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『 Dive into the cave! 』
月居 愁也ja6837)&櫟 諏訪ja1215)&矢野 胡桃ja2617)&加倉 一臣ja5823)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901)&アスハ・A・Rja8432)&矢野 古代jb1679)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501

●キャンプ場にて

 日差しが笑うように降り注ぎ、せせらぎは歌うように響く。
「やっぱり来てよかったなあ!」
 額の汗を拭い、月居 愁也が嬉しそうな声を上げる。
 大きな石を転がし、即席のかまどを作り上げたところだ。
 山をかなり入った場所にあるキャンプ場は、他に人影もなく貸し切り状態だった。
「ここなら他の人にも迷惑がかかりませんしねー?」
 櫟 諏訪が人畜無害そのものの笑顔を返す。
「迷惑って、平和なキャンプの何が、他人に迷惑かけると……?」
 言わなくてもいいことを思わず口にしたのは矢野 古代。
 言ってから自分でも(これはフラグだ……!)と思ったらしく、さっと視線を逸らして口をつぐむ。
 アスハ・A・Rが練炭を抱え、古代の傍を通り過ぎていく。
「大丈夫だ。今回は普通の平和なキャンプの予定だから、な」

 ……なんで予定ってつけるんや。
 小野友真はそう思ったが、敢えて無言を貫いた。加倉 一臣はその心を悟ったかのように軽く肩を叩き、やはり無言のまま微笑む。
 そこで一臣がクーラーボックスを抱えているのを見て、友真は暗雲を振り払うように明るい声を上げた。
「あ、料理始めるん。俺も手伝う! ……洗い物とか!!」
「はは、頼むぜ! では思いっきり美味い野外料理をご用意しましょうか! お姫様達のお口にも合うようにね?」
 一臣は矢野 胡桃と華桜りりかに軽く片目を閉じて見せる。
「おっと、その役目、俺を省いてもろたら困るなあ」
 料理と聞いては黙っていられない。ゼロ=シュバイツァーが冗談めかして、一臣に向かって軽く拳を突き出す。
 ニヤリと笑い、一臣は掌で拳を受け止めた。

「いちごのけえき、だけでいいんだけど……」
 胡桃が張り切る料理人ふたりの背中に向かって小声でそういうと、りりかもかつぎの陰から小さく主張する。
「んぅ……チョコレートがあれば、幸せ……です」
 それに気付いて、愁也が座り込んだふたりの前に屈み、目線の高さを合わせて明るく笑いかけた。
「皆で一緒なら、苦手なモンでも結構おいしく食べられちゃうと思うぜ?」
「愁也。お前の組んだかまどがぐらついてるぞ」
 夜来野 遥久が苦笑いで石の位置を直していた。
「えー? ちゃんと組んだけどなあ。どーせ料理するのって決まった三人だろ? かまどが壊れてもどーってこt……嘘です、ちゃんと積みます、やりなおします」
 太陽の光も氷柱に変じそうな親友の笑顔に、愁也は急いで石を積み直す。


 料理に取りかかる一臣、ゼロ、それに古代は、既に下準備を終えた食材を手際よく取り出して行く。
 かまどを組み上げた愁也は、遥久と一緒にテントを組み始めた。
「記録は大事だから、な……」
 アスハはそう言いながら、家庭用ハイビジョンカメラで順に全員の姿を撮影していく。
 みんなで楽しく一泊二日のキャンプ旅行。
 だが参加メンバーを聞いたとき、アスハはそれが平和なキャンプで終わるはずはないと確信した。
 というより平和に終わらせるつもりは毛頭なかった。
 だいたい、画面を操作して最初につけたサブタイトルがひどい。

 ――これは、真実の喜劇である。

 なんかヤル気満々である。
 そしてアスハの期待は、思わぬ形となって実現するのである。


●打ち破られし平穏

 おいしい食事でお腹を満たし、明るいうちに片づけを終える。
 日が落ちたら花火をするか、キャンプファイヤーをするかなどと話し合いをしていた一同のもとに、愁也と友真が息を切らせて駆けて来た。
「大変だ!!」
 危険な野生生物などが居ては大変と、近くの森を少し探ってみたところ、岩山に洞窟の入り口を見つけたというのだ。
「だが断る」
 唐突に拒否する古代。
「まだ何も言ってねえし!?」
「やめて! 私に乱暴する気でしょう? 体当たり芸人みたいに! 体当たり芸人みたいに!」
 洞窟探検。まっくら。未知の領域。
 そこから導き出される結論に錯乱する古代。
 彼をなだめるように、アスハが肩に手をかける。なお、反対の手にカメラを持ったままであることは言うまでもない。
「安心しろ、コシロ。この面子で……犠牲者がお前ひとりの訳はない、だろう?」
「「「安心できるか!!」」」
 ここで反応した一臣とゼロがもうダメだ。

 だが一般的には常識人枠の諏訪が、真面目な顔で首を傾げた。
「でもすぐ近くなんですねー? 変な動物とかが潜んでて、夜中に襲われたらさすがにあぶないかもしれないですねー?」
「危ないってどっち? 俺達? 動物?」
 真顔で一臣が問いかけるが、諏訪は笑顔でスルー。
 一般人相手に常識が発動するからといって、身内に発動するとは限らない。
「交代で眠るという手もありますが、明るいうちに少し確認しておいた方がいいかもしれませんね」
 重々しく遥久が告げたところで、方針は決定した。

「やったー! 洞窟探検やー! あっでも、虫は嫌です。なんでとりあえずこーゆーの効くかなて!!」
 友真は虫よけスプレーを自分にかけ、りりかと胡桃にも噴きかける。
 ついでに軽くマーキングなどもしておく念の入れようだ。
 なお、対象は四人。迷った結果、一臣と遥久を選ぶ。
(ごめんな、なんか遥久さんの位置さえ分かってたら、絶対生き残れそうな気がするねん……!!)
 わりと酷いが、生き残るため身につけた知恵とも言えよう。


 愁也の案内で洞窟の入口に向かう。
 付近には動物の足跡なども見当たらず、特に問題はなさそうだ。
 入口は草のツルや木の根に覆われていたが、ひとりずつなら通り抜けられそうだ。
 ゼロは自分のハンディカメラを構え、セルフモードで実況を始めた。
「はい、こちら現場のゼロです。本日はわくわくキャンプから洞窟探検に放送内容を変更してお送りします!」
「僕が皆の勇姿を入り口から墓場……ではなく、ずっと撮影しているから、ゼロも安心して行けばいい……ぞ」
 アスハがそっとゼロの背中を押した。
「いや、あれだほれ。皆の失態は漏れなく、ちゃんと記録として残さないと!! どんなハプニングがあるかわからんしな!」
 面白ハプニング。
 だがそれは果たして、自分だけを都合よく避けてくれるものだろうか。
(大丈夫。俺にはこの盾達があるから大丈夫!!)
 ゼロが古代と一臣を不穏な目で見ていた。

 その視線を感じたのか、古代がゼロを手招く。
「ゼロ! 俺たちは常に固まっておこう!」
 未知の領域に足を踏み込む恐怖は確かに大きい。
 だが古代は知っていた。その被害を拡大するのは人間であると。
 ホラーとはつまり人間がその主原因であり、だからこそ最も警戒すべきは身内である。
「俺は、人から目を離さないからな! 加倉さんも、一緒に行こう! ああそれから―モモもこっちな!」
 なんのことはない、古代もゼロと一臣を生贄枠として認定し、自分と可愛い養女の安全をはかっているわけである。
 一臣の背中をぐいぐいと押し込む古代。その後ろを歩く胡桃はすでに涙目である。
「父さん、ほんとにいくの……?」
「一緒なら大丈夫だ。ここで皆に置いていかれるのも嫌だろう?」
「うう……絶対離れないでね?」
「もちろんだとも!!」
 まさかそれが恐怖の始まりとも知らず、古代は優しく微笑んで胡桃に向かって手を差し伸べた。

 胡桃の後から、りりかもおずおずとついていく。
「んぅ……こわいのは得意ではないけど、探検は気になるの……ですよ」
「大丈夫やだいまおー、へーかから離れんようにな!」
 ゼロが手を振った。
「ちょ。なんで矢野さん、一臣さん連れてくん!?」
 友真が抗議すると、古代はふっと口元に微笑を浮かべながら振り向いた。
「小野君はこないだ俺ら裏切ったから一人で――駄目?」
「ダメ」
 即答しつつ、一臣の腕を引っ張る友真。すぐに耳打ちする。
「なんで見るからにヤバそうなメンバーにくっついていくん!?」
「あはは……なんでだろうね?」
 頼りにされると断れない男、一臣。
「ほら、女の子が危ない目に遭うのはやっぱり見過ごせないからさ」
「それはわかるんやけど……」
 友真とて、女の子の前ではちょっとカッコいいところを見せたい。
 少なくともビビりまくっている姿を見られるのは嫌だ。
 だがもしここで一臣を手放したら、彼女達の盾に使われ、自分の盾にならないではないか――!
「いや、大丈夫。モモちゃんは古代さんが、りりかちゃんはゼロさんがおるから安心やし。俺らは万一の場合のレスキューってことで、一緒に行動したほうがいいと思う!!」
 友真は意外にも策士であった。
 

 それぞれの思惑(※主に自分だけは助かりたいという本音)を胸に、一同は順に洞窟へと足を踏み入れて行く。
「一泊二日でキャンプに来た俺達は、山奥に謎の洞窟を発見! 決死の覚悟()で一歩を踏み出した……
『地底人のメッセージ!? 巨大洞窟奥に謎の光を見た!!』
 って、こんな感じか?」
 愁也がアスハのカメラに向かってナレーション。
「いいから行け。置いていかれるぞ、シューヤ」
「いっけね! 遥久、俺から離れるなよ!!」
 アスハの前を、諏訪が微笑みながら通り過ぎて行った。
「すでに結末が予想されてますよねー」
 そう言いながらも、しっかり自分もついて行く。
 どうせなら現地で見届けた方が楽し……もとい、皆が無事で帰ることができるよう、手助けしなければならないのだから。


●(一部が)決死の突入

 岩の割れ目を通り抜けると、少し広い空間に出た。
 中は暗いが、お互いの足音などの反響で、孔は奥深く続いているのがわかる。
「涼しいですけど、なんだか臭いですねー?」
 諏訪の明るい声が岩壁に響き、それから遠くへ吸い込まれていくように消えていった。
 スキル「夜目」で辺りを見回し、危険がなさそうだと判断すると先へ進む。皆を誘うかのように、特徴的なアホ毛がゆらゆら揺れていた。
「道はこっちに続いているみたいですねー?」
「すっげー! なんかすっげ探検ーって雰囲気だぜ!!」
 指さす方向に、無防備に飛び込む愁也。
 一応ペンライトは持参しているので、足元を照らしながら進む。つまり、下しか見ていない。
「けっこう歩き易い……ひぃっ!?」
 愁也の妙な声に、後に続いていた一臣がとっさに足を止める。
 駆け寄る前に止まる辺りにこれまでの苦労がしのばれるわけだが。
「おい、大丈夫か?」
 一応は心配していなくもない。
「あーびっくりした! 上から冷たい雫がびちょって……」
 手で首筋を拭いながら、愁也が肩をすくめた。その仕草でペンライトの光が一臣を照らす。
「待って、眩しい眩しい!!!」
 夜目にペンライト。効果を切るのが一瞬遅れ、とっさに一臣がペンライトを避けようと手で払う。
 それでまた方向の変わった光が、壁を滑るように移動して行く。
「もー、愁也さんびっくりさせんといて……」
 友真の言葉が途切れた。
 ペンライトの明かりを受けてきらめく、壁から天井を埋め尽くす無数の星が見えた……と思った直後。
 激しい夕立のような音が周囲を満たす。

「ぎゃああああああ」
「いやああああああ」
「きゃああああああ」

 どれが誰のものともわからない悲鳴。
 それが岩壁に反響し、互いの耳を叩き、また叫び声を産む。
「だからいやだっていったのにーーーー!!!」
 胡桃が泣きながら古代に飛び付いた。それだけではなく、力の限りにしがみつき、飛び付き、膝に力をかける。
「大丈夫だ、俺がついているぞラブリーまいどーたーモモ ってぐはぁあああ!?」
 ごつぐちゃあ。
 そんな感じの音が鈍く響き、鯖折りを喰らった古代が固い地面にくずおれる。
「今回の企画発案は誰!? 名乗りでなさい!!!」
 暗闇は怖くない。だがお化けの類は大嫌い。
 そんな胡桃は、今の状況ではリミッター解除状態。泣きながら愛する義父に致命傷を与えていることにも気付いていない。

「くっそ、敵襲か!? 負けねえぜ!!」
 愁也は生臭い風に取り巻かれながら、相手を威圧しようと身構え、「咆哮」を放った。

「「「うあああああああ」」」

 これは鋭敏聴覚を使っていたインフィルトレイターズの悲鳴。
「愁也、いい加減にしないか」
 洞窟が凍りそうな遥久の声。同時にゴツッという固い音が響く。
「でっ!? ごめんごめん、ちょっとびっくりしたんだって! あーここ、蝙蝠の巣だったんだ!」
 愁也は屈みこみ、咆哮に驚いて地面に落ちた蝙蝠をつまみあげた。
 異臭の元はどうやら、辺りに積み上がった蝙蝠のフンだったらしい。

「蝙蝠でしたか〜さすがにちょっとびっくりしましたね〜?」
 諏訪が耳を押さえながら、それでもニコニコ笑っている。
 道を示すだけで自分は先に進まない、その策が功を奏したというところか。
「耳、大丈夫か。これでも飲んどけ」
 ゼロが持参したペットボトルを手渡す。
「ありがとうございますよー?」
 諏訪は素直に受け取った。
「いやいや。なかなかいい画が撮れた礼ってことで」
 ゼロはニヤリと笑い、ハンディカメラを示して見せる。
 一臣と古代を先導させたのは大正解だった。
(くくっ、奴らを盾にしたのはやはり正解……!)
 だがカメラは、背後から近づいたアスハにそっと取り上げられた。
「ここから先は、僕が担当しようか」
「え? いや、カメラマンは複数いた方がいい画が」
「ゼロには、ダイマオーのガードという、大事な仕事があるから……な」
 守るモノがないというよりは守る気がない男の言葉の説得力よ。
 ゼロはなんだかんだで、前線送りとなった。

 だが先導の愁也が足を止めた。
「あれ?」
 ペンライトの光が辺りを順に照らす。
「行き止まり……?」
 一臣と友真も闇に目を凝らす。
「意外と奥は浅かったようですね……引き返しましょうか」
 遥久は風の行方を探るように目を閉じている。
「……別の風の流れを感じませんか?」
「他の通路があるのかもしれませんねー?」
 一番後ろの諏訪が踵を返す。
「きゃっ!」
 りりかがあとに続こうとして足を滑らせた。
「大丈夫か、だいま……ぐえっ!」
 体勢を立て直すのを手伝おうとゼロが腕を伸ばした。それをりりかが思い切り掴み、よろめいたゼロは岩壁に側頭部を思い切りぶつける。
「……えと……んと……ゼロさん、痛くない、です?」
 りりかはおろおろと手探りでゼロの顔を撫でる。
「んぅ……もしかして、けが、した……ですか」
「大丈夫ですかー?」
 諏訪が戻ってきて、じっと目を凝らす。
「いけませんね、ちょっと洗ってみましょうか」
 そして取りだしたのは、先刻ゼロから手渡されたペットボトル。
 蓋を開け、ハンカチを浸し、額に当てると……

「ぐああああああああああああ」

 悶絶するゼロ。
「そんなにしみましたかー? ……これってお水のボトルですよn」
 諏訪の言葉は途切れ、激しい咳き込みに変わる。
 ゼロは己の悲劇も顧みず、満足げに親指を立てた。諏訪にいつか仕返ししようと仕込んだ唐辛子ドリンク作戦、大成功。
 ……なのか?
 その議論は後に譲るとして。
「やはり、いい画が撮れる、な……」
 アスハのカメラはひたすら冷静に、全てを記録し続けていたのであった。


●洞窟の深部へ

 入口付近に戻り、改めて辺りを調べる。
 ちょうど人ひとりが通れそうな別の割れ目が見つかった。
 友真は一臣の腕をがっちり掴みながら、それでも中を覗きこもうと首をのばす。
「ここにもぶわーって蝙蝠とかおるんかな……あれちょっと、いややんな……」
「友真。お前がここで先陣切ったら、かなりカッコいいと思うんだ……」
 そっと腕を抜きながら、一臣が背中を押す。
「え? ちょ、待って!! なんで俺……」
「あ・それ、友真の、ちょっとカッコイイトコ見てみたい!」
 歌うように言いながら手拍子を始める愁也。
「待って!! 愁也さんも酷い!!」
 そこで天然なのかわざとなのか、胡桃がじっと大きな瞳で友真を見つめてきた。
「ゆまおにーさん、ひとりでいくの? すごいよね」
「うぐっ」
 女の子の手前、怖いからいやですとは言いだしづらい。
「は、ははは! ど、洞窟ぐらい、どうってことないこともなくなくないし……!!!!」
 どっちやねん。
 そんな突っ込みを自分の心の中で叫びつつ、友真は意を決して一歩を踏みこむ。
「ちゃんと付いてきてや!!!」
 そう叫ぶのも忘れてはいなかった。

 そろそろと壁伝いに進む。足元は案外悪くない。
「というか……」
 友真は奇妙なことに気付いた。気付いたができれば気付きたくなかった。
 そういうことほど気付くというこのパラドックス。
「どうした、友真」
 一臣に促され、友真はそろそろと振り向く。
「俺、思ったんやけど……なんかここ、道っぽくない?」
「……そう言われてみれば、そうかもな」
 確かに単なる岩の割れ目なら、歩くにも苦労するはず。だが「通路」と呼んでもいいような、ほぼ平たんな道のりだ。
「何かが、ここを作っt」
 その瞬間。
 悲鳴のような細く甲高い音を立てて、冷たい風が背中に吹きつける。
「いやあああああああ!?!?!?」
 ホラー嫌い。もうカッコつけてる場合じゃない。ハタチ越えたら大丈夫になるかと思ったら、全然そんなことはなかったぜ!!

 だが友真は自分の叫び声の反響で、我に返る。またも誰かに悪戯されたと気付いたのだ。
「誰や……? さすがにこーゆーのはあかんやつやぞ……!」
 目が据わっている。
 怖さの限界を突破し、逆に冷静さを取り戻したらしい。
「効果てきめん、だな」
 満足げにアスハが囁く。スキル「北風の吐息」で悪戯を仕掛けたが、タイミングはばっちりだったようだ。
「酷いことしますねー?」
 諏訪がまったく止める気がないにも関わらず、のほほんと言った。
「何、そのままでは視聴者的に面白味がないだろう、と思って多少の演出を加えただけ……だ」
 さすがの友真もこれには切れた。
 相手が色んな意味でヤバい連中だということも吹っ飛ぶぐらいに。
「くっそおおお!! こうなったら……こうなったら……」
「落ちつけ友真!」
「ゴー! 一臣さん、ゴー!」
 信頼しているといえば聞こえはいいが、友真の道具になりそうな唯一の人物。
 一臣に体当たりし、アスハと諏訪に向けて押し出した。
「ちょっと、待て! それ、どういう……!!」
 体勢を整えようとした一臣だったが、次の瞬間、絶叫。
「うわあああああああ!?!?!?」
 首筋にペタリと当たる冷たい物。
 一臣は強張った笑顔で、ゆっくりと振り向く。
「そういうの、やめようよ……お互い、いい年なんだからさ……?」
「いつまでも冒険心は忘れたくないものなんです」
 微笑みながら、霜のついたペットボトルをハンカチ越しに掴んでいる遥久がそこにいた。


 こうして無駄な体力を消耗しながらしばらく歩いていくうちに、幾度か通路が曲がり角に差し掛かる。
 曲がり角、と呼べる程度になっている辺り、やはり誰かが手を加えた「通路」のようにも思える。
 胡桃がギュッと古代の袖を掴む。
「父さん、なんかやだ……ちょっとずつ、くだってる……」
「大丈夫だモモ。俺がついてるからな」
 古代の膝が痛みに笑っているが、幸か不幸か暗闇で見えない。
 できれば落ち着いたまま先へ進んでもらい、さっきの鯖折りはご遠慮いただきたいという本音もあったりなかったり。
「ところでまだ奥まで行くのか?」
 そう声をかけて曲がり角を折れたが、前を歩いているはずの諏訪の姿は消えていた。
「櫟君……?」
 その目の前に、ふわりと白い影が過る。
「いやああああああ!!!!」
「大丈夫だマイらぶりードゥター ってぐはぁあああ!?」
 ごつぐちゃあ。

「んぅ……少し風が、変わったような気がするの……です」
 りりかの声が暗闇でささやく。
「やはりこうでなくては、な」
 トワイライトの灯がひよひよと浮かび、りりかのかづきを妖しく照らし出していた。
 これが白い影の正体である。
「ですねー?」
 音もなく現れた諏訪は、足音や気配を消したままで物陰から顔を出す。
 アスハと諏訪はこの状況を色々と盛り上げつつ、行程を存分に楽しんでいる。
 だが細い通路は終わりに近づきつつあった。
「空気の匂いが違うな。水音……地下水流があるんか」
 ゼロが指さす先、通路はいつしか地下水流を見下ろす崖になっていた。


●真の恐怖とは

 細い通路は岩肌をなぞるように緩いカーブを描いている。
 足元から響く水音は、地下水流がそれなりの流量であることを知らせていた。
「向こうにも道があるようですねー?」
 諏訪が闇を指さす。
「それほど幅はない、な」
 アスハが飛ばしたトワイライトの光が、対岸の崖の様子を浮かび上がらせた。
 諏訪は少し先まで歩いて行き、対岸まで一番近い場所を見定めると一臣を呼んだ。
「一臣さん、出番ですよー?」
 対岸までは、ちょうど身長分ぐらいの幅である。
「崖? ……えっ橋?」
 一臣は求められた役割を察知した。
「いやいや、遥久の方が俺より1cm多いよ! シェフのお薦め!」
「シェフってチーフのことですよねー? チーフは誰なんですかー?」
「そんなマジな返答は要らないから! ていうか、皆飛び越えられるよね? 余裕だよね?」
 そう言いながら、チーフといえば……と見渡した一臣は、集団の中にその顔が見えないことに気付いた。
「あれ? 遥久は?」
「えっ」
 真っ先に反応したのは当然愁也である。
 暗闇の中、怪異に出くわしても本気で怖くなかったのは、生けるホラー……もとい、頼りになる相棒がいたからである。
「遥久!?」
 愁也の鋭い叫び声が闇に吸いこまれていく。
「ふふふ、こんなこともあろーかと! 俺の鋭い読み、褒めてくれてええんやでー!」
 友真は自信満々で、仕込んでおいたマーキングの先を辿る。
 だが。
「あれ……遥久さん……?」
 すぐに友真の声が震えだす。マーキングの跡が辿れないのだ。
「アカン。頼みの綱、切れてたわ」
 友真の顔からスッと表情が消えていく。一臣がすかさず前に周り、両肩に手を置いた。
「落ちつけ友真」
「落ちつかない落ちつくとき落ち着きます落ちつけぇえええええ!!!!」
「うああああああ!?」

 どーん!

 我を忘れた友真が一臣を突き飛ばした。
「マーキングの効果は十分間ーーー!!!」
 一臣の声が対岸から聞こえてきた。……頭部があちら側、足がこちら側。結局は橋である。
「今のうちに! 女の子はいそいで!!」
 胡桃の背中を押す愁也。
 驚いてつんのめった胡桃が、キッと振り向き、いきなり愁也に飛び付き以下略。
「しゅやおにーさんずるい!! 私知ってるもん!! レディー・ファーストって、危険な場所に斥候がわりに女性を入らせるって!!」
「ちが、俺はほんとに、ぐはぁあああ!?」
 ごつぐちゃあ。

「んぅ……これで大丈夫です、なの……」
 ひくひくと四肢を痙攣させながらひっくり返る愁也に、りりかが治癒膏を施す。

「やっぱり一臣さんらしいですねー?」
 諏訪がこちら側とあちら側を繋ぐ一臣の身体を見下ろす。
「カズオミ、尊い犠牲はカメラが記録しているから……な」
 そう言って足を踏み出そうとしたアスハの目の前で、人間橋が落ちた。

 ゼロはりりかの手を引く。
「だいまおー、いくで。飛びながらサポートする」
「んと……胡桃さんも、です」
 今まさに飛ぼうとしたゼロの身体が、がくんと引っ張られる。
「がっ!?」
 飛び立つ上半身、だがりりかが掴んだ下半身は地上に縫いとめられている。
 つまりは足を起点に身体は弧を描き、崖下へ激突。そのままずるりと落ちていく。
「ああああああああ!!!!」
 
 ざっぱーん。ざっぱーん。ざっぱーん。

「んぅ……川、そんなに深くなさそうです……なの」
 天然なのか「はらぐろだいまおー」なのか、りりかは音から距離をはかって断言した。
「……らしい。友真、安心して飛び越えて来い」
 一臣は向こう岸によじ登り、笑顔で手を伸ばした。

 暗い川岸に、川面からにゅうっと腕が伸びてくる。
「なるほどですよー。この洞窟では、全員が酷い目に遭うっていうルールが適応されるんですねー?」
 諏訪が水を滴らせながら這い上って来た。
「その中でも俺は特に酷いよーな気はするけどな……」
 びしょぬれのゼロだったが、それでもヤバい雨を浴びるよりはましかと思う。
「防水仕様で正解だった、な……」
 そしてアスハは死んでもカメラを離しませんでした。……死んでないけど。
「ん? あんなところに別の通路があるな」
 ゼロが対岸、つまり自分達が来たほうの崖下に割れ目があるのに気付いた。


 結局、全員が崖下に降り、新たな通路に向かう。
「遥久ー! いたら返事してくれー!」
 愁也は冒険も忘れ、ライトを振りながら走って行く。
 走れるぐらいの空間があることに疑問を抱く暇もない。
「なんやろ? これ」
「歌……かな?」
 後を追って走りながら、愁也に比べればかなり冷静な友真と一臣が一瞬顔を見合わせる。
 通路の先から不思議な物音――歌声のような――が聞こえてきたのだ。
 だがそれを不思議に思ったのもほんの僅かの間。

「うわああああああ、遥久ァアアアアア!!!!!」

 愁也の絶叫に引き摺られるように、全員が通路を駆け抜けた。

 そして息を飲む。

「落ちつけ、愁也」
「お……落ちつくってより、もう、なんか……」
 がっくり膝を突く愁也。

 眼前には、不思議な光が満ち溢れていた。
 まるでたわわ実った麦のように、無数の細い金色の光がさわさわと揺れ、空間を満たしている。その真ん中の、軽トラック程の大きさの塊の上に遥久が立っている……。

「その者、金色の野に降り立ち……ってアホなぁ!!!」
 思わずノリ突っ込みの友真。
「遥久……お前、やっぱり人外……」
「加倉、その点については後でゆっくり話し合うとしようか」
 遥久は静かに微笑み、一臣は口をつぐむ。

「はるおにーさん、大丈夫ー!? なにがあったのーーー!!」
 ようやくまともな言葉をかけたのは胡桃だった。
「有難うございます。実は……」
 みんなを驚かそうと茶目っ気を出して岩の隙間に身を隠したところ、足元が滑り台のようになっていて転落。近くに倒れていた四足らしい動物が怪我をしていたので治癒してやったらこうなった……そうである。
「んむ、あの……」
 りりかが言い淀んでいるのに気づき、ゼロが顔を覗きこむ。
「なんか気になるんか? だいまおー」
「んぅ……夜来野さん、帰って来られるかな……なの」
「え?」
 言われてみれば、気配が妙だった。
 絶対ここから出さないぞ、というような強い意識を感じるのだ。
「この気配、気付かれましたか。そういうわけで、皆さんが来られるのを待っていたんです」
 遥久がすすす〜っと滑るようにこちらへ来る。
「矢野殿」
「えっ」
 突然の指名に驚きながらも、古代が一歩進みでる。
「やはり矢野殿はこういうとき、頼りになりますね……」
 呼んだら警戒せず近付いて来るあたり。
 その言葉を飲みこみ、遥久は力いっぱい古代の腕を掴んで引きよせた。
「皆が助かるために、力を貸してください」
「待て、いったいど……うあああああああああ!?」
 無数の触手に身体を撫でまわされるような感触が古代を襲う。
「ああ、ああ、ああ、ヤバいこれはあかん死ぬしぬしぬ!」
 途切れ途切れの喘ぐような悲鳴。
「父さんーーー!!!」
 胡桃は悲壮な声を上げるが、近付かない。
 この辺り、訓練されているというかなんというか。
「彼は言っています。この洞窟に踏み込んだからには生贄をよこせと。ただ私は恩人なので、生贄にはできないそうです」
 冷静に恐ろしいことを告げる遥久。
 ただ生贄にこそなっていないが、ヤバい攻撃はすでに経験済みである。そこを誰かに見られていれば、人類であることの証明n……いややめておこう。
 古代は遠のく意識の中、その声を聞いた。
「憶えてろ! 俺をハメた貴様らに……呪いあれ!」

 呪いあれ。
 そのとき、奇蹟が起きた。

 光は強く激しくなり、洞窟は昼間のように明るくなる。
 それでもまだ光は強くなり、全てを包み込み……


 そして唐突に消えた。


●そして入口

 気がつけば、そこは洞窟に足を踏み入れたすぐの空間だった。
「コシロを生贄にしたのは、正解だったようだな」
 さすがハルヒサ。そう言ってアスハがふっと笑う。
「オッサンだからね。不味くてぺってされたんだと思うよ」
 自分で言って自分で傷つく古代。
「父さんありがとう。あと、ごめんね?」
「モモが無事ならそれでいいんだ」
 古代は顔をほころばせた。見上げるラブリーまいどーたーの瞳が何よりのご褒美。色々と手遅れな感じだが、本人が幸せならそれでいいのだ。
「一応確認。全員そろってるかな?」
 一臣が見回すと、友真も一緒に顔を巡らせる。
「大丈夫やんな? みんなおるよな? もっぺんいくのいややで……」
 そこでハッと表情を改める。
「ゼロにーやん……うしろ……うしろ……!!」
「何ッ」
 ゼロはその言葉に身構える。
「なんてなー! びびった?」
「ええ度胸してるな? って、ひゃああああああ!!!」
 ぺとり。
 額に冷たいものが当たったのだ。
「んぅ……おでこ、痛くないです……なの」
「あ、だ、だいまおー!?」
 後ろからそっと手を伸ばしたのはりりかであった。

 一同は割れ目から再び外へ出た。
 既に日は落ちて、森はかなり暗くなっている。
 愁也は露を含んだ緑の香りを、胸一杯に吸い込んだ。
「あー、大変な目に遭ったなあ! でも面白かったぜ! ……遥久、どうした?」
 傍らの遥久がポケットに手を入れ、不意に足を止めたのだ。
「これは……いつの間に」
 広げた掌の中、ぼんやりと光る謎の石があった。
 平たく滑らかな表面に筋が何本か入ったところは、身体を丸めた四足の動物にも似ている。
「これはミスターへのお土産にしようか」
「え……」
 やめてやれよ。
 愁也は言いかけた。
 だが親友の笑顔が余りに嬉しそうだったので、その言葉を飲みこむ。
(ちくしょう、悔しくなんかないぞ!!)
 いつか、愁也も呟く日が来るかもしれない。
 呪いあれ、と……。


 つまりは。
 おそらく一番の深淵は、人の心である。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 24 / 阿修羅】
【ja1215 / 櫟 諏訪 / 男 / 22 / インフィルトレイター】
【ja2617 / 矢野 胡桃 / 女 / 16 / ダアト】
【ja5823 / 加倉 一臣 / 男 / 29 / インフィルトレイター】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / アストラルヴァンガード】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 21 / インフィルトレイター】
【ja8432 / アスハ・A・R / 男 / 25 / ダアト】
【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 39 / インフィルトレイター】
【jb6883 / 華桜りりか / 女 / 16 / 陰陽師】
【jb7501 / ゼロ=シュバイツァー / 男 / 33 / ディバインナイト】

顔出しNPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / ミスター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました。真夏のホラー……? ノベルをお届します。
PCの皆さんにとってはたぶん、ホラーでしょう。
例え傍から見ていたらギャグだとしか思えなくても。
夏の思い出の一つとして、お楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼有難うございました。
colorパーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年09月21日

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