工でどうにかなるなら苦労はない。
 逃げはしないものの、互いの距離が縮まる気配はなかった――物理的にも、心理的にも。
(「だよなぁ……」)
 改めてアーテルの苦悩が忍ばれた。

 黎夜にとっては行く手に広がる闇も怖いが、それと同じくらい大人の男性も怖い。
 目の前にいるこの人が、かつて自分に恐怖を植え付けた存在とは違うものだとは理解している。
 また人としては概ね好印象を抱いてもいるし、初対面の時に比べればだいぶ慣れたという自覚もある。
 けれど、やはり怖いものは怖いのだ。
 闇の中に一人で残されるのと、ガルーと手を繋いで歩くのと、どちらかを選べと言われたら舌を噛み切って死ぬことを選びかねない。
「まだ、手は、だいじょうぶ……ありがと……」
 理性と気力を総動員して、黎夜はどうにか礼を失することのない返事を返した。
 そのまま一定の距離を保って、ガルーの後ろを歩いて行く。

 呪われた「病院」と銘打ってはいるが、内部は狭く、どちらかと言えば個人経営の「医院」や「診療所」に近かった。しかも相当に古い。
 玄関の天井から下がった裸電球は、時折思い出したように周囲をパッと照らしては消え、その一瞬に周囲の惨状を浮き上がらせる。
 壁から剥がれかかったポスターの裏にはいかにも何かが潜んでいそうな雰囲気があったし、黄色く偏食した壁のあちこちには赤茶色のシミが飛び散っている。
 カビとホコリと消毒薬の匂いに、鉄サビのような匂いが混ざっているような気がした。
 狭い待合室では壊れた椅子やソファがひっくり返り、唯一残った無傷の椅子には腕の取れかかったフランス人形が転がっている。
 しかし次に明かりが瞬いた時、人形が置かれていた場所には小さな女の子が座っていた――人形を膝に乗せて。
「……っ」
 黎夜は思わず息を呑む。
 叫び声を上げるのは辛うじて我慢し、代わりに胸に抱いていた猫のぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
「無理して我慢しなくても良いのよ?」
 その様子に気付いたガルーが声をかけるが、黎夜は「急に現れた、から……驚いた、だけ」と首を振る。
「怖かったわけじゃ、ない」
 明るくなったのは一瞬だけで、周囲は目の前にまたかざした手さえ見えないほどの闇に沈んだ。
 自分の声が壁に反響して、妙なエコーがかかったように聞こえる。
 と、またふいに電球がチカチカと瞬いた。
 女の子の姿は消えている。
 人形もなくなっていた。
 その瞬間、黎夜は風を感じた――まるで自分のすぐ脇を誰かが走り抜けたような。
 闇の中を遠ざかる足音が聞こえる。
 リノリウムの床を子供が裸足で駆けていくような、軽くリズミカルな音が、廊下の奥の方へと消えていった。
 ふと足下に目を落とすと、辺りは真っ暗なのに、何故かそれだけがはっきりと見えた。
「……血……?」
 真っ赤な液体が椅子から滴り落ち、それが小さな裸足の足跡となって連なっている。
 それはまるで誘導灯のように、行き先を示しているかに見えた。
 二人はそれに従って廊下を進む。
 どこまでも果てしなく続くかと思われるほど長い廊下を進んでいくと、今度は足音が背後から聞こえて来た。
 しかも、それは先程のように軽やかなものではない。

 ずる、べちゃっ。
 ずるずる……べちゃっ。

 思わず足を止めると足音も止まる。
 歩き始めると、まるで後を追いかけるように足音が付いて来る。
 しかも、少しずつ近付いているような気がした。

 もう、限界。

「服……つかんでも、いい、ですか……?」
 その声に振り向いたガルーは立ち止まり、黎夜が自分から近付いて来るのを待った。
「ええ、もちろん……裾を持つくらいなら構わないわよ?」
 いや、着物なら袂の端を掴むほうが良いだろうか。
 おずおずと手を伸ばした黎夜は、手の甲に青筋が浮き出るほどしっかりと、それを握り締めた。
 手の震えが着物を通して伝わって来る。
 それでも泣き言を言わない心の強さにガルーは驚き、そして素直に尊敬の念を抱いた。
「あなたのその芯の強さ……いや、もうこの喋りはナシだ」
 ガルーは首を振り、がりがりと頭を掻く。
「俺様がアーテルさんの真似したところで、同じように上手く行くはずはねぇや」
 本当の自分を隠して良い顔を見せようとしても、そんなものはすぐに見破られてしまうだろう。
 仮面を被ったままでは、信頼を得られるはずもなかった。
「すまなかったな、嬢ちゃん……いや、黎夜」
 ガルーは改めて黎夜に向き直り、言った。
「その芯の強さは大したもんだ。いや、前から大したもんだとは思ってたが、改めて、な」
 強さも優しさも知っている。
 征四郎が世話になっていることに関しては感謝もしている。
 だから何か少しでも力になれればと思うのだが、残念ながら男性恐怖症の克服に関しては、あまり役に立てそうもなかった。
 代わりに、せめてホラー耐性の向上に一役買うことが出来ればと、ガルーは思いつくままに話しかける。
「なあ、幽霊なんか本当はいやしないんだぜ? このお化け屋敷だって、ただの作り物だ……いや、寧ろ作り物だからこそ、怖くて当たり前かもしれねぇな」
 これはプロの集団が、どうにかして客を脅かしてやろうと知恵の限りを尽くして考え出したものだ。
 怖くなかったら彼等に失礼だろう――いや、それでも自分は怖くもなんともなかったのだけれど。
「本当に怖いのは幽霊なんかじゃねぇ……なんて話も、よく聞くしな」
 それに、この世に存在することが不確かで正体も定かではない、そんなものを幽霊と呼ぶなら。
 自分達のような英雄も、その一種なのかもしれない――


 一方、こちらは少し遅れて中に入った征四郎とアーテル。
 どうやら入場する時間帯で違った演出が行われるようで、椅子の上には人形も女の子の姿もない。
 待合室の裸電球も、うすぼんやりとした光を放ったままだった。
「お、おばけやしきなんて、ここ、こわくないんですから!」
 征四郎は強がっている。
 本人は強がってなどいない、本当に強いのだと言い張っているが、誰がどう見てもビビリまくっているのは明白だった。
「ガルーたちよりはやくゴールしちゃいましょう! ええ!」
 三分の時間差など無いも同然と、征四郎は脇目もふらずにずんずん先へ進む。
 本当はじっくり見て歩くと怖いから、急いで通り過ぎようとしている……なんてことはない。ない。
 薄暗い待合室に面した壁に、磨りガラスの引き戸が付いた受付の窓口があった。
 今の病院ではオープンなカウンター形式になっているものが殆どだが、ここの受付は今では滅多に見られないような古いタイプだった。
 殆ど奥行きのない木製の台が壁に埋め込まれ、その上にトイレの小窓よりもまだ小さな窓が付いている。
 患者はその窓を開けて看護師(その当時は看護婦と言った)や事務員に名前を告げて順番を待つのだ。
 薬を受け取ったり、治療費を支払うのもこの窓口。
 診察券も処方箋薬局もない時代の遺物だ。
「まどぐちで、かんごふになまえをいってください……とかいてあるのですね」
 その指示に従って、征四郎は窓口の前に立つ――が、背が届かない。
 どんなに伸び上がっても、辛うじて台の上に目と鼻が出る程度だった。
「抱っこしてあげましょうか?」
 アーテルの申し出は丁重にお断り、しようと思ったけれど、背に腹は替えられない。
「重くない、です?」
「ええ、大丈夫ですよ」
 後ろ向きに抱え上げられ、征四郎はそっと磨りガラスを叩いた。
「はーい」
 お化け屋敷とは思えないほどに明るい声が返って来て、小窓がカタンと開く。
 そこから見えたのは、にこやかな笑みを湛えた若い看護婦の姿だった。
「お名前をどうぞ、今日はどうなさいました?」
 そう言われて、征四郎は一瞬ここがお化け屋敷であることを忘れかけた。
 その瞬間。

 ドロリ。
 看護婦の顔が崩れ落ちた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 ピシャーーーン!
 不意打ちを食らった征四郎は電光石火の早業で窓を閉めた。
 心なしか、自分を支えているアーテルの表情も強張っていた気がするのだけれど。
(「きのせい、なのですね。オトナがこんなものをこわがるはずは、ないのです……」)
 そう、怖いと思うのはきっと、自分が子供だから。
 子供扱いはされたくない。
 物理的に手が届かなかったりするのは仕方がないけれど、それ以外の部分では対等でありたい。
 大人になれなければ、また置いて行かれてしまう気がするから。
 けれど、そんな思いとは裏腹に、征四郎は脅かしポイントの全てで悉く悲鳴を上げまくった。
「べべ、べつに、こわいわけではないのですよ!」
 ほら、驚いてあげないと作った人達がガッカリしちゃうから!
 だからこれは、世のため人のために!
「征四郎ちゃんは頑張り屋さんですね。それに、とても優しい」
 懸命に去勢を張る様子を微笑ましく見ながら、アーテルは懐かしさに目を細める。
 相棒の黎夜と出会ったのは、ちょうど彼女がこれくらいの年のころだった。
 けれど彼女は、こんなふうに素直に感情を表すことは滅多になくて……今もきっと、悲鳴を上げたいのをぐっと我慢しているのだろう。
 それはそれで立派なことだと思うが、まだ子供であることを思えば心配になる点でもある。
 征四郎がこれだけ素直に怖がって叫びまくっている姿を見ると、寧ろ怖いものは怖いままでも良いのではないかとさえ思えてくる。
「怖かったら俺と手、繋ぎましょうか?」
 叫び疲れたのか、服の裾をちょこんと掴んで後ろを歩く征四郎に、アーテルは手を差しのべてみた。
 その手とアーテルの顔を見比べ、暫く躊躇った後、征四郎はおずおずと手を伸ばす。
 こんなに怖がってばかりで、みっともないところばかり見せているのに。
 ちっとも強くないし、カッコ良くもない、ただの子供なのに。
 それでもアーテルは自分を突き放すことなく、さりげなく歩調を合わせてくれたり、こうして手を差しのべたりしてくれる。
 少しくらいは、甘えても良い気がした。
「ありがとうございます」
 その手をぎゅっと握り、再び歩き出す。
 歩きながら、アーテルがぽつりと言った。
「俺、ゾンビが怖いんですよね」
「え……アーテルも怖いもの、あるのですか」
 征四郎は信じられない気持ちで聞き返す。
 大人とは、怖いものなんか何もない、強くて大きな存在……ではないのだろうか。
「幽霊は平気なんですが、こっちに来てから年齢制限がかかるくらい気持ちが悪いのを見てしまってからずっと」
 そう言って、アーテルは笑った。
 本当の理由は少し違っているけれど、それを正直に話す必要はないだろう。
 理由はどうあれ、苦手であることには変わりないのだから。
「……オトナでも、こわいものがあるのですね……」
 いや、それを認められるのが、オトナなのだろうかと征四郎は思う。
 己の弱さも醜さも、全てを知って認めた上で呑み込んで生きる、それもひとつの強さなのかもしれない。
 今の征四郎は、まだまだその境地に達することは出来そうもないけれど――



「きょうは、ひどいめにあったのです」
 叫びすぎて掠れた声で、征四郎が呟く。
 騙して連れて来られた上に、さんざん怖い思いをさせられて。
 黎夜はまだアーテルを許していないようだが、征四郎もこのまま引き下がるつもりはなかった。
 苦手克服の手助けだと言われれば、有難いことだとは思う。
 思うけれど、それはそれ。
 それにもうひとつ、女の子としては絶対に外せない抗議ポイントがある。
「レイヤといっしょだっておしえてくれれば、もうすこしオシャレをしてきたのです!」
 さて、このオトシマエはどうしてくれようか。
「あそぶところは、ほかにもたくさんあるのです」
「一日フリーパス券、そこの窓口で売ってる」
 二人は揃って手を出した。
「はいはい、わかったわ。今日はもう好きなだけ遊んでいいわよ」
 アーテルが二人を宥めるように言う。
「でも、今は少し休憩したほうが良いんじゃないかしら……二人とも、疲れたでしょう?」
 言われてみれば喉は痛いし膝はガクガクだし、心臓はまだバクバク言っている。
「だから、そこでアイスでも食べましょう? 何でも好きなものを奢ってあげるわ――ガルーさんが」
「俺様かよっ!?」
 いや、まあ、財布くらいは出してやっても良いが。
「じゃあ、ダブルで」
 黎夜は少し遠慮がちに言った。
「ダブル、滅多にないから……これで、チャラ……」
 無茶な要求をしないところは流石にお姉さんだ。
 しかし征四郎は、まだまだ遠慮を知らないお年頃だった――特に甘い物に関しては。
「征四郎はトリプルがいいのです! レイヤもおそろいにしませんか?」
「え、それはちょっと……」
 ダブルでさえ特別な時のご褒美的な贅沢なのに、トリプルなんて恐れ多くて。
 しかし躊躇う黎夜に、ガルーが言った。
「心配ねぇよ、俺様の財布はその程度じゃビクともしねぇぜ。お土産も好きなだけ選んで良いからな」
 俺様、太っ腹。
 あ、でも万が一の時はアーテルさんちょっと貸してね!



 かくしてアイスに釣られて完璧に機嫌を直した二人はその後、フリーパスを手に入れて一日中遊びまくったのでありました。
 なお、お化け屋敷も遊び放題ではありますが、二人がそこに近付くことは二度となかったとか――

 めでたしめでたし。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0076/紫 征四郎/女性/外見年齢8歳/結成、オバケなんか怖くない同盟】
【aa0076hero001/ガルー・A・A/男性/外見年齢31歳/結成、真性親馬鹿連合】
【aa0061/木陰 黎夜/女性/外見年齢13歳/オバケなんか怖くない同盟・同志求む】
【aa0061hero001/アーテル・V・ノクス/男性/外見年齢22歳/真性親馬鹿連合・同志求む】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

オバケが怖い女の子は正義です(こくり
怖くない女の子も正義です、カッコイイですしね!

結論、女の子は全て正義(ぐっ

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
colorパーティノベル -
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リンクブレイブ
2016年09月12日

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