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『アンタッチャブル・オーナー 』
ブルノ・ロレンソka1124)&エジヴァ・カラウィンka0260)&Kurt 月見里ka0737)&ルシエドka1240)&オイレ・ミッターナハトka1796)&キール・スケルツォka1798)&オーキッド=フォーカスライトka2578)&エリオ・アルファーノka4129

(妙に客足が鈍い。これは何かあるな)
 とある歓楽街の複合施設『魅惑の微笑み通り』のオーナー、ブルノ・ロレンソはいくつか所有する自分の店のうち、たまたま気が向いたその店で朝からで呑んでいた。
 だが夕暮れ時を過ぎても、扉の開いた回数が数えるほどしかない事に違和感を覚え、煙草を挟んだ手の親指で右眉の上をひっかく。
 滅多に表に出てくる事はなく、この店にこうして呑みに来たのは数えるくらいの頻度でしかないが、それでも立地条件含めて、自分の店がだいたいどれくらい儲かるのかわからないような馬鹿では、ここら辺のオーナーなど務まらない。
 カウンターの向こうでブルノの顔色をチラチラと窺っている店主へ、ブルノは左手を持ち上げ、立てた人差し指で招くと、店主はカウンタ―にぶつかりながらもすっとんで来た。
「今日はもう、閉めな。んで、ちょっくらお遣い頼まれてくれねえか」
「えっは、はい――お、お前ら〜! 今、すぐ、金払って出て――ッ!」
 金切り声を張り上げていた店主が突然、脛を抑えてうずくまる。
 革靴がつま先に偏ったので、踵で床をノックするブルノが「おいおい」と、うずくまっている店主の耳に顔を近づけた。
「客が帰ってから、閉めな。そんくらい、足りねえ頭でも思いつくだろ」
 こくこくと何度も頷く店主から顔を離し、ブルノ達に注目している客達へ片手で小さく会釈する。
「騒がせちまったな――お代は俺が持つから、のんびりしていってくれ」
 そんな程度の言葉で緊張していた空気を変えてしまうのだから、ブルノの言葉にはそれだけの力があった。
(さて、オイレに調べてもらうとするか)




●裏の依頼

 ――数日後。
 呑んでいた店の休業日、カウンターの奥では店主が小さくなってグラスを磨いている。そしてカウンター席には今日もまた、ブルノがいた。
 今日は客としての顔ではなく、ここらを仕切るボスの顔をしていた。
 そして店内にはこれまた客とは明らかに雰囲気の違う面々が。
「ご苦労だったな、オイレ。これの報酬は――」
 何かが書かれた紙をブルノが手で叩くと、ごく普通の中年男性という雰囲気をかもし出すオイレ・ミッターナハトは手をひらひらさせて、「今度一杯奢ってくれればいいよ」と笑う。
 ブルノは紙に目を通し、それをオイレに戻すと、オイレはそれを他の人間に回す。
「今日、お前らに集まってもらったのは他でもない。
 オイレに集めてもらった情報によるとだ、どうにもここ最近、店の近辺を嗅ぎ回ったり、騒ぎを起こして客足を遠のかせているハエがいたみたいでな。そいつはどうやら昔、俺がちょっと踏んじまった組織の残党みたいでよ、涙ぐましい事に復讐がてら店を潰す機会を伺ってるらしい」
「身の程知らずねぇ〜」
 体の線がハッキリと出ている黒いライダージャケットのオーキッド=フォーカスライトが、ナイフを弄びながら呆れるように笑っていた。
「ハエが飛び回るこういう生ゴミは、早めに処理するに限る。夏だしな――倍の駄賃は出すからよ」
「そりゃあ、全員殺しちまっても構わないってことですかね?」
 ニヤリと笑うエリオ・アルファーノへ、ブルノは何も答えず、ただ肩をすくめるだけだった。
 明らかに非合法な依頼。
 倍の駄賃という事は正規の依頼の倍は出すと言っているのだろうが、生死や手段について、ブルノは一切触れていない――つまり、そういう事である。
「復讐上等だけどさぁ、ハイ、ソーデスカってやられてやる義理もないよね。大親仁、ちゃんとお遣いできたら美味いもん奢ってくれよな♪」
 椅子に座り、カードを切っている背の低い少年・ルシエドが陽気に笑うと、ブルノも「おう、食いに行こう」と笑い返す。
 ルシエドの前で、カードを鮮やかな手さばきでテーブルに並べ、それをほぼ一瞬にしてまとめるKurt 月見里。一番上のカードをひっくり返すと、ジョーカーが現れる。
 そのカードの山を手で掴むと、それは1本の煙草になっていた。
「生ゴミって臭いから俺嫌いなんだよね。さくっと片付けて遊びに行こうっと」
 煙草を咥え出て行こうとするクルトの襟を掴むキール・スケルツォが、クルトを投げ出すように引っ張る。
「もう少しテメーは座ってろ。まずは俺が見てきてやる」
 誰にも頼まれていないし、必要だという声もないまま、キールは1人勝手に店を飛び出していった。
 クルトがブルノへ目で問いかけるが、目を閉じて薄く笑うだけなので、結局、キールの言葉を聞かずにクルトは店を出ていった。ルシエドが続き、エリオ、オイレ、オーキッドが順に出ていった。
 そして店内に残るのは店主と、ブルノ――それと、隣に座るエジヴァ・カラウィンだった。
「どうした、エジヴァ」
「その……わたくし用の報酬は、いただけませんの?
 あ、その、報酬が足りないとかそのような事ではございませんよ? むしろブルノ様の為でしたら、金銭など無くても2つ返事なのですが……オイレ様やルシエド様の様に、お食事の約束とか、そんな、ご褒美が頂けたらとか――」
「わーった、わーった。んで、お前も飯か? 酒か?」
 ブルノの問いにエジヴァはうつむきがちに小さく首を横に振り、豊満な胸の前で手を組んで、普段は妖しげな紅い瞳をルビーの様に煌めかせ、上目づかいにブルノを見上げた。
 深紅と朱金の瞳がとても、美しい。
「ただ1日、お側においていただけたら……」
 まるで乙女のような懇願を口にする、娼館のオーナーであった。
 そんなエジヴァへ、ブルノは優しげに微笑んだ。
「……考えておいてやる。まずは仕事を成功させろ、期待している」




●ドジを踏む?

「なぁ、あんたらもあのクソジジイに恨みがあんだろ? なら俺に協力させてくれよ。今からあんたらを始末しに来る連中の中に、すげぇエロい身体つきした女もいるからよ」
 キールは一拍置き、下卑た笑みを浮かべ「ぶちのめした後は食い放題、楽しみ放題だぜ」と、ブルノの言っていた生ゴミのリーダー格と思わしき人物に協力を申し出ていた。
 正面から堂々と入ってきた不審者であるキールは、すんなりと通された事を疑問にも思わず、メンバー構成と獲物、どんな戦術が得意か、予想される侵入経路など、聞かれてもいないのにべらべらと喋り続ける。
 だがそれでもリーダー格は何1つ喋らず、それどころかキールの後ろにいた男と女が、いざという時に逃げ出せるようキールが開けておいた扉を閉めた。
 ヤバい雰囲気を感じ取り、キールは喋りながらもう1つの逃げ道である窓の位置を確認する。
「……ヤツがオイレに探らせていたのは知っていた。だから我々もヤツを監視して、今日、あの店にどんな連中が集まっているか、すでに知っている」
(まさかオイレの野郎が探っているのがバレてたってか……あいつがンなヘマするとも思えねえんだが)
 だがこれでキールの疑問が1つ、氷解した。
 残党らしい少し気合の入った連中はリーダー格含め、確かに10名――背後の2人を入れたら12人と、情報にあった通りだったのだが、それ以外にも、ろくに刃物も使えそうにないどう見ても適当に雇ったゴロツキ連中が倍近く居る。
 オイレの情報にはない連中がいるのは、これから襲撃があると知っていて、ついさっき集めたのだと察した。
「ヤツが使いそうな連中の情報もすでに集めていてな―もちろん、お前についても調べてある」
 いよいよヤバい雰囲気に、キールは身構えていた。
「薄汚い犬コロめ。大方、お互いを疲弊させて隙あらば金品でも奪い取ろうと企んでいたのだろう? 小悪党の思いつきそうな事だ」
 ――図星だった。
 逃げ出そうとしたキールだが、その前に膝裏を蹴られ、頭が下がったところをグリップエンドで後頭部を強く殴られて、床に転がってしまう。
 脳が揺さぶられたのか力が入らず、朦朧としながらも自分を殴った後ろの2人を噛み殺さんばかりの目つきで睨みあげる。
 たがたがチンピラに毛の生えた連中程度に小突かれても、動けなくなるはずがない。
(こいつら……ハンターか)
「隣の部屋の椅子にでも、縛っておけ。ゴロツキどもが退屈しているから、ちょうどいい暇潰しになるだろ」
 リーダー格がそう告げ、動けないキールは足を掴まれ引きずられていくのであった――……




●恐ろしく静かに物事は進み

 遠眼鏡で中を覗いたルシエドはちょうど、殴られ、引きずられていくキールを見つけた。
「あー、なんかキールが捕まってら。それはおいといて……えっとね、見える限りじゃ2階の階段から一番遠い部屋に拳銃を持ったハンターっぽいのが2人とボス、階段から一番近い部屋に剣ぶら下げてる2人と、ナイフ持ってるのが4人くらい。
 キールが運び込まれた部屋に小剣持ってるのが1人、それとナイフ持ちのチンピラが6人くらい。1階のホールに武器はよくわかんないけど、6人に、チンピラたくさんだよ。階段とか通路にも何人かいるのは見える」
 次々と確認していくルシエドは遠眼鏡をしまうと、身を低くして屋根に隠れながらも移動して、アジトの屋根へと飛び移る。そして屋根からこっそり、中を窺っていた。
「おっかしいなー。今日に限って人を増やしたのかな」
 あらかじめ狙撃できそうなポイントを絞って潜んでいたオイレが、覗いていたスコープから目を離して、首を傾げていた。情報屋の彼としては調べ上げた情報と違うという事実は、恥でしかない。
 柔和な雰囲気はそのままだが、己自身に腹を立てているのか、どことなく怒気をはらんでいる気がする。
「そういう事も、あるものよ★」
 トランシーバーで聞いていたオーキッドの慰めに、オイレの「どーも」という苦い笑いの含んだ声が聞こえた。
「まー、雑魚が増えたところで、烏合の衆よ。ポン刀の錆にしかならんさ」
 すでに抜身の日本刀を右に持ち、肩に乗せたままエリオは、アジトに唯一隣接する建物の壁を歩き始める。
「いいからさ、早く終わらせよう。まずは俺達の突入でいいんだよね?
 そのあとルーシー、エルオが2階の窓からで、オイレが後ろから援護してくれるって事でいい?」
「オッケオッケ、早く終わらせるのには大賛成よ★
 わたしも前から突入ね。終わらせたら店長さんに美味しいご飯、オネダリするの★」
 オーキッドが「ネ★」と微動だにしないエジヴァの背中に声をかけたが、やはり動かない――いや、全身がわなわなと震えていた。クルトとオーキッドが建物の陰に隠れているのに、エジヴァだけ、通りに出てアジトを睨んでいる。
 目を引く美貌とスタイルだけに隠れてほしいものだが、これから戦いに出る様な風貌には見えないので、これはこれでいいかと物陰に引っ張る事は諦められていた。
 丸めて束ねた鎖の鞭が千切れそうなほど引っ張っていて、普段とは結びつかないほど鋭く冷たい目をして、歯ぎしりまでしている。
「オレのシマを荒そうなんざ……だ……」
 最後がよく聞き取れなかったが、物騒な事を呟いているのだけは確かだった。
 これ以上待っていると今にもエジヴァが突撃しそうなので、クルトがオイレへ向けて腕を上げる。

 ――合図だ。




●1階の地獄

 オイレがスコープを覗き込み、引き金に指をかけた。
 エジヴァが引き絞られたゴムの如く弾けるように駆け出し、建物の陰からクルトとオーキッドが続く。眼球が虹彩に染まったエジヴァと髪が一房だけ残し黒く染まったクルトが並び、扉に向かって脚を上げると、オイレが引き金を引いた。
 鍵ごとドアノブが弾け、そこに2人の蹴りで、外開きの扉はアジトの中に押し込まれ、何かにぶつかる。そしてクルトの拳銃から、飛んでいく扉へ向かって一条の閃光が貫いた。
「Guten tag♪」
 室内に倒れた扉の下で、鮮血が床に広がっていく。
 身体にマテリアルを纏わりつかせ、その動きをさらに加速させたクルトが室内に踏み込むなり、次々にテーブルを蹴り上げた。そして転がるテーブルに身を隠すと、銃弾が次々に撃ちこまれる。
「反応、おっそ」
「テメーらぁ、簡単にくたばれると思ってんじゃねえぞ!?」
 腰から下がテーブルで護られているが、堂々と立っているエジヴァは盾で銃弾の雨を受け止めていた。そして一瞬の間隙を縫って、
鎖鞭で残党を、バリケードごと打ち砕く。
 鎖と床に挟まれたチンピラの首に鎖が巻きつき、エジヴァの元へ引き寄せられる。情けない声を上げて抵抗したが、エジヴァの鎖鞭がそれを許さない。
「ようこそ」
 首に巻いた鎖鞭を掴み、エジヴァが前に出る。集中砲火を受けるが、短い呻き声を上げる生の盾が全部防いでくれた。
 ずんずんと前に出るエジヴァへ攻撃が集中し、その間にクルトの拳銃から伸びる閃光が天井を横に薙ぎ、ランプが次々とチンピラと残党の頭に落ちると一瞬、銃声が止まり、コの字だった階段を1の字へと破壊する。
「おっと、それは危ないな」
 マシンガンを持っている男に向けてクルトが拳銃を撃つと、弾が当たった残党は雷に打たれたようにのけ反り、床に転がるが、マシンガンからは弾が出たままで、それがチンピラたちの脚を撃ちぬいていく。
 気の毒そうに肩をすくめるクルトは「流れ弾は事故だよ?」と、いけしゃあしゃあとはこの事である。
 そしてエジヴァがバリケードに到達する前に、脚を撃ち抜かれ痛がりながらもチンピラと残党達はエジヴァから離れようと、バリケードを後退した。
 その中、1人の残党が棚を倒して、新たなバリケードを作ろうする。
 残党の前を棚が通過して、一瞬だけ視界に棚しか映っていなかった。その時、背後から「ニャァ」と、しなやかな動きをした赤い髪の黒い猫――オーキッドがナイフを首に突き立てた。
 男が何か言いたげに口を動かしながら後ろを振り返るが、言葉にはならない。そんな残党へ、オーキッドは微笑みかけると額をナイフの柄で小突く。
「やぁね〜自分の身の程を知らないとダメよ?」
 棚が倒れると、その上へ男も倒れ込む。
 もうすでにオーキッドの姿はなく、近くで見ていたはずのチンピラは半狂乱になってナイフを振り回すのだが、残念な事に背後から腕が伸びてきた。
「ナイフはね、振り回す物じゃなくって、こう使うのよ★」
 喉元を何かで擦られたとしか認識でなかったチンピラは、ごぼごぼと口から赤い液体を溢れさせ、膝から崩れ落ちる。ただ彼にとって幸運なのは、最期を迎える瞬間、その背中に大きなマシュマロのような感触を感じる事ができた事だろう。
 膝を着いたチンピラの陰からシャッと、オーキッドはテーブルの陰に消えていくのであった。
「オラオラ、もっと泣きわめけよ!」
 鎖鞭の先に首が締まってもがいているチンピラをぶら下げ、それで次々とチンピラをなぎ倒していくエジヴァ。不意に横から飛びだし、剣を抜いた残党がいたが、振りかぶる前にそのこめかみに穴が穿たれ、クルリクルリと踊りながら床に倒れる。
「デッドダンスとは、洒落てるじゃないか! なあ、オーキッド!」
「いやぁねえ。あんなダンスじゃ燃えないわよ――ダンスってのは、こうでなきゃネ★」
 陰に潜んで姿を見せなかったオーキッドがテーブルの上に立ち、挑発的に腰と身体をくねらせ、クールな歌声が銃声に負けずアジト全体に響く。
 もうすでに弾切れを起こしたのか、残党もチンピラも剣やナイフを抜いて、オーキッドへと殺到する。
 遠くから飛んでくる弾か、あるいはクルトの拳銃で次々と、額に、こめかみにと穴が穿たれて倒れる者もいれば、鎖鞭に叩き潰されて肉塊に変えられる者もいた。
 それでも無防備で魅せるオーキッドに群がっていくチンピラと残党達。
 それは情熱という炎に向かって飛んでいく、蛾そのものであった――……

 引き金に指をかけたまま、スコープで1階の様子をしばらく窺っていたオイレだが、薄く笑った。
「いや、うん。すでに正常な判断は失われているな……ま、あんな地獄では仕方ないか」
(さて2階がよく見える所へ行くか)
 オイレが立ち上がり、移動を開始するのだった。




●2階の地獄

 正面の扉が激しくノックされた数瞬の間をおいて、ルシエドが屋根からぶら下がり、2階の窓を突き破ってリーダー格のいる部屋へと降り立った。
「イッツ、ショーターイム☆」
 リーダー格の真後ろに窓が無かったのでそのすぐ隣からの侵入だが、驚いて立ち上がったリーダ格の尻を蹴り上げ、跪かせたところで、男と女のハンターへ向かっていく。
「火器げんきーん♪」
 女の手に油壺を叩きつけ、砕けた油壺から飛び散る油が女を汚す。その揮発性の高い臭いに女はすぐ気付いたようで、銃を投げ捨てて腰のショートソードを引き抜いたが、すでにルシエドの姿はない。
 その事に女が気付いた時には、銃声が室内に響くのだが、ルシエドはそれよりも早く動いているように見えた。
「アンタ如きじゃ、オレを捕まえられっこないね!」
 リーダ格が壁の大斧を手に取り、天井を突き破りながらも振り下ろすが、床に切れ目を入れただけにしか過ぎない。男が銃を撃ち、女は剣を振るうのだが、これだけ狭い空間の鬼ごっこにもかかわらず、永遠に追いつけない鬼ごっこをしている錯覚に捉われるのであった。


「ちょっとはえぇだろ、おい」
 壁を悠々と歩いていたエリオだが、銃声と、建物から聞こえる騒ぎ、それにルシエドが突入したのを見て、もう始まっているのに少しだけ焦った。
 だが焦りと同時に、地が滾るのを実感する。
(暗殺業を辞めたはずが……しょせん茨の道か)
 皮肉気に笑うと隣接した建物の壁から、一番近い2階の窓めがけて飛びこんだ。
 ガラスを突き破り転がりこんだ先は、剣を持った2人の残党と、ナイフを持った4人のチンピラ達の、ちょうど中央。
 注目を浴びた一瞬、片膝を突いたまま肩に乗せていた日本刀が大きな弧を描いた。飛び散る血飛沫と、床に落ちるのは獲物を持ったままの手――阿鼻叫喚の叫び声が部屋を埋め尽くす。
「静かにしろぃ」
 立ち上がるエリオが順に日本刀を振り下ろしていくと、ドチャッと肉が赤い水溜りに落ちる音が響き、部屋が少しずつ静かになっていく。
 大きく息を吸う――懐かしい血の匂いに、身体が芯から震えた。もちろん恐怖では、ない。
 そして最後の1人を見下ろした。
「おうおう、イテエかそうか」
 両膝を突いて手を拾おうとしている残党の手に、刃が付きたてられた。ちょうど床の手と、まだつながっている手が、拍手しているように見える。
「拍手が上手じゃねえか――ここのトップはどこだ?」
 顔を近づけ、問いかける。
 涙と血に濡れた残党の顔はすでに真っ青で、そう長くはない。それを承知で、問いかけ続ける。
「長々と痛みに耐えるか、楽になるか、どっちがいい?」
 残党は震える唇を動かすが声が出ず、顎を2回、壁に向かって動かした。
 隣の隣にいる、そう伝えているのだと理解したエリオは刃を引き抜き、そして残党の顎を靴のつま先で蹴り上げる。仲間達の血の海に倒れ、わずかに身体を揺すって悶えていたが、その動きがだんだんと小さくなり、やがて動かなくなった。
 日本刀を振り、刀身の血を払うと、扉を蹴破って通路へ出る――狭い通路には、どうしていいのかわかっていないチンピラばかりが詰め込まれていた。扉2つ先しかない距離に、大の男7人はいる。
 柄に唾を吐きかけるエリオ。
「――俺の往く道に、血の華を咲かせてやるまでよ」


 意識が薄らいでいたキールだが、ガラスが割れる音、地獄から叫ぶような声が耳に届き、強烈な目覚めとなった。体も顔も痛くて熱いのは、おそらく暇つぶしに殴られていたのだろうとわかった。
 少しだけ、懐かしい感覚だと思ってしまった。
 そんな思いを頭から追い出し、顔を上げず、まだ気を失ったふりをして耳に集中する。
(……一方的じゃねぇか)
 音と声を聞くだけで、状況がわかる。
 そして、こうなってくると、ヤバイ。
(意味ねー事だったが俺がタレこんだの、ばれる可能性がすげえたっけぇ……口を封じねえと、俺があのクソジジイに消されかねぇな)
 顔を上げず室内の様子を窺うと、ショートソードを持ったそれなりに雰囲気のある男が残党で、後のナイフを持っている6人がチンピラだと判断する。
 そして絶叫しか聞こえない廊下に通じる、今に開きそうな扉を、全員が武器を抜いたままの恰好で見ていた。
 幸いな事に誰も自分を見ていない。
(チャンスか)
 手を後ろに回され背もたれに身体ごと縛られ、脚も椅子に縛られていたが、それでも身体のバネと足首の動きだけでキールは椅子ごと真横に跳んだ。
 そしてチンピラの首に犬歯を突き立て、むしる。キールは顔を赤く濡らしながら、金魚の様に口をぱくぱくしているチンピラの手に持ったナイフへ、身体を固定するロープを擦りつけた。
 数本が切れた時、唖然としていた残党とチンピラ達が一斉に突進してくる。
 だが数本切れれば十分だと、腕を広げてロープを力で千切り、前のめりに倒れて床に両手を着くと椅子ごと脚を振り上げ、チンピラの頭に椅子を叩きつけた。
 よろめくチンピラに、砕け散る椅子。
 そして脚に椅子の脚をくっつけたままだが、椅子の束縛から解放されたキールはナイフを蹴り上げて手に持つと、まずは目の前のチンピラへ横隔膜から突き上げるようにナイフを入れる。
 突き刺したナイフを捻じり、引き抜くと、もう1本ナイフを奪ってすぐ投擲した。
 それがチンピラと残党の包囲に道を作り、そこを駆け抜けたキールは、ご丁寧に部屋の隅へ置いてあった自分の特殊な日本刀を握りしめた。
 悲鳴や派手な音ばかりのアジトだが、この部屋では何か高速で震える、低い音が支配する。
 切りかかってきた残党のショートソードを、その日本刀で軽く押しながら受け止めると、ショートソードの刃が切れた。それを見た残党とチンピラの顔が、青ざめる。
 キールが口の中に溜まった血を、床に吐き捨てた。
「テメエら……死んで詫びやがれ」


「もー。しつこいっての!」
 上半身を後ろに傾け剣をやり過ごし、後ろに引いた足で床を蹴って前に出ると、ルシエドの背後を斧の巨大な刃が通り過ぎる。
 剣を振り下ろした女の胸に手を押さえつけ、横へと突き飛ばし、銃を構えていた男の射線を塞いで、そこからちょろちょろと抜け出す。
 もうずいぶん長い事、届かぬ鬼ごっこを続けていたが、ルシエドもさすがに飽き飽きしていた。もちろん、リーダー格と2人のハンターは必死ながらにもっと飽きているのだろうけど。
(んー、さすがに仕掛けるのは危険だなぁ)
 攻撃する機は窺っているが、このアジトでは間違いなくトップ3という感じだけあって、それなりに回避へ気を配らなければいけない。当たる気配なんてないが、それでも攻撃する瞬間を狙われたら危ないような気がして、ルシエドも攻めきれない。
(あんま広いわけでもないのに、あんな武器振り回して発砲までしてるのに、オレについて回るこの女に当てねーとか、まあまあな腕してるよ)
 どうしたものかと思っていると、通路の悲鳴がだいぶ近い所にまで来ていて、エリオの声がだいぶはっきりと聞こえた。
「いーまだっと!」
 扉を蹴って通路に跳びだしたルシエドは少しだけ身体を捻じると、その前を霞のような刀刃が通り過ぎ去り、ルシエドの前髪がわずかに斬れた。
「なんだ、ルシエドか」
「バーック、バック!」
 エリオへ言葉と手の動きで下がるように求め、ルシエドはその場を跳躍した。
 振り下ろされる剣がルシエドの居た床に突き刺さり、部屋からは女が出てくる。そして顔を見上げたその後ろから、男も部屋から出てきてエリオへ銃口を向けた。
 その刹那、踏み込むエリオ。
 いつの間にか斜めに切り上げられた日本刀。
 男の銃と指が斜めに斬られ、床へと落ちる。男は苦悶の声を上げる前にエリオへ向って1歩踏みだし、腰の剣を抜こうとしたが、エリオの第二刃はそんなに遅くはなかった。
 男の身体は、左右へと別れを告げるのだった。
 壁を蹴り天井を蹴り、そして上を見上げた女の後ろに降りてきたルシエドは背中に張りつき、女の頭を手で挟み込んだ。
「……ゴメンよ」
 軽快に床を蹴ったルシエドは、女の頭を掴んだまま袋小路である通路の壁を走り、女の頭を半回転させると壁を蹴り、後頭部を前に向かって倒れ込ませる。
 ゴリゴリと袋詰めされた石が擦りあうような嫌な音を立て、そして鈍く短い音がルシエドの手に響いた。
 女の亡骸から手を離し、無言で立ち上がるルシエド。
 何とも言えない沈黙にエリオは顎を掻いて、後ろを振り返る。自分の作った、血みどろな道を。
「……ま、仕方ない」
 1階の方も静かで、恥ずかしげなエジヴァの「あら……昔を思い出してしまいましたわ」という声が聞こえるだけ。この通路も静かである。
 ――そこに響いたのが、ガラスの音。
 ハンターの出てきた部屋をエリオが覗き込むも、2枚ガラスが割れ、もぬけの殻となった部屋があるばかりだった。
「やべえ、逃がしたか?」
 そう思ったちょうど、窓の下から悲鳴が聞こえてきたのであった。


「俺を逃がせ! そうすりゃ――ッ」
「黙ってろ、生ゴミ野郎」
 ガラスの破片が散乱する地面の上でリーダー格が土下座をしているが、それを見下ろすキールの目は冷ややかだった。口元の血を手首で拭い、リーダー格の頭を踏みつけた。
「テメエを生かしておいたら、俺が危ねーんだよ――つーわけで、じゃあな」
 高振動する日本刀を振り上げた、キール。
 ――だが振り下ろす直前、水風船でも落としたかのように地面が赤く染まった。
 遅れてやってくる、銃声。
「オイレか――ちっくしょうッ! トドメもさせねーし結局俺はボコられ損かよ!」
 やるせない気分のキールは、静かになったリーダー格の頭を蹴り飛ばす。


 キールがリーダー格へ何かを語りかけているが、さすがにこの距離ではオイレの耳には届かない。振りかぶるのが見えたが、オイレの指もすでに引き金から離す事ができなかった。
「君達からはもうロクな情報を絞り取れそうにないし……それじゃ、さよなら」
 銃声――そしてリーダ格に血の華を咲かせて満足していると、何やらものすごい勢いでキールが向かってきた。
「オーイーレー! テメエ、へまこいたろ!」
「何を言うんだ。ヘマして捕まったのはキール君だろう?」
「そうじゃねえよ! あいつら、お前がクソジジイの依頼で情報集めてたの、知ってやがったぞ! おかげで俺は――」
 オイレを責め立てるキールの言葉は止まらなかったが、オイレ自身もキールの言葉にそれどころではなくなっていた。
(俺が動いていたのを、知っていた……? 見つかっているはずもないが、どういうことだ……?)



 仕事が終わり、皆が店に戻ろうとしている時に、オイレはちょっと用があるからとアジトを少し、調べ回った。
 何かあるとも思えないが、それでも自分の勘がなぜかここを探せと訴えている。
「とはいえね、いつまでもこんな所に居たら俺の気が狂いそうだし」
 眼鏡のズレを直して、赤くない床を何とか見つけてそこをソロリソロリと歩いて行く。
 こうして歩かなければいけないほど、ここはすでに地獄である。生気というものを全く感じられないそこで、オイレは1人、何かを見つける気でいた。
 なぜこんなに意固地になっているのか――そこに情報屋としてのプライドがあるような気がして、まだ帰る気になれない。
 だがいい加減、徒労なのだろうかと思い始めた時、倒れている棚の下に、気になるものを発見した。
 少し大きな、1枚の写真。
 あんな集団が後生大事に写真なんかを保管しているのは意外だと、オイレは拾い上げた。
 わりと新しめの写真で、何となく人数を数えると……11人いる。
(ハンター2人は雇われだから、残党のメンバー10人で全員のはずじゃ……!!)
 見覚えはあるがここでは見覚えのない1人の男に、オイレは目を丸くするのであった――……




●そして依頼は終わった――が

「ゴッハン★」
「ごっはん☆」
『イエーッ!!』
 ブルノの前ではしゃぐ、オーキッドとルシエド。
 その様子に目を細めている、クルトは「ルーシー」と声をかけた。
「何?」
「オーナーに奢ってもらうのは、明日な。今日は触れなかった時間が長かった分、もう帰ってカードを弄り倒すこと。いいね?」
 クルトの言葉にルシエドはこの世の終わりと言わんばかりの顔をしたが、肩を落とし「……あい」と、素直に従う。
「そんなわけでオーナー。先に帰らせてもらいますね」
「おう――オーキッドも、それでいいか?」
「いいモノ食べさせてね、店長★ それじゃ、明日また来るわ〜」
 クルトとルシエドの後を追う様に、オーキッドが軽やかなステップを踏みながら出ていった。
 背筋を伸ばし、エリオがブルノへ頭を下げる。
「それじゃあボス、俺も帰らせていただきますぜ――ボスの懐刀レベルには、なれましたかね?」
「ゴミ始末が懐刀の仕事じゃ、ねえだろ?」
 エリオの下がった頭を掴んで戻さし、笑いかけると、「そうっしたね」とエリオも笑う。
「それじゃ、仕事があればいつでも呼んでくれ――呼んでください」
 またシャキッと背筋を伸ばして一礼すると、エリオも店を後にした。そして扉の開いた一瞬、外にキールの姿を見たが、ブルノを睨み付けるだけで店には入らず、そのまま遠ざかっていく気配がする。
 肩をすくめるブルノへ、オイレが近づいてきたかと思うと何かを耳打ちして、頷いた。
「ま、そんなわけなんだ。それじゃまたのご利用をお願いするよ」
 薄く笑うとぺこりとお辞儀をして、情報屋は夜の街へと消えていった。
 これで残されているのは、また、ブルノと、店主と、エジヴァの3人である。隣でエジヴァはじっと、ブルノの横顔を見つめたまま動かない。
 いい加減、根負けしたブルノが手をひらひらとさせた。
「わかったわかった。明日、朝からここに来い」
「――はい!」
 エジヴァは乙女のような微笑みを浮かべると、店の出口へと向かい、振り返ってブルノへお辞儀してから外へと消えていった。
 そしてこれで、店に残ったのはブルノと店主のみ。
「あの……明日も朝一で店を開けろと……?」
「いいや」
 腰を上げ、カウンターを飛び越えたブルノは腰に手を当て、隅にいる店主の前に立った。
「明日からしばらく、臨時休業だ――店主不在でね」
 ブルノが何を言っているのかわかっていなかた店主だが、何か思いついたのか、蒼い顔をして登れるはずもない壁を登ろうと、壁をひっかいていた。
「なーぜか、生ゴミ達は俺がオイレへ頼んだのを知っていて、なぜか今日、襲撃する事を知っていて、なぜかメンツも知っていたとくる。
 ああ。オイレへ生ゴミの情報を集めるよう、伝言をお前さんに頼んだっけなあ。それに今朝、顔ぶれも見ているわけだ――」
 ブルノの顔には笑みが浮かんでいるが、背から光に照らされ影を作るその笑みはとても、恐ろしいもののように見えた。
「どうりで、この店が生ゴミ臭いわけだ」
 とうとう、店主が跳びかかってきた。
 だがブルノの突き上げた膝が、店主の股の間に割り込み、店主はあれだけ登りたかった壁を通り越して天井へ激突して、床に落ちてきた。
 股間を押さえ呻く店主の首に、ブルノは煙草を投げ捨てた。
「おっと、火は消さなきゃな」
 煙草の上に足を乗せたブルノは、そして――……




「新しい店主、探さねえとなあ――おっと、その前に掃除屋を頼んでおかねえとな」
 はそうぼやきながら、静かに扉を開け、そして歩き出した。
 静かになった店内に、扉の閉まる音だけがこだまする。



 歓楽街の複合施設「魅惑の微笑み通り」オーナー、ブルノ・ロレンソ――彼には決して、触れてはならぬ。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1124 / ブルノ・ロレンソ          / 男 / 55 / 恐怖と凶怖 】
【ka0260 / エジヴァ・カラウィン       / 女 / 22 / 慈愛の女王 】
【ka0737 / Kurt 月見里          / 男 / 18 / 抜け目なしの手品士 】
【ka1240 / ルシエド                / 男 / 15 / 心に抱える少年 】
【ka1796 / オイレ・ミッターナハト      / 男 / 34 / 情報屋の名にかけて 】
【ka1798 / キール・スケルツォ         / 男 / 37 / どこまでも小悪党 】
【ka2578 / オーキッド=フォーカスライト / 女 / 21 / テンプテーションダンサー 】
【ka4129 / エリオ・アルファーノ        / 男 / 38 / 茨に抱かれし懐刀 】

NPC一覧
【生ゴミ店主 / リーダー格 / 殺されMOBの方々】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずは期限いっぱい使ってしまい、申し訳ありませんでした。それとだいぶアドリブを利かせ、最低限でいいはずのブルノさんに出番が結構あってしまい、そこも申し訳ありません。でもかなり「らしいな」と思っております。
内容も内容だけに血なまぐささが凄い事になっておりますが、こちらのノベルは本編から離れたアナザーですので、まあこういう展開もあるかもと思っていただければ幸いです。
字数も13000字と、かなりの大ボリュームですから、読むのに疲れてしまうかもしれません。
ですが楽しくお読みいただけるよう、最大限の努力をいたしましたので、お読みいただけたらなと思います。
またのご縁がありましたら、ぜひ、よろしくお願いします。この度はご発注、ありがとうございました!
colorパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年09月26日

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