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『黄昏の帰り道 』
ノノトトka0553


 ――今日は、すごく頑張った。
 何かと言ったら……受けた依頼を、ということになるのだろうか。
 元はと言えば依頼人と、次の依頼の話をするためにエトファリカ連邦国の一角にある、詩天の萩野村に滞在していた。
 依頼人と落ち合い、話をしようと思っていた矢先に泥田坊という、泥で出来た人型の歪虚が大挙として押し寄せてきて――。
 突然のことに、ノノトトもそりゃあもうビックリしたけれど、これは一大事と仲間達と協力して村にあるものを駆使して防衛線を敷いた。
 そのお影で、襲い来る歪虚は軒並み倒したし、村も無事に守ることが出来た。
 我ながらハンターとして、十分な仕事が出来たと思う。

 そうは、思うのだけれど……。
 作り上げた防衛線を元に戻し、泥で汚れてしまった村のお掃除を手伝ったり、その後仲間達と水浴びをしたり、そのまま話し込んでいたら思いの他時間を取られて……。
 萩野村の近くを流れている川はとても綺麗で気持ち良かったし、萩野村の人たちも親しみやすいし、依頼人や仲間達も皆いい人だし。
 何だか居心地が良くて、帰ってしまうのが勿体ないような、名残惜しい気持ちになって……。
 あとちょっとだけ……を繰り返しているうちに、すっかり遅くなってしまった。
 明るいうちに宿に戻るつもりが、もう日が暮れかかっている。
「やだなあ……。この辺暗くなると何も見えなくなるんだよね。ぼく、灯り持ってたっけ……」
 呟くノノトト。
 知らぬ異国の道。人気のない場所。灯りがあったとてあまり歩きたいとも思わない。
 ――やっぱりお言葉に甘えて萩野村に泊めて貰えば良かったかな。
 今から戻る? いやいや。もうここまで来ちゃったしな……。
 そんなことを考えている間にも、どんどん周囲が暗くなっていく。

 ――ウォーーーーン。

 聞こえた遠吠えに飛び上がるノノトト。
 今の声は何だろう。もしかして狼だったりして……。
 どうしよう。さすがに1人に狼と立ち向かうのは厳しい。
 急いで宿屋に戻ろう……。
 ノノトトは、遠吠えに追い立てられるように走り出す。

 大丈夫。あれは犬だ。怖くなんかない。怖くなんか……!

 ハッハッハッハッ――。
 すぐに上がる息。
 心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 ハッハッハッハッ――。
 怖くない。怖くないはずなのに。
 突き動かされるようにどんどん早くなる足。
 上がるスピードに、視界がぐらぐらと揺れて……。

「あっ……!」

 短い悲鳴。
 しまった、と思った時にはもう遅かった。
 路面の石に足を取られ、ノノトトは地面に倒れ込む。
「いたたた……」
 身を起こすノノトト。転んだ拍子にどこかに吹き飛んだのか、草履が片方なくなっている。
 更に運が悪いことに泥濘に突っ込んだらしく、ズボンが泥だらけで……。

 ――ああ、もう。折角水浴びをしたのに。
 仕方ないから着替え……と思ったけど、まだ乾いてない!!
 そもそも泥田坊がぼくの服汚したから洗濯する羽目になったんだぞ!
 泥田坊許すまじ……って、いたっ。痛いと思ったら膝擦りむいてる!
 ……暗くて傷も良く見えないけど。
 うー。こんなところに泥濘があるなんて聞いてない。
 詩天は知らない道ばっかりだ。
 何かじめじめしてて暑いし。
 何か知らないけど宿遠いし。
 やだやだ。もうやだ……。

 その場に蹲るノノトト。
 ぐーーーー……と盛大にお腹が鳴って、更に切ない気持ちになって……じわりと目頭が熱くなって、視界が滲む。
 膝を抱えようとして、肘に何かが当たった。
「あっ。そうだ……!」
 弾かれたように顔を上げる彼。
 慌てて懐を探って、竹皮の包みを取り出す。
 形がひしゃげているものの汚れている様子もなく、ノノトトはほっとしながら包みを開ける。
 ――これは、萩野村の人が、『頑張ってくれたから』と振る舞ってくれたお握り。
 帰ると言ったら、折角だからと持たせてくれたものだ。
 転んだ拍子にぺちゃんこにしてしまったそれを、ノノトトはいただきます、と律儀に手を合わせて噛り付く。
 ――白いご飯に塩が振られただけの、本当に簡単な料理なのに。
 素朴だけど、飽きない味、というのだろうか。
 うっかり潰してしまったけれど、それでもとても美味しく感じられて……添えられた沢庵の塩気も、疲れた身体に染み渡っていく。

『……おにぎり、美味しいですよね。私も大好きです』

 ふと、頭を過ぎる依頼人の声。
 依頼人は、自分と同じくらいの子で。
 お握りを頬張る姿は、本当に年相応で可愛い感じだったのに。
 ……詩天の、一番偉い人で。
 見ていて心配になるくらい、すごく一生懸命で――。

『困っている民を放って行く訳にはいきません』

 あの子は、二言目にはこう言う。
 国の偉い人なんだから、民のことを考えるのは当たり前なのかもしれないけれど。
 それでも、素直にすごいなあ……と思う。
 お握りの最後の一口を頬張ったノノトト。そのまま膝の上の竹皮をじっと見つめて小さくため息をつく。

 ――ぼくは、あの子と友達になる約束をした。
 友達がいたことがないというあの子の、初めての友達に……。
 友達は、困っていたら助け合うもの。
 ……だったら、ぼくも頑張らなくちゃ。
 あの子と友達であるのと同時に、ぼくだってハンターだもの。
 こんなことで泣いてたら、もっともっと困っている人を助けられない。
 駆け出しのぼくだけど、沢山の人を救えるように。
 あの子が困っている時に助けてあげられるように――。
 ……しっかりしなきゃ。

 目をごしごしとこするノノトト。
 ……今度こそ大丈夫。
 立ち上がって、歩き始めようとして……。
「あっ。そうだ! 草履! どこ行ったっけ……」
 キョロキョロと周囲を見渡す少年。
 闇に慣れてきた目が、まもなく路上に張り付くように落ちている草履を見つけて……片足でピョンピョンと跳びながらそこに向かう。

 ――ウォーーーーン。

 再び聞こえてきた遠吠え。
 不思議と、恐怖は感じず。
 ノノトトは真っ直ぐ前を向いて、宿へと向かって歩き出した。

「遅くなってすみません! 今戻りました!」
「おかえりなさい。随分……あらっ! 泥だらけじゃないですか!」
「あはは……。途中で転んじゃって……」
「大変でしたねえ。お風呂沸いてますから、すぐにお入りくださいな。ご飯も温めておきますね」
「あ、ありがとう」
 それから大分歩いて、ようやく宿に到着したノノトト。
 宿屋の女将に暖かく迎えられて、安堵のため息を漏らす。
 ――うん。やっぱり詩天はいいところだよね。
 今度は、あの子と一緒に詩天を巡ってみたいなあ……。
 ぼくの故郷は芋が主食だったけれど、エトファリカの食事も悪くないし。
 あの子なら、美味しいもの知ってるかも……。
 うふふ、と笑うノノトト。
 ご機嫌でお風呂に入ろうとして……膝のすり傷にお湯が染みて、声にならない悲鳴をあげた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka0553/ノノトト/男/10/頑張り屋さんな男の子

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

ノノトト君の詩天の幕間のお話、いかがでしたでしょうか。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2016年09月20日

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