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『Petal 』
静架ka0387)&スグル・メレディスka2172

「何度言えば分かるんですか、あなたという人は!!」
 トレーラーハウスの扉が勢い良く開け放たれたと同時に、そんな怒号がスグルの元に飛んできた。
 彼はいつものようにソファーの上で寝転がっていたのだが、さすがに驚いたのか目を丸くしている。
「おかえり、静」
 それでも口調は、いつもどおりだ。
 聞き慣れた言葉を返された側の静架は、さらに眉尻を釣り上げてドカ、と靴底を鳴らした。
 床が彼の歩みで若干揺れる。
 それを体感しながら、スグルはゆっくりと体を起こして静架を見つめていた。
 明らかに怒っている。
 そしてそれは自分のせいなのだろう、とまでは思うのだがやはり、謝罪や行いを改めるという気持ちにはならないらしい。
「どうしたの」
 静かに問いかけてみた。
 すると、目の間の彼は金色の瞳を鋭く光らせて自分に手を伸ばしてくる。
 直後、胸ぐらを掴まれて、ぐい、と引かれた。
「……やめろって、言ったはずです。確か、昨日も」
「うん……? 静はいつでも否定的な言葉しか俺にぶつけてこないから、どれの事だか解らないなぁ」
「っ、……コレ、知らないとは言わせませんよ」
 静架はそう言いながら、人差し指を自分へと向けた。顎の下辺りを指した先には、一つの印がある。痣のようなものだが、明らかに人為的に刻まれたものだ。
「ああ……いつもの事でしょ」
 スグルはそれを首を僅かに傾けつつ確認すると、別段驚くこともなくそんな返事をする。
 静架はそれが更に癇に障り、目の前の存在を殴りたくなった。それほど、彼は怒っているのだ。
「最悪です……なんで自分から見えなくて、他人から見える場所にわざわざ残したんですか……っ」
「あー……なるほど、誰かに指摘されちゃったのか。まぁ、それが狙いだったんだけどねー」
 頭上に迫る怒気しか感じられない静架に対して、スグルはため息混じりにそう言うだけであった。
 そして彼は、自然な手つきで目の前の静架を自分の膝に座らせて「取り敢えずは、落ち着きなよ」と言葉を繋げた。
 抵抗できた筈の一連の流れに、静架はなぜか為す術もなかった。
「静は俺のモノ、でしょ?」
「……それに頷いたことは無いはずですが」
 突然、視界が下がったことにより、目線が嫌でも重なる。
 静架はそれが苦手で、いつもスグルの視線から逃れようとあれこれと試みてはいるが、成功した試しは無い。
 そもそも何故、自分は相手の言うとおりにこの場に座ってしまったのか。
 気持ちの上では、まだまだ抗議を続けるつもりであった。
 でも実際は、出来なかった。
「静、なんか色々考えちゃってるね。俺を見て?」
「……嫌です」
「いいから、見て」
「…………」
 頬にスグルの指が触れたかと思えば、次の訪れるのは彼の言葉。
 聞き流す事も出来たはずの響きが、今の静架にはそれすらも実行出来なかった。
 目の前の存在が行ったことは、許されざる所業だ。何度同じことを繰り返されたかも解らず、その度に静架は怒り、そしてスグルは笑って受け止めてきた。理不尽極まりない現状であるはずなのに、完全に拒絶することも出来ずに、追い出すことも出来ない。
 桃色の瞳に一度囚われてしまうと、静架はどうにもならなくなるのだ。
「まだ怒ってる?」
 スグルは楽しそうにしながら、そんな事を問いかけてきた。
 彼の手のひらはすっかり静架の頬を捕らえて、指の腹が何度か肌を行き来する。その仕草に思わず反応してしまうのは、静架自身であった。
 そればかりに意識が行ってしまい、スグルの質問にすらまともに答えられない状態だ。
「スグルは……いつでも狡いです。なぜいつも、自分だけがこんな風になるんですか。今回の件だって……根源は全て、貴方のせいですよ」
「それは、何?」
 静架がポツポツと告げる言葉に、スグルが優しい声音で続きを促してくる。
 それを耳にしながら、途端に回らなくなった思考を無理矢理動かして、静架は唇を開いた。
「……貴方が不必要に痕を残したりするから、自分は夏でも上着を持ち歩かなくてはならないんです。現場が暑くても、前も開けられないんですよ」
「あー、うん、そうだね。ごめんね」
 あっさりと謝罪の言葉を告げるスグルを目の前に、静架は彼の顔をぼんやりと見つめた。
 何処にも悪びれた色が無い、余裕に満ちた表情。
 自分が今、右手を振り上げ頬を叩いたとしても、彼はそれを受け入れた上でさらに笑うのだろう。
 そう思うと、また思考が緩慢になっていく。
「静は可愛いねぇ」
 スグルがため息混じりにそう言った。
 わりと毎日言っていると言葉ではあるが、それでも受け止めた静架は僅かに頬を染めている。
 彼は静架が今どのような状態になっているか、ある程度の把握が出来ているらしい。
「……俺は相手が静だから、こうしてるんだよ。それって、どういう事か分かる?」
 問いかけると、静架はそこから数秒置いてから緩く横に首を降った。
 それを見てから、スグルは静架をそっと自分へと抱き寄せる。
「好きだよ」
 耳元にそれを落とすと、静架の肩がびくり、と震えた。
 毎日言えるだけ、同じ言葉を繰り返している。
 それでも言う度に、相手の反応が違った。
 スグルはその違いを楽しみに、囁き続けているのだ。
「静は俺が見つめるの、嫌がるよね。相手が敵だったら、いつまでも睨んでるのにね」
「そんなの……知りません……」
 静架は拒絶を見せなかった。
 だからこそスグルは、そこに付け込む。
 出来るだけ多く彼に触れて、声を刻む。そうすることで、相手に深い印象を与えていく。
 静架に『自分』と言う存在を、確実に植え込んでいく。
 それが狙いだ。
「……何も言ってこないんだね。もう気が済んだ?」
 そんなスグルの言葉に、静架は僅かに表情を歪めた。だが、それ以上の行動は起こせなかった。
 体も心も、別の反応を示している。
 思考では拒絶を常にしているはずなのに、追いつくことが出来ない。
 触れていて欲しい。
 脳裏に浮かんだ文字は、そんなものであった。
 有り得ないと思いつつも、それを掻き消すことが出来ない静架は、自分の手の傍にあったスグルの髪の毛を掴んで、強く引いた。
「いてて」
 スグルは心にもない声音で、そう返してくる。
 この男に痛覚はないのだろうか。時折そう、思えてしまう。
 もっと強く引いてやろうかとも考えたが、それは出来なかった。
 背中に置かれた手のひらの温度に、気がついてしまったからだ。
「……スグル」
「うん?」
 静架が僅かに身を起こして、スグルの額に自分のを押し付ける。瞳は閉じて、相手を見ない。
「貴方は本当に、最低です」
「それって褒め言葉かな」
「……馬鹿ですね」
 そんな会話を交わして、数秒。
 静架からの口付けは、スグルにとっては何よりも嬉しい触れ合いだ。
 それを素直に受け入れて、彼は幸せそうに微笑んだ。
 そしておもむろに手を取ると、指を絡ませてくる。
 手を繋ぐという行為だけなのに、唇に触れる事より何故か気持ちが高まってしまった静架は、それを誤魔化すかのようにまたキスをした。
「かわいいよ、静」
 スグルが再びそう告げる。
 きっと彼は、桃色の瞳を閉じること無く、自分の姿をずっと見ているのだろう。
 そんな事を考えながら、静架は彼と影を重ねることを拒まなかった。
 ソファーの座面が、大きく沈み込む。
 静架の着ていた服がそこから滑り落ちるのは、それから数分後のことであった。

 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】
【ka0387 : 静架 : 男性 : 18歳 : 猟撃士】
【ka2172 : スグル・メレディス : 男性 : 24歳 : 闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつも有難うございます。
ラブなお二人を書かせて頂けて大変楽しかったです。
少しでもお楽しみいただけますように。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
涼月青 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年09月23日

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